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第三章
第83話 珍しい肉
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厨房にやって来たものの、正直言ってミルフィは悩んでいた。
(よく思えば、私が思いついたレシピってありましたっけ?)
そう、ミルフィは数々の料理を作ってはきたものの、ほぼすべてをピレシーから与えられた知識を元にしていたのだ。
ここにきて自分の中のレシピが空っぽな事に気が付いてしまったのだ。これでは見返りのレシピが提供できないと、頭を悩ませているのだ。
「うん、どうしましたかね」
ビュフェから問い掛けられるミルフィ。驚きのあまりに体をピンと硬直させてしまっていた。
(落ち着け私。いつまでもピレシー頼りではいけません。食で世界征服をすると宣いまくっているのですから、自分でなんとかしませんと)
顎に手を添えて唸るミルフィ。今までに覚えてきたレシピから何かいいものはないかと必死に考える。
だが、その時ミルフィは吹っ切れた。
(うん、先にビュフェさんの方からレシピを示してもらいましょう)
そう、自分が話した『見返り』という部分を利用することにしたのだ。
見返りということは、相手に先に提供してもらうことが前提だ。つまり、相手に料理を作らせる事で、自分の考える時間を確保しようというわけなのだった。
(ふふっ、私ってば天才ですね)
ちょっと悦に入るミルフィである。その自慢げな表情は、ビュフェたちを戸惑わせるには十分だった。
その状況に気が付いたミルフィは、ひとまず気にせずに話を進めることにする。
「だ、大丈夫ですか……ね?」
「ええ、大丈夫ですよ。何の問題もありません」
心配するビュフェを前に、にこりと微笑むミルフィである。
「では、そちらの料理を見せて頂いてよろしいでしょうか」
「ああ、そうでしたね。では、みなさん頼みますよ」
ビュフェの呼び掛けに応えて、厨房に居る料理人たちが一斉に料理を始める。ビュフェがやって来て声を掛けるだけで何をすればいいのか分かったらしい。それなりに意思疎通が取れているということだろう。
「今、みなさんは何を作っておられるのですか?」
「そうですね。この辺りで手に入る食材を利用した私どもの創作料理です。ミルフィさんも召し上がられた料理もそういった料理のひとつなのですよ」
「ふむふむ……」
ビュフェの説明に頷くミルフィである。
どうやらこの辺りで手に入る肉の類は、白っぽい肉質を持っているようだ。
「あれはメインに使う肉ですかね。見慣れない色をしていますけれど」
「よく肉だと分かりましたね。ストーンイーターリザードという、名の通り石を食らうトカゲの肉ですよ」
ミルフィの質問に、ビュフェからはすんなりと答えが返ってきた。
どうやらこの南の街の近くの岩場に棲む魔物の事らしい。
表皮が堅く、その重量感のせいで動きが鈍い。時々振り回してくるしっぽにさえ気を付ければ、さほど苦労せずに倒せる魔物なのだそうだ。
ただ、その表皮がゆえに解体に苦労するので、こうやって無事に解体して手に入る肉は少ない。外見に見合わず淡白で柔らかな肉質らしく、手ごろな魔物の割に高級食材なのだ。
さて、なぜミルフィがその肉の事を一発で見抜いたのかというと、単純にピレシーの影響だ。彼の持つ鑑定スキルが、実はこっそりとミルフィにも顕現していたのだ。
ところが、ミルフィはその事に気が付いていない。知らず知らずに魔力に干渉されていたために、自覚がまったくないのである。
「簡単に倒せる魔物とはいっても、そんなに出回らないものなのですね」
「ええ。なんといっても解体が面倒ですからね。固すぎて解体できないですし、重くて持って帰るのも一苦労。それゆえに好んで狩りに行く方がいらっしゃらないんですよ」
「なるほどねぇ……」
事情を聞いてすんなりと納得できてしまった。
魔物のレベルが駆け出し程度でもどうにかできるのであれば、熟練者はまず出向かない。駆け出しの冒険者の装備はたかが知れているので、解体ができないし持ち運びもできない。それゆえに放置されてしまうというわけだ。
「私もミルフィさんと同じでおいしいを追求しますからね。まだ見ぬ食材を求めて、ストーンイーターリザードにも手を出してみたというわけなんです」
放置されているという魔物の肉ゆえに、興味を持ったというわけだ。
「そういえば、不思議と市場では見かけませんでしたね」
その話を聞いたミルフィが昨日の市場での様子を思い出す。聞いた通りの味であるなら、それなりに出回っていてもおかしくないからだ。
その言葉ににこっと笑うビュフェ。
「ええ、ストーンイーターリザードの肉は、当商会が独占状態になっています。先程の手間もありますし、駆け出し冒険者用の魔物でもありますから、乱獲ができないですね。ですので、当商会で雇った冒険者が組合の許可を得て、定期的に狩りに行ってもらっているという状態なんです」
なんともまぁ、複雑な事情があるようだった。
ミルフィとビュフェが話している間も、料理人たちは一生懸命料理を作っている。
珍しい肉で作られる料理を含めて、一体どんな料理ができ上がるというのだろうか。ミルフィはその様子をわくわくとした表情で見守るのだった。
(よく思えば、私が思いついたレシピってありましたっけ?)
そう、ミルフィは数々の料理を作ってはきたものの、ほぼすべてをピレシーから与えられた知識を元にしていたのだ。
ここにきて自分の中のレシピが空っぽな事に気が付いてしまったのだ。これでは見返りのレシピが提供できないと、頭を悩ませているのだ。
「うん、どうしましたかね」
ビュフェから問い掛けられるミルフィ。驚きのあまりに体をピンと硬直させてしまっていた。
(落ち着け私。いつまでもピレシー頼りではいけません。食で世界征服をすると宣いまくっているのですから、自分でなんとかしませんと)
顎に手を添えて唸るミルフィ。今までに覚えてきたレシピから何かいいものはないかと必死に考える。
だが、その時ミルフィは吹っ切れた。
(うん、先にビュフェさんの方からレシピを示してもらいましょう)
そう、自分が話した『見返り』という部分を利用することにしたのだ。
見返りということは、相手に先に提供してもらうことが前提だ。つまり、相手に料理を作らせる事で、自分の考える時間を確保しようというわけなのだった。
(ふふっ、私ってば天才ですね)
ちょっと悦に入るミルフィである。その自慢げな表情は、ビュフェたちを戸惑わせるには十分だった。
その状況に気が付いたミルフィは、ひとまず気にせずに話を進めることにする。
「だ、大丈夫ですか……ね?」
「ええ、大丈夫ですよ。何の問題もありません」
心配するビュフェを前に、にこりと微笑むミルフィである。
「では、そちらの料理を見せて頂いてよろしいでしょうか」
「ああ、そうでしたね。では、みなさん頼みますよ」
ビュフェの呼び掛けに応えて、厨房に居る料理人たちが一斉に料理を始める。ビュフェがやって来て声を掛けるだけで何をすればいいのか分かったらしい。それなりに意思疎通が取れているということだろう。
「今、みなさんは何を作っておられるのですか?」
「そうですね。この辺りで手に入る食材を利用した私どもの創作料理です。ミルフィさんも召し上がられた料理もそういった料理のひとつなのですよ」
「ふむふむ……」
ビュフェの説明に頷くミルフィである。
どうやらこの辺りで手に入る肉の類は、白っぽい肉質を持っているようだ。
「あれはメインに使う肉ですかね。見慣れない色をしていますけれど」
「よく肉だと分かりましたね。ストーンイーターリザードという、名の通り石を食らうトカゲの肉ですよ」
ミルフィの質問に、ビュフェからはすんなりと答えが返ってきた。
どうやらこの南の街の近くの岩場に棲む魔物の事らしい。
表皮が堅く、その重量感のせいで動きが鈍い。時々振り回してくるしっぽにさえ気を付ければ、さほど苦労せずに倒せる魔物なのだそうだ。
ただ、その表皮がゆえに解体に苦労するので、こうやって無事に解体して手に入る肉は少ない。外見に見合わず淡白で柔らかな肉質らしく、手ごろな魔物の割に高級食材なのだ。
さて、なぜミルフィがその肉の事を一発で見抜いたのかというと、単純にピレシーの影響だ。彼の持つ鑑定スキルが、実はこっそりとミルフィにも顕現していたのだ。
ところが、ミルフィはその事に気が付いていない。知らず知らずに魔力に干渉されていたために、自覚がまったくないのである。
「簡単に倒せる魔物とはいっても、そんなに出回らないものなのですね」
「ええ。なんといっても解体が面倒ですからね。固すぎて解体できないですし、重くて持って帰るのも一苦労。それゆえに好んで狩りに行く方がいらっしゃらないんですよ」
「なるほどねぇ……」
事情を聞いてすんなりと納得できてしまった。
魔物のレベルが駆け出し程度でもどうにかできるのであれば、熟練者はまず出向かない。駆け出しの冒険者の装備はたかが知れているので、解体ができないし持ち運びもできない。それゆえに放置されてしまうというわけだ。
「私もミルフィさんと同じでおいしいを追求しますからね。まだ見ぬ食材を求めて、ストーンイーターリザードにも手を出してみたというわけなんです」
放置されているという魔物の肉ゆえに、興味を持ったというわけだ。
「そういえば、不思議と市場では見かけませんでしたね」
その話を聞いたミルフィが昨日の市場での様子を思い出す。聞いた通りの味であるなら、それなりに出回っていてもおかしくないからだ。
その言葉ににこっと笑うビュフェ。
「ええ、ストーンイーターリザードの肉は、当商会が独占状態になっています。先程の手間もありますし、駆け出し冒険者用の魔物でもありますから、乱獲ができないですね。ですので、当商会で雇った冒険者が組合の許可を得て、定期的に狩りに行ってもらっているという状態なんです」
なんともまぁ、複雑な事情があるようだった。
ミルフィとビュフェが話している間も、料理人たちは一生懸命料理を作っている。
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