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第三章
第84話 料理合戦
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しばらくして料理が運ばれてくる。
出された料理は肉をソテーしたもののようだった。ストーンイーターリザードの白い肉に程よい焦げ目がついている。
「味付けはシンプルに塩コショウのみです。どうぞ食べてみてください」
ビュフェが勧めてくるので、ミルフィはナイフとフォークを使って切り分けて口に入れる。
「んんっ」
口に入れたミルフィは思わず声が出る。
普段は赤身の肉に慣れているので、おそるおそるといった感じだったのだが、いざ口に入れてみると赤身の肉に負けない食感と味わいが広がる。
ピレシーに指摘された淡白な味わいというものは、そこには存在していなかった。
「すごい……。こっちにもこんな食材があったのですね」
きちんと飲み込んでから感想を漏らすミルフィ。その驚く様に、ビュフェは満足そうである。
「本当ならば、あの部屋に泊まったお客にはこの肉は振る舞わせてもらっているのですけれど、今回はサプライズということでわざと出してなかったのですよ」
「はっ、これはしてやられましたね」
意地悪そうに話すビュフェに、困惑した表情を向けるミルフィ。さすがに商会長としての経験の差がここで出ているようだった。
驚かされたミルフィだったが、ひとまずはストーンイーターリザードのソテーをもぐもぐと味わっている。なんともいえない肉厚ジューシーな食感は、舌の肥えてきたミルフィも満足していたようだ。
「もったいないですね。こんな食材が一般流通していないというのは」
「そうですね。でも、だからこその特別感があるともいえるのです」
まあそれもそうかと納得してしまうミルフィである。
初心者でも狩れる魔物でありながら、初心者では解体が不可能という矛盾した存在だからこそ、知られていなかった味なのかもしれない。
「そういえば、解体が不可能なのに、簡単に倒せるってかなり矛盾してますよね」
「ええ。実は弱点が周知されているからなんですよ」
ビュフェはそう言いながら、自分の口を指差している。
そう、外皮の固いストーンイーターリザードの弱点は口の中なのである。動きが鈍い上に口が常に半開きなので、そこを突けば簡単に倒せるというわけだった。
初心者の戦闘訓練にもってこいというわけなのである。
いろんな偶然が重なって、今の今まで知られていなかったストーンイーターリザードの肉なのである。
「一度解体現場を見てみたいものですね」
「あまり子どもには見せられたものではないですが、ミルフィさんなら大丈夫ですかね」
ミルフィの率直な気持ちに、つい笑ってしまうビュフェだった。
しかし、そんな和やかな時間はいつまでも続かなかった。
交換条件となるレシピの提供だった。
ビュフェはレシピの提供はしていないが、自分たちだけで抱えていた極秘情報を伝えてきたので、十分条件は満たしているのだ。
ミルフィはつい困ってしまう。
しかし、すぐに何かを思いついたミルフィは、突如立ち上がる。
「料理を振る舞って頂いたのですから、私も振る舞うのは当然ですよね」
「ああ、まあ、そうですね」
にっこりと微笑むミルフィに、ビュフェは少し戸惑っている。
次の瞬間、ミルフィは空中に手を突っ込んでいた。
ピレシーの魔法を解析して自分でも使えるようにした収納魔法だ。ただし、容量は圧倒的にピレシーには劣る。
(自分でも使えるようにしておいて正解でしたね。あまり量は多くないですけれど、ピレシーを頼らずに済むというのは大きいです)
そうやってミルフィが取り出したのは、北の街から持ってきた小麦粉と魔界鳥の卵とスェトー、それと南の街で買い込んだリーモだった。一体何を作るというのだろうか。
「厨房をお借りしてもよろしいですかね」
「もちろんだとも。なんなら料理人も使っても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
ミルフィはすぐさま調理に取り掛かる。
(あの街で作っていた料理の応用で多分いけますね。ピレシーがいなくても、私だけでやってみせますよ)
ミルフィはものすごく意気込んでいた。
早速、卵とスェトー、それとリーモの果汁と細かくした皮をボウルに入れて混ぜ込んでいく。それを軽く火魔法で温めながらさらに混ぜ込んでいく。
ひととおりの加熱が終わると、冷ましに入る。
その間に、小麦粉とスェトーに水を加えながら混ぜ合わせていくミルフィ。
「さすがはレシピを販売しているとだけあって、手際がいいですね」
ミルフィの調理の様子をじっと見つめるビュフェである。商会の料理人たちも同様である。
あっという間に生地を作り上げ、厨房にあった型に入れて形を整えていくと、冷ましておいたタネを流し込んでいく。
場所を確認しておいたかまどの中を火魔法で温めたミルフィは、そこへ先程材料を投入した型を放り込む。
「これで焼き上がれば完成ですね。しばらくお待ち下さい」
ピレシーの補助なしに調理を終えたミルフィは、ここまで無事にできたことに安心して深呼吸をする。
見知らぬ土地で自分一人で作った初めての料理。はたしてちゃんとできているのか、ミルフィにとって緊張の一瞬が刻一刻と近付いていた。
出された料理は肉をソテーしたもののようだった。ストーンイーターリザードの白い肉に程よい焦げ目がついている。
「味付けはシンプルに塩コショウのみです。どうぞ食べてみてください」
ビュフェが勧めてくるので、ミルフィはナイフとフォークを使って切り分けて口に入れる。
「んんっ」
口に入れたミルフィは思わず声が出る。
普段は赤身の肉に慣れているので、おそるおそるといった感じだったのだが、いざ口に入れてみると赤身の肉に負けない食感と味わいが広がる。
ピレシーに指摘された淡白な味わいというものは、そこには存在していなかった。
「すごい……。こっちにもこんな食材があったのですね」
きちんと飲み込んでから感想を漏らすミルフィ。その驚く様に、ビュフェは満足そうである。
「本当ならば、あの部屋に泊まったお客にはこの肉は振る舞わせてもらっているのですけれど、今回はサプライズということでわざと出してなかったのですよ」
「はっ、これはしてやられましたね」
意地悪そうに話すビュフェに、困惑した表情を向けるミルフィ。さすがに商会長としての経験の差がここで出ているようだった。
驚かされたミルフィだったが、ひとまずはストーンイーターリザードのソテーをもぐもぐと味わっている。なんともいえない肉厚ジューシーな食感は、舌の肥えてきたミルフィも満足していたようだ。
「もったいないですね。こんな食材が一般流通していないというのは」
「そうですね。でも、だからこその特別感があるともいえるのです」
まあそれもそうかと納得してしまうミルフィである。
初心者でも狩れる魔物でありながら、初心者では解体が不可能という矛盾した存在だからこそ、知られていなかった味なのかもしれない。
「そういえば、解体が不可能なのに、簡単に倒せるってかなり矛盾してますよね」
「ええ。実は弱点が周知されているからなんですよ」
ビュフェはそう言いながら、自分の口を指差している。
そう、外皮の固いストーンイーターリザードの弱点は口の中なのである。動きが鈍い上に口が常に半開きなので、そこを突けば簡単に倒せるというわけだった。
初心者の戦闘訓練にもってこいというわけなのである。
いろんな偶然が重なって、今の今まで知られていなかったストーンイーターリザードの肉なのである。
「一度解体現場を見てみたいものですね」
「あまり子どもには見せられたものではないですが、ミルフィさんなら大丈夫ですかね」
ミルフィの率直な気持ちに、つい笑ってしまうビュフェだった。
しかし、そんな和やかな時間はいつまでも続かなかった。
交換条件となるレシピの提供だった。
ビュフェはレシピの提供はしていないが、自分たちだけで抱えていた極秘情報を伝えてきたので、十分条件は満たしているのだ。
ミルフィはつい困ってしまう。
しかし、すぐに何かを思いついたミルフィは、突如立ち上がる。
「料理を振る舞って頂いたのですから、私も振る舞うのは当然ですよね」
「ああ、まあ、そうですね」
にっこりと微笑むミルフィに、ビュフェは少し戸惑っている。
次の瞬間、ミルフィは空中に手を突っ込んでいた。
ピレシーの魔法を解析して自分でも使えるようにした収納魔法だ。ただし、容量は圧倒的にピレシーには劣る。
(自分でも使えるようにしておいて正解でしたね。あまり量は多くないですけれど、ピレシーを頼らずに済むというのは大きいです)
そうやってミルフィが取り出したのは、北の街から持ってきた小麦粉と魔界鳥の卵とスェトー、それと南の街で買い込んだリーモだった。一体何を作るというのだろうか。
「厨房をお借りしてもよろしいですかね」
「もちろんだとも。なんなら料理人も使っても大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
ミルフィはすぐさま調理に取り掛かる。
(あの街で作っていた料理の応用で多分いけますね。ピレシーがいなくても、私だけでやってみせますよ)
ミルフィはものすごく意気込んでいた。
早速、卵とスェトー、それとリーモの果汁と細かくした皮をボウルに入れて混ぜ込んでいく。それを軽く火魔法で温めながらさらに混ぜ込んでいく。
ひととおりの加熱が終わると、冷ましに入る。
その間に、小麦粉とスェトーに水を加えながら混ぜ合わせていくミルフィ。
「さすがはレシピを販売しているとだけあって、手際がいいですね」
ミルフィの調理の様子をじっと見つめるビュフェである。商会の料理人たちも同様である。
あっという間に生地を作り上げ、厨房にあった型に入れて形を整えていくと、冷ましておいたタネを流し込んでいく。
場所を確認しておいたかまどの中を火魔法で温めたミルフィは、そこへ先程材料を投入した型を放り込む。
「これで焼き上がれば完成ですね。しばらくお待ち下さい」
ピレシーの補助なしに調理を終えたミルフィは、ここまで無事にできたことに安心して深呼吸をする。
見知らぬ土地で自分一人で作った初めての料理。はたしてちゃんとできているのか、ミルフィにとって緊張の一瞬が刻一刻と近付いていた。
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