神槍のルナル

未羊

文字の大きさ
上 下
27 / 139
第一章『ハンター・ルナル』

村に戻って

しおりを挟む
 ジャグラーを打ち倒して4日ぶりに村に戻ってきたルナルたち。村に踏み入ったルナルたちの目の前には、実に驚くべき光景が広がっていた。
「えっほ! えっほ!」
「おーい、こっちの柱が足りないぞ!」
「悪い、今切ってるから少し待ってくれーっ!」
「はい、みんな。差し入れ持ってきたわよ」
「おー、悪いな。頂くよ」
 なんと、村人とゴブリンが一緒になって、ボロボロになっていた村の家屋などを修繕しているではないか。しかも、いがみ合うような様子もなく、何とも和気あいあいと協力しながら作業をしているではないか。
 よくよく見てみれば、なんとそれだけではなかった。
 家屋を修繕しているのはもちろんの事、畑を耕していたり、破けるなどボロボロになった衣服を補修していたり、料理をしていたりと、その共同作業の内容は村の営みの多くに渡っていた。人間と魔族が共同で作業をしているその光景に、ルナルたちは目を疑ったのだ。
「これは……一体どうしたというのだ?」
「いやはや、これは私も驚きですよ」
 予想外の光景を目の当たりにしたルナルたちが村の入口で呆然と立っていると、村人の一人がその姿に気が付いて声を掛けてきた。
「あっ、あのお姿はルナル様?! お帰りなさいませ!」
 周りに聞こえるくらいに元気のいい声だ。その声につられるように、他の村人やゴブリンたちも体を起こして顔を向け始めた。その様子に、ルナルたちはちょっと戸惑いながらもなんとか平静を装おうとする。そして、
「ええ、ただいま戻りました」
 どうにか笑顔を作って答えていた。
「ルナル様、ご無事に目的は果たせましたでしょうか」
 駆け寄ってきた村人が、心配そうに尋ねる。その様子に、ルナルはセインたちと一度顔を合わせ、
「はい、無事に元凶であるジャグラーを討ち取ってきましたよ」
 村人やゴブリンたちに元気いっぱいに報告したのである。この報告を聞いた瞬間、ルナルの周りに集まっていた全員が歓声を上げた。そして、一部の村人たちは走り出し、あっという間に村中に伝えに回っていた。
「おお、さすがはルナル様!」
「我らが主、ゴブリック様の仇……、感謝致しますぞ……!」
 村人やゴブリンたちが、口々に賞賛やお礼の言葉をルナルたちに伝えている。あまりにみんなが押し寄せてくるものだから、さすがのルナルたちもちょっと気圧されてしまっていた。そして、誰からともなくこんな声が上がる。
「皆の者、今夜は宴だ!」
「おおーっ!」
 この声を発端として、全員の士気が一気に高まる。すると、全員の作業スピードが上がったように思えた。張り切りすぎとも思える光景だった。
 その光景を再び呆然と眺めているルナルたち。すると、近くに残っていたゴブリンが声を掛けてきた。
「すまねえな。この村の状況については宴の時にでも説明させてもらうでさあ。ルナル様たちはジャグラー討伐でお疲れでしょうから、あちらの建物でゆっくり休んで下せえ」
 ゴブリンはそう言いながら、1棟の建物を指差していた。そこには他の建物と違って、ちょっと頑強そうな建物が建っていた。
「は、はあ。そう仰られるのでしたら、言葉に甘えさせて頂きましょう」
「そうですね。ちょっと状況が分かりかねますが、そのように致しましょう」
 ソルトもちょっと状況を判断しかねているようだが、特に村人たちには怪しい動きは見えない。なので、今はゆっくり体を落ち着けるべく、指定された建物へと移動する事にした。その時、ふとルナルはセインの方を見ると、そこには表情の硬いセインの姿があった。
「どうかされましたか、セイン?」
 じっと村人たちの様子を凝視するセイン。ルナルに声を掛けられてびくりと体を震わせていた。
「いや、何でもない」
 この時のセインの様子にルナルは首を傾げたのだが、セインもおとなしく移動を始めたので、気のせいかと思って同じように移動を始めたのだった。

 案内された建物でルナルたちが休んでいると、そこへ少々年老いた男性と、ゴブリックよりも筋肉質なゴブリンが入ってきた。様子から察するに、おそらく村長とゴブリンの代表だと思われる。
「お疲れのところ、失礼致します。わしはこの村の村長でございます」
「我はゴブリック様亡き後、代理として長を務める事になったゴブールと申す」
 二人は床に座り、ルナルたちに挨拶と共に頭を下げた。復旧真っ只中の村にテーブルなどはなく、ルナルたちと村長たちが向かい合うように座っている。
「ルナル様、この度はこの村をお救い下さり、誠に感謝申し上げます」
「我からも礼を言おう。ゴブリック様の暴走を止めて下さった上に、その敵討ちまでして下さった。その行動に、ただただ頭が下がる」
 村長とゴブールが揃って頭を下げ、ルナルたちに礼を述べている。
「いえいえ、私たちはハンターです。その使命として、当然の事をしたまでです。そこまで、畏まらないで下さい」
 ルナルは両手を左右に振りながら言うものの、村長とゴブールは頭を下げたままで、一向に頭を上げる気配はなかった。
「なあ、ところで、なんであんな事があったっていうのに、村人とゴブリンが一緒に過ごしているんだ?」
 そこへ、空気を読まずにセインの質問が飛ぶ。ルナルが何言ってるのというような慌てた表情をしているが、セインの言葉に顔を上げた村長とゴブールはきょとんとしてお互いの顔を見合わせていた。しばらくすると、どういうわけか二人揃って笑い始めた。その様子に、ルナルたちはさらに困惑するばかりだった。
「いやはや、普通であれば確かにそうお思いになられるでしょう。ですが、わしたちは思いの外、気が合ったのですよ」
「うむ。我らはゴブリック様の暴走の前は農耕を行う農民だったのだ。聞けばこの村も農業をしている村だと聞いてな。その状況に加えて、我らは元の場所に戻る方法が分からなかった上に、この村には多大なる迷惑をかけた。だから、非礼を詫びる形でこの村に住む事に決めたのだ」
「いやはや、彼らは魔族という割にはかなり穏やかな性格をしておりましてな、どうやら主の暴走で、無理やり非道を行わされていたようなのです。ルナル様たちが立ち去られた後、わしらに誠心誠意謝罪してこられました。そういう経緯がございまして、今では彼らも立派な村の一員なのですじゃ」
 村長とゴブールの間には実に穏やかな空気が流れている。嘘偽りはないようだった。
 あれから実に7日程度しか経っていないというのに、すっかり打ち解け合って親睦を深めているようだった。
「それでは、わしらは宴の準備がありますゆえに、これにて失礼致します。準備ができましたらお呼び致しますので、ルナル様たちはゆっくりお休みなって下さい」
「わ、分かりました」
 ルナルたちに戸惑いが残る中、村長とゴブールは建物を出ていった。
 まさか村人とゴブリンが和解しているなど予想だにしていなかったルナルたちは、ただただ呆然と休んでいる事しかできなかったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

うちの冷蔵庫がダンジョンになった

空志戸レミ
ファンタジー
一二三大賞3:コミカライズ賞受賞 ある日の事、突然世界中にモンスターの跋扈するダンジョンが現れたことで人々は戦慄。 そんななかしがないサラリーマンの住むアパートに置かれた古びた2ドア冷蔵庫もまた、なぜかダンジョンと繋がってしまう。部屋の借主である男は酷く困惑しつつもその魔性に惹かれ、このひとりしか知らないダンジョンの攻略に乗り出すのだった…。

引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい

鈴木竜一
ファンタジー
旧題:引退賢者はのんびり開拓生活をおくりたい ~不正がはびこる大国の賢者を辞めて離島へと移住したら、なぜか優秀な元教え子たちが集まってきました~ 【書籍化決定!】 本作の書籍化がアルファポリスにて正式決定いたしました! 第1巻は10月下旬発売! よろしくお願いします!  賢者オーリンは大陸でもっと栄えているギアディス王国の魔剣学園で教鞭をとり、これまで多くの優秀な学生を育てあげて王国の繁栄を陰から支えてきた。しかし、先代に代わって新たに就任したローズ学園長は、「次期騎士団長に相応しい優秀な私の息子を贔屓しろ」と不正を強要してきた挙句、オーリン以外の教師は息子を高く評価しており、同じようにできないなら学園を去れと告げられる。どうやら、他の教員は王家とのつながりが深いローズ学園長に逆らえず、我がままで自分勝手なうえ、あらゆる能力が最低クラスである彼女の息子に最高評価を与えていたらしい。抗議するオーリンだが、一切聞き入れてもらえず、ついに「そこまでおっしゃられるのなら、私は一線から身を引きましょう」と引退宣言をし、大国ギアディスをあとにした。  その後、オーリンは以前世話になったエストラーダという小国へ向かうが、そこへ彼を慕う教え子の少女パトリシアが追いかけてくる。かつてオーリンに命を助けられ、彼を生涯の師と仰ぐ彼女を人生最後の教え子にしようと決め、かねてより依頼をされていた離島開拓の仕事を引き受けると、パトリシアとともにそこへ移り住み、現地の人々と交流をしたり、畑を耕したり、家畜の世話をしたり、修行をしたり、時に離島の調査をしたりとのんびりした生活を始めた。  一方、立派に成長し、あらゆるジャンルで国内の重要な役職に就いていた《黄金世代》と呼ばれるオーリンの元教え子たちは、恩師であるオーリンが学園から不当解雇された可能性があると知り、激怒。さらに、他にも複数の不正が発覚し、さらに国王は近隣諸国へ侵略戦争を仕掛けると宣言。そんな危ういギアディス王国に見切りをつけた元教え子たちは、オーリンの後を追って続々と国外へ脱出していく。  こうして、小国の離島でのんびりとした開拓生活を希望するオーリンのもとに、王国きっての優秀な人材が集まりつつあった……

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

目が覚めたら異世界でした!~病弱だけど、心優しい人達に出会えました。なので現代の知識で恩返ししながら元気に頑張って生きていきます!〜

楠ノ木雫
恋愛
 病院に入院中だった私、奥村菖は知らず知らずに異世界へ続く穴に落っこちていたらしく、目が覚めたら知らない屋敷のベッドにいた。倒れていた菖を保護してくれたのはこの国の公爵家。彼女達からは、地球には帰れないと言われてしまった。  病気を患っている私はこのままでは死んでしまうのではないだろうかと悟ってしまったその時、いきなり目の前に〝妖精〟が現れた。その妖精達が持っていたものは幻の薬草と呼ばれるもので、自分の病気が治る事が発覚。治療を始めてどんどん元気になった。  元気になり、この国の公爵家にも歓迎されて。だから、恩返しの為に現代の知識をフル活用して頑張って元気に生きたいと思います!  でも、あれ? この世界には私の知る食材はないはずなのに、どうして食事にこの四角くて白い〝コレ〟が出てきたの……!?  ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】転生少女は異世界でお店を始めたい

梅丸
ファンタジー
せっかく40代目前にして夢だった喫茶店オープンに漕ぎ着けたと言うのに事故に遭い呆気なく命を落としてしまった私。女神様が管理する異世界に転生させてもらい夢を実現するために奮闘するのだが、この世界には無いものが多すぎる! 創造魔法と言う女神様から授かった恩寵と前世の料理レシピを駆使して色々作りながら頑張る私だった。

処理中です...