神槍のルナル

未羊

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第一章『ハンター・ルナル』

無茶しやがって

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 なんと、セインの持っていた剣は、魔を滅する力を持つ破邪の剣だとルナルは告げる。しかし、肝心のセインがそれを分かっていなかった。
「魔を滅する剣?!」
 目を丸くして首を傾げるセイン。その様子を見たルナルが、呆気に取られた表情をしている。何も知らないのは分かっていたものの、まさかそこまで知らないとは思わなかった。
「あのですね、セイン。魔を滅するという言葉通り、セインの持つその剣に傷付けられた魔族や魔物は、その力を失ってしまいます。それに伴って再生能力も著しく低下します。その効果はアンデッド相手でも変わりません」
 ルナルは床に落ちていたジャグラーのマントを見つけ、それを拾い上げる。
「先程私が戦ったジャグラーも、純粋な魔族です。そして、あいつの本質はアンデッドに近いのです。だからこそ、君の持つその剣が必要だったのです」
 ルナルはセインにジャグラーのマントを突き付けながら話している。
「そして、私は、自らの危険を顧みずに、その剣を振る事に決めたのです。その意味が分かりますか?」
 そして、真剣な眼差しをセインに向けた。
「な、なんだよ。その、自らの危険っていうのは?!」
「おい、セイン。今のルナル様の言葉を聞いていたのか?」
 セインのとぼけた言葉に、アカーシャが怒ってセインの胸ぐらを掴む。
「アカーシャ、離してあげなさい。彼は何も知らない上に理解力も乏しいみたいです。ただ、いろいろあって混乱もしているでしょうからね。今回は大目に見てあげて下さい」
「はっ、分かりました……」
 ルナルがアカーシャを諫めると、アカーシャはセインから手を離した。
「先程も言いましたが、その剣は魔を滅する剣。実は、鞘から出しているだけで、その効果を発揮するのです。私が修繕していた時は刃こぼれや錆でその力が弱まっていましたが、その輝きを取り戻した今、その力を取り戻しています」
 そう言いながら、ルナルはセインへ近付いていく。そして、その顔の前に人差し指を突き出した。
「先程の戦いを思い出して下さい。その剣を振るっていた私に起きていた事を。私は魔王なのですよ? 魔王とは魔族の王、その意味は……分かりますよね?」
 ルナルにここまで言われて、セインはやっと理解した。
「そっか……、それでジャグラーって奴はとか口走っていたのか!」
「ようやく理解しましたか?」
 セインは剣の柄に手を当てながら、小さくではあるものの頷いた。
「それに加えて、私は私たち魔族が本来扱えないはずの神聖魔法を行使しました。ジャグラーを牽制する意味でも強力なものを、です。その時、私の身に起きた負担など、セインにはとても想像がつかないでしょう」
 ルナルは一度顔を背けて目を閉じながら話をしている。そして、再び目を開いてセインへと視線を向ける。
「それにしても……君はなかなか不思議な行動を取りましたよね?」
「えっ?」
 その時、ルナルの放った言葉に、セインはつい驚いてしまう。
「私は魔王です。君の目的は魔王を討つ事でしたよね? なのに、さっきは寸でで剣を止めていましたし、今もまだ私は本調子でないのに斬ろうともしてこない。一体、君は何をしたいですか?」
 つい意地悪な事を言ってみるルナル。
 確かに、セインがハンターを目指そうとした理由は、世界を滅ぼすと宣言した魔王を討伐する事だった。そして、その魔王が今目の前に居る。それだというのに、セインはルナルに対して寸止め以上の攻撃ができなかったのだ。
「それは……」
 セインは口ごもる。
「ルナルは、行き倒れた俺を助けてくれた。ルナルが魔王だとはいっても命の恩人なんだ。恩を仇で返す様な真似は……俺にはできない!」
 セインはそう大きな声ではっきりと叫んだ。セインの中では「魔王=討つべき相手」と「ルナル=命の恩人」という2つの認識が葛藤を起こしているのだ。そのせいで、セインはルナルに対して手を下せずにいたというわけである。
 そうやって悩んでいたセインだったが、ここまでのルナルの行動を思い出して、どうするべきなのかその答えがようやく出たようである。
「ルナルは魔王だが、大事な……」
「大事な?」
「な、仲間だよ! 間違っても倒すべき相手じゃない」
 セインはどこか赤くなりながら、そう叫んだ。すると、ルナルたちはついおかしくなって笑い出してしまった。
 そうやって笑われている中で、セインはふと何か疑問が浮かんだようだった。
「どころでルナル」
「何ですか、セイン?」
 必死に笑いを堪えて、セインの言葉に反応するルナル。
「そういえば、あの『世界を滅ぼす』っていう宣言だけど、どういうつもりで言ったんだ?」
 セインからの質問で、ルナルはぎょっとした顔をする。ギクッとかドキッとかいう音が聞こえてきそうな表情である。
「いえ、あの、その……。あれは何て言いますか、うん、場の勢いというか、なんというか……」
 ルナルが両手を突き合わせながら、視線を背けてしどろもどろに話している。
「ああ、あれはなぁ……」
「ええ、あれは仕方ありませんよ。ルナル様の責任じゃありませんって……」
 アカーシャとソルトのフォローもなんだかよく分からないものだった。セインもなんだか聞くのが怖くなってくるくらいに、三人の様子がおかしいのである。
「ま、まあ……、誰しも言えない事の一つや二つあるしなぁ……。悪い、もう聞かない」
 セインも何かを察したようである。その言葉を聞いて、ルナルはどこかほっと安心したようだった。
「でもさ、言ってしまったからには、責任は感じてるんだよな?」
「ええ、そうですね。やっちゃったわけですし、そのせいで魔族が勢いづいちゃいましたからね。だからこそ、こうやってハンターとしての立場を利用しているんでけどね!」
 ルナルは開き直っていた。
「まあ、漠然と『世界』としか言わなかったのは、せめてもの救いですかね。私の解釈でどうとでもできますから」
 そう言って、ルナルは窓際へと移動していく。そして、まだ薄暗い景色を背景にくるりと振り返る。
「ともかく、私はまだ人間たちを理解する勉強の最中です。そのためにも、魔族の暴走は食い止めてみせますよ」
 薄く光が差し込む中、ルナルはにこりと笑って宣言した。不思議とその姿はどこか神秘的に見えた。
「さて、ひとまずはゴブリックが暴走して支配していた村に戻るとしましょうか。あれから結構日数が経ちましたし、今どうなっているのかとても気になりますからね」
「ああ、そうだな」
 ルナルのこの提案に、セインたちは同意した。
 こうして、ルナルたち一行は正規ルートを通って、ゴブリンの支配を受けた村へと向かう事になったのだった。
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