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第一章『ハンター・ルナル』
還らずの森
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ペンタホーンを駆る四人が森へと分け入っていく。
分け入った森は見渡す限り薄暗く、辺りには獣道すら見当たらない。そこにはでこぼこした地面と無数の木々だけが広がっていた。
さすがにこの足場と見通しでは、ペンタホーンといえども疾走する事は叶わなかった。
「な、何なんだよ、ここ……。気味が悪いな」
セインはぽつりと呟く。
「ここは通称『還らずの森』と呼ばれる場所です。その理由はここに入った者はハンターであれ魔族であれ、その多くが行方不明になったという話があるからです」
「なっ、なんでそんな危険な場所を通るんだよ!」
ルナルの説明に、セインが叫ぶ。それに対してルナル、実に淡々とこう答える。
「簡単な話です。現在地からイプセルタを通らずに魔界に行くには、この森を通る他ないのですよ」
「だからといって、どうしてこんな場所を!」
ルナルの答えにセインが怒っている。
「まぁそう言うな。正規の手段であるイプセルタを通る方法だが、どんなに短く見積もっても1日は掛かってしまう。魔界へ入るための正式な依頼書でもあれば違うんだろうが、今回はそれが無い上に、ハンターに登録したてのセインが居るからな。運が悪ければもう1日は余計に足止めされるだろう」
「そうですね。魔界は危険な場所ゆえに、新米ハンターは間違いなく止めらるでしょうからね」
「ぐぬぬぬ……」
アカーシャとソルトに正当な理由を告げられて、セインはぐうの音も出なかった。
「実は言うと魔界へ至る道は他にもあるのですが、どれもこれも現在地からは大きくかけ離れた場所にあります。ですので、結論から言うと正直言って賭けとはなりますが、最短距離となるここを通るしかないといわけです。納得して頂けましたか?」
でこぼことした森の中を、慎重にゆっくりと進みながらルナルたちは説明をしている。理由には納得したものの、あまりの気味の悪さにセインは少々参っているようだった。
「それと他にもここを使う理由はあるんですよ」
「そうですね。ここは魔族たちにとっても危険な場所として認知されています。ですので、ここを通るという事は、相手に不意を突ける可能性が高くなるのです」
「だな。ただ、ジャグラーの奴は警戒心が強い。不意を突けたとしても、出迎えを減らせるとはいえ、楽勝というわけにはいかないだろうな」
ルナル、ソルト、アカーシャはそれぞれに話をしている。理由に納得できたとしても、現状に納得のいかないセインは、ペンタホーンの首にもたれ掛かっていた。
それからもあーだこーだと話をしながら進んでいく四人。
森へ入ってからだいぶ時間が過ぎた頃、とある地点に差し掛かったところでルナルの乗るペンタホーンの足が急に止まった。
「何者ですか!」
ルナルが叫ぶ。だが、そこには誰も居ない。
しばらくすると、じわじわと淡い光が集まり始め、それが弾けると目の前に小柄な妖精っぽい姿をした人物がすうっと姿を現した。
「お前たち、ここがどういう場所か知って、その足を踏み入れたのか?」
現れるなり、妖精っぽい人物が問い掛けてくる。ルナルたちは落ち着いて見ているが、何も知らないセインはただただこの事態に混乱しているようである。
「存じております。この森は人とも魔族とも相容れぬ存在の聖域。許可なくこの地に踏み入った無礼をお許し頂きたく存じます」
ルナルたちはその存在を認めるとペンタホーンから降りる。そして、ルナルが代表して、右手を胸の前に添えて軽く頭を下げて答えている。
「ほう……、知りながらにして、あえて踏み入ったのか。……理由を問おう」
険しい顔をしたまま、妖精っぽい人物はさらに理由を問い質してくる。
「今、魔眼石という魔法石を用いて、人間界に混乱をもたらしている存在がおります。私どもは、その存在を討つべく、一刻も早くその場へと向かう必要があるのです」
「そのためにも、この森を通り抜ける許可を頂きたく存じます」
ルナルとアカーシャが頭を下げながら、真剣な表情で答えている。ところが、妖精っぽい人物は、
「愚か者めが! いかなる理由とて、我らが聖域に足を踏み入れた事が許されるわけがなかろう!」
問答無用でルナルたちに牙を剥く。ならばなぜ理由を問い質したと言いたいところだが、どうにもそんな時間は無いようだった。
「さあ、お前たちもこの森の一部となるがよいわっ!」
妖精っぽい人物が右手を掲げると、森のあちこちから蔓が伸びてルナルたちに襲い掛かってくる。
「やめろぉっ!」
セインが叫んで妖精っぽい人物に飛び掛かる。
「血迷ったか、愚か者め!」
妖精っぽい人物がセイン目がけて力を使おうとしたその瞬間だった。
「ぐっ……、この光は、まさか……っ!」
突如としてセインの体が光を放ち、妖精っぽい人物は体を捻って光から顔を逸らす。光が強烈すぎてその表情は分からないものの、声を聞く限りは驚きを隠せないようだった。
そして、それと同時に、ルナルたちに襲い掛かっていた蔓は動きを止めていたのだった。
……一体何が起きたというのだろうか。
分け入った森は見渡す限り薄暗く、辺りには獣道すら見当たらない。そこにはでこぼこした地面と無数の木々だけが広がっていた。
さすがにこの足場と見通しでは、ペンタホーンといえども疾走する事は叶わなかった。
「な、何なんだよ、ここ……。気味が悪いな」
セインはぽつりと呟く。
「ここは通称『還らずの森』と呼ばれる場所です。その理由はここに入った者はハンターであれ魔族であれ、その多くが行方不明になったという話があるからです」
「なっ、なんでそんな危険な場所を通るんだよ!」
ルナルの説明に、セインが叫ぶ。それに対してルナル、実に淡々とこう答える。
「簡単な話です。現在地からイプセルタを通らずに魔界に行くには、この森を通る他ないのですよ」
「だからといって、どうしてこんな場所を!」
ルナルの答えにセインが怒っている。
「まぁそう言うな。正規の手段であるイプセルタを通る方法だが、どんなに短く見積もっても1日は掛かってしまう。魔界へ入るための正式な依頼書でもあれば違うんだろうが、今回はそれが無い上に、ハンターに登録したてのセインが居るからな。運が悪ければもう1日は余計に足止めされるだろう」
「そうですね。魔界は危険な場所ゆえに、新米ハンターは間違いなく止めらるでしょうからね」
「ぐぬぬぬ……」
アカーシャとソルトに正当な理由を告げられて、セインはぐうの音も出なかった。
「実は言うと魔界へ至る道は他にもあるのですが、どれもこれも現在地からは大きくかけ離れた場所にあります。ですので、結論から言うと正直言って賭けとはなりますが、最短距離となるここを通るしかないといわけです。納得して頂けましたか?」
でこぼことした森の中を、慎重にゆっくりと進みながらルナルたちは説明をしている。理由には納得したものの、あまりの気味の悪さにセインは少々参っているようだった。
「それと他にもここを使う理由はあるんですよ」
「そうですね。ここは魔族たちにとっても危険な場所として認知されています。ですので、ここを通るという事は、相手に不意を突ける可能性が高くなるのです」
「だな。ただ、ジャグラーの奴は警戒心が強い。不意を突けたとしても、出迎えを減らせるとはいえ、楽勝というわけにはいかないだろうな」
ルナル、ソルト、アカーシャはそれぞれに話をしている。理由に納得できたとしても、現状に納得のいかないセインは、ペンタホーンの首にもたれ掛かっていた。
それからもあーだこーだと話をしながら進んでいく四人。
森へ入ってからだいぶ時間が過ぎた頃、とある地点に差し掛かったところでルナルの乗るペンタホーンの足が急に止まった。
「何者ですか!」
ルナルが叫ぶ。だが、そこには誰も居ない。
しばらくすると、じわじわと淡い光が集まり始め、それが弾けると目の前に小柄な妖精っぽい姿をした人物がすうっと姿を現した。
「お前たち、ここがどういう場所か知って、その足を踏み入れたのか?」
現れるなり、妖精っぽい人物が問い掛けてくる。ルナルたちは落ち着いて見ているが、何も知らないセインはただただこの事態に混乱しているようである。
「存じております。この森は人とも魔族とも相容れぬ存在の聖域。許可なくこの地に踏み入った無礼をお許し頂きたく存じます」
ルナルたちはその存在を認めるとペンタホーンから降りる。そして、ルナルが代表して、右手を胸の前に添えて軽く頭を下げて答えている。
「ほう……、知りながらにして、あえて踏み入ったのか。……理由を問おう」
険しい顔をしたまま、妖精っぽい人物はさらに理由を問い質してくる。
「今、魔眼石という魔法石を用いて、人間界に混乱をもたらしている存在がおります。私どもは、その存在を討つべく、一刻も早くその場へと向かう必要があるのです」
「そのためにも、この森を通り抜ける許可を頂きたく存じます」
ルナルとアカーシャが頭を下げながら、真剣な表情で答えている。ところが、妖精っぽい人物は、
「愚か者めが! いかなる理由とて、我らが聖域に足を踏み入れた事が許されるわけがなかろう!」
問答無用でルナルたちに牙を剥く。ならばなぜ理由を問い質したと言いたいところだが、どうにもそんな時間は無いようだった。
「さあ、お前たちもこの森の一部となるがよいわっ!」
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「やめろぉっ!」
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「ぐっ……、この光は、まさか……っ!」
突如としてセインの体が光を放ち、妖精っぽい人物は体を捻って光から顔を逸らす。光が強烈すぎてその表情は分からないものの、声を聞く限りは驚きを隠せないようだった。
そして、それと同時に、ルナルたちに襲い掛かっていた蔓は動きを止めていたのだった。
……一体何が起きたというのだろうか。
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