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第三章
第63話 こだわりが強い
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大量の素材を手に入れたメディだったが、魔界の拠点から帰る前にミルフィにふと質問をしてきた。
「ふと思ったんだが、ミルフィ殿は私に売り払うこの素材で料理をしようとは思わなかったのか?」
「あー……」
メディの質問に、思わず目を泳がせるミルフィである。
「なんと言いますかね、食材として見るにはちょっと抵抗があるのですよ。内臓とかですからね」
「それは確かにそうだな。しかし、薬の材料になるという事は、口に入れられるものであるということなんだ。調理の仕方次第では、料理にできる事はないだろうかね」
メディに言われて思い悩むミルフィである。
そんな時だった。思わぬ乱入者が二人の前に現れた。
”それは確かに一理あるな。薬膳なる料理があるにはあるのだしな”
「ピレシー」
呼んでもないのに出てくる食の魔導書である。
”とはいうても、植物系がほとんどで獣の内臓を使うことはない。残念だったな”
「ちぇ~……、それは本当に残念だ」
ピレシーの存在に驚きつつも、メディは本当に残念そうにしていた。
「そんな顔をされても困りますよ。というか、魔族の食事だって、以前は生の状態の肉とか食べてましたからね。……ああ、思い出しただけで吐きそうですよ」
ミルフィは以前の魔族たちの食事を思い出して、露骨なまでに嫌な表情をしていた。そのくらいには、ミルフィの中ではトラウマとなっているようだった。
そのミルフィの表情と言葉を聞いて、
「ああ、そんなに嫌ならもう私も何も言わない。すまなかった」
メディは素直に謝罪して口をつぐんだのだった。
「それはそうとして、この量をどうやって持って帰るつもりなんですかね?」
ふと思った疑問を素直に口にするミルフィである。
それに対してメディはにやりと笑みを浮かべて反応をしている。
「ふふん、私をただの薬師と思っておったかな? 大量のポーションを作り出す私は、常に大量の道具を持っていることになる」
「まぁそうですよね」
メディの言葉に納得するミルフィ。その反応を見てメディは言葉を続けている。
「だが、家の大きさを考えるとその許容量は知れている。となれば、そこで必須のものが出てくるというわけだ」
「……収納魔法ですか」
「その通り」
人差し指を立てた状態でミルフィに迫るメディ。その迫力に、つい押されてしまうミルフィである。なんといってもまだ10歳を少し過ぎたばかりの年齢なのだから、怖くなる事だってあるのだ。
「ふふん、魔王女とはいえど、まだまだ子どもだな。とはいえ、これからは大事な付き合いになる相手だし、からかうのはやめておくよ」
ミルフィに突き出した人差し指を自分の唇に当てて笑うメディである。その姿に、ミルフィもつられるようにして笑っていた。
「しかし、年齢の割にいろいろ詳しいと思っていたら、こんなものがついていたとはな……」
急に真面目な顔になったメディは、隣に浮くピレシーを見ている。
”うむ。食に対して真剣で純粋な気持ちを持つ主の願いに応えたまでよ。魔導書とは本来そのようなものなのだからな”
どこか誇らしげな口調のピレシーである。
”しかしだ。薬の材料になるというのであれば、料理に混ぜ込むというのはありと言えるだろうな。すぐに思い当たるわけではないが、我のレシピは多岐にわたる。調べればいい使い方が出てくるであろうぞ”
そして、ノリノリな感じでそう言い放っていた。
「……苦いのは嫌ですよ」
だが、ミルフィは一応釘を刺しておいた。
「薬は苦いものだぞ」
”その通りだ。だが、主を困らせるのは我の存在意義とはかけ離れておるからな。どうにかしてみせようではないか”
メディの言葉を肯定しながらも、ピレシーはミルフィに対して約束するのだった。
まあ、食の魔導書としての意地があるのだろう。その悩ましそうにしている姿に、ミルフィはつい笑ってしまうのだった。
”むむっ、主よ、なぜ笑うのかな?”
「いえ、ごめんなさい。ピレシーがあまりにも真剣に悩んでいるものだから、ついおかしく思ってしまいましてね」
”ぐぬぬぬ……”
あまりにミルフィが笑うものだから、ピレシーはそれなりにショックを受けていたようだった。
「でも、相棒が頑張ろうとしているんですから応援しますよ。いつもは私がされている事ですしね」
ミルフィは一応のフォローを入れておく。すると、ピレシーは少し機嫌を直したようだった。
「それにしてもだ。私がポーション以外に気を引かれることになろうとはな。ミルフィ殿がこれからどんな料理を作っていくのか、楽しみにしようではないかな」
「お店に来てくれるんだったらいつでも歓迎ですよ。言ってくれればお会いしますし」
にこにこと笑うメディに対して、ミルフィも精一杯の笑顔で返していた。
”やれやれ。薬膳を考えるのは我の領分ぞ。まったく、気楽なものだな”
ついつい憎まれ口を叩くピレシーである。
なんだかんだという間に話もまとまり、メディは一生懸命収納魔法に対して素材を放り込んでいた。それはもう鼻歌を歌いながら一心不乱にである。
「メディさんの収納魔法は、ピレシーと同じようなものなのでしょうかね」
”おそらくはそうだろうな。特定の分野に特化した収納魔法だと思われる。我の収納魔法が食材をいくらでも入れられるように、彼女もまた薬に関係したものをいくらでもしまえるのだろう”
「鋭いね。正解ではあるが一か所惜しいな。無尽蔵とまでいかんのだよ、人間の場合はな。だが、これくらいなら問題はないよ」
ミルフィたちの会話に反応しながら、メディは素材をすべて収納魔法に放り込み終わってしまった。
「さあ、帰ろうか。ポーションが私を待っている」
素材をしまい終わった時に放ったメディの言葉に、つい吹き出してしまうミルフィだった。
「本当に薬の事でいっぱいなんですね」
「薬師だからね」
にこりと言い放つメディであった。
そして、すっかり満足したメディは、ミルフィたちと一緒に街まで戻ったのであった。
「ふと思ったんだが、ミルフィ殿は私に売り払うこの素材で料理をしようとは思わなかったのか?」
「あー……」
メディの質問に、思わず目を泳がせるミルフィである。
「なんと言いますかね、食材として見るにはちょっと抵抗があるのですよ。内臓とかですからね」
「それは確かにそうだな。しかし、薬の材料になるという事は、口に入れられるものであるということなんだ。調理の仕方次第では、料理にできる事はないだろうかね」
メディに言われて思い悩むミルフィである。
そんな時だった。思わぬ乱入者が二人の前に現れた。
”それは確かに一理あるな。薬膳なる料理があるにはあるのだしな”
「ピレシー」
呼んでもないのに出てくる食の魔導書である。
”とはいうても、植物系がほとんどで獣の内臓を使うことはない。残念だったな”
「ちぇ~……、それは本当に残念だ」
ピレシーの存在に驚きつつも、メディは本当に残念そうにしていた。
「そんな顔をされても困りますよ。というか、魔族の食事だって、以前は生の状態の肉とか食べてましたからね。……ああ、思い出しただけで吐きそうですよ」
ミルフィは以前の魔族たちの食事を思い出して、露骨なまでに嫌な表情をしていた。そのくらいには、ミルフィの中ではトラウマとなっているようだった。
そのミルフィの表情と言葉を聞いて、
「ああ、そんなに嫌ならもう私も何も言わない。すまなかった」
メディは素直に謝罪して口をつぐんだのだった。
「それはそうとして、この量をどうやって持って帰るつもりなんですかね?」
ふと思った疑問を素直に口にするミルフィである。
それに対してメディはにやりと笑みを浮かべて反応をしている。
「ふふん、私をただの薬師と思っておったかな? 大量のポーションを作り出す私は、常に大量の道具を持っていることになる」
「まぁそうですよね」
メディの言葉に納得するミルフィ。その反応を見てメディは言葉を続けている。
「だが、家の大きさを考えるとその許容量は知れている。となれば、そこで必須のものが出てくるというわけだ」
「……収納魔法ですか」
「その通り」
人差し指を立てた状態でミルフィに迫るメディ。その迫力に、つい押されてしまうミルフィである。なんといってもまだ10歳を少し過ぎたばかりの年齢なのだから、怖くなる事だってあるのだ。
「ふふん、魔王女とはいえど、まだまだ子どもだな。とはいえ、これからは大事な付き合いになる相手だし、からかうのはやめておくよ」
ミルフィに突き出した人差し指を自分の唇に当てて笑うメディである。その姿に、ミルフィもつられるようにして笑っていた。
「しかし、年齢の割にいろいろ詳しいと思っていたら、こんなものがついていたとはな……」
急に真面目な顔になったメディは、隣に浮くピレシーを見ている。
”うむ。食に対して真剣で純粋な気持ちを持つ主の願いに応えたまでよ。魔導書とは本来そのようなものなのだからな”
どこか誇らしげな口調のピレシーである。
”しかしだ。薬の材料になるというのであれば、料理に混ぜ込むというのはありと言えるだろうな。すぐに思い当たるわけではないが、我のレシピは多岐にわたる。調べればいい使い方が出てくるであろうぞ”
そして、ノリノリな感じでそう言い放っていた。
「……苦いのは嫌ですよ」
だが、ミルフィは一応釘を刺しておいた。
「薬は苦いものだぞ」
”その通りだ。だが、主を困らせるのは我の存在意義とはかけ離れておるからな。どうにかしてみせようではないか”
メディの言葉を肯定しながらも、ピレシーはミルフィに対して約束するのだった。
まあ、食の魔導書としての意地があるのだろう。その悩ましそうにしている姿に、ミルフィはつい笑ってしまうのだった。
”むむっ、主よ、なぜ笑うのかな?”
「いえ、ごめんなさい。ピレシーがあまりにも真剣に悩んでいるものだから、ついおかしく思ってしまいましてね」
”ぐぬぬぬ……”
あまりにミルフィが笑うものだから、ピレシーはそれなりにショックを受けていたようだった。
「でも、相棒が頑張ろうとしているんですから応援しますよ。いつもは私がされている事ですしね」
ミルフィは一応のフォローを入れておく。すると、ピレシーは少し機嫌を直したようだった。
「それにしてもだ。私がポーション以外に気を引かれることになろうとはな。ミルフィ殿がこれからどんな料理を作っていくのか、楽しみにしようではないかな」
「お店に来てくれるんだったらいつでも歓迎ですよ。言ってくれればお会いしますし」
にこにこと笑うメディに対して、ミルフィも精一杯の笑顔で返していた。
”やれやれ。薬膳を考えるのは我の領分ぞ。まったく、気楽なものだな”
ついつい憎まれ口を叩くピレシーである。
なんだかんだという間に話もまとまり、メディは一生懸命収納魔法に対して素材を放り込んでいた。それはもう鼻歌を歌いながら一心不乱にである。
「メディさんの収納魔法は、ピレシーと同じようなものなのでしょうかね」
”おそらくはそうだろうな。特定の分野に特化した収納魔法だと思われる。我の収納魔法が食材をいくらでも入れられるように、彼女もまた薬に関係したものをいくらでもしまえるのだろう”
「鋭いね。正解ではあるが一か所惜しいな。無尽蔵とまでいかんのだよ、人間の場合はな。だが、これくらいなら問題はないよ」
ミルフィたちの会話に反応しながら、メディは素材をすべて収納魔法に放り込み終わってしまった。
「さあ、帰ろうか。ポーションが私を待っている」
素材をしまい終わった時に放ったメディの言葉に、つい吹き出してしまうミルフィだった。
「本当に薬の事でいっぱいなんですね」
「薬師だからね」
にこりと言い放つメディであった。
そして、すっかり満足したメディは、ミルフィたちと一緒に街まで戻ったのであった。
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