メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
70 / 113
第三章

第70話 交渉のひと時

しおりを挟む
 ビュフェたちを前に、大きな態度に出るミルフィ。
 テーブルに手をつくと、ぽつりぽつりと語りだした。

「以前に来られたレンダ様とアドン様もそうですが、だいぶ遠く離れた場所にも、この街の事が伝わっているようですね。これは実に嬉しい限りです」

 にこにこと喜びの笑みを浮かべているミルフィ。ビュフェたちはその姿に警戒しているようだ。

「ご心配なく。先程も申しました通り、私の目的は世界中においしいを広める事です。言ってしまえば食による世界征服ですけれど、私は人を縛り付けるような真似はしませんよ。あくまでも私の料理を認めさせるだけですからね」

 両手を腰に当ててふんすと息巻くミルフィである。
 とんでもない単語が飛び出たというのに、このミルフィの言動にはまったくというほど威圧感も恐怖感も感じられない。これにはビュフェたちはつい顔を見合わせてしまうくらいだった。

「お気になるようでしたら、レシピをお売りしますよ。わざわざこちらまでお越し下さったんですから、お安くさせて頂きますとも」

 にんまりと笑うミルフィ。これにはさっきは感じなかった恐怖を感じてしまうビュフェたちだった。

「いやですねぇ、なにも裏なんてありませんよ。先程も申しました通り、私はおいしいを広めたいだけなんですから。……ただ、知り合いが暴走して面倒なことになっていますけれどね」

 なんともやるせない表情で、厨房の方へと視線を向けるミルフィ。
 ピレシーとメディの暴走は、ミルフィにとっても頭が痛いようなのだ。

「ああ、耐性をつける料理だったかな。いや、あれはあれで面白いとは思ったけれどね」

 ビュフェが意外にも興味を示していた。よく見れば他の商会関係者たちも同様であり、思わずあんぐりとしてしまうミルフィだった。
 ミルフィがこんな反応をしてしまうのは、彼女が魔族の王女というの事も関係しているだろう。なぜなら、デバフが利きにくいからである。
 デバフが利きにくいからこそ、耐性を身に付けるという感覚がないのだ。だからこそ驚いているわけである。
 一方のビュフェたちは、そのミルフィの驚きに驚いていた。人間と魔族の違い、ここに極まれりである。

「そんなに興味を持たれましたか?」

 ついつい尋ねてしまうミルフィ。

「私たち商人というのは、危険と隣り合わせというものなのですよ」

「そうそう。移動中に盗賊に襲われるということもしばしばありますからね」

「な、なるほど……」

 返ってきた答えに、ミルフィは納得しているようだった。ミルフィ自身も襲撃の経験はあるからだ。ただ、護衛が強すぎてまったく問題にすらならなかった。

「あと、仕入れのために危険な地域に行く事もありますので、耐性を付けられるとあれば護衛の冒険者たちの負担を減らせますからね」

「ふむふむ、なるほどですね」

 ミルフィはビュフェたちの話をとても真剣に聞いていた。
 自分には必要ないと思って乗り気ではなかったものの、こういった証言が聞けると気持ちが変わるものである。

「しかし、あの料理のレシピとなると、私の一存では決められませんね。薬師であるメディに確認を取らないといけません」

 とはいえ、ミルフィはまだまだ慎重だった。なにせ自分は料理を作っただけなのだから。
 あのレシピを考えたのはピレシーとメディの二人だ。なので、自分だけで決めるわけにはいかなかったのである。魔王の娘とはいえ商会の会長だ。そこはきちんと弁えているのである。
 そこでミルフィは、壁際に立っていたティアはそばに呼びつける。

「ちょっとお待ち下さいね。私の一存だけでは決められませんので、ちょっと相談をして参ります。ティア、その間のお相手を頼みますね」

「畏まりました、ミルフィ様」

 ビュフェたちの相手をティアに任せて、ミルフィはメディたちの居る厨房へと向かった。
 そして、しばらくすると応接室に戻ってきた。思った以上に早い帰還である。

「お待たせ致しました。考案者からは許可が下りましたけれど、レシピとなると少々時間が欲しいようです。ですので、今すぐにというわけにはいかないようですね」

 どうやらメディとピレシーからすんなりと許しが出たようだったが、そのための対応となると少し時間が必要との事だったのだ。故にミルフィだけが戻ってきたというわけである。

「待つ間に他の事をさっさと決めてしまいましょう。もちろん、一方的にこちらからレシピを売りつけるだけでは商売ではございませんのでね。あなた方の取り扱いのあるものから、多少なりと私どもも買わさせて頂こうと思います。それでこそ商売というものですからね」

 再び交渉の席に着いたミルフィの言葉と表情に、その場に居たビュフェたち南の街の商人たちは思わず飲まれてしまいそうになった。これがまだ10歳かそこらくらいの少女なのだろうか。
 だがしかし、先輩商売人として負けるわけにはいかない。
 メディがまとめている薬効レシピが届くまでの間、双方の間で激しい交渉が行われたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【一時完結】スキル調味料は最強⁉︎ 外れスキルと笑われた少年は、スキル調味料で無双します‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
調味料…それは、料理の味付けに使う為のスパイスである。 この世界では、10歳の子供達には神殿に行き…神託の儀を受ける義務がある。 ただし、特別な理由があれば、断る事も出来る。 少年テッドが神託の儀を受けると、神から与えられたスキルは【調味料】だった。 更にどんなに料理の練習をしても上達しないという追加の神託も授かったのだ。 そんな話を聞いた周りの子供達からは大爆笑され…一緒に付き添っていた大人達も一緒に笑っていた。 少年テッドには、両親を亡くしていて妹達の面倒を見なければならない。 どんな仕事に着きたくて、頭を下げて頼んでいるのに「調味料には必要ない!」と言って断られる始末。 少年テッドの最後に取った行動は、冒険者になる事だった。 冒険者になってから、薬草採取の仕事をこなしていってったある時、魔物に襲われて咄嗟に調味料を魔物に放った。 すると、意外な効果があり…その後テッドはスキル調味料の可能性に気付く… 果たして、その可能性とは⁉ HOTランキングは、最高は2位でした。 皆様、ありがとうございます.°(ಗдಗ。)°. でも、欲を言えば、1位になりたかった(⌒-⌒; )

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

処理中です...