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第三章
第62話 ゴミではなく宝の山
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「くっふぅ~。これは宝の山ではないか」
魔界の拠点について倉庫を見たメディが発狂していた。まさに狂喜乱舞と言わんばかりの喜びようである。
「よ、喜んでもらえて、嬉しい限りですよ」
さすがのミルフィもここまでになると顔を引きつらせていた。予想以上の反応だったからだ。
それはもう愛おしそうに、倉庫に置かれた素材たちに視線を向けている。薬師であるメディにとっては、どうやらお宝の山らしい。
「これだけあればいろいろと新しい薬も試せるし、既存の薬もより効果の高いものを作る事ができる。くぅ……、ここが宝物庫だったか……」
そして、最後には泣きながら崩れ落ちていた。
「えと、あの……。よろしければお持ち帰りになりますか?」
ミルフィがおそるおそる声を掛けると、メディはすくっと立ち上がる。そして、振り返ってミルフィの手を握りながら喋り始めた。
「いやあ、仕事を中断してまでここに来たかいがあったというものだよ。素晴らしい、言い値で買おう」
この上ない笑顔のメディである。しかもよく見れば、うっすらと涙が見える。喜びのあまりに感極まったようだった。
メディのこの反応には、ミルフィも困惑し通しである。ここまでとは予想していなかったのだ。
「えっとですね……。売りたいのは山々なんですけれど、調べてみても相場がよく分かりませんでしてね……。ですので、類似品の相場を元に設定させて頂きますけれど、よろしいでしょうか」
「一向に構わんよ」
戸惑いを隠せないミルフィは、値段に関して弱腰に交渉を持ちかけてみたのだが、メディはあっさりと了承してきた。
どうやら、珍しい素材ばかりで金に糸目をつける気がなさそうである。そのくらいには人間たちにとって貴重な素材も紛れているようだった。
そこで、処分にも困っていたので、少し安めに値段を設定して改めて交渉すると、メディはものすごく怪訝な目を向けてきた。
「いいのか? その値段で」
「はい。処分しきれずに腐らせるよりはマシかと思いますから」
「そうか。まだ新鮮そうに見えるのだがな」
「いえ、かれこれ7日間ほどはここにありますよ。感じての通り、ここは庫内を冷やしている場所ですので、腐敗速度を遅めてあるのです」
「なんとまぁ、そんな技術があるのか」
冷蔵庫の中に居るのに、メディはその事に気が付いていなかったようだ。
なので、ミルフィはカフェや商会にも導入している冷蔵庫の話をしておいた。魔石に冷やす魔法を込めて、それを徐々に解放させる事で中のものを冷やすという技術である。これにはメディの目の色が変わっていた。
「薬師としては材料の確保が最大の問題だからな。長期とは言わずとも、そこそこの期間ものを劣化させずに保存できるというのは重要な話だ。よければ、その冷蔵庫とやらも買うぞ。今までの儲けがあるし、金に糸目はつけよ」
メディがやたらぐいぐいとくる。
眼鏡に手を掛けながら、ミルフィとの身長差のせいで前かがみになるメディである。
「わ、分かりましたから。ちょっと、責任者を呼んできて。交渉に入るわよ」
「承知致しました、ミルフィ様」
じりじりと下がるミルフィは、大声でティアに指示を出した。
それを受けて、ティアはすぐさま拠点の責任者を呼びに行ったのだった。
その結果、拠点で宝の持ち腐れになりかけていた物品は、かなりの値段でメディに売る事となった。
魔族からしてもごみのような品の山だったので、責任者も正直驚きを隠せなかった。
「いやはや、こんな値段になるとは……」
「うむ、これでいろんなポーションが作れるし、新しい薬も作れそうだ。実に感謝しているぞ」
満面の笑みのメディである。
「ただ、この量だと使い切るには時間がかかりそうだ。在庫がなくなりそうだったらミルフィ商会に注文を出すとするよ」
「ええ、そうして頂けると助かります。私の役に立てると思ったら、加減が分からない人ばかりなのですよ……」
苦笑いを浮かべながら、拠点に居る魔族たちに視線を向けるミルフィである。
「わはははは、分かる分かる。ミルフィさんはみんなに好かれているんだな。好きなものに対してだからこそ、みんな張り切ってしまうというものだろう」
大声で笑いながらメディが話している。ミルフィは面食らっていたものの、戻ってきたティアがものすごく頷いていた。
「分かりますね。魔王様の娘だからといってついて来ている方もいらっしゃいますが、基本的に私たちはミルフィ様が好きなのですよ」
「えっ、そうなの? 私、てっきりわがままなお姫様と思われてるだけかと思っていましたのに」
「えっ、それは思っていますよ?」
ティアの言い分にミルフィが言い返すと、ティアからこの流れでは出ないと思っていた言葉が返ってきた。思いっきり固まるミルフィである。
二人のやり取りに思い切り笑うメディである。
「ははは、実に面白い限りだね。ところでこれは何なのかな?」
「魔界鳥の卵を使ったプリンでございます。疲れた時には甘いものがよろしいかと思いましてね」
「おお、これが噂に聞く魔界鳥のプリンかね。ではいただくとしようか」
この流れで自由に振る舞うメディ。口に入れたプリンの味に、思わず震えていた。
「う~ん、この濃厚な味と程よい甘さ。実に素晴らしい」
こうとだけ感想を漏らすと、あとは無心に食べていた。表情を見る限り、気に入ったようだ。
どうにかこうにか、不良在庫になりそうだった物品を処分することに成功したミルフィと大量の素材の入手に成功したメディ。
双方にとっていい結果となっただけに、二人の笑いはしばらく止まりそうになかったのだった。
魔界の拠点について倉庫を見たメディが発狂していた。まさに狂喜乱舞と言わんばかりの喜びようである。
「よ、喜んでもらえて、嬉しい限りですよ」
さすがのミルフィもここまでになると顔を引きつらせていた。予想以上の反応だったからだ。
それはもう愛おしそうに、倉庫に置かれた素材たちに視線を向けている。薬師であるメディにとっては、どうやらお宝の山らしい。
「これだけあればいろいろと新しい薬も試せるし、既存の薬もより効果の高いものを作る事ができる。くぅ……、ここが宝物庫だったか……」
そして、最後には泣きながら崩れ落ちていた。
「えと、あの……。よろしければお持ち帰りになりますか?」
ミルフィがおそるおそる声を掛けると、メディはすくっと立ち上がる。そして、振り返ってミルフィの手を握りながら喋り始めた。
「いやあ、仕事を中断してまでここに来たかいがあったというものだよ。素晴らしい、言い値で買おう」
この上ない笑顔のメディである。しかもよく見れば、うっすらと涙が見える。喜びのあまりに感極まったようだった。
メディのこの反応には、ミルフィも困惑し通しである。ここまでとは予想していなかったのだ。
「えっとですね……。売りたいのは山々なんですけれど、調べてみても相場がよく分かりませんでしてね……。ですので、類似品の相場を元に設定させて頂きますけれど、よろしいでしょうか」
「一向に構わんよ」
戸惑いを隠せないミルフィは、値段に関して弱腰に交渉を持ちかけてみたのだが、メディはあっさりと了承してきた。
どうやら、珍しい素材ばかりで金に糸目をつける気がなさそうである。そのくらいには人間たちにとって貴重な素材も紛れているようだった。
そこで、処分にも困っていたので、少し安めに値段を設定して改めて交渉すると、メディはものすごく怪訝な目を向けてきた。
「いいのか? その値段で」
「はい。処分しきれずに腐らせるよりはマシかと思いますから」
「そうか。まだ新鮮そうに見えるのだがな」
「いえ、かれこれ7日間ほどはここにありますよ。感じての通り、ここは庫内を冷やしている場所ですので、腐敗速度を遅めてあるのです」
「なんとまぁ、そんな技術があるのか」
冷蔵庫の中に居るのに、メディはその事に気が付いていなかったようだ。
なので、ミルフィはカフェや商会にも導入している冷蔵庫の話をしておいた。魔石に冷やす魔法を込めて、それを徐々に解放させる事で中のものを冷やすという技術である。これにはメディの目の色が変わっていた。
「薬師としては材料の確保が最大の問題だからな。長期とは言わずとも、そこそこの期間ものを劣化させずに保存できるというのは重要な話だ。よければ、その冷蔵庫とやらも買うぞ。今までの儲けがあるし、金に糸目はつけよ」
メディがやたらぐいぐいとくる。
眼鏡に手を掛けながら、ミルフィとの身長差のせいで前かがみになるメディである。
「わ、分かりましたから。ちょっと、責任者を呼んできて。交渉に入るわよ」
「承知致しました、ミルフィ様」
じりじりと下がるミルフィは、大声でティアに指示を出した。
それを受けて、ティアはすぐさま拠点の責任者を呼びに行ったのだった。
その結果、拠点で宝の持ち腐れになりかけていた物品は、かなりの値段でメディに売る事となった。
魔族からしてもごみのような品の山だったので、責任者も正直驚きを隠せなかった。
「いやはや、こんな値段になるとは……」
「うむ、これでいろんなポーションが作れるし、新しい薬も作れそうだ。実に感謝しているぞ」
満面の笑みのメディである。
「ただ、この量だと使い切るには時間がかかりそうだ。在庫がなくなりそうだったらミルフィ商会に注文を出すとするよ」
「ええ、そうして頂けると助かります。私の役に立てると思ったら、加減が分からない人ばかりなのですよ……」
苦笑いを浮かべながら、拠点に居る魔族たちに視線を向けるミルフィである。
「わはははは、分かる分かる。ミルフィさんはみんなに好かれているんだな。好きなものに対してだからこそ、みんな張り切ってしまうというものだろう」
大声で笑いながらメディが話している。ミルフィは面食らっていたものの、戻ってきたティアがものすごく頷いていた。
「分かりますね。魔王様の娘だからといってついて来ている方もいらっしゃいますが、基本的に私たちはミルフィ様が好きなのですよ」
「えっ、そうなの? 私、てっきりわがままなお姫様と思われてるだけかと思っていましたのに」
「えっ、それは思っていますよ?」
ティアの言い分にミルフィが言い返すと、ティアからこの流れでは出ないと思っていた言葉が返ってきた。思いっきり固まるミルフィである。
二人のやり取りに思い切り笑うメディである。
「ははは、実に面白い限りだね。ところでこれは何なのかな?」
「魔界鳥の卵を使ったプリンでございます。疲れた時には甘いものがよろしいかと思いましてね」
「おお、これが噂に聞く魔界鳥のプリンかね。ではいただくとしようか」
この流れで自由に振る舞うメディ。口に入れたプリンの味に、思わず震えていた。
「う~ん、この濃厚な味と程よい甘さ。実に素晴らしい」
こうとだけ感想を漏らすと、あとは無心に食べていた。表情を見る限り、気に入ったようだ。
どうにかこうにか、不良在庫になりそうだった物品を処分することに成功したミルフィと大量の素材の入手に成功したメディ。
双方にとっていい結果となっただけに、二人の笑いはしばらく止まりそうになかったのだった。
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