メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
92 / 113
第三章

第92話 伝説の冒険者

しおりを挟む
 機嫌よく南の街まで戻ってきたミルフィの後ろで、監視役の職員は頭を悩ませていた。
 なにせミルフィが倒したのは動きの鈍いストーンイーターリザードではなく、その上位種である気性の荒いロックイーターリザードだったのだから。
 簡単に倒してしまった挙句、解体もすんなりこなしてしまったがゆえに、どう報告したものかとずっと考えているのだ。ちなみに当のミルフィはストーンイーターリザードを倒せたと満足している。

「ただいま戻りました」

 にこやかに大声で冒険者組合に顔を出すミルフィ。
 あまりに早い帰還に、ミルフィの対応をした受付の女性は目を丸くしていた。

「す、すごく早かったですね。どうでしたか?」

「楽勝ですよ。この私にそこらの魔物が簡単に勝てますかっていうのですよ」

 人差し指と中指を立てて、満面の笑みを浮かべるミルフィ。その姿に女性は監視役の職員へと目を向ける。
 目を向けられた職員は、両手のひらを上に向けて、首を左右に振っていた。明らかに何かがあったサインである。
 にこやかに立っているミルフィをひとまず待たせて、女性は先に職員から報告をもらうことにした。
 少し不満げにするミルフィではあるが、しょうがないかなとおとなしく待つことにした。
 職員から事情を聞いた受付の女性の顔色が青くなる。そして、信じられないものを見るような視線をミルフィへと向けた。
 あまりにもひどい表情なので、ミルフィは少し不満げな表情を見せる。

「何なんですか、その表情は」

 そのミルフィの反応に、大きなため息をつく受付と監視役の職員。

「組合長にお会い頂くしかないですかね」

「でしょうね」

 二人が頷くと、ミルフィは南の街の冒険者組合の組合長と会うことになってしまった。

 組合長室に連れていかれたミルフィ。部屋に入ると、なんともむさくるしい男が出迎える。

「ふははははっ、その少女がやらかしてくれた新人か。ぬうんっ!」

 筋肉をこれでもかと見せつけてくる。

「組合長、肉体美を見せつけるのはそのくらいにして下さい。今はとにかくお話があります」

「仕方ないな。そこな少女よ、この私が話を聞いてやろうではないか」

 いちいちポーズを取りながら話す組合長。その姿に思わず顔を引きつらせてしまうミルフィだった。
 ミルフィの反応はさておき、監視としてついて行った職員が組合長の前に出る。

「組合長、私の方からご報告させて頂きます」

「おう、話してみろ」

 組合長がドスの利いた声で言うものだから、職員は自分が見てきた事を正直に話す。
 ミルフィが岩場にたどり着くと、ひょっこり顔を見せたロックイーターリザードを一瞬で倒し、それを見事なまでな腕前で解体してしまった。その一部始終を余すところなく報告したのである。

「ロックイーターリザードだと?!」

 驚きの声と同時にミルフィを見る組合長。
 顔を向けられるや否や、実に不機嫌そうな表情を浮かべるミルフィ。

「出せと言われれば出しますよ。確認して下さい」

 そう言いながら、先程解体した魔物の素材をどんどんと出していく。
 岩肌のようごつごつとした皮膚にきれいな白っぽい肉、それと茶色の大きな魔石。これらを見た組合長は驚愕の表情を崩せなかった。

「おい、すぐさま調査隊を編成しろ。あそこに立ち入る冒険者じゃ対処できないぞ」

「あるぇ~……。私、何かやっちゃいましたかね」

 慌てて対応する組合長と監視していた職員。その姿を見てミルフィは呆然として立ち尽くしている。

「それはそうでしょう。そこに広げられた魔物の素材は、間違いなく上位種のロックイーターリザードのものです。その証拠がその魔石ですね」

「ほえ?」

 気の抜けた返事が出てしまうミルフィである。

「これが、ストーンイーターリザードの魔石ですね。見比べてみて下さい」

 あまりに反応が酷いものだから、職員が実物を持ってきてくれた。
 見比べたミルフィは目を疑った。魔石の色が明らかに違っていたのだ。
 ストーンイーターリザードの魔石は黄土色で手の中にすっぽりと隠れてしまう大きさなのに対し、ロックイーターリザードの魔石は完全に茶色で手で握っても余裕でその姿を確認できる。あまりにも違い過ぎたのだった。

「あ、あるぇ……」

 ようやく自分がやらかした事を認識したミルフィである。

「魔石と皮はこちらで買取でいいでしょうか。お肉は欲しがっていたので、ミルフィさんがそのままお持ちになって構いません」

「そ、そうですね。では、適当なレベルの魔石と交換でお願いします。ちょっと数が要りようですからね」

「畏まりました。では、査定に入らせて頂きます」

 ロックイーターリザードの皮と魔石を職員たちが運び出す横で、ミルフィはその肉を自前の収納魔法に放り込んでいた。
 そして、その後買取の査定結果を差し出されると同時に、再びランクが二つ上がることを告げられる。
 つまり、登録の翌日にランクが合わせて四つ上がった冒険者として、その名を刻み込むことになってしまう。
 目的の肉を手に入れたのはいいものの、思わぬ事態になんとも複雑な気持ちで冒険者組合を立ち去るミルフィなのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...