メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第三章

第58話 新たなる足掛かりのために

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「絵の具……ですか?」

 話を終えて商会に戻ったミルフィから話を聞いたピクテは、目をぱちぱちとさせながら反応している。

「ええ、そうです。いろんな色のインクといったものでしょうか。混ぜ合わせて様々色も作れるとは聞きましたけれど、興味はありますか?」

 ミルフィはにこやかにピクテに問い掛けている。すると、ピクテは考え込むような仕草をしている。

「あれば欲しいですね。色とりどりな絵が描けるというのであれば、非常に興味があります」

 ピクテは前向きな様子だった。
 食とは直接関係ない話ではあるものの、レシピという料理の仕方を書いた説明書に使うのであれば、立派な料理関係の物品となる。
 そこで、ミルフィはプレツェを呼んで話をする事にした。

「プレツェ、今商会にはどのくらいの余剰金があるのでしょうか」

 とても少女とは思えないくらいのオーラを放ちながら、プレツェに問い掛けるミルフィ。その雰囲気に思わず飲まれそうになるプレツェだったが、持っている資料をぱらぱらとめくって答える。

「金貨2000枚は余裕かと思います。ミルフィ様の画期的なアイディアのおかげで、かなり儲かっていますのでね」

「そっか。それじゃ最低限以外の利益は吐き出さないといけませんね。貯め込み過ぎると、人から恨みを買いますから」

「畏まりました。それで、一体何にお使いになられるのですか?」

 ミルフィの言葉に、プレツェはおそるおそる尋ねる。
 その性格上、質問をしても大丈夫とは思ってはいるものの、ミルフィは魔王の娘、魔王女なのである。一介の魔族であるプレツェからすれば、おそれ多い相手なのだ。それはもう、慎重になるのは当然の話なのである。
 しかし、そこはやっぱりミルフィだった。にこりと笑ってプレツェに答える。

「商会から売りに出したレシピなんですけれど、今後は色付きで出そうと思いましてね。そのために絵の具なるものを購入しようと思うのです」

「絵の具……でございますか?」

 つい顔が強張るプレツェである。

「黒以外のインクがあるという風にお伺いしましてね。それを使えばレシピの挿絵を実物に近付けられると思ったのですよ。悪くはないと思うんですよね、実際の料理がひと目で分かるんですから」

 両手を合わせながら、夢見る乙女というような表情をして語るミルフィである。しかし、プレツェの反応はちょっと乏しいようだった。

「仰られる事は理解できるのですけれど、そこまでのコストを掛けるものなのでございますのでしょうか。私の仕入れた情報によれば、ティースプーン1杯ほどが金貨1枚とかするらしいです。レシピの代金は確かに高いですけれど、仕入れるとしても割に合わないと思われますよ」

 さすがは商会の運営を任されたプレツェである。
 この回答に、ミルフィは顎に手を触れて少し考え込む。

「でも、色付きでレシピを紹介するのは価値があると思います。そこまで高くて予算がつけられないというのなら、まずは見本を購入して、自分たちで開発するという手がありますよ。私たちには鑑定魔法があるわけですからね」

「ああ、なるほど。それでしたら、手に入る色をすべて1つずつ注文を出す事にしましょうか」

「ええ、頼みますよ」

 プレツェの説得に成功し、手に入る絵の具の発注を出すミルフィである。
 そもそもレンダとアドンを通じて集めるようにはし向けられているので、注文票はまずは彼らの手に渡るように指示を出しておいた。これなら行き違いを防げるだろうというわけである。
 いろいろあったものの、どうにか絵の具を入手できる算段が付いたので、ミルフィは料理をするために厨房へと向かう。おいしいものを探求する彼女は、自分で料理をしなければ気が済まない性質なのである。
 こうしてお菓子を作り上げたミルフィは、ティアを呼んで午後のひと時を過ごすのである。

「ふぅ、ひと通り仕事をした後の一杯は格別ですね、ティア」

「お疲れさまでございます、ミルフィ様」

 声を掛けてくるミルフィに対して、いつものように淡々と対応するティアである。

「まったく、ティアもいつもいつも使用人っぽくしてなくていいのですからね。私が魔王の娘、魔族の王女だとしても、ティアとは長い付き合いなんですから」

「もったいなきお言葉でございます」

 口を尖らせながらミルフィは言うのだが、ティアは相変わらずの使用人モードで対応してくる。どうにもこうにもうまく伝わっていないようだった。これにはつい苦笑いをするミルフィである。

「さてと、色付きレシピを出すためにも、新しいレシピをピレシーから教わって作ってみる事にしましょうかね」

「お手伝い致します、ミルフィ様」

「ええ、頼りにしていますよ、ティア」

 十分な休息を取ったミルフィとティアは、再び厨房へと向かう。
 そして、食による世界征服計画を前進させるために、ピレシーとともに新たなメニューの開発に取り組むのであった。

「さあ、これからも世界をおいしいであふれ返させるために頑張りましょう」

「どこまでもついて参りますよ、ミルフィ様」

 二人は今日も楽しそうである。
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