2 / 139
第一章『ハンター・ルナル』
槍使いルナル
しおりを挟む
魔王の世界滅亡の宣言から一ヶ月が経とうとする頃だった。
とある村の入口に烈火のように赤くて長い髪をポニーテールにした女性が立っていた。
「えーっと、ここが依頼のあった村ね」
依頼書を見ながら確認をした女性は、村に一歩入ったところで呼び掛ける。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
その声からしばらくして、入口付近の建物から、一人の若い男が出てきた。そして、女性の方を見て、
「……見ない顔だが、あんたは一体誰だ?」
とぶっきらぼうな態度で声を掛けてきた。だが、女性は特に気にもしないで、手に持っていた一枚の紙切れを男性へと突き出した。
「私はギルド『アルファガド』所属のハンターでルナルと申します。この村から出されていたこちらの魔物討伐の依頼を受けて、今回出向いて参りました」
ルナルの言葉に、男性はみるみる表情が変わっていく。
「あ、あなたがっ! ……このような遠い場所までよく来て下さいました。村長の家までご案内致します。こちらへどうぞ」
男性は態度を急変させて、ルナルを村長の居る建物まで案内する。
村の中は見渡す限り、それほど裕福なようには見えなかった。この村は相当な田舎なのだろうが、そんな村にも勢いづいた魔族の影響は出ていた。近郊の森を中心として、所構わず魔物が出没するようになっていたのだ。
現れた魔物は家畜を食らい、畑を荒らしまわっている。幸いにも村人自身には襲われるなどの被害が出ていない。だが、作物などへの被害は深刻化しており、村人たちは頭を抱えて困り果ててしまったのだ。そして、決死の覚悟で村を出て、今回の依頼を出したのである。
「……村の事情はよく分かりました。ハンターである私が来たからには、必ず魔物を一掃してみせましょう。ご安心下さい」
ルナルから出た力強い言葉に、村長をはじめとしてその場に居た村人たちは、希望に明るい表情を見せた。
ところが、その時だった。
「た、た、大変だっ! ま、魔物が……、魔物が現れたぞ!」
血相を変えた一人の村人が、村長の家に飛び込んできたのだ。
「な、なんじゃと!?」
村長が驚くと同時に、ルナルは立ち上がって素早く建物の外へと飛び出していった。屋根の上に跳び上がり、周りを見回すルナル。すると、村を囲う柵の外に二本足で立つワーベアとはまた違った姿を持つ熊のような魔物が迫ってきていた。
「あれは……ウルフベア!」
ウルフベアとは、熊のような巨体を持つ狼顔の魔物だ。狼が変化したのか、熊が変化したのか、はたまた両方が混ざり合ったのかは分からない。だが、今確実に分かる事は、ものすごい勢いで村に侵入しようとしている事だった。
「ひー、ふー、みー……、ざっと6体ってところか。村長さん、今から倒しに行ってきますが、決して村人を建物から出さないようにお願いします」
「わ、分かった。頼んだぞ」
「はいっ!」
ウルフベアの数を確認したルナルは、その手にどこからともなく自分の背丈より大きな深紅の槍を取り出して構える。
「槍使いのルナル、参る!」
ルナルは屋根から飛び降りて、出現したウルフベアの方へと一気に駆け抜けていく。そして、ウルフベアの動きを止めるために、挨拶代わりの横薙ぎを放つ。
「ガアッ?!」
急な攻撃に、ウルフベアたちが驚いて動きを止める。そして、猛スピードで近付いてくるルナルに気が付いたウルフベアは、迎えうつべく鋭い爪を持った前足を振り上げた。しかし、その攻撃はルナルを捉えられず空を斬った。
跳び上がって攻撃を躱したルナルは、そのままウルフベアへと突きを繰り出す。見事命中したのだが、どうもまったく効いていないようだった。
(意外と硬いわね。まさか突きを弾かれるとは思わなかったわ。これだと突き刺すと抜けなくなりそうだわ)
状況を分析するルナル。だが、ルナルの急襲に動きを止めたウルフベアがルナルを取り囲んでいる。
「ガアッ!」
攻撃された事に腹を立てたウルフベアがルナルに一斉に飛び掛かる。この状況にもかかわらず、ルナルは余裕の笑みを浮かべている。
「硬いとはいえど、この程度の魔物では準備運動にもなりませんね」
まとまって突進してきたのを利用して、ぎりぎりまで引き付けたところでルナルは真上に跳び上がって回避する。引き付けられた事によって、ウルフベアたちは止まる事ができずに互いに衝突し合ってしまった。ルナルは動きの止まる瞬間を逃さない。
「食らいなさい、烈華閃!」
上空から槍を構えたルナルは、互いの衝突によって倒れ込んだウルフベアたちの首を目がけて素早い突きを飛ばす。その強力な突きからは闘気の塊が飛び出しており、首を強く打たれたウルフベアたちはその場で動けなくなってしまった。だが、一部は攻撃が浅かったのか、起き上がって着地したルナルへと襲い掛かろうとしている。
「やれやれ、野生生物というのは殺したくないのですが、魔物となってしまった以上、元には戻せませんからね」
肩にポンポンと槍を数回当てると、ルナルは槍を再び構えた。
「ですので、せめて一撃で楽にしてあげます!」
ルナルは詠唱を始める。すると、ルナルの周囲から炎が発生し、手に持っている槍へと巻き付いていく。
「炎よ踊れ! 邪まなる輩を焼き尽くせ!」
詠唱を終えたルナルは、炎をまとった槍を振りかざす。
「鳳閃火!」
とある村の入口に烈火のように赤くて長い髪をポニーテールにした女性が立っていた。
「えーっと、ここが依頼のあった村ね」
依頼書を見ながら確認をした女性は、村に一歩入ったところで呼び掛ける。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
その声からしばらくして、入口付近の建物から、一人の若い男が出てきた。そして、女性の方を見て、
「……見ない顔だが、あんたは一体誰だ?」
とぶっきらぼうな態度で声を掛けてきた。だが、女性は特に気にもしないで、手に持っていた一枚の紙切れを男性へと突き出した。
「私はギルド『アルファガド』所属のハンターでルナルと申します。この村から出されていたこちらの魔物討伐の依頼を受けて、今回出向いて参りました」
ルナルの言葉に、男性はみるみる表情が変わっていく。
「あ、あなたがっ! ……このような遠い場所までよく来て下さいました。村長の家までご案内致します。こちらへどうぞ」
男性は態度を急変させて、ルナルを村長の居る建物まで案内する。
村の中は見渡す限り、それほど裕福なようには見えなかった。この村は相当な田舎なのだろうが、そんな村にも勢いづいた魔族の影響は出ていた。近郊の森を中心として、所構わず魔物が出没するようになっていたのだ。
現れた魔物は家畜を食らい、畑を荒らしまわっている。幸いにも村人自身には襲われるなどの被害が出ていない。だが、作物などへの被害は深刻化しており、村人たちは頭を抱えて困り果ててしまったのだ。そして、決死の覚悟で村を出て、今回の依頼を出したのである。
「……村の事情はよく分かりました。ハンターである私が来たからには、必ず魔物を一掃してみせましょう。ご安心下さい」
ルナルから出た力強い言葉に、村長をはじめとしてその場に居た村人たちは、希望に明るい表情を見せた。
ところが、その時だった。
「た、た、大変だっ! ま、魔物が……、魔物が現れたぞ!」
血相を変えた一人の村人が、村長の家に飛び込んできたのだ。
「な、なんじゃと!?」
村長が驚くと同時に、ルナルは立ち上がって素早く建物の外へと飛び出していった。屋根の上に跳び上がり、周りを見回すルナル。すると、村を囲う柵の外に二本足で立つワーベアとはまた違った姿を持つ熊のような魔物が迫ってきていた。
「あれは……ウルフベア!」
ウルフベアとは、熊のような巨体を持つ狼顔の魔物だ。狼が変化したのか、熊が変化したのか、はたまた両方が混ざり合ったのかは分からない。だが、今確実に分かる事は、ものすごい勢いで村に侵入しようとしている事だった。
「ひー、ふー、みー……、ざっと6体ってところか。村長さん、今から倒しに行ってきますが、決して村人を建物から出さないようにお願いします」
「わ、分かった。頼んだぞ」
「はいっ!」
ウルフベアの数を確認したルナルは、その手にどこからともなく自分の背丈より大きな深紅の槍を取り出して構える。
「槍使いのルナル、参る!」
ルナルは屋根から飛び降りて、出現したウルフベアの方へと一気に駆け抜けていく。そして、ウルフベアの動きを止めるために、挨拶代わりの横薙ぎを放つ。
「ガアッ?!」
急な攻撃に、ウルフベアたちが驚いて動きを止める。そして、猛スピードで近付いてくるルナルに気が付いたウルフベアは、迎えうつべく鋭い爪を持った前足を振り上げた。しかし、その攻撃はルナルを捉えられず空を斬った。
跳び上がって攻撃を躱したルナルは、そのままウルフベアへと突きを繰り出す。見事命中したのだが、どうもまったく効いていないようだった。
(意外と硬いわね。まさか突きを弾かれるとは思わなかったわ。これだと突き刺すと抜けなくなりそうだわ)
状況を分析するルナル。だが、ルナルの急襲に動きを止めたウルフベアがルナルを取り囲んでいる。
「ガアッ!」
攻撃された事に腹を立てたウルフベアがルナルに一斉に飛び掛かる。この状況にもかかわらず、ルナルは余裕の笑みを浮かべている。
「硬いとはいえど、この程度の魔物では準備運動にもなりませんね」
まとまって突進してきたのを利用して、ぎりぎりまで引き付けたところでルナルは真上に跳び上がって回避する。引き付けられた事によって、ウルフベアたちは止まる事ができずに互いに衝突し合ってしまった。ルナルは動きの止まる瞬間を逃さない。
「食らいなさい、烈華閃!」
上空から槍を構えたルナルは、互いの衝突によって倒れ込んだウルフベアたちの首を目がけて素早い突きを飛ばす。その強力な突きからは闘気の塊が飛び出しており、首を強く打たれたウルフベアたちはその場で動けなくなってしまった。だが、一部は攻撃が浅かったのか、起き上がって着地したルナルへと襲い掛かろうとしている。
「やれやれ、野生生物というのは殺したくないのですが、魔物となってしまった以上、元には戻せませんからね」
肩にポンポンと槍を数回当てると、ルナルは槍を再び構えた。
「ですので、せめて一撃で楽にしてあげます!」
ルナルは詠唱を始める。すると、ルナルの周囲から炎が発生し、手に持っている槍へと巻き付いていく。
「炎よ踊れ! 邪まなる輩を焼き尽くせ!」
詠唱を終えたルナルは、炎をまとった槍を振りかざす。
「鳳閃火!」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ
みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】
---------------------------------------------
その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。
いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。
それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。
「ここは異世界だ!!」
退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。
「冒険者なんて職業は存在しない!?」
「俺には魔力が無い!?」
これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・
---------------------------------------------------------------------------
「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。
また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・
★次章執筆大幅に遅れています。
★なんやかんやありまして...
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

どーも、反逆のオッサンです
わか
ファンタジー
簡単なあらすじ オッサン異世界転移する。 少し詳しいあらすじ 異世界転移したオッサン...能力はスマホ。森の中に転移したオッサンがスマホを駆使して普通の生活に向けひたむきに行動するお話。 この小説は、小説家になろう様、カクヨム様にて同時投稿しております。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる