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第三章
第107話 収納鞄の実力を示そう
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帰り道は一応護衛役の冒険者を雇って帰るミルフィたち。
とはいっても、賊も魔物もミルフィがあっさり倒してしまう。それでいておいしい食事つきという条件は、護衛が殺到するように思えた。しかし、やってきたのは前回も同行してくれた冒険者たちだけだった。
見知った顔の方が安心できるので、ミルフィも余計な気を遣わないで済むというもの。北の街への帰り道は、実に和気あいあいとした賑やかな旅となった。
「ミルフィの事を知っていれば、もっと殺到するんだろうけどね」
「ええ、そうよね。基本的に一緒に居るだけでいいし、ご飯はおいしいもの。役得だわ」
男女ペアの冒険者たち。
こうも何度となく一緒になると、身の上話なんかを聞いてみたくもなってしまう。
だが、ミルフィは魔王の娘とはいえ、商会長という立場もある。おいそれと個人的な事情に踏み込むような事はしなかった。従業員ならまだしも、仕事上の付き合いだけの人たちだ。あまり深く詮索しないようにミルフィは適当に会話を切り上げていた。
「いやぁ、思い切って冒険者になってみるもんだな。こういう人に巡り合えるなんて思ってもみなかったぜ」
「ちょっと、私というものがありながら浮気でもするつもり?」
突如として怖い笑顔を男の冒険者に向ける女の冒険者。
「ちょっと待てよ。なんでそうなるんだよ。そりゃ、おいしい飯を食わせてくれる相手っていうのは望ましい……、ふごふご」
次の瞬間、言い訳をしようとしていた男の口が塞がれた。ヘッドロックを掛けているようである。
「おほほほほ、ちょっとお話しよっか?」
「ふごふご」
「おほほほ、それじゃミルフィちゃん、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい……」
こうして道中の野宿も実に平和なものだったのだ。
特に問題もなく北の街まで戻って来たミルフィたち。
冒険者組合で報酬の支払いを済ませて冒険者たちと別れると、ミルフィは早速商会へと戻っていく。状況の確認は大事だからだ。
商会ではティアとプレツェとベイクの三人を集めて報告を聞いていた。
「分かりました。私が不在でも問題なく商会は動いているようですね」
「はい、ミルフィ様が基本的な事を構築していってくれたおかげで、私たちも戸惑う事なく対処できています」
ティアたちからは、これといっためぼしい問題の報告はなかった。
北の街の状況としては、ミルフィ商会とオーソンの商会が相変わらずの伸びを示している模様。その関係で他の商会が食料関係から手を引いて、他の分野に手を付け始めているという。
「分野のすみわけ自体は問題はありませんね。それならお互いの客層が異なっているので、利益の食い合いはしません」
ミルフィとしては歓迎する方向のようだ。
「それでミルフィ様」
「何でしょうか、プレツェ」
「今回お戻りになられたのはどういう用件なのでしょうか。現在は南の街で商会の展開に力を注がれているはずでは?」
プレツェの疑問はそこにあったようだ。基本的に新しい商会を立ち上げれば、軌道に乗るまではその場からあまり動かないものと考えているからである。
なので、今回のミルフィの帰省には、ちょっと首を傾げているようなのである。
「ああ、その事なんですけれども、これを試してみようと思いまして戻ってきたんですよ」
プレツェに質問されて、ミルフィは腰にぶら下げていたものをひょいと持ち上げてテーブルに置く。
「なんですか、これは」
何の変哲もない鞄が出てきて、ティアも思わず素の状態で質問をしてしまう。
そのびっくりした表情に、ミルフィは得意げに笑っている。
「これこそが収納魔法を付与した鞄、その名も『収納鞄』といいます。これがあれば、馬車一台分くらいまではこの鞄の中に物をしまうことができます」
ミルフィが得意げな表情でいうと、ティアたちはしんと静まり返ってしまった。
あまりにも反応がないせいで、ミルフィの表情がものすごく歪んでしまっている。どう続けていいのか分からないというものだ。
「もう、みんなどうしたのですか!」
さすがの反応のなさに、ついつい声を上げてしまうミルフィである。
すると、ようやくティアたちは我に返っていた。
「申し訳ございません。あまりにとんでもない話に呆けてしまいました」
ティアが謝罪をしている。その様子に額に手を当てて険しい表情をするミルフィ。
ため息を一度つくと、改めて収納鞄の説明を始める。
ミルフィはおもむろに鞄に手を突っ込むと、中から何かを取り出していた。
「それは?」
「南の街で売っていた絨毯です。模様が気に入ったので買ってきました」
そう言いながら、もう一回鞄に手を突っ込むミルフィ。絨毯みたいなバカでかいものが出てきただけでも説明は十分だというのに、次は何を出すつもりなのだろうか。
そうして、その次に出てきたのは、南の街で作ったチョコレートだった。チェチェカの実とスェトーは腐ることなく持っていけたので、冷房設備を作った上で製造したチョコレートである。
「ミルフィ様、こちらはチョコレートですね。これは一体どうなさったのですか?」
「ふふん、南の街で作ってみたのですよ。それを今回ここまで持ってきました」
ミルフィの証言に衝撃を受けるティアたちなのだった。
とはいっても、賊も魔物もミルフィがあっさり倒してしまう。それでいておいしい食事つきという条件は、護衛が殺到するように思えた。しかし、やってきたのは前回も同行してくれた冒険者たちだけだった。
見知った顔の方が安心できるので、ミルフィも余計な気を遣わないで済むというもの。北の街への帰り道は、実に和気あいあいとした賑やかな旅となった。
「ミルフィの事を知っていれば、もっと殺到するんだろうけどね」
「ええ、そうよね。基本的に一緒に居るだけでいいし、ご飯はおいしいもの。役得だわ」
男女ペアの冒険者たち。
こうも何度となく一緒になると、身の上話なんかを聞いてみたくもなってしまう。
だが、ミルフィは魔王の娘とはいえ、商会長という立場もある。おいそれと個人的な事情に踏み込むような事はしなかった。従業員ならまだしも、仕事上の付き合いだけの人たちだ。あまり深く詮索しないようにミルフィは適当に会話を切り上げていた。
「いやぁ、思い切って冒険者になってみるもんだな。こういう人に巡り合えるなんて思ってもみなかったぜ」
「ちょっと、私というものがありながら浮気でもするつもり?」
突如として怖い笑顔を男の冒険者に向ける女の冒険者。
「ちょっと待てよ。なんでそうなるんだよ。そりゃ、おいしい飯を食わせてくれる相手っていうのは望ましい……、ふごふご」
次の瞬間、言い訳をしようとしていた男の口が塞がれた。ヘッドロックを掛けているようである。
「おほほほほ、ちょっとお話しよっか?」
「ふごふご」
「おほほほ、それじゃミルフィちゃん、お休みなさい」
「ええ、お休みなさい……」
こうして道中の野宿も実に平和なものだったのだ。
特に問題もなく北の街まで戻って来たミルフィたち。
冒険者組合で報酬の支払いを済ませて冒険者たちと別れると、ミルフィは早速商会へと戻っていく。状況の確認は大事だからだ。
商会ではティアとプレツェとベイクの三人を集めて報告を聞いていた。
「分かりました。私が不在でも問題なく商会は動いているようですね」
「はい、ミルフィ様が基本的な事を構築していってくれたおかげで、私たちも戸惑う事なく対処できています」
ティアたちからは、これといっためぼしい問題の報告はなかった。
北の街の状況としては、ミルフィ商会とオーソンの商会が相変わらずの伸びを示している模様。その関係で他の商会が食料関係から手を引いて、他の分野に手を付け始めているという。
「分野のすみわけ自体は問題はありませんね。それならお互いの客層が異なっているので、利益の食い合いはしません」
ミルフィとしては歓迎する方向のようだ。
「それでミルフィ様」
「何でしょうか、プレツェ」
「今回お戻りになられたのはどういう用件なのでしょうか。現在は南の街で商会の展開に力を注がれているはずでは?」
プレツェの疑問はそこにあったようだ。基本的に新しい商会を立ち上げれば、軌道に乗るまではその場からあまり動かないものと考えているからである。
なので、今回のミルフィの帰省には、ちょっと首を傾げているようなのである。
「ああ、その事なんですけれども、これを試してみようと思いまして戻ってきたんですよ」
プレツェに質問されて、ミルフィは腰にぶら下げていたものをひょいと持ち上げてテーブルに置く。
「なんですか、これは」
何の変哲もない鞄が出てきて、ティアも思わず素の状態で質問をしてしまう。
そのびっくりした表情に、ミルフィは得意げに笑っている。
「これこそが収納魔法を付与した鞄、その名も『収納鞄』といいます。これがあれば、馬車一台分くらいまではこの鞄の中に物をしまうことができます」
ミルフィが得意げな表情でいうと、ティアたちはしんと静まり返ってしまった。
あまりにも反応がないせいで、ミルフィの表情がものすごく歪んでしまっている。どう続けていいのか分からないというものだ。
「もう、みんなどうしたのですか!」
さすがの反応のなさに、ついつい声を上げてしまうミルフィである。
すると、ようやくティアたちは我に返っていた。
「申し訳ございません。あまりにとんでもない話に呆けてしまいました」
ティアが謝罪をしている。その様子に額に手を当てて険しい表情をするミルフィ。
ため息を一度つくと、改めて収納鞄の説明を始める。
ミルフィはおもむろに鞄に手を突っ込むと、中から何かを取り出していた。
「それは?」
「南の街で売っていた絨毯です。模様が気に入ったので買ってきました」
そう言いながら、もう一回鞄に手を突っ込むミルフィ。絨毯みたいなバカでかいものが出てきただけでも説明は十分だというのに、次は何を出すつもりなのだろうか。
そうして、その次に出てきたのは、南の街で作ったチョコレートだった。チェチェカの実とスェトーは腐ることなく持っていけたので、冷房設備を作った上で製造したチョコレートである。
「ミルフィ様、こちらはチョコレートですね。これは一体どうなさったのですか?」
「ふふん、南の街で作ってみたのですよ。それを今回ここまで持ってきました」
ミルフィの証言に衝撃を受けるティアたちなのだった。
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