神槍のルナル

未羊

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第一章『ハンター・ルナル』

突撃!ジャグラーの屋敷

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 ルナルたち四人が乗るペンタホーンたちは、軽快に森の中を駆け抜けていく。
 四人の前に立ちはだかった世界樹ユグの分体であるフォルが協力に転じてくれたおかげで、森はまるで生き物のように四人の避けて道を作っていく。それはまるで道案内をするように、迷いのない動きだった。
 それとは対照的に、通り過ぎた背後の森は、拒むようにどんどんと閉じていっている。まるで後戻りはできない、一方通行の道だと言っているようだった。
「はははっ、こいつはすごいや!」
 まるで統率の取れた兵士のように、一糸乱れぬ動きで流れるように道を作っていく森を見て、セインはとても興奮している。だが、セイン以外の三人はとても冷静だった。
「そろそろ森を抜けます。そしたら魔界に突入する事になりますので、気を抜かないで下さい!」
 ルナルの言葉に、全員が黙って頷く。
 しばらくそのまま駆けていると、やがて前方にうっすらと光のようなものが見え始めてくる。そして、近付くにつれ、その光は徐々に大きくなっていく。ルナルたちが駆るペンタホーンたちは、その光目がけて突進していき、一気に森を駆け抜けたのだった。

 眩しさにしばらく何も見えなかったが、徐々に目が慣れてくると、目の間の視界は大きく開けていた。ついに還らずの森を抜けたのである。
 だが、目の前に広がる景色は森を抜ける前とは違い、荒れ果てた大地が広がるばかり。そして何より、森の中とはそう大差のない重苦しい空気が漂い、空には厚い雲が広がる世界だった。
「さあ、ここが魔界ですよ」
 ルナルが独り言のように喋る。
「なあ、ルナルは魔界に来た事があるのか?」
 ルナルの言い方を聞く限り、どうにも魔界の事を知っているようだった。だからこそ、セインはついルナルに尋ねてしまう。
「ええ、来た事がありますよ。ハンターの請け負う仕事の中には、魔界に出向くものだってあるんです。……一度や二度じゃ、ありませんよ」
 そう答えるルナルの表情は、どこか思い詰めたような雰囲気すらあった。あまりに重苦しい雰囲気に、セインは言葉が出なかった。
「この辺りは還らずの森の近くとあって誰も近付こうとしません。それは植物も一緒。そのためにこのように荒れた大地となっているそうなのです」
 ルナルが説明を始める。
「そして、魔界という場所は、基本的に人間の住む土地と変わらないのですが」
 そして、その説明の途中で手を伸ばし、魔法を使おうとしている。だが、発動させる事はできたものの、少し様子がおかしかった。
「このように、人間の住む場所とは空気が違います。それゆえに能力が少し制限されますので、そこは注意して下さいね。ですが、私くらいになれば問題はありませんけれどね」
 説明を終えたルナルは、少し微笑んだように見えた。
「それにしてもルナル。ずいぶんと魔界の事に詳しいな」
「あのですね、セイン。あなたはハンターやギルドの事を理解しているのですか?」
 セインがふと疑問を呈すると、ルナルの機嫌を損ねたらしく、ぎろりと睨み付けられた。
「ギルドに所属するハンターたちには、持ち帰った情報を共有する義務があるんです。ですから、他の人の情報も含めてみんな知識を持ち合わせる事になるんです。これくらいは常識ですよ」
 ルナルがものすごく呆れ返っている。
「はは、そうなんだ。それは知らなかったよ……」
 あまりの剣幕に、セインは納得したかのような態度を取らざるを得なかった。
 いくら鈍いセインだとはいっても、さすがにルナルに対して疑念を持っていた。『ハンター』だからといっても魔界や魔族に対する知識は豊富だし、ルナルに付き添うソルトとアカーシャの二人が『様』とつけて呼ぶ事など、どうにも腑に落ちない点が多いのである。
 一方のルナルも、セインの態度が気になっていた。わざわざ質問してくるあたり、自分に対して何かしら疑いを持っているのではないかと感じられたのだ。
(……偽りは自分を傷付ける刃、か。まったく、その通りかも知れませんね)
 ルナルの脳裏に、フォルの言葉がふと過る。だが、ルナルはすぐに頭を左右に振って気持ちを切り替える。
「さあ、十分休みましたし、ジャグラーの屋敷へと向かいましょう。場所は調べがついています!」
 今はこれ以上魔眼石による被害を増やさないために、ジャグラーを討つ事だけを考える事にしたルナル。その号令で、ペンタホーンたちはジャグラーの屋敷を目指して、魔界の荒野を駆け抜けていった。

 薄暗い魔界の森の近くに、不気味な屋敷がひっそりと建っている。その上空には漆黒の雲が渦巻き、辺りは何の声も聞こえないくらいに静まり返っている。
 その館の中で、細身の魔族が部下と思しき魔族から報告を受けている。
「くくく……。そうか、ゴブリックが果てたか。報告ご苦労、下がってよいぞ」
「はっ、失礼します」
 部下が出て行くのを確認すると、その細身の魔族は机に両肘をついて、鋭い表情に変わる。
「ゴブリック、あれはよく働いてくれたな。だがしかし、それが倒されたとなると、いずれうるさいハンターどもがここを嗅ぎつけて攻め入ってくる事になるだろう」
 そう言いながら、部屋のあちこちへと視線を移す魔族。そして、にやりと笑みを浮かべる。
「だが、その時のためにこの屋敷には侵入者対策を入念に施してある。たとえ歴戦のハンターが来たとしても、容易くそれらを掻い潜れまい……」
 椅子から立ち上がった魔族は、窓へと歩み寄っていく。
「愚かなハンターどもを根こそぎ倒し、このジャグラー様が世界を統べる王となるのだ。ハハハハハハハッ!」
 ジャグラーの高笑いが部屋いっぱいに響き渡る。
 だが、その時だった。部屋の窓ガラスが、大きな音を立てて砕け散ったのだ。
「むっ、何奴!?」
 あまりに大きな音だったために、ジャグラーは慌てて音のした方を向く。するとそこには、四つの人影が立っているではないか。ただ、薄暗い部屋の中では、その姿をはっきりと認める事はできなかった。
「やれやれ、こんな辺鄙な場所に住んでいるとは、ね」
「くそっ、誰だ! こんな非常識な入室方法を取るのは!」
 ジャグラーが突然の事に激高している。
「ですが、情報通り、ここに居ましたね。ジャグラー……」
「くそっ、ハンターか!」
 完全に虚を突かれたジャグラーは焦っている。
 だが、焦ってしまうのも無理はない。報告を受けたばかりであるゴブリックは目撃証言が多いために、それが倒れた今、ハンターがいずれやって来る事は目算がついていた。しかし、やって来るのがあまりにも早すぎたのだ。
 それに加えて、屋敷内にはたくさんの罠を仕掛けておいたのだが、それが手薄になっている窓からの侵入とは完全に予想外過ぎたのだ。
 ジャグラーはギリギリと歯ぎしりをしながら、侵入者を睨み付けている。
「さあ、ジャグラー。その悪行も年貢の納め時です! 観念なさい!」
 侵入者の声が部屋にこだました。
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