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第一章『ハンター・ルナル』
見えた影
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「イラプション!」
ルナルが魔法を発動させると、ゴブリックの足元から勢いよく炎が噴き出した。そして、その炎はあっという間にゴブリックを包み込んだ。
「ぐわああぁっ!!」
全身を激しく焼かれたゴブリックは、ついにその場に力なく倒れ込んでしまった。
ところが、驚いた事にまだ息があるようで、倒れながらもまだルナルを鋭く睨み付けている。ただのゴブリンとは違う事を物語っている。
「驚きましたね。頑丈だとは思いましたが、これだけの攻撃を受けながらもまだ生きているとは……」
そんな状況だからこそ、ルナルは気を抜く事はなかった。お返しとばかりにルナルもゴブリックを睨み付ける。そして、まだ息のあるゴブリックに対して問い掛ける。
「さあ、死ぬ前に教えなさい! お前たちの背後に居るのは一体誰なのですか!」
「く、くくく……。あ、あのお方の名前を、お前たちごときになど……、口が、裂けても、言うわけがなかろう……。そ、それに……だ……」
ゴブリックの拳が、ぎゅっと握られる。
「それにっ、まだっ、……終わっておらぬわぁっ!!」
力を振り絞ってゴブリックは一気に立ち上がる。そして、力の限りにルナルへと攻撃を仕掛ける。その姿に驚きはしたものの、ルナルは実に冷静だった。
「これだから、蛮族というものは……。先程の魔法、炎を打ち上げるだけで終わりだと思いましたか?」
「何……だと……?」
ルナルの言葉と同時に、ゴブリックの頭上から大量の炎の塊が降り注ぐ!
瀕死の状態に加え、頭に血が上り切っていたゴブリックに、もはやその炎に反応して払うだけの力など残されていなかった。
「そ、そんなバカなっ、ぐわあああぁぁっ!!」
断末魔のごとく叫び声を上げながら、大量の火炎球の直撃を受けたゴブリックは、力なくその場に倒れ込んだ。
ゴブリックは死んだ。その場に居た誰もがそう思った。
「まったくしつこかったですが、最後はあっけないものですね」
ルナルが槍を振ってしまい込んだその瞬間だった。
「おのるぇっ!」
ゴブリックの顔が突如として動いて前を向いた。そして、今まで感じた事のないよくらいに魔力が高まっていく。
「ただで、は、死なぬっ! お、お前たちも……み、道連、れ、だぁっ!!」
ゴブリックは最期の力を振り絞り、強力な土属性の魔法を放ったのだ。ゴブリンという種族では見た事も聞いた事もない高位の魔法に、ルナルは驚きで動けなかった。
「ば、バカなっ! ゴブリンごときがこんな強力な魔法を?!」
放たれた魔法は『グランドフラッド』という上位クラスの魔法だ。土を津波のように放つ魔法である。
ゴブリックの残された生命力と魔力をすべて注ぎ込んだと思われる魔法の勢いはとてつもなく速かった。驚いて初動の遅れたルナルには、もう対応が不可能な状態だった。
「ぐわははははっ! みん、な、みんな死んでしまえっ!!」
明らかにセインたちを狙った魔法だ。そこには自分の部下のゴブリンだって居るのに、ゴブリックはまったくお構いなしだった。
あまりの勢いに加え突然の事だったので、セインたちもまったく反応ができなかった。
「シェルター……」
もう駄目だと思ったその瞬間だった。セインや村人、それにゴブリンたちを包み込むように魔法の障壁が発動する。しかし、大量の土とそれが荒れ狂って巻き起こる土埃のせいで、ルナルの目にはそれを確認する事はできなかった。
「おのれっ!」
自分の仲間たちをも巻き込んで魔法を放った事に激高したルナルは、倒れ込むゴブリックをひと突きする。ところが、それに対してゴブリックが見せたのは、苦痛の声でも表情でもなく、ルナルに対する嘲りの表情だった。
「くっ、くくくく……。し、神槍、のル……ナルに、お、汚点を付けて……やったぜ。くくっ、こ、これで……に、人間、の勢、いも……衰え、る、はずだ……」
息も絶え絶えになりながら、ゴブリックは愉悦に浸りながら言葉を紡いでいる。憎たらしいくらいによく喋る奴だ。
「き、きっと……、あの方も、喜、ぶに……ち、違い、ない……」
そして、ゴブリックは今わの際である名前を叫びながら、「ぐふっ」と息絶えたのだった。この時聞いた名前に、さすがのルナルも驚きを隠せなかったのだった。
だが、今のルナルは驚いてばかりもいられなかった。くるりと村の入口の方へと振り向く。その方向はいまだに大量の土埃が舞っていて、状況が確認できない状態だった。しかし、その方向を襲ったのは高威力の土属性魔法。とても無事でいるだなんて思えない。ルナルは悔しさのあまりに全身を震わせている。
「なんて事なの……、守れなかったなんて……」
ルナルはつい膝をつきそうになってしまう。その時だった。
「おーい、ルナルーっ! 大丈夫か?!」
土埃の中をセインが叫びながら駆け出てきたのだ。その姿を見て、ルナルは表情が固まってしまう。あれだけの強力な魔法が直撃したはずなのに、まったくの無傷だったのだから。
「せ、セイン? 村の、村の人たちは無事なのですか?」
ルナルは崩れ落ちそうになっている膝に力を入れて、なんとか立っている。
「ああ、俺もさすがにあの土の波を見た時はダメだと思ったんだが、どういうわけか俺たちの目の前で、突然魔法が弾かれて助かったんだよ」
セインも状況がよく分からないらしい。それでもセインのみんな無事という言葉を聞いて、ルナルは安心したかのようにその場に座り込んだのだった。
ルナルが魔法を発動させると、ゴブリックの足元から勢いよく炎が噴き出した。そして、その炎はあっという間にゴブリックを包み込んだ。
「ぐわああぁっ!!」
全身を激しく焼かれたゴブリックは、ついにその場に力なく倒れ込んでしまった。
ところが、驚いた事にまだ息があるようで、倒れながらもまだルナルを鋭く睨み付けている。ただのゴブリンとは違う事を物語っている。
「驚きましたね。頑丈だとは思いましたが、これだけの攻撃を受けながらもまだ生きているとは……」
そんな状況だからこそ、ルナルは気を抜く事はなかった。お返しとばかりにルナルもゴブリックを睨み付ける。そして、まだ息のあるゴブリックに対して問い掛ける。
「さあ、死ぬ前に教えなさい! お前たちの背後に居るのは一体誰なのですか!」
「く、くくく……。あ、あのお方の名前を、お前たちごときになど……、口が、裂けても、言うわけがなかろう……。そ、それに……だ……」
ゴブリックの拳が、ぎゅっと握られる。
「それにっ、まだっ、……終わっておらぬわぁっ!!」
力を振り絞ってゴブリックは一気に立ち上がる。そして、力の限りにルナルへと攻撃を仕掛ける。その姿に驚きはしたものの、ルナルは実に冷静だった。
「これだから、蛮族というものは……。先程の魔法、炎を打ち上げるだけで終わりだと思いましたか?」
「何……だと……?」
ルナルの言葉と同時に、ゴブリックの頭上から大量の炎の塊が降り注ぐ!
瀕死の状態に加え、頭に血が上り切っていたゴブリックに、もはやその炎に反応して払うだけの力など残されていなかった。
「そ、そんなバカなっ、ぐわあああぁぁっ!!」
断末魔のごとく叫び声を上げながら、大量の火炎球の直撃を受けたゴブリックは、力なくその場に倒れ込んだ。
ゴブリックは死んだ。その場に居た誰もがそう思った。
「まったくしつこかったですが、最後はあっけないものですね」
ルナルが槍を振ってしまい込んだその瞬間だった。
「おのるぇっ!」
ゴブリックの顔が突如として動いて前を向いた。そして、今まで感じた事のないよくらいに魔力が高まっていく。
「ただで、は、死なぬっ! お、お前たちも……み、道連、れ、だぁっ!!」
ゴブリックは最期の力を振り絞り、強力な土属性の魔法を放ったのだ。ゴブリンという種族では見た事も聞いた事もない高位の魔法に、ルナルは驚きで動けなかった。
「ば、バカなっ! ゴブリンごときがこんな強力な魔法を?!」
放たれた魔法は『グランドフラッド』という上位クラスの魔法だ。土を津波のように放つ魔法である。
ゴブリックの残された生命力と魔力をすべて注ぎ込んだと思われる魔法の勢いはとてつもなく速かった。驚いて初動の遅れたルナルには、もう対応が不可能な状態だった。
「ぐわははははっ! みん、な、みんな死んでしまえっ!!」
明らかにセインたちを狙った魔法だ。そこには自分の部下のゴブリンだって居るのに、ゴブリックはまったくお構いなしだった。
あまりの勢いに加え突然の事だったので、セインたちもまったく反応ができなかった。
「シェルター……」
もう駄目だと思ったその瞬間だった。セインや村人、それにゴブリンたちを包み込むように魔法の障壁が発動する。しかし、大量の土とそれが荒れ狂って巻き起こる土埃のせいで、ルナルの目にはそれを確認する事はできなかった。
「おのれっ!」
自分の仲間たちをも巻き込んで魔法を放った事に激高したルナルは、倒れ込むゴブリックをひと突きする。ところが、それに対してゴブリックが見せたのは、苦痛の声でも表情でもなく、ルナルに対する嘲りの表情だった。
「くっ、くくくく……。し、神槍、のル……ナルに、お、汚点を付けて……やったぜ。くくっ、こ、これで……に、人間、の勢、いも……衰え、る、はずだ……」
息も絶え絶えになりながら、ゴブリックは愉悦に浸りながら言葉を紡いでいる。憎たらしいくらいによく喋る奴だ。
「き、きっと……、あの方も、喜、ぶに……ち、違い、ない……」
そして、ゴブリックは今わの際である名前を叫びながら、「ぐふっ」と息絶えたのだった。この時聞いた名前に、さすがのルナルも驚きを隠せなかったのだった。
だが、今のルナルは驚いてばかりもいられなかった。くるりと村の入口の方へと振り向く。その方向はいまだに大量の土埃が舞っていて、状況が確認できない状態だった。しかし、その方向を襲ったのは高威力の土属性魔法。とても無事でいるだなんて思えない。ルナルは悔しさのあまりに全身を震わせている。
「なんて事なの……、守れなかったなんて……」
ルナルはつい膝をつきそうになってしまう。その時だった。
「おーい、ルナルーっ! 大丈夫か?!」
土埃の中をセインが叫びながら駆け出てきたのだ。その姿を見て、ルナルは表情が固まってしまう。あれだけの強力な魔法が直撃したはずなのに、まったくの無傷だったのだから。
「せ、セイン? 村の、村の人たちは無事なのですか?」
ルナルは崩れ落ちそうになっている膝に力を入れて、なんとか立っている。
「ああ、俺もさすがにあの土の波を見た時はダメだと思ったんだが、どういうわけか俺たちの目の前で、突然魔法が弾かれて助かったんだよ」
セインも状況がよく分からないらしい。それでもセインのみんな無事という言葉を聞いて、ルナルは安心したかのようにその場に座り込んだのだった。
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