メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
63 / 113
第三章

第63話 こだわりが強い

しおりを挟む
 大量の素材を手に入れたメディだったが、魔界の拠点から帰る前にミルフィにふと質問をしてきた。

「ふと思ったんだが、ミルフィ殿は私に売り払うこの素材で料理をしようとは思わなかったのか?」

「あー……」

 メディの質問に、思わず目を泳がせるミルフィである。

「なんと言いますかね、食材として見るにはちょっと抵抗があるのですよ。内臓とかですからね」

「それは確かにそうだな。しかし、薬の材料になるという事は、口に入れられるものであるということなんだ。調理の仕方次第では、料理にできる事はないだろうかね」

 メディに言われて思い悩むミルフィである。
 そんな時だった。思わぬ乱入者が二人の前に現れた。

”それは確かに一理あるな。薬膳なる料理があるにはあるのだしな”

「ピレシー」

 呼んでもないのに出てくる食の魔導書である。

”とはいうても、植物系がほとんどで獣の内臓を使うことはない。残念だったな”

「ちぇ~……、それは本当に残念だ」

 ピレシーの存在に驚きつつも、メディは本当に残念そうにしていた。

「そんな顔をされても困りますよ。というか、魔族の食事だって、以前は生の状態の肉とか食べてましたからね。……ああ、思い出しただけで吐きそうですよ」

 ミルフィは以前の魔族たちの食事を思い出して、露骨なまでに嫌な表情をしていた。そのくらいには、ミルフィの中ではトラウマとなっているようだった。
 そのミルフィの表情と言葉を聞いて、

「ああ、そんなに嫌ならもう私も何も言わない。すまなかった」

 メディは素直に謝罪して口をつぐんだのだった。

「それはそうとして、この量をどうやって持って帰るつもりなんですかね?」

 ふと思った疑問を素直に口にするミルフィである。
 それに対してメディはにやりと笑みを浮かべて反応をしている。

「ふふん、私をただの薬師と思っておったかな? 大量のポーションを作り出す私は、常に大量の道具を持っていることになる」

「まぁそうですよね」

 メディの言葉に納得するミルフィ。その反応を見てメディは言葉を続けている。

「だが、家の大きさを考えるとその許容量は知れている。となれば、そこで必須のものが出てくるというわけだ」

「……収納魔法ですか」

「その通り」

 人差し指を立てた状態でミルフィに迫るメディ。その迫力に、つい押されてしまうミルフィである。なんといってもまだ10歳を少し過ぎたばかりの年齢なのだから、怖くなる事だってあるのだ。

「ふふん、魔王女とはいえど、まだまだ子どもだな。とはいえ、これからは大事な付き合いになる相手だし、からかうのはやめておくよ」

 ミルフィに突き出した人差し指を自分の唇に当てて笑うメディである。その姿に、ミルフィもつられるようにして笑っていた。

「しかし、年齢の割にいろいろ詳しいと思っていたら、こんなものがついていたとはな……」

 急に真面目な顔になったメディは、隣に浮くピレシーを見ている。

”うむ。食に対して真剣で純粋な気持ちを持つ主の願いに応えたまでよ。魔導書とは本来そのようなものなのだからな”

 どこか誇らしげな口調のピレシーである。

”しかしだ。薬の材料になるというのであれば、料理に混ぜ込むというのはありと言えるだろうな。すぐに思い当たるわけではないが、我のレシピは多岐にわたる。調べればいい使い方が出てくるであろうぞ”

 そして、ノリノリな感じでそう言い放っていた。

「……苦いのは嫌ですよ」

 だが、ミルフィは一応釘を刺しておいた。

「薬は苦いものだぞ」

”その通りだ。だが、主を困らせるのは我の存在意義とはかけ離れておるからな。どうにかしてみせようではないか”

 メディの言葉を肯定しながらも、ピレシーはミルフィに対して約束するのだった。
 まあ、食の魔導書としての意地があるのだろう。その悩ましそうにしている姿に、ミルフィはつい笑ってしまうのだった。

”むむっ、主よ、なぜ笑うのかな?”

「いえ、ごめんなさい。ピレシーがあまりにも真剣に悩んでいるものだから、ついおかしく思ってしまいましてね」

”ぐぬぬぬ……”

 あまりにミルフィが笑うものだから、ピレシーはそれなりにショックを受けていたようだった。

「でも、相棒が頑張ろうとしているんですから応援しますよ。いつもは私がされている事ですしね」

 ミルフィは一応のフォローを入れておく。すると、ピレシーは少し機嫌を直したようだった。

「それにしてもだ。私がポーション以外に気を引かれることになろうとはな。ミルフィ殿がこれからどんな料理を作っていくのか、楽しみにしようではないかな」

「お店に来てくれるんだったらいつでも歓迎ですよ。言ってくれればお会いしますし」

 にこにこと笑うメディに対して、ミルフィも精一杯の笑顔で返していた。

”やれやれ。薬膳を考えるのは我の領分ぞ。まったく、気楽なものだな”

 ついつい憎まれ口を叩くピレシーである。
 なんだかんだという間に話もまとまり、メディは一生懸命収納魔法に対して素材を放り込んでいた。それはもう鼻歌を歌いながら一心不乱にである。

「メディさんの収納魔法は、ピレシーと同じようなものなのでしょうかね」

”おそらくはそうだろうな。特定の分野に特化した収納魔法だと思われる。我の収納魔法が食材をいくらでも入れられるように、彼女もまた薬に関係したものをいくらでもしまえるのだろう”

「鋭いね。正解ではあるが一か所惜しいな。無尽蔵とまでいかんのだよ、人間の場合はな。だが、これくらいなら問題はないよ」

 ミルフィたちの会話に反応しながら、メディは素材をすべて収納魔法に放り込み終わってしまった。

「さあ、帰ろうか。ポーションが私を待っている」

 素材をしまい終わった時に放ったメディの言葉に、つい吹き出してしまうミルフィだった。

「本当に薬の事でいっぱいなんですね」

「薬師だからね」

 にこりと言い放つメディであった。
 そして、すっかり満足したメディは、ミルフィたちと一緒に街まで戻ったのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん達のTRPG日記 ~七人の《魔導書使い》が四篇の《聖典》を奪い合いながら迷宮戦争やってみた!~

書記係K君
ファンタジー
剣と魔法の幻想世界・リンガイア大陸―― この世界には、自らの霊魂から《魔導書-デッキ-》を創り出し、神与の秘術《魔法-ゴスペル-》を綴り蒐集し、 神秘を使役する《魔導書使い-ウィザード-》と呼ばれる者達がいた。彼らが探し求めるのは、 あらゆる願望を叶えると云う伝説の魔導書《聖典》――。 この物語は、聖遺物《聖典》が封印された聖域《福音の迷宮》への入境を許された 選ばれし七人の《魔導書使い-ウィザード-》達が、七騎の《英雄譚-アルカナ-》を従えて 七つの陣営となり、四篇に別れた《聖典の断章》を蒐集すべく奪い合い、命を賭して覇を争う決闘劇。 其の戦いは、後世に《迷宮戦争》と謳われた―― ――という設定で、おっさん達がまったりと「TRPG」を遊ぶだけのお話だよ(ノ・∀・)ノ⌒◇

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...