神槍のルナル

未羊

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第一章『ハンター・ルナル』

明かされる秘密

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 無事にジャグラーを倒したルナルは、ふらつきながらもセインに近付いていく。
「セイン、剣をありがとうございました。お返しします」
 ルナルはお礼を言って、セインへと剣を手渡した。
 ところが、次の瞬間、剣を受け取ったセインは剣を振り上げて、ルナルに向けて振り下ろした。突然の事にソルトとアカーシャは反応できなかった。
 ルナルは微動だにしない。そのルナルに剣が当たるかと思った瞬間、セインはぴたりと剣を止めた。
「申し訳ありませんでした。君を試すような事をしてしまって……」
 瞬きする事なく、まっすぐセインを見て謝罪するルナル。そのルナルを、セインは怒っているような表情で見ていた。
「ですが、先程の一件で確信しました。セインは……」
 ルナルが何かを言おうとした瞬間、部屋の外がだんだんと騒がしくなってきた。
「ジャグラー様の部屋で物音がしたぞ!」
「まさか賊でも入ったのか?」
 どうやら先程の戦闘の物音を聞いて、ジャグラーの屋敷を警備していた魔族たちが集まって来たようだった。
「……詳しいお話は、ここを離れてからにしましょう」
 ルナルがこう言うと、ソルトとアカーシャが前に出てくる。
「ここは我々がお引き受けします」
「ルナル様はしっかりとお休み下さい」
 ルナルは消耗しきっているし、セインも連れて動くのは危険と判断した二人は、ここで魔族たちを迎え撃つ判断をしたのだ。
「セイン、ルナル様を守ってくれ。今がどういう時かは、分かるな?」
 アカーシャがセインに視線を向けながら言葉を掛けると、セインは黙って頷いた。
「ジャグラー様、ご無事ですか!」
「むっ、貴様らは何者だ!」
「侵入者だ。やっちまえ!」
 部屋に魔族がなだれ込んでくる。そして、ソルトとアカーシャがその魔族たちを迎え撃った。
 結果は圧倒的だった。ソルトの魔法とアカーシャの剣技。それは紛れもなく蹂躙というにふさわしかった。気が付けばジャグラーの配下は、近付く事も逃げる事も叶わず全滅してしまっていたのだった。
「ふん、下級魔族など所詮この程度か」
 剣を払って鞘に収めるアカーシャ。どうにも消化不良といった顔をしていた。
「ルナル様、念のため結界を張ります」
「ええ、頼みます、ソルト」
 ソルトが辺りに結界を張り、安全が確保される。すると、ルナルは先ほどの話を再開した。
「セインの事ですが、先程や還らずの森で見せた光から察するに、私の先々代の魔王を倒したと言われているハンターの子孫ですね。人間たちには『勇者』と呼ばれている人物です」
「俺が……勇者の子孫?」
 ルナルの告げた言葉に、セインは信じられないといった反応を示している。
「根拠は2つあります。1つは先ほども言った、フォル様の力を抑え込んだり、魔眼石を無効化したあの光。そして、もう1つの根拠は、君が持つその剣です」
「この剣が、一体どうしたって言うんだ?」
 セインが疑問を呈している。
「その剣の話をする前に、改めて自己紹介をさせて頂きますね」
 ルナルは一旦剣の話を置いておき、話題を変えた。
「本当の私は魔王ルナル。50年ほど前にその座に就きました」
「ご、50年?!」
 ルナルが告げた数字にセインが驚く。まあ無理もない。魔族にとっては短いかも知れないが、人間にとってはかなり長い。だが、ルナルはその驚きを無視して話を続ける。
「あの頃の私は、他の魔族と考え方は大して変わりませんでした。世界を支配するのは魔族の望みであり、願いなのだと」
 ルナルは淡々と話している。
「ですが、ふと考えてしまったのです。先々代がなぜ人間によって討たれてしまったのか、その理由というものを。魔族が支配するのが理想であるなら、なぜそこに反発が起きるのか。人間を知らないから、反発が起きるのではないかと」
 そう話すルナルの表情は少し曇っていた。
「そう考えた私は、人間たちを理解しようと考えたのです。そうやって考えた結果が、このハンターという職業なのです。ハンターであればあちこちに出向きますから、人間と接する機会が増えて、より人間を理解できるのではないかと」
 さっきまでの暗い表情から一転、今度は明るい表情で話している。
「……それがハンター『神槍のルナル』の実態なんですよ」
 最後ははにかみながら、セインの顔を見ていた。ころころと表情を変えるルナルの様子を、セインはただただ黙って聞いていた。
「それでは、そちらの二人の事も紹介しますね」
 ルナルは自分の後ろに控える二人の方へを視線を移す。
「私の右後ろ、青い髪の毛で眼鏡を掛けている女性は、私の幼馴染みである『ソルト』です。二つ名を『知識の刃』といって、多彩な魔法を操ります。ちなみに魔王軍での地位は宰相なんですよ」
 ルナルの紹介に、ソルトは黙ったまま頭を下げる。
「左後ろの赤い短髪の女性は、私と魔王の座を掛けて戦った魔族の一人で『アカーシャ』といいます。その優れた剣技で仲間を護りきる姿から『紅の砦』と呼ばれていて、魔王軍の総司令を務めています」
「アカーシャだ。よろしくな、小僧」
 アカーシャがセインを睨む。するとセインは、ルナルの紹介と合わせて目を白黒させていた。
「ちょっと待て。つまり今ここには、って事なのか?」
「そういう事になりますね」
 セインの驚きの声に、ルナルは笑いながら頷く。
「ですが、私が50年かけて築き上げてきた軍勢は、私たちが不在だからといっても、その団結が揺らぐ事のない精鋭たちですよ。だから、こうやって出てこれるのです」
 ルナルがにこにこと話しているが、セインはもうどう反応していいのか分からなくなって、完全に言葉を失っていた。
「こほん、自己紹介が終わりましたし、セインの持つ剣の話に戻りますね」
 話題の切り替えという事で、ルナルはひとつ咳払いをして、真剣な表情に変わる。
「セインの持つその剣ですが、見た目に加えて実際に振るってみた感じからすると、やはり、先々代の魔王を倒した時の勇者が振るっていた剣で間違いないですね」
「な、なんだって?!」
 ルナルが断定すると、セインは驚きで剣を握りしめていた。
「振るっている私や、剣先が触れただけのジャグラーがあれだけ苦しんだのです。効果も間違いないですからね」
「この剣が……勇者の振るっていた剣」
 セインは確認するように呟く。
「その剣はそういう事もあって、魔族たちの間ではこう伝えられています。……魔を滅する剣、『破邪の剣』と」
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