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第二章『西の都へ』
その頃……
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ルナルたちが滞在している村で宴が盛り上がっている頃の事だ。魔界ではちょっとした事件が起きていた。
「ミーア、ミーア?!」
魔界の中枢である魔王城の中、一人のメイドが城の中を移動しながら誰かの名前を叫んでいる。しかし、その声に対して反応が返ってくる事はなく、メイドの叫ぶ声だけが虚しく響き渡っていた。
捜し疲れたのか、メイドは突然立ち止まった。そして、腰に手を当てて大きくため息を吐いていた。
「……まったく、あの子はどこに行ったというのかしら」
困り果てた様子で、メイドは頭を左右に振った。
しばらくすると、メイドに一つの影が近付いていった。
「どうされましたかな、ミント殿」
その人物はメイドに声を掛ける。
だが、この人物、どこか様子がおかしかった。全身を甲冑で覆った姿は騎士のようだが、その一番上の部分を見ると、本来頭があるはずの部分に何もないのである。なんと、その人物は首無し騎士だったのだ。
「これはディラン様」
声に反応をしたメイドは、首無し騎士に対して頭を下げている。
「実はですね、私の末妹のミーアの姿が今朝から見当たらなくてですね、ずっと探し回っているわけなのです」
「そうか……、それは実に大変だな」
ミントと呼ばれたメイドの回答に、ディランという名の首無し騎士は無い顎を触りながら首を傾げるような動きをしている。頭がないために不自然に手が浮いてしまっている。
「君たちは猫人という戦闘民族だったね。ミーア君はその中でも特に落ち着きがなかったな。……だが、ミーア君の事だ。そのうち戻ってくるのではないのかね?」
「そうだといいのですが……」
ミントはディランの意見に、言葉を濁している。
しかしながら、ミントはメイド長を務める一方、ディランは魔王軍の副司令官を務める人物である。あまり失礼になってはいけないと、使用人であるミントはすぐに姿勢を正していた。
「戻って来たら戻って来たであの子らしいのですが、ルナル様からは城の管理を命じられていますので、命の恩人たるルナル様の命に背くなど、許されるわけがありません」
「うむ、確かにそうだな。戻って来たら、最低でも夕食抜きくらいの罰は与えなければならないだろうな」
真面目に話すミントに対して、ディランはちょっと笑っていた。
二人がそんな会話を交わしていると、廊下の向こうから大きな声を出して近付いてくる人物が居た。ミントと同じように猫耳と猫尻尾という特徴を持ったメイドだった。
「み、ミントお姉様、た、大変です!」
「どうしたのですか、ミレル。そんなに取り乱して」
走って近付いてきたのはミントの妹のミレルだった。ミーアが末妹なので、ミレルはミーアの姉にあたるというわけである。
三姉妹の特徴は、深藍の髪をポニーテールにしているのが長女ミント。ピンクの毛先がくるくると巻いているのが次女のミレル。金髪のストレートロングが三女のミーアという具合である。容姿だけではなく得意分野や性格もまるっきり違う三人ではあるものの、れっきとした血の繋がった姉妹であり、揃って魔王城でメイドをしているのである。
その次女であるミレルの手には、何やら一枚の紙切れがしっかりと握られていた。
「あら、ミレル。その紙切れは一体どうしたのですか?」
「み、ミーアの部屋に残されていた書置きです!」
「な、なんですって?!」
ミントが慌ててミレルから紙切れを受け取り、それを確認する。そこには汚い殴り書きでこう記されていた。
『ルナル様を探してきます。ミーア』
本当にかろうじて解読ができるくらいの汚い文字である。しかし、血を分けた姉妹だからこそ分かるのだ、この文字を書いた主がミーアだと。
「あ、あの子ったら……」
ミントは額に手を当てて、天井を仰いだ。
「申し訳ございません、ディラン様……。あの子ったらここまで甘えん坊だとは……」
ミントはディランの方へしっかりと視線を向けると、深々と頭を下げて謝罪していた。
「はははっ、ミーア君のルナル様への甘えっぷりは今に始まった事ではないからな。しかし、こうなってしまってはルナル様にお任せする事にしよう」
さすがにこの状況には、ディランも笑うしかなかったようである。だがしかし、ディランはすぐに落ち着いた。
「だが、今はそれどころではないのだよ」
「と、申されますと?」
「先程、伝令がやって来て、明夕にアカーシャ様とソルト様が城に戻られるとの事の報告を受けた。君たちはしっかりとお迎えができるように準備を整えておいてくれ」
「畏まりました」
ディランの命令に、ミントとミレルは頭を下げる。だが、いざ動こうとする前に、ミーアが心配なばかりにミントがついぽろっと言葉を漏らしてしまう。
「確かルナル様は、今はハンターのふりをして人間たちと一緒に居るはず。ミーアったら無事でいられるかしら……」
「まあ心配にはなるな。人間と魔族は敵対関係にあるのだからな。だが、我々が出向いたところでどうこうできるわけではあるまい。先程も言った通り、ルナル様にすべて任せておけばよい。それよりも今は、我々の出来る事をすべきだろう」
心配そうにしているミントとミレルに、ディランはすっぱり斬り捨てるような言い方をする。
「さあ、君たちも持ち場に戻れ」
ディランはそう言い放つと、そのまますたすたとその場から歩き去ったのだった。
「ミーア、ミーア?!」
魔界の中枢である魔王城の中、一人のメイドが城の中を移動しながら誰かの名前を叫んでいる。しかし、その声に対して反応が返ってくる事はなく、メイドの叫ぶ声だけが虚しく響き渡っていた。
捜し疲れたのか、メイドは突然立ち止まった。そして、腰に手を当てて大きくため息を吐いていた。
「……まったく、あの子はどこに行ったというのかしら」
困り果てた様子で、メイドは頭を左右に振った。
しばらくすると、メイドに一つの影が近付いていった。
「どうされましたかな、ミント殿」
その人物はメイドに声を掛ける。
だが、この人物、どこか様子がおかしかった。全身を甲冑で覆った姿は騎士のようだが、その一番上の部分を見ると、本来頭があるはずの部分に何もないのである。なんと、その人物は首無し騎士だったのだ。
「これはディラン様」
声に反応をしたメイドは、首無し騎士に対して頭を下げている。
「実はですね、私の末妹のミーアの姿が今朝から見当たらなくてですね、ずっと探し回っているわけなのです」
「そうか……、それは実に大変だな」
ミントと呼ばれたメイドの回答に、ディランという名の首無し騎士は無い顎を触りながら首を傾げるような動きをしている。頭がないために不自然に手が浮いてしまっている。
「君たちは猫人という戦闘民族だったね。ミーア君はその中でも特に落ち着きがなかったな。……だが、ミーア君の事だ。そのうち戻ってくるのではないのかね?」
「そうだといいのですが……」
ミントはディランの意見に、言葉を濁している。
しかしながら、ミントはメイド長を務める一方、ディランは魔王軍の副司令官を務める人物である。あまり失礼になってはいけないと、使用人であるミントはすぐに姿勢を正していた。
「戻って来たら戻って来たであの子らしいのですが、ルナル様からは城の管理を命じられていますので、命の恩人たるルナル様の命に背くなど、許されるわけがありません」
「うむ、確かにそうだな。戻って来たら、最低でも夕食抜きくらいの罰は与えなければならないだろうな」
真面目に話すミントに対して、ディランはちょっと笑っていた。
二人がそんな会話を交わしていると、廊下の向こうから大きな声を出して近付いてくる人物が居た。ミントと同じように猫耳と猫尻尾という特徴を持ったメイドだった。
「み、ミントお姉様、た、大変です!」
「どうしたのですか、ミレル。そんなに取り乱して」
走って近付いてきたのはミントの妹のミレルだった。ミーアが末妹なので、ミレルはミーアの姉にあたるというわけである。
三姉妹の特徴は、深藍の髪をポニーテールにしているのが長女ミント。ピンクの毛先がくるくると巻いているのが次女のミレル。金髪のストレートロングが三女のミーアという具合である。容姿だけではなく得意分野や性格もまるっきり違う三人ではあるものの、れっきとした血の繋がった姉妹であり、揃って魔王城でメイドをしているのである。
その次女であるミレルの手には、何やら一枚の紙切れがしっかりと握られていた。
「あら、ミレル。その紙切れは一体どうしたのですか?」
「み、ミーアの部屋に残されていた書置きです!」
「な、なんですって?!」
ミントが慌ててミレルから紙切れを受け取り、それを確認する。そこには汚い殴り書きでこう記されていた。
『ルナル様を探してきます。ミーア』
本当にかろうじて解読ができるくらいの汚い文字である。しかし、血を分けた姉妹だからこそ分かるのだ、この文字を書いた主がミーアだと。
「あ、あの子ったら……」
ミントは額に手を当てて、天井を仰いだ。
「申し訳ございません、ディラン様……。あの子ったらここまで甘えん坊だとは……」
ミントはディランの方へしっかりと視線を向けると、深々と頭を下げて謝罪していた。
「はははっ、ミーア君のルナル様への甘えっぷりは今に始まった事ではないからな。しかし、こうなってしまってはルナル様にお任せする事にしよう」
さすがにこの状況には、ディランも笑うしかなかったようである。だがしかし、ディランはすぐに落ち着いた。
「だが、今はそれどころではないのだよ」
「と、申されますと?」
「先程、伝令がやって来て、明夕にアカーシャ様とソルト様が城に戻られるとの事の報告を受けた。君たちはしっかりとお迎えができるように準備を整えておいてくれ」
「畏まりました」
ディランの命令に、ミントとミレルは頭を下げる。だが、いざ動こうとする前に、ミーアが心配なばかりにミントがついぽろっと言葉を漏らしてしまう。
「確かルナル様は、今はハンターのふりをして人間たちと一緒に居るはず。ミーアったら無事でいられるかしら……」
「まあ心配にはなるな。人間と魔族は敵対関係にあるのだからな。だが、我々が出向いたところでどうこうできるわけではあるまい。先程も言った通り、ルナル様にすべて任せておけばよい。それよりも今は、我々の出来る事をすべきだろう」
心配そうにしているミントとミレルに、ディランはすっぱり斬り捨てるような言い方をする。
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