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第三章
第70話 交渉のひと時
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ビュフェたちを前に、大きな態度に出るミルフィ。
テーブルに手をつくと、ぽつりぽつりと語りだした。
「以前に来られたレンダ様とアドン様もそうですが、だいぶ遠く離れた場所にも、この街の事が伝わっているようですね。これは実に嬉しい限りです」
にこにこと喜びの笑みを浮かべているミルフィ。ビュフェたちはその姿に警戒しているようだ。
「ご心配なく。先程も申しました通り、私の目的は世界中においしいを広める事です。言ってしまえば食による世界征服ですけれど、私は人を縛り付けるような真似はしませんよ。あくまでも私の料理を認めさせるだけですからね」
両手を腰に当ててふんすと息巻くミルフィである。
とんでもない単語が飛び出たというのに、このミルフィの言動にはまったくというほど威圧感も恐怖感も感じられない。これにはビュフェたちはつい顔を見合わせてしまうくらいだった。
「お気になるようでしたら、レシピをお売りしますよ。わざわざこちらまでお越し下さったんですから、お安くさせて頂きますとも」
にんまりと笑うミルフィ。これにはさっきは感じなかった恐怖を感じてしまうビュフェたちだった。
「いやですねぇ、なにも裏なんてありませんよ。先程も申しました通り、私はおいしいを広めたいだけなんですから。……ただ、知り合いが暴走して面倒なことになっていますけれどね」
なんともやるせない表情で、厨房の方へと視線を向けるミルフィ。
ピレシーとメディの暴走は、ミルフィにとっても頭が痛いようなのだ。
「ああ、耐性をつける料理だったかな。いや、あれはあれで面白いとは思ったけれどね」
ビュフェが意外にも興味を示していた。よく見れば他の商会関係者たちも同様であり、思わずあんぐりとしてしまうミルフィだった。
ミルフィがこんな反応をしてしまうのは、彼女が魔族の王女というの事も関係しているだろう。なぜなら、デバフが利きにくいからである。
デバフが利きにくいからこそ、耐性を身に付けるという感覚がないのだ。だからこそ驚いているわけである。
一方のビュフェたちは、そのミルフィの驚きに驚いていた。人間と魔族の違い、ここに極まれりである。
「そんなに興味を持たれましたか?」
ついつい尋ねてしまうミルフィ。
「私たち商人というのは、危険と隣り合わせというものなのですよ」
「そうそう。移動中に盗賊に襲われるということもしばしばありますからね」
「な、なるほど……」
返ってきた答えに、ミルフィは納得しているようだった。ミルフィ自身も襲撃の経験はあるからだ。ただ、護衛が強すぎてまったく問題にすらならなかった。
「あと、仕入れのために危険な地域に行く事もありますので、耐性を付けられるとあれば護衛の冒険者たちの負担を減らせますからね」
「ふむふむ、なるほどですね」
ミルフィはビュフェたちの話をとても真剣に聞いていた。
自分には必要ないと思って乗り気ではなかったものの、こういった証言が聞けると気持ちが変わるものである。
「しかし、あの料理のレシピとなると、私の一存では決められませんね。薬師であるメディに確認を取らないといけません」
とはいえ、ミルフィはまだまだ慎重だった。なにせ自分は料理を作っただけなのだから。
あのレシピを考えたのはピレシーとメディの二人だ。なので、自分だけで決めるわけにはいかなかったのである。魔王の娘とはいえ商会の会長だ。そこはきちんと弁えているのである。
そこでミルフィは、壁際に立っていたティアはそばに呼びつける。
「ちょっとお待ち下さいね。私の一存だけでは決められませんので、ちょっと相談をして参ります。ティア、その間のお相手を頼みますね」
「畏まりました、ミルフィ様」
ビュフェたちの相手をティアに任せて、ミルフィはメディたちの居る厨房へと向かった。
そして、しばらくすると応接室に戻ってきた。思った以上に早い帰還である。
「お待たせ致しました。考案者からは許可が下りましたけれど、レシピとなると少々時間が欲しいようです。ですので、今すぐにというわけにはいかないようですね」
どうやらメディとピレシーからすんなりと許しが出たようだったが、そのための対応となると少し時間が必要との事だったのだ。故にミルフィだけが戻ってきたというわけである。
「待つ間に他の事をさっさと決めてしまいましょう。もちろん、一方的にこちらからレシピを売りつけるだけでは商売ではございませんのでね。あなた方の取り扱いのあるものから、多少なりと私どもも買わさせて頂こうと思います。それでこそ商売というものですからね」
再び交渉の席に着いたミルフィの言葉と表情に、その場に居たビュフェたち南の街の商人たちは思わず飲まれてしまいそうになった。これがまだ10歳かそこらくらいの少女なのだろうか。
だがしかし、先輩商売人として負けるわけにはいかない。
メディがまとめている薬効レシピが届くまでの間、双方の間で激しい交渉が行われたのだった。
テーブルに手をつくと、ぽつりぽつりと語りだした。
「以前に来られたレンダ様とアドン様もそうですが、だいぶ遠く離れた場所にも、この街の事が伝わっているようですね。これは実に嬉しい限りです」
にこにこと喜びの笑みを浮かべているミルフィ。ビュフェたちはその姿に警戒しているようだ。
「ご心配なく。先程も申しました通り、私の目的は世界中においしいを広める事です。言ってしまえば食による世界征服ですけれど、私は人を縛り付けるような真似はしませんよ。あくまでも私の料理を認めさせるだけですからね」
両手を腰に当ててふんすと息巻くミルフィである。
とんでもない単語が飛び出たというのに、このミルフィの言動にはまったくというほど威圧感も恐怖感も感じられない。これにはビュフェたちはつい顔を見合わせてしまうくらいだった。
「お気になるようでしたら、レシピをお売りしますよ。わざわざこちらまでお越し下さったんですから、お安くさせて頂きますとも」
にんまりと笑うミルフィ。これにはさっきは感じなかった恐怖を感じてしまうビュフェたちだった。
「いやですねぇ、なにも裏なんてありませんよ。先程も申しました通り、私はおいしいを広めたいだけなんですから。……ただ、知り合いが暴走して面倒なことになっていますけれどね」
なんともやるせない表情で、厨房の方へと視線を向けるミルフィ。
ピレシーとメディの暴走は、ミルフィにとっても頭が痛いようなのだ。
「ああ、耐性をつける料理だったかな。いや、あれはあれで面白いとは思ったけれどね」
ビュフェが意外にも興味を示していた。よく見れば他の商会関係者たちも同様であり、思わずあんぐりとしてしまうミルフィだった。
ミルフィがこんな反応をしてしまうのは、彼女が魔族の王女というの事も関係しているだろう。なぜなら、デバフが利きにくいからである。
デバフが利きにくいからこそ、耐性を身に付けるという感覚がないのだ。だからこそ驚いているわけである。
一方のビュフェたちは、そのミルフィの驚きに驚いていた。人間と魔族の違い、ここに極まれりである。
「そんなに興味を持たれましたか?」
ついつい尋ねてしまうミルフィ。
「私たち商人というのは、危険と隣り合わせというものなのですよ」
「そうそう。移動中に盗賊に襲われるということもしばしばありますからね」
「な、なるほど……」
返ってきた答えに、ミルフィは納得しているようだった。ミルフィ自身も襲撃の経験はあるからだ。ただ、護衛が強すぎてまったく問題にすらならなかった。
「あと、仕入れのために危険な地域に行く事もありますので、耐性を付けられるとあれば護衛の冒険者たちの負担を減らせますからね」
「ふむふむ、なるほどですね」
ミルフィはビュフェたちの話をとても真剣に聞いていた。
自分には必要ないと思って乗り気ではなかったものの、こういった証言が聞けると気持ちが変わるものである。
「しかし、あの料理のレシピとなると、私の一存では決められませんね。薬師であるメディに確認を取らないといけません」
とはいえ、ミルフィはまだまだ慎重だった。なにせ自分は料理を作っただけなのだから。
あのレシピを考えたのはピレシーとメディの二人だ。なので、自分だけで決めるわけにはいかなかったのである。魔王の娘とはいえ商会の会長だ。そこはきちんと弁えているのである。
そこでミルフィは、壁際に立っていたティアはそばに呼びつける。
「ちょっとお待ち下さいね。私の一存だけでは決められませんので、ちょっと相談をして参ります。ティア、その間のお相手を頼みますね」
「畏まりました、ミルフィ様」
ビュフェたちの相手をティアに任せて、ミルフィはメディたちの居る厨房へと向かった。
そして、しばらくすると応接室に戻ってきた。思った以上に早い帰還である。
「お待たせ致しました。考案者からは許可が下りましたけれど、レシピとなると少々時間が欲しいようです。ですので、今すぐにというわけにはいかないようですね」
どうやらメディとピレシーからすんなりと許しが出たようだったが、そのための対応となると少し時間が必要との事だったのだ。故にミルフィだけが戻ってきたというわけである。
「待つ間に他の事をさっさと決めてしまいましょう。もちろん、一方的にこちらからレシピを売りつけるだけでは商売ではございませんのでね。あなた方の取り扱いのあるものから、多少なりと私どもも買わさせて頂こうと思います。それでこそ商売というものですからね」
再び交渉の席に着いたミルフィの言葉と表情に、その場に居たビュフェたち南の街の商人たちは思わず飲まれてしまいそうになった。これがまだ10歳かそこらくらいの少女なのだろうか。
だがしかし、先輩商売人として負けるわけにはいかない。
メディがまとめている薬効レシピが届くまでの間、双方の間で激しい交渉が行われたのだった。
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