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第三章
第105話 売り込め、収納鞄
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いくつか収納魔法を付与した鞄を作ったミルフィ。
ちなみに収納魔法を付与した魔石を壊したり外したりしたらどうなるかは試験済みだ。
「鞄が弾け飛んでしまうとは予想外でしたね」
「まったくですね」
結果として、中身が全部出てくる事は分かったものの、まさか鞄の中で全部出てきて鞄が破けてしまうとは思わなかった。
つまりどういうことかというと、収納魔法を備えた鞄がそこでなくなってしまうということである。
「これは改良の余地ありですね。せめて鞄自体に付与できればよかったのですが」
「こればかりは仕方ありませんね。収納魔法なるものが他の物体に付与できる事自体初耳ですよ。さすがミルフィ様です」
ロイセがミルフィを持ち上げるが、まったくミルフィは鼻にかける様子はなかった。ミルフィは謙遜なタイプなのだ。
「それでは、商業組合に出かけましょうか。いきますよ、ロイセ」
「はい」
商会のことは他の職員たちに任せ、ミルフィはロイセと一緒に商業組合へと出かけたのだった。
商業組合に顔を出すと、職員たちが一斉に視線を向けてくる。どうしてもそんな目を向けてくるのか、ミルフィは思わずぎょっとしてしまった。
「み、ミルフィ様。何なのでしょうかね、これって……」
怖くなってミルフィの後ろに隠れるロイセだが、ミルフィの方が背が低いので全然隠れていなかった。
ロイセが面白い反応を見せてくれるものだから、ミルフィは冷静になれた。
「レンダさーん、いますか」
目を向けてくる他の職員や商人たちを尻目に、ミルフィはレンダを呼んでいる。
しばらく待っていると、奥から慌てたようにレンダが顔を出してきた。
「なんなんですか、ミルフィさん。急に呼ぶなんて」
奥で別の作業をしていたらしく、ずいぶんと息が上がっているようだ。
「ちょっと面白いものを持ってきましたので、奥で話をさせてもらってもよろしいでしょうか」
ミルフィは周りを警戒するように小声でレンダに話し掛けている。
これはなにやらお金になりそうだと感じたレンダは、素直に申し出に応じることにする。すぐさま、ミルフィとロイセを奥へと連れていった。
奥の部屋に移動したレンダは、神妙な面持ちでミルフィと向かい合っている。これまでもいろいろと脅かされてきた相手だけに、今回は何が出てくるのか読めない分からないで戦慄しているのである。
一方のミルフィも真剣な表情だった。
しばらく沈黙したのち、ミルフィはロイセと一緒になって、おもむろにテーブルの上に大量の鞄を並べ始めた。何が並べられているのかと、レンダは真剣にその様子を見守っている。
「今回のお話はこれなんですけれど、現状は他言無用でお願いします。商業組合内でも一部のみでお願いしますね」
「分かりました。約束しましょう」
重苦しい雰囲気で話してくるので、レンダはミルフィの要求をのむ。かなり大ぴらにしてきたミルフィが内密にというのだから、相当な案件だと感じたからだ。
ごくりと思わずつばを飲み込んでしまう。
「実はこの鞄ですけれど、収納魔法を付与してあります」
「な、なんで……すと」
思わず大声を出しそうになりながらも、どうにか飲み込んで小さな声で反応し直している。
なにせ収納魔法が付与された鞄など、宝物級の扱いをされる代物だからだ。大声を出しそうになるのは無理もない。
ただ、ミルフィからはジト目を向けられた。
「そのようなものが、なぜ……」
「実は、私が収納魔法を使えましてね。今後、北と南の二つの街の間で物をやり取りする時に、ものの劣化というものを解消するためにこの方法を思いついたのです」
ミルフィの返答に納得のいくレンダである。
確かに、物の運搬を行う上では、品質の劣化や物品の破損というものは大問題なのだ。
収納魔法を付与した入れ物があれば、その辺りの心配がなくなり、運搬革命が起こる事になるだろう。とても魅力的なものが目の前に並んでいるのだ。
「ただ、この鞄はまだ不完全でしてね。ここを見て下さい」
レンダはミルフィが指差すところを見る。そこには魔石が取り付けられていた。
「これが何か?」
「この魔石が外れるか壊れるかすると、収納空間が表に出てきて鞄を中から破壊してしまうんです。私の技量では、鞄自体に付与できなかったのですよ」
「なんと……」
取り扱い上の注意点を聞かされて、レンダは驚きを隠せなかった。
「改良は試みますが、とりあえず、注意点を伝えた上で使用感を聞いてみたいのですよね。もちろん、私たちの方でも使いますけれど」
「わ、分かりました。商業組合での取引のある商会に声を掛けてみます」
「ええ、ぜひともお願いしますね」
持ってきた鞄をひとまずレンダに全部預けるミルフィである。
そして、用事を終えたミルフィが立ち去ると、預かったカバンを眺めながらレンダはつい呟いてしまう。
「これは、とんでもないものを押し付けられたな……」
すぐさま収納鞄を試してもらう商会の選定にあたるレンダだったが、その際に組合長にも一応話を通しておく。
レンダと同じような反応を示して驚いたのは、言うまでもないことだった。
ちなみに収納魔法を付与した魔石を壊したり外したりしたらどうなるかは試験済みだ。
「鞄が弾け飛んでしまうとは予想外でしたね」
「まったくですね」
結果として、中身が全部出てくる事は分かったものの、まさか鞄の中で全部出てきて鞄が破けてしまうとは思わなかった。
つまりどういうことかというと、収納魔法を備えた鞄がそこでなくなってしまうということである。
「これは改良の余地ありですね。せめて鞄自体に付与できればよかったのですが」
「こればかりは仕方ありませんね。収納魔法なるものが他の物体に付与できる事自体初耳ですよ。さすがミルフィ様です」
ロイセがミルフィを持ち上げるが、まったくミルフィは鼻にかける様子はなかった。ミルフィは謙遜なタイプなのだ。
「それでは、商業組合に出かけましょうか。いきますよ、ロイセ」
「はい」
商会のことは他の職員たちに任せ、ミルフィはロイセと一緒に商業組合へと出かけたのだった。
商業組合に顔を出すと、職員たちが一斉に視線を向けてくる。どうしてもそんな目を向けてくるのか、ミルフィは思わずぎょっとしてしまった。
「み、ミルフィ様。何なのでしょうかね、これって……」
怖くなってミルフィの後ろに隠れるロイセだが、ミルフィの方が背が低いので全然隠れていなかった。
ロイセが面白い反応を見せてくれるものだから、ミルフィは冷静になれた。
「レンダさーん、いますか」
目を向けてくる他の職員や商人たちを尻目に、ミルフィはレンダを呼んでいる。
しばらく待っていると、奥から慌てたようにレンダが顔を出してきた。
「なんなんですか、ミルフィさん。急に呼ぶなんて」
奥で別の作業をしていたらしく、ずいぶんと息が上がっているようだ。
「ちょっと面白いものを持ってきましたので、奥で話をさせてもらってもよろしいでしょうか」
ミルフィは周りを警戒するように小声でレンダに話し掛けている。
これはなにやらお金になりそうだと感じたレンダは、素直に申し出に応じることにする。すぐさま、ミルフィとロイセを奥へと連れていった。
奥の部屋に移動したレンダは、神妙な面持ちでミルフィと向かい合っている。これまでもいろいろと脅かされてきた相手だけに、今回は何が出てくるのか読めない分からないで戦慄しているのである。
一方のミルフィも真剣な表情だった。
しばらく沈黙したのち、ミルフィはロイセと一緒になって、おもむろにテーブルの上に大量の鞄を並べ始めた。何が並べられているのかと、レンダは真剣にその様子を見守っている。
「今回のお話はこれなんですけれど、現状は他言無用でお願いします。商業組合内でも一部のみでお願いしますね」
「分かりました。約束しましょう」
重苦しい雰囲気で話してくるので、レンダはミルフィの要求をのむ。かなり大ぴらにしてきたミルフィが内密にというのだから、相当な案件だと感じたからだ。
ごくりと思わずつばを飲み込んでしまう。
「実はこの鞄ですけれど、収納魔法を付与してあります」
「な、なんで……すと」
思わず大声を出しそうになりながらも、どうにか飲み込んで小さな声で反応し直している。
なにせ収納魔法が付与された鞄など、宝物級の扱いをされる代物だからだ。大声を出しそうになるのは無理もない。
ただ、ミルフィからはジト目を向けられた。
「そのようなものが、なぜ……」
「実は、私が収納魔法を使えましてね。今後、北と南の二つの街の間で物をやり取りする時に、ものの劣化というものを解消するためにこの方法を思いついたのです」
ミルフィの返答に納得のいくレンダである。
確かに、物の運搬を行う上では、品質の劣化や物品の破損というものは大問題なのだ。
収納魔法を付与した入れ物があれば、その辺りの心配がなくなり、運搬革命が起こる事になるだろう。とても魅力的なものが目の前に並んでいるのだ。
「ただ、この鞄はまだ不完全でしてね。ここを見て下さい」
レンダはミルフィが指差すところを見る。そこには魔石が取り付けられていた。
「これが何か?」
「この魔石が外れるか壊れるかすると、収納空間が表に出てきて鞄を中から破壊してしまうんです。私の技量では、鞄自体に付与できなかったのですよ」
「なんと……」
取り扱い上の注意点を聞かされて、レンダは驚きを隠せなかった。
「改良は試みますが、とりあえず、注意点を伝えた上で使用感を聞いてみたいのですよね。もちろん、私たちの方でも使いますけれど」
「わ、分かりました。商業組合での取引のある商会に声を掛けてみます」
「ええ、ぜひともお願いしますね」
持ってきた鞄をひとまずレンダに全部預けるミルフィである。
そして、用事を終えたミルフィが立ち去ると、預かったカバンを眺めながらレンダはつい呟いてしまう。
「これは、とんでもないものを押し付けられたな……」
すぐさま収納鞄を試してもらう商会の選定にあたるレンダだったが、その際に組合長にも一応話を通しておく。
レンダと同じような反応を示して驚いたのは、言うまでもないことだった。
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