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第一章『ハンター・ルナル』
そんなはずがない
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セインからあふれ出す光に触れた蔓が動きを止める。その光景に妖精っぽい人物は驚愕の表情浮かべ、その光景をただ黙って眺めている事しかできなかった。
しばらくすると、セインは気を失ってその場に倒れ込む。そして、彼の体からあふれ出ていた光は徐々に弱まり、すっと消え去ってしまった。一体何が起こったというのだろうか。
「う、嘘だ……。なぜだ……?」
妖精っぽい人物は拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「なぜだ! どうしてこの方がお前なんかと一緒に居るのだ!」
声を荒げながら、ルナルを精一杯睨み付けている。だが、ルナルはそんな目を向けられながらも、言葉を発する事なく、ただその場に立っていた。
はあはあと息を荒れされていた妖精っぽい人物は、その視線を倒れ込んだセインへと移し、座り込んでセインをただじっと眺めている。
「あれから時がかなり経ち、もはやただの過去の伝承になり果てたと思っていたのに、まさかその姿をこの目で見る事になろうとはな……」
妖精っぽい人物は、セインにその手を触れる事なく、ただただじっと視線を向けるだけだった。そして、その呟きにようやくルナルは口を開いた。
「さすがに私にもその理由は分かりません。ですが、はっきり言える事は、彼が私の目の前に現れた事です。これは何かの運命なのでしょうね」
そう呟いたルナルは、同じようにセインに視線を向ける。
「出会ってから今まで、ずっと彼の事を近くで見てきましたが、どうやら自分の力にはまったく気が付いていないようです。ですが、彼に素質を感じられなかった事、それに彼が持っていた剣の事を思うと、おそらくあなたが考えている通りの事だと、私も思うのです」
ルナルがこう言うと、妖精っぽい人物はふっと笑みを浮かべ、立ち上がってルナルを見る。
「ふっ、そうか……。お前と同じ意見になるとはな。正直驚いたが、お前の事に興味を持った。……敵の名をジャグラーといったか」
妖精っぽい人物は右手をスッと掲げる。すると、その手が光り出し、地面が、いや森全体が揺れ始めていた。
「出口までの道を開いてやろう。それを抜ければ、魔界にたどり着ける」
そして、その光がぱあっと一気に広がる。光が収まると同時に揺れも収まった。
「……これで大丈夫だ。森の植物たちにもお前たちに手を出さぬように伝えてある。安心して進むがいい」
「ありがとうございます」
妖精っぽい人物の言葉に、ルナルは礼を述べる。
「本当に素晴らしい能力ですね。あなたの偉大なる母体、ユグ様にもよろしくお伝え下さい」
「はっ、やはり気付いておったか」
ルナルが頭を下げながら言った言葉に、妖精っぽい人物はおどけた笑いを見せる。
「やはり気付いておったか。実にその通りだ。私は『世界樹ユグ』様の分体であり、この『還らずの森』そのものなのだ」
なんと驚いた事に、妖精っぽい人物は世界樹の分身なのだという。そして、この森自身だというのなら、目の前で話していなかったジャグラーの名を知っていても不思議ではなかった。なぜなら、この森の中でその名を出していたのだから。
「呼び名などはございますか?」
ルナルが問うと、
「名など無い。私は普段は姿を見せぬし、それゆえに決まったななど持たぬ。あえて言うのなら、この森の通称である『還らずの森』といったところだな」
妖精っぽい人物は両腕を組んでため息まじりに答えていた。
「ゆえに、お前たちの好きなように呼べばよい」
「畏まりました。それでは、『フォル』様とお呼びする事に致します」
ルナルは、妖精っぽい人物の前に跪きながら言う。
「フォル……か。悪くない響きだ」
フォルはまんざらでないような様子で呟いている。そして、ルナルに視線を向ける。
「しかし……だ。なぜお前がそう畏まっておる? お前の本気で力を使えば、私など簡単に焼き払えてしまうだろう?」
驚いたように向けられたフォルの言葉に、ルナルはただ黙って首を横に振る。
「いいえ、今の私は、ただのハンターですよ?」
ルナルが笑顔を見せながら返した言葉に、フォルは大声で笑い始まる。
「はははっ、これは面白い! だが、いつまでその姿を偽り続けるつもりだ? その偽りはいずれ自らを傷つける刃となるかも知れんのだ。その覚悟があるとでも言うのか?」
フォルが強く放つ言葉に、ルナルは無言のまま力強い視線をフォルへと向けていた。その姿にルナルの強い覚悟を感じたフォルは、その手を高く掲げる。
「ならば行け! 道は荊、決して立ち止まるでないぞ!」
ルナルは強く頷く。そして、セインを起こして、ソルトとアカーシャと共に再びペンタホーンに跨る。
「ありがとうございます、フォル様」
こうして、四人が狩るペンタホーンたちは、フォルが切り開いた道を駆けて、一路魔界を目指して進むのだった。
ルナルたちが去った森の中で、フォルは一人佇んでいる。だが、その表情はどことなく楽しそうなものだった。
「ふふっ、セインといったかな、あの小僧。この私の力を退けるとは、実に興味深い。あれでまだ未覚醒だというのだからな」
木の枝に腰を掛け、足をぶらぶらとさせているフォルは、まるで無邪気にはしゃぐ子どものようである。
「それにしても、まさか相反する力の持ち主が、ああやって共に行動しているとはなぁ。あれは実に驚きだったな」
フォルは足を止めて、ぴょんと地面へと飛び降りる。
「私はこの森そのものゆえに、この森を出る事はできない。だが、どうやら私の妹があの者たちと接触しておるようだな」
フォルはそう呟くと、ルナルたちが駆け抜けていった方向を見る。
「どれどれ。今後は妹を通して、お前の覚悟というものを見させてもらおうか、ルナルよ」
フォルはそう言い残すと、森の中へと姿を消したのだった。
しばらくすると、セインは気を失ってその場に倒れ込む。そして、彼の体からあふれ出ていた光は徐々に弱まり、すっと消え去ってしまった。一体何が起こったというのだろうか。
「う、嘘だ……。なぜだ……?」
妖精っぽい人物は拳を握りしめ、歯を食いしばる。
「なぜだ! どうしてこの方がお前なんかと一緒に居るのだ!」
声を荒げながら、ルナルを精一杯睨み付けている。だが、ルナルはそんな目を向けられながらも、言葉を発する事なく、ただその場に立っていた。
はあはあと息を荒れされていた妖精っぽい人物は、その視線を倒れ込んだセインへと移し、座り込んでセインをただじっと眺めている。
「あれから時がかなり経ち、もはやただの過去の伝承になり果てたと思っていたのに、まさかその姿をこの目で見る事になろうとはな……」
妖精っぽい人物は、セインにその手を触れる事なく、ただただじっと視線を向けるだけだった。そして、その呟きにようやくルナルは口を開いた。
「さすがに私にもその理由は分かりません。ですが、はっきり言える事は、彼が私の目の前に現れた事です。これは何かの運命なのでしょうね」
そう呟いたルナルは、同じようにセインに視線を向ける。
「出会ってから今まで、ずっと彼の事を近くで見てきましたが、どうやら自分の力にはまったく気が付いていないようです。ですが、彼に素質を感じられなかった事、それに彼が持っていた剣の事を思うと、おそらくあなたが考えている通りの事だと、私も思うのです」
ルナルがこう言うと、妖精っぽい人物はふっと笑みを浮かべ、立ち上がってルナルを見る。
「ふっ、そうか……。お前と同じ意見になるとはな。正直驚いたが、お前の事に興味を持った。……敵の名をジャグラーといったか」
妖精っぽい人物は右手をスッと掲げる。すると、その手が光り出し、地面が、いや森全体が揺れ始めていた。
「出口までの道を開いてやろう。それを抜ければ、魔界にたどり着ける」
そして、その光がぱあっと一気に広がる。光が収まると同時に揺れも収まった。
「……これで大丈夫だ。森の植物たちにもお前たちに手を出さぬように伝えてある。安心して進むがいい」
「ありがとうございます」
妖精っぽい人物の言葉に、ルナルは礼を述べる。
「本当に素晴らしい能力ですね。あなたの偉大なる母体、ユグ様にもよろしくお伝え下さい」
「はっ、やはり気付いておったか」
ルナルが頭を下げながら言った言葉に、妖精っぽい人物はおどけた笑いを見せる。
「やはり気付いておったか。実にその通りだ。私は『世界樹ユグ』様の分体であり、この『還らずの森』そのものなのだ」
なんと驚いた事に、妖精っぽい人物は世界樹の分身なのだという。そして、この森自身だというのなら、目の前で話していなかったジャグラーの名を知っていても不思議ではなかった。なぜなら、この森の中でその名を出していたのだから。
「呼び名などはございますか?」
ルナルが問うと、
「名など無い。私は普段は姿を見せぬし、それゆえに決まったななど持たぬ。あえて言うのなら、この森の通称である『還らずの森』といったところだな」
妖精っぽい人物は両腕を組んでため息まじりに答えていた。
「ゆえに、お前たちの好きなように呼べばよい」
「畏まりました。それでは、『フォル』様とお呼びする事に致します」
ルナルは、妖精っぽい人物の前に跪きながら言う。
「フォル……か。悪くない響きだ」
フォルはまんざらでないような様子で呟いている。そして、ルナルに視線を向ける。
「しかし……だ。なぜお前がそう畏まっておる? お前の本気で力を使えば、私など簡単に焼き払えてしまうだろう?」
驚いたように向けられたフォルの言葉に、ルナルはただ黙って首を横に振る。
「いいえ、今の私は、ただのハンターですよ?」
ルナルが笑顔を見せながら返した言葉に、フォルは大声で笑い始まる。
「はははっ、これは面白い! だが、いつまでその姿を偽り続けるつもりだ? その偽りはいずれ自らを傷つける刃となるかも知れんのだ。その覚悟があるとでも言うのか?」
フォルが強く放つ言葉に、ルナルは無言のまま力強い視線をフォルへと向けていた。その姿にルナルの強い覚悟を感じたフォルは、その手を高く掲げる。
「ならば行け! 道は荊、決して立ち止まるでないぞ!」
ルナルは強く頷く。そして、セインを起こして、ソルトとアカーシャと共に再びペンタホーンに跨る。
「ありがとうございます、フォル様」
こうして、四人が狩るペンタホーンたちは、フォルが切り開いた道を駆けて、一路魔界を目指して進むのだった。
ルナルたちが去った森の中で、フォルは一人佇んでいる。だが、その表情はどことなく楽しそうなものだった。
「ふふっ、セインといったかな、あの小僧。この私の力を退けるとは、実に興味深い。あれでまだ未覚醒だというのだからな」
木の枝に腰を掛け、足をぶらぶらとさせているフォルは、まるで無邪気にはしゃぐ子どものようである。
「それにしても、まさか相反する力の持ち主が、ああやって共に行動しているとはなぁ。あれは実に驚きだったな」
フォルは足を止めて、ぴょんと地面へと飛び降りる。
「私はこの森そのものゆえに、この森を出る事はできない。だが、どうやら私の妹があの者たちと接触しておるようだな」
フォルはそう呟くと、ルナルたちが駆け抜けていった方向を見る。
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フォルはそう言い残すと、森の中へと姿を消したのだった。
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