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第三章
第92話 伝説の冒険者
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機嫌よく南の街まで戻ってきたミルフィの後ろで、監視役の職員は頭を悩ませていた。
なにせミルフィが倒したのは動きの鈍いストーンイーターリザードではなく、その上位種である気性の荒いロックイーターリザードだったのだから。
簡単に倒してしまった挙句、解体もすんなりこなしてしまったがゆえに、どう報告したものかとずっと考えているのだ。ちなみに当のミルフィはストーンイーターリザードを倒せたと満足している。
「ただいま戻りました」
にこやかに大声で冒険者組合に顔を出すミルフィ。
あまりに早い帰還に、ミルフィの対応をした受付の女性は目を丸くしていた。
「す、すごく早かったですね。どうでしたか?」
「楽勝ですよ。この私にそこらの魔物が簡単に勝てますかっていうのですよ」
人差し指と中指を立てて、満面の笑みを浮かべるミルフィ。その姿に女性は監視役の職員へと目を向ける。
目を向けられた職員は、両手のひらを上に向けて、首を左右に振っていた。明らかに何かがあったサインである。
にこやかに立っているミルフィをひとまず待たせて、女性は先に職員から報告をもらうことにした。
少し不満げにするミルフィではあるが、しょうがないかなとおとなしく待つことにした。
職員から事情を聞いた受付の女性の顔色が青くなる。そして、信じられないものを見るような視線をミルフィへと向けた。
あまりにもひどい表情なので、ミルフィは少し不満げな表情を見せる。
「何なんですか、その表情は」
そのミルフィの反応に、大きなため息をつく受付と監視役の職員。
「組合長にお会い頂くしかないですかね」
「でしょうね」
二人が頷くと、ミルフィは南の街の冒険者組合の組合長と会うことになってしまった。
組合長室に連れていかれたミルフィ。部屋に入ると、なんともむさくるしい男が出迎える。
「ふははははっ、その少女がやらかしてくれた新人か。ぬうんっ!」
筋肉をこれでもかと見せつけてくる。
「組合長、肉体美を見せつけるのはそのくらいにして下さい。今はとにかくお話があります」
「仕方ないな。そこな少女よ、この私が話を聞いてやろうではないか」
いちいちポーズを取りながら話す組合長。その姿に思わず顔を引きつらせてしまうミルフィだった。
ミルフィの反応はさておき、監視としてついて行った職員が組合長の前に出る。
「組合長、私の方からご報告させて頂きます」
「おう、話してみろ」
組合長がドスの利いた声で言うものだから、職員は自分が見てきた事を正直に話す。
ミルフィが岩場にたどり着くと、ひょっこり顔を見せたロックイーターリザードを一瞬で倒し、それを見事なまでな腕前で解体してしまった。その一部始終を余すところなく報告したのである。
「ロックイーターリザードだと?!」
驚きの声と同時にミルフィを見る組合長。
顔を向けられるや否や、実に不機嫌そうな表情を浮かべるミルフィ。
「出せと言われれば出しますよ。確認して下さい」
そう言いながら、先程解体した魔物の素材をどんどんと出していく。
岩肌のようごつごつとした皮膚にきれいな白っぽい肉、それと茶色の大きな魔石。これらを見た組合長は驚愕の表情を崩せなかった。
「おい、すぐさま調査隊を編成しろ。あそこに立ち入る冒険者じゃ対処できないぞ」
「あるぇ~……。私、何かやっちゃいましたかね」
慌てて対応する組合長と監視していた職員。その姿を見てミルフィは呆然として立ち尽くしている。
「それはそうでしょう。そこに広げられた魔物の素材は、間違いなく上位種のロックイーターリザードのものです。その証拠がその魔石ですね」
「ほえ?」
気の抜けた返事が出てしまうミルフィである。
「これが、ストーンイーターリザードの魔石ですね。見比べてみて下さい」
あまりに反応が酷いものだから、職員が実物を持ってきてくれた。
見比べたミルフィは目を疑った。魔石の色が明らかに違っていたのだ。
ストーンイーターリザードの魔石は黄土色で手の中にすっぽりと隠れてしまう大きさなのに対し、ロックイーターリザードの魔石は完全に茶色で手で握っても余裕でその姿を確認できる。あまりにも違い過ぎたのだった。
「あ、あるぇ……」
ようやく自分がやらかした事を認識したミルフィである。
「魔石と皮はこちらで買取でいいでしょうか。お肉は欲しがっていたので、ミルフィさんがそのままお持ちになって構いません」
「そ、そうですね。では、適当なレベルの魔石と交換でお願いします。ちょっと数が要りようですからね」
「畏まりました。では、査定に入らせて頂きます」
ロックイーターリザードの皮と魔石を職員たちが運び出す横で、ミルフィはその肉を自前の収納魔法に放り込んでいた。
そして、その後買取の査定結果を差し出されると同時に、再びランクが二つ上がることを告げられる。
つまり、登録の翌日にランクが合わせて四つ上がった冒険者として、その名を刻み込むことになってしまう。
目的の肉を手に入れたのはいいものの、思わぬ事態になんとも複雑な気持ちで冒険者組合を立ち去るミルフィなのであった。
なにせミルフィが倒したのは動きの鈍いストーンイーターリザードではなく、その上位種である気性の荒いロックイーターリザードだったのだから。
簡単に倒してしまった挙句、解体もすんなりこなしてしまったがゆえに、どう報告したものかとずっと考えているのだ。ちなみに当のミルフィはストーンイーターリザードを倒せたと満足している。
「ただいま戻りました」
にこやかに大声で冒険者組合に顔を出すミルフィ。
あまりに早い帰還に、ミルフィの対応をした受付の女性は目を丸くしていた。
「す、すごく早かったですね。どうでしたか?」
「楽勝ですよ。この私にそこらの魔物が簡単に勝てますかっていうのですよ」
人差し指と中指を立てて、満面の笑みを浮かべるミルフィ。その姿に女性は監視役の職員へと目を向ける。
目を向けられた職員は、両手のひらを上に向けて、首を左右に振っていた。明らかに何かがあったサインである。
にこやかに立っているミルフィをひとまず待たせて、女性は先に職員から報告をもらうことにした。
少し不満げにするミルフィではあるが、しょうがないかなとおとなしく待つことにした。
職員から事情を聞いた受付の女性の顔色が青くなる。そして、信じられないものを見るような視線をミルフィへと向けた。
あまりにもひどい表情なので、ミルフィは少し不満げな表情を見せる。
「何なんですか、その表情は」
そのミルフィの反応に、大きなため息をつく受付と監視役の職員。
「組合長にお会い頂くしかないですかね」
「でしょうね」
二人が頷くと、ミルフィは南の街の冒険者組合の組合長と会うことになってしまった。
組合長室に連れていかれたミルフィ。部屋に入ると、なんともむさくるしい男が出迎える。
「ふははははっ、その少女がやらかしてくれた新人か。ぬうんっ!」
筋肉をこれでもかと見せつけてくる。
「組合長、肉体美を見せつけるのはそのくらいにして下さい。今はとにかくお話があります」
「仕方ないな。そこな少女よ、この私が話を聞いてやろうではないか」
いちいちポーズを取りながら話す組合長。その姿に思わず顔を引きつらせてしまうミルフィだった。
ミルフィの反応はさておき、監視としてついて行った職員が組合長の前に出る。
「組合長、私の方からご報告させて頂きます」
「おう、話してみろ」
組合長がドスの利いた声で言うものだから、職員は自分が見てきた事を正直に話す。
ミルフィが岩場にたどり着くと、ひょっこり顔を見せたロックイーターリザードを一瞬で倒し、それを見事なまでな腕前で解体してしまった。その一部始終を余すところなく報告したのである。
「ロックイーターリザードだと?!」
驚きの声と同時にミルフィを見る組合長。
顔を向けられるや否や、実に不機嫌そうな表情を浮かべるミルフィ。
「出せと言われれば出しますよ。確認して下さい」
そう言いながら、先程解体した魔物の素材をどんどんと出していく。
岩肌のようごつごつとした皮膚にきれいな白っぽい肉、それと茶色の大きな魔石。これらを見た組合長は驚愕の表情を崩せなかった。
「おい、すぐさま調査隊を編成しろ。あそこに立ち入る冒険者じゃ対処できないぞ」
「あるぇ~……。私、何かやっちゃいましたかね」
慌てて対応する組合長と監視していた職員。その姿を見てミルフィは呆然として立ち尽くしている。
「それはそうでしょう。そこに広げられた魔物の素材は、間違いなく上位種のロックイーターリザードのものです。その証拠がその魔石ですね」
「ほえ?」
気の抜けた返事が出てしまうミルフィである。
「これが、ストーンイーターリザードの魔石ですね。見比べてみて下さい」
あまりに反応が酷いものだから、職員が実物を持ってきてくれた。
見比べたミルフィは目を疑った。魔石の色が明らかに違っていたのだ。
ストーンイーターリザードの魔石は黄土色で手の中にすっぽりと隠れてしまう大きさなのに対し、ロックイーターリザードの魔石は完全に茶色で手で握っても余裕でその姿を確認できる。あまりにも違い過ぎたのだった。
「あ、あるぇ……」
ようやく自分がやらかした事を認識したミルフィである。
「魔石と皮はこちらで買取でいいでしょうか。お肉は欲しがっていたので、ミルフィさんがそのままお持ちになって構いません」
「そ、そうですね。では、適当なレベルの魔石と交換でお願いします。ちょっと数が要りようですからね」
「畏まりました。では、査定に入らせて頂きます」
ロックイーターリザードの皮と魔石を職員たちが運び出す横で、ミルフィはその肉を自前の収納魔法に放り込んでいた。
そして、その後買取の査定結果を差し出されると同時に、再びランクが二つ上がることを告げられる。
つまり、登録の翌日にランクが合わせて四つ上がった冒険者として、その名を刻み込むことになってしまう。
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