58 / 113
第三章
第58話 新たなる足掛かりのために
しおりを挟む
「絵の具……ですか?」
話を終えて商会に戻ったミルフィから話を聞いたピクテは、目をぱちぱちとさせながら反応している。
「ええ、そうです。いろんな色のインクといったものでしょうか。混ぜ合わせて様々色も作れるとは聞きましたけれど、興味はありますか?」
ミルフィはにこやかにピクテに問い掛けている。すると、ピクテは考え込むような仕草をしている。
「あれば欲しいですね。色とりどりな絵が描けるというのであれば、非常に興味があります」
ピクテは前向きな様子だった。
食とは直接関係ない話ではあるものの、レシピという料理の仕方を書いた説明書に使うのであれば、立派な料理関係の物品となる。
そこで、ミルフィはプレツェを呼んで話をする事にした。
「プレツェ、今商会にはどのくらいの余剰金があるのでしょうか」
とても少女とは思えないくらいのオーラを放ちながら、プレツェに問い掛けるミルフィ。その雰囲気に思わず飲まれそうになるプレツェだったが、持っている資料をぱらぱらとめくって答える。
「金貨2000枚は余裕かと思います。ミルフィ様の画期的なアイディアのおかげで、かなり儲かっていますのでね」
「そっか。それじゃ最低限以外の利益は吐き出さないといけませんね。貯め込み過ぎると、人から恨みを買いますから」
「畏まりました。それで、一体何にお使いになられるのですか?」
ミルフィの言葉に、プレツェはおそるおそる尋ねる。
その性格上、質問をしても大丈夫とは思ってはいるものの、ミルフィは魔王の娘、魔王女なのである。一介の魔族であるプレツェからすれば、おそれ多い相手なのだ。それはもう、慎重になるのは当然の話なのである。
しかし、そこはやっぱりミルフィだった。にこりと笑ってプレツェに答える。
「商会から売りに出したレシピなんですけれど、今後は色付きで出そうと思いましてね。そのために絵の具なるものを購入しようと思うのです」
「絵の具……でございますか?」
つい顔が強張るプレツェである。
「黒以外のインクがあるという風にお伺いしましてね。それを使えばレシピの挿絵を実物に近付けられると思ったのですよ。悪くはないと思うんですよね、実際の料理がひと目で分かるんですから」
両手を合わせながら、夢見る乙女というような表情をして語るミルフィである。しかし、プレツェの反応はちょっと乏しいようだった。
「仰られる事は理解できるのですけれど、そこまでのコストを掛けるものなのでございますのでしょうか。私の仕入れた情報によれば、ティースプーン1杯ほどが金貨1枚とかするらしいです。レシピの代金は確かに高いですけれど、仕入れるとしても割に合わないと思われますよ」
さすがは商会の運営を任されたプレツェである。
この回答に、ミルフィは顎に手を触れて少し考え込む。
「でも、色付きでレシピを紹介するのは価値があると思います。そこまで高くて予算がつけられないというのなら、まずは見本を購入して、自分たちで開発するという手がありますよ。私たちには鑑定魔法があるわけですからね」
「ああ、なるほど。それでしたら、手に入る色をすべて1つずつ注文を出す事にしましょうか」
「ええ、頼みますよ」
プレツェの説得に成功し、手に入る絵の具の発注を出すミルフィである。
そもそもレンダとアドンを通じて集めるようにはし向けられているので、注文票はまずは彼らの手に渡るように指示を出しておいた。これなら行き違いを防げるだろうというわけである。
いろいろあったものの、どうにか絵の具を入手できる算段が付いたので、ミルフィは料理をするために厨房へと向かう。おいしいものを探求する彼女は、自分で料理をしなければ気が済まない性質なのである。
こうしてお菓子を作り上げたミルフィは、ティアを呼んで午後のひと時を過ごすのである。
「ふぅ、ひと通り仕事をした後の一杯は格別ですね、ティア」
「お疲れさまでございます、ミルフィ様」
声を掛けてくるミルフィに対して、いつものように淡々と対応するティアである。
「まったく、ティアもいつもいつも使用人っぽくしてなくていいのですからね。私が魔王の娘、魔族の王女だとしても、ティアとは長い付き合いなんですから」
「もったいなきお言葉でございます」
口を尖らせながらミルフィは言うのだが、ティアは相変わらずの使用人モードで対応してくる。どうにもこうにもうまく伝わっていないようだった。これにはつい苦笑いをするミルフィである。
「さてと、色付きレシピを出すためにも、新しいレシピをピレシーから教わって作ってみる事にしましょうかね」
「お手伝い致します、ミルフィ様」
「ええ、頼りにしていますよ、ティア」
十分な休息を取ったミルフィとティアは、再び厨房へと向かう。
そして、食による世界征服計画を前進させるために、ピレシーとともに新たなメニューの開発に取り組むのであった。
「さあ、これからも世界をおいしいであふれ返させるために頑張りましょう」
「どこまでもついて参りますよ、ミルフィ様」
二人は今日も楽しそうである。
話を終えて商会に戻ったミルフィから話を聞いたピクテは、目をぱちぱちとさせながら反応している。
「ええ、そうです。いろんな色のインクといったものでしょうか。混ぜ合わせて様々色も作れるとは聞きましたけれど、興味はありますか?」
ミルフィはにこやかにピクテに問い掛けている。すると、ピクテは考え込むような仕草をしている。
「あれば欲しいですね。色とりどりな絵が描けるというのであれば、非常に興味があります」
ピクテは前向きな様子だった。
食とは直接関係ない話ではあるものの、レシピという料理の仕方を書いた説明書に使うのであれば、立派な料理関係の物品となる。
そこで、ミルフィはプレツェを呼んで話をする事にした。
「プレツェ、今商会にはどのくらいの余剰金があるのでしょうか」
とても少女とは思えないくらいのオーラを放ちながら、プレツェに問い掛けるミルフィ。その雰囲気に思わず飲まれそうになるプレツェだったが、持っている資料をぱらぱらとめくって答える。
「金貨2000枚は余裕かと思います。ミルフィ様の画期的なアイディアのおかげで、かなり儲かっていますのでね」
「そっか。それじゃ最低限以外の利益は吐き出さないといけませんね。貯め込み過ぎると、人から恨みを買いますから」
「畏まりました。それで、一体何にお使いになられるのですか?」
ミルフィの言葉に、プレツェはおそるおそる尋ねる。
その性格上、質問をしても大丈夫とは思ってはいるものの、ミルフィは魔王の娘、魔王女なのである。一介の魔族であるプレツェからすれば、おそれ多い相手なのだ。それはもう、慎重になるのは当然の話なのである。
しかし、そこはやっぱりミルフィだった。にこりと笑ってプレツェに答える。
「商会から売りに出したレシピなんですけれど、今後は色付きで出そうと思いましてね。そのために絵の具なるものを購入しようと思うのです」
「絵の具……でございますか?」
つい顔が強張るプレツェである。
「黒以外のインクがあるという風にお伺いしましてね。それを使えばレシピの挿絵を実物に近付けられると思ったのですよ。悪くはないと思うんですよね、実際の料理がひと目で分かるんですから」
両手を合わせながら、夢見る乙女というような表情をして語るミルフィである。しかし、プレツェの反応はちょっと乏しいようだった。
「仰られる事は理解できるのですけれど、そこまでのコストを掛けるものなのでございますのでしょうか。私の仕入れた情報によれば、ティースプーン1杯ほどが金貨1枚とかするらしいです。レシピの代金は確かに高いですけれど、仕入れるとしても割に合わないと思われますよ」
さすがは商会の運営を任されたプレツェである。
この回答に、ミルフィは顎に手を触れて少し考え込む。
「でも、色付きでレシピを紹介するのは価値があると思います。そこまで高くて予算がつけられないというのなら、まずは見本を購入して、自分たちで開発するという手がありますよ。私たちには鑑定魔法があるわけですからね」
「ああ、なるほど。それでしたら、手に入る色をすべて1つずつ注文を出す事にしましょうか」
「ええ、頼みますよ」
プレツェの説得に成功し、手に入る絵の具の発注を出すミルフィである。
そもそもレンダとアドンを通じて集めるようにはし向けられているので、注文票はまずは彼らの手に渡るように指示を出しておいた。これなら行き違いを防げるだろうというわけである。
いろいろあったものの、どうにか絵の具を入手できる算段が付いたので、ミルフィは料理をするために厨房へと向かう。おいしいものを探求する彼女は、自分で料理をしなければ気が済まない性質なのである。
こうしてお菓子を作り上げたミルフィは、ティアを呼んで午後のひと時を過ごすのである。
「ふぅ、ひと通り仕事をした後の一杯は格別ですね、ティア」
「お疲れさまでございます、ミルフィ様」
声を掛けてくるミルフィに対して、いつものように淡々と対応するティアである。
「まったく、ティアもいつもいつも使用人っぽくしてなくていいのですからね。私が魔王の娘、魔族の王女だとしても、ティアとは長い付き合いなんですから」
「もったいなきお言葉でございます」
口を尖らせながらミルフィは言うのだが、ティアは相変わらずの使用人モードで対応してくる。どうにもこうにもうまく伝わっていないようだった。これにはつい苦笑いをするミルフィである。
「さてと、色付きレシピを出すためにも、新しいレシピをピレシーから教わって作ってみる事にしましょうかね」
「お手伝い致します、ミルフィ様」
「ええ、頼りにしていますよ、ティア」
十分な休息を取ったミルフィとティアは、再び厨房へと向かう。
そして、食による世界征服計画を前進させるために、ピレシーとともに新たなメニューの開発に取り組むのであった。
「さあ、これからも世界をおいしいであふれ返させるために頑張りましょう」
「どこまでもついて参りますよ、ミルフィ様」
二人は今日も楽しそうである。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々
於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。
今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが……
(タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~
さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』
誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。
辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。
だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。
学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる
これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
おっさん達のTRPG日記 ~七人の《魔導書使い》が四篇の《聖典》を奪い合いながら迷宮戦争やってみた!~
書記係K君
ファンタジー
剣と魔法の幻想世界・リンガイア大陸――
この世界には、自らの霊魂から《魔導書-デッキ-》を創り出し、神与の秘術《魔法-ゴスペル-》を綴り蒐集し、
神秘を使役する《魔導書使い-ウィザード-》と呼ばれる者達がいた。彼らが探し求めるのは、
あらゆる願望を叶えると云う伝説の魔導書《聖典》――。
この物語は、聖遺物《聖典》が封印された聖域《福音の迷宮》への入境を許された
選ばれし七人の《魔導書使い-ウィザード-》達が、七騎の《英雄譚-アルカナ-》を従えて
七つの陣営となり、四篇に別れた《聖典の断章》を蒐集すべく奪い合い、命を賭して覇を争う決闘劇。
其の戦いは、後世に《迷宮戦争》と謳われた――
――という設定で、おっさん達がまったりと「TRPG」を遊ぶだけのお話だよ(ノ・∀・)ノ⌒◇

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる