メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第三章

第78話 空気は読めぬもの

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 18日間という長旅を終えて、ミルフィたちはビュフェたちが拠点を置くという南の街へとやって来た。

「ここが南の街ですか。私が住んでいる街と違って暖かいですね」

 ミルフィは北の街を出てきた時には羽織っていた上着を脱いでいた。北の街は魔界まで近いために、暗くてひんやりしている。そのためにどうしても服装が分厚くなってしまうのだ。
 ところが、上着を脱いだミルフィの服装は、脱ぐ前とほぼ大差がなかった。

「ミルフィさん、まったく服装が変わりませんね」

「お恥ずかしながら、ドレスも上着も、同じデザインのしか持っていないのですよ。服を用意して下さる方の趣味みたいでして……ね」

 頬をかきながら照れつつ話すミルフィである。まったく、魔族とはいえ可愛らしい仕草である。

「長旅でお疲れかもしれませんが、ひとまずこの街の商業組合長にお会い頂けませんかね」

 ミルフィの姿にほっこりしながらも、ビュフェはミルフィに問い掛ける。
 この質問をするのは、当然の流れだ。
 商人であるなら商業組合、冒険者であるなら冒険者組合に挨拶をするのは、暗黙のマナーとなっているのだ。なので、ミルフィたちもまずは商業組合を訪れるべきだというわけである。
 ビュフェの言葉に、ミルフィはおとなしく従う。ミルフィも商会長をするようになってからそれなりに期間がある。その間にちょっとした伝手で知り合ったオーソンから、商人についてのあれこれを学んでいた。だからこそ、この流れには逆らわなかったのだ。

(ふっふ~ん。この街の商業組合長ってどんな方なのかしらね。挨拶を終えたら市場を回りたいわ。料理に使えそうな食材はチェックしなくちゃ)

 ビュフェたちの後ろについていきながら、楽しそうに笑みをこぼすミルフィである。

「まったく、姫様ったら楽しそうにしてるな」

「しっ、秘密にしろって言われたじゃないか。ここでは『嬢ちゃん』だぞ、トンカ」

「おっと悪い、そうだったな……」

 ミルフィの後ろでこそこそと話すトンカとナンカだった。だが、この会話、全部ミルフィに筒抜けだった。その事を二人が知るのは、後になってだった。

 商業組合に到着すると、知った声が響き渡った。

「おや、ミルフィ商会のミルフィちゃんじゃないですか。どうしてこちらに?」

「お久しぶりですね、レンダさん。こちらの方々と話しているうちに南の街に興味が湧きましてね。それに、別件もできたのでちょうどいいと思ってやって来たんです」

 にこにことした表情で事情を説明するミルフィ。隣には南の街ではなじみのあるビュフェたちが居るために、レンダは秒で事情を察したようだった。

「そうなんですね。実はうちの組合長が興味を示していましたので、正直なところちょうどよかったと思います。奥までご案内しますので、ついて来て下さい。……あなたたちもですよ」

「まあそうよね。挨拶しなきゃいけないですからね」

 ロビーで受付と話して帰ろうとしていたのか、ビュフェたちはレンダに捕まってため息をついていた。その様子を見ながらミルフィはくすくすと笑っていた。さすがは魔王の娘、魔王女ちゃんである。
 レンダの案内で、組合の建物の奥にある組合長の部屋へとやって来たミルフィたち。
 部屋の前に立って、レンダが扉を拳で叩いて中へと呼び掛ける。

「組合長、ビュフェたちが帰還致しました」

「おお、そうか。中に入れ」

 実に偉そうな言葉遣いが返ってくる。この言葉遣いの主がこの街の商業組合長なのだろう。
 とりあえず、挨拶をしないわけにはいかないので、ミルフィたちはレンダに続いて部屋の中へと入っていった。

「おう、長旅ご苦労だったな。そっちのちっこいのは初めて見るな。まあ、まずは自己紹介をしておこう。俺はこの街の商業組合の長であるメルグだ」

 小太りな男性は、席から立ち上がって挨拶をしている。どっしり座っているだけっぽい印象を受けたが、これはちょっと意外だった。

「これは商業組合長様、お初にお目にかかります。私は北の街で商会を営んでおりますミルフィと申します。此度は個人的所用のためにご訪問させて頂いております」

 スカートをつまんで頭を下げながら挨拶をするミルフィ。ティアたちメイドの指導のかいあって、そこらの淑女に負けないくらいの美しい所作を身に付けているのである。その姿に、思わず場にいた全員が息を飲むくらいだった。

「そうかい、嬢ちゃんが噂の商会長様ってわけか」

 メルグはそう言いながら、レンダの方へとギロリと視線をやる。

「どういう噂かは存じ上げませんが、私はおいしいのために日々精進しております。聞けばこの南の街まで伝播しているとのことで、個人として嬉しい限りでございます」

 ひたすら『個人』という単語を用いるミルフィである。まるで他人事を決め込んだかのような言い回しのようだ。
 実際、ミルフィの興味は南の街の食材に向いているので、面倒は避けたいのが本音なのである。
 ところが、このミルフィの発言で、部屋の中の空気がなんとも微妙に不穏になり始めていた。これには発言したミルフィも、思わず顔を引きつらせてしまうのだった。
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