神槍のルナル

未羊

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第一章『ハンター・ルナル』

槍使いルナル

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 魔王の世界滅亡の宣言から一ヶ月が経とうとする頃だった。
 とある村の入口に烈火のように赤くて長い髪をポニーテールにした女性が立っていた。
「えーっと、ここが依頼のあった村ね」
 依頼書を見ながら確認をした女性は、村に一歩入ったところで呼び掛ける。
「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」
 その声からしばらくして、入口付近の建物から、一人の若い男が出てきた。そして、女性の方を見て、
「……見ない顔だが、あんたは一体誰だ?」
 とぶっきらぼうな態度で声を掛けてきた。だが、女性は特に気にもしないで、手に持っていた一枚の紙切れを男性へと突き出した。
「私はギルド『アルファガド』所属のハンターでルナルと申します。この村から出されていたこちらの魔物討伐の依頼を受けて、今回出向いて参りました」
 ルナルの言葉に、男性はみるみる表情が変わっていく。
「あ、あなたがっ! ……このような遠い場所までよく来て下さいました。村長の家までご案内致します。こちらへどうぞ」
 男性は態度を急変させて、ルナルを村長の居る建物まで案内する。
 村の中は見渡す限り、それほど裕福なようには見えなかった。この村は相当な田舎なのだろうが、そんな村にも勢いづいた魔族の影響は出ていた。近郊の森を中心として、所構わず魔物が出没するようになっていたのだ。
 現れた魔物は家畜を食らい、畑を荒らしまわっている。幸いにも村人自身には襲われるなどの被害が出ていない。だが、作物などへの被害は深刻化しており、村人たちは頭を抱えて困り果ててしまったのだ。そして、決死の覚悟で村を出て、今回の依頼を出したのである。
「……村の事情はよく分かりました。ハンターである私が来たからには、必ず魔物を一掃してみせましょう。ご安心下さい」
 ルナルから出た力強い言葉に、村長をはじめとしてその場に居た村人たちは、希望に明るい表情を見せた。
 ところが、その時だった。
「た、た、大変だっ! ま、魔物が……、魔物が現れたぞ!」
 血相を変えた一人の村人が、村長の家に飛び込んできたのだ。
「な、なんじゃと!?」
 村長が驚くと同時に、ルナルは立ち上がって素早く建物の外へと飛び出していった。屋根の上に跳び上がり、周りを見回すルナル。すると、村を囲う柵の外に二本足で立つワーベアとはまた違った姿を持つ熊のような魔物が迫ってきていた。
「あれは……ウルフベア!」
 ウルフベアとは、熊のような巨体を持つ狼顔の魔物だ。狼が変化したのか、熊が変化したのか、はたまた両方が混ざり合ったのかは分からない。だが、今確実に分かる事は、ものすごい勢いで村に侵入しようとしている事だった。
「ひー、ふー、みー……、ざっと6体ってところか。村長さん、今から倒しに行ってきますが、決して村人を建物から出さないようにお願いします」
「わ、分かった。頼んだぞ」
「はいっ!」
 ウルフベアの数を確認したルナルは、その手にどこからともなく自分の背丈より大きな深紅の槍を取り出して構える。
「槍使いのルナル、参る!」
 ルナルは屋根から飛び降りて、出現したウルフベアの方へと一気に駆け抜けていく。そして、ウルフベアの動きを止めるために、挨拶代わりの横薙ぎを放つ。
「ガアッ?!」
 急な攻撃に、ウルフベアたちが驚いて動きを止める。そして、猛スピードで近付いてくるルナルに気が付いたウルフベアは、迎えうつべく鋭い爪を持った前足を振り上げた。しかし、その攻撃はルナルを捉えられず空を斬った。
 跳び上がって攻撃を躱したルナルは、そのままウルフベアへと突きを繰り出す。見事命中したのだが、どうもまったく効いていないようだった。
(意外と硬いわね。まさか突きを弾かれるとは思わなかったわ。これだと突き刺すと抜けなくなりそうだわ)
 状況を分析するルナル。だが、ルナルの急襲に動きを止めたウルフベアがルナルを取り囲んでいる。
「ガアッ!」
 攻撃された事に腹を立てたウルフベアがルナルに一斉に飛び掛かる。この状況にもかかわらず、ルナルは余裕の笑みを浮かべている。
「硬いとはいえど、この程度の魔物では準備運動にもなりませんね」
 まとまって突進してきたのを利用して、ぎりぎりまで引き付けたところでルナルは真上に跳び上がって回避する。引き付けられた事によって、ウルフベアたちは止まる事ができずに互いに衝突し合ってしまった。ルナルは動きの止まる瞬間を逃さない。
「食らいなさい、烈華閃れっかせん!」
 上空から槍を構えたルナルは、互いの衝突によって倒れ込んだウルフベアたちの首を目がけて素早い突きを飛ばす。その強力な突きからは闘気の塊が飛び出しており、首を強く打たれたウルフベアたちはその場で動けなくなってしまった。だが、一部は攻撃が浅かったのか、起き上がって着地したルナルへと襲い掛かろうとしている。
「やれやれ、野生生物というのは殺したくないのですが、魔物となってしまった以上、元には戻せませんからね」
 肩にポンポンと槍を数回当てると、ルナルは槍を再び構えた。
「ですので、せめて一撃で楽にしてあげます!」
 ルナルは詠唱を始める。すると、ルナルの周囲から炎が発生し、手に持っている槍へと巻き付いていく。
「炎よ踊れ! 邪まなる輩を焼き尽くせ!」
 詠唱を終えたルナルは、炎をまとった槍を振りかざす。
鳳閃火ほうせんか!」
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