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第三章
第56話 企む魔王女ちゃん
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レシピに挿絵をつける事を思いついたミルフィは、せっかくならばとピレシーに相談を持ちかけることにした。
”ふむ、せっかく絵を入れるわけだから、他にいい料理はないかというのか。しばし待たれよ”
相談を受けたピレシーは、自分の持つレシピの中から見栄えのよさそうなものを探し始める。ミルフィはその間、ティアの淹れた紅茶を飲みながら待っている。
紅茶を一杯飲み切って、ティアにおかわりを所望した頃だった。ようやくピレシーが目当てのものを見つけたようである。
”そうだな、これならばいい見栄えになりそうだ”
「ほう、それは一体どんなものなのでしょうか」
ピレシーの声に、ミルフィは興味津々である。
”まあ、そう慌てるではない。作り方を今から教えるぞ”
いつもの通り、ピレシーはミルフィに知識を流し込む。大体の調理のイメージのできたミルフィは納得がいったかのように頷いている。
「材料も商会にあるものだけでどうにかできそうですし……。よし、ピクテを呼んできましょう」
ミルフィはがたりと立ち上がると部屋を出ていこうとする。
「おっと、ミルフィ様。一体どちらへ?」
「ティア、ちょうどよかったですよ。厨房へ参りますので、ピクテを連れて厨房に来て下さい」
「あっ、畏まりました」
ミルフィがにこーっと笑うものだから、ティアはすぐに察しがついたようだ。ミルフィのおかわりで持ってきた紅茶を持ったままに、すぐさまピクテを呼びに行ったのだった。
厨房へやって来たミルフィは、ひとまず材料を並べて眺めている。
「こんなありきたりな食材ばかりで、こんな面白いものを作るなんて……。よその世界の方って発想が豊かなんですね」
”目の前にあるものをなんとか食べられないかという発想から、いかにおいしく食べるかという発想に変わっていったからな。食にまつわる歴史だけでも、実に面白いものなのだよ”
「そんな知識を、今は私が独り占めですか。とはいえ、こんなおいしいものを独り占めはやはりいけませんね。なんとしてもみなさんに教えませんと」
”くくくっ、主は欲がないな。まあ、そういうところも我は気に入っているのだがな”
ピレシーは思わず笑っていた。
そんなピレシーをスルーして、ミルフィはドレスの袖を外してエプロンを着けていた。ドレスの裾は調理の邪魔になるため、最近はドレスの袖だけを独立したものを着ているのだ。そして、調理の際に取り外しているのである。魔王女ゆえに汚れは気にするのだ。
「はあはあ、ミルフィ様、お待たせ致しました」
これから調理にかかろうとした時だった。絵描きのピクテが厨房に現れた。
そのピクテを見たミルフィは、彼女を自分の隣に立たせている。一番近くでしっかり見てもらうためだ。
「なんだか、今日の料理をお野菜が多くありませんか?」
ピクテを連れてきたティアが疑問を呈していた。
「ええ。今回はちょっと趣向を変えてみましてね。見た目に鮮やかで、しかも野菜と肉をまとめて食べられるものなんですよ。シチューのような煮込みもよろしいでしょうけれど、汁物ばかりも飽きるでしょうからね」
そういうと、ミルフィは用意した材料を適度な大きさに切り分けていく。
肉と葉物野菜はあっという間に一口より少し大きいくらいに切り刻まれていく。
「それで、蓋のついた鍋を用意します。水魔法を使って鍋の底に、指先が関節一つ分浸かるくらいの水を張ります」
「ふむふむ」
「それで、こうやって布を鍋に固定してその上に野菜を並べます。その上から、鍋から少しずらすような形で蓋を置きます。理由はこの後説明しますね」
てきぱきと準備していくミルフィ。ティアとピクテは黙ってその様子を眺めている。
「それで、あとは普通に鍋を温めて水を沸騰させます。これで終わりですね」
「えっ、これだけ?!」
ピクテが驚いている。料理の習慣のない魔族とはいえ、思った以上に単純な作業に驚いているようだった。
「はい、これで野菜を蒸しあげるんですよ。そして、蒸している間に、肉をあぶります。塩とかで味を調節しておくといいですよ」
鼻歌のようなものを歌いながら、流れるように調理をしていくミルフィである。
しばらくするとお湯が沸いて、鍋の中の野菜が蒸されていく。
蓋と鍋の隙間から湯気が上がることしばらく、ようやくミルフィは火を止める。中で蒸しあがった野菜を取り出して皿に盛り付け、その上から別に焼いた肉を乗せる。
「はい、温野菜サラダ肉盛りの完成ですよ」
「意外と簡単でございますね、ミルフィ様」
「でしょう。生では食べにくいもので、こうやって加熱するとしんなりとして食べやすくなりますしね」
「思いの外単純な調理法ですけれど、なぜ今頃なのでしょうか」
商会規模も大きくなってきた状況なので、ティアは疑問に感じたようだった。
「ちっちっ、甘いですね、ティア。この『蒸し』という調理方法、今までに知ってる人はいるかしら?」
「あっ!」
ミルフィから指摘されて、ティアは驚いたように叫んでいた。
「そう、加熱系の調理は焼くと煮るだけだったです。そこにこの蒸すという調理法を加えることになるのです。画期的でしょう?」
”主、そこまで自慢げにしなくてもいいのでは? 教えたのは我なのだしな”
「そういう事は今言わないで、ピレシー」
せっかく決めたミルフィだったのに、ピレシーのひと言で台無しである。
「まぁ、葉っぱの緑と肉の赤で見た目にも賑やかですから、絵的に映えるのではないかと思いましてね。どうですか、ピクテ」
「はい、なかなかいいかと存じます。レシピの件、お任せ下さい」
頼りになる返事に、思わずにっこりなミルフィである。
そして、オーソンや商業組合に持ち込むために、ピクテの描いた挿絵付きのレシピをせっせとまとめるのだった。
”ふむ、せっかく絵を入れるわけだから、他にいい料理はないかというのか。しばし待たれよ”
相談を受けたピレシーは、自分の持つレシピの中から見栄えのよさそうなものを探し始める。ミルフィはその間、ティアの淹れた紅茶を飲みながら待っている。
紅茶を一杯飲み切って、ティアにおかわりを所望した頃だった。ようやくピレシーが目当てのものを見つけたようである。
”そうだな、これならばいい見栄えになりそうだ”
「ほう、それは一体どんなものなのでしょうか」
ピレシーの声に、ミルフィは興味津々である。
”まあ、そう慌てるではない。作り方を今から教えるぞ”
いつもの通り、ピレシーはミルフィに知識を流し込む。大体の調理のイメージのできたミルフィは納得がいったかのように頷いている。
「材料も商会にあるものだけでどうにかできそうですし……。よし、ピクテを呼んできましょう」
ミルフィはがたりと立ち上がると部屋を出ていこうとする。
「おっと、ミルフィ様。一体どちらへ?」
「ティア、ちょうどよかったですよ。厨房へ参りますので、ピクテを連れて厨房に来て下さい」
「あっ、畏まりました」
ミルフィがにこーっと笑うものだから、ティアはすぐに察しがついたようだ。ミルフィのおかわりで持ってきた紅茶を持ったままに、すぐさまピクテを呼びに行ったのだった。
厨房へやって来たミルフィは、ひとまず材料を並べて眺めている。
「こんなありきたりな食材ばかりで、こんな面白いものを作るなんて……。よその世界の方って発想が豊かなんですね」
”目の前にあるものをなんとか食べられないかという発想から、いかにおいしく食べるかという発想に変わっていったからな。食にまつわる歴史だけでも、実に面白いものなのだよ”
「そんな知識を、今は私が独り占めですか。とはいえ、こんなおいしいものを独り占めはやはりいけませんね。なんとしてもみなさんに教えませんと」
”くくくっ、主は欲がないな。まあ、そういうところも我は気に入っているのだがな”
ピレシーは思わず笑っていた。
そんなピレシーをスルーして、ミルフィはドレスの袖を外してエプロンを着けていた。ドレスの裾は調理の邪魔になるため、最近はドレスの袖だけを独立したものを着ているのだ。そして、調理の際に取り外しているのである。魔王女ゆえに汚れは気にするのだ。
「はあはあ、ミルフィ様、お待たせ致しました」
これから調理にかかろうとした時だった。絵描きのピクテが厨房に現れた。
そのピクテを見たミルフィは、彼女を自分の隣に立たせている。一番近くでしっかり見てもらうためだ。
「なんだか、今日の料理をお野菜が多くありませんか?」
ピクテを連れてきたティアが疑問を呈していた。
「ええ。今回はちょっと趣向を変えてみましてね。見た目に鮮やかで、しかも野菜と肉をまとめて食べられるものなんですよ。シチューのような煮込みもよろしいでしょうけれど、汁物ばかりも飽きるでしょうからね」
そういうと、ミルフィは用意した材料を適度な大きさに切り分けていく。
肉と葉物野菜はあっという間に一口より少し大きいくらいに切り刻まれていく。
「それで、蓋のついた鍋を用意します。水魔法を使って鍋の底に、指先が関節一つ分浸かるくらいの水を張ります」
「ふむふむ」
「それで、こうやって布を鍋に固定してその上に野菜を並べます。その上から、鍋から少しずらすような形で蓋を置きます。理由はこの後説明しますね」
てきぱきと準備していくミルフィ。ティアとピクテは黙ってその様子を眺めている。
「それで、あとは普通に鍋を温めて水を沸騰させます。これで終わりですね」
「えっ、これだけ?!」
ピクテが驚いている。料理の習慣のない魔族とはいえ、思った以上に単純な作業に驚いているようだった。
「はい、これで野菜を蒸しあげるんですよ。そして、蒸している間に、肉をあぶります。塩とかで味を調節しておくといいですよ」
鼻歌のようなものを歌いながら、流れるように調理をしていくミルフィである。
しばらくするとお湯が沸いて、鍋の中の野菜が蒸されていく。
蓋と鍋の隙間から湯気が上がることしばらく、ようやくミルフィは火を止める。中で蒸しあがった野菜を取り出して皿に盛り付け、その上から別に焼いた肉を乗せる。
「はい、温野菜サラダ肉盛りの完成ですよ」
「意外と簡単でございますね、ミルフィ様」
「でしょう。生では食べにくいもので、こうやって加熱するとしんなりとして食べやすくなりますしね」
「思いの外単純な調理法ですけれど、なぜ今頃なのでしょうか」
商会規模も大きくなってきた状況なので、ティアは疑問に感じたようだった。
「ちっちっ、甘いですね、ティア。この『蒸し』という調理方法、今までに知ってる人はいるかしら?」
「あっ!」
ミルフィから指摘されて、ティアは驚いたように叫んでいた。
「そう、加熱系の調理は焼くと煮るだけだったです。そこにこの蒸すという調理法を加えることになるのです。画期的でしょう?」
”主、そこまで自慢げにしなくてもいいのでは? 教えたのは我なのだしな”
「そういう事は今言わないで、ピレシー」
せっかく決めたミルフィだったのに、ピレシーのひと言で台無しである。
「まぁ、葉っぱの緑と肉の赤で見た目にも賑やかですから、絵的に映えるのではないかと思いましてね。どうですか、ピクテ」
「はい、なかなかいいかと存じます。レシピの件、お任せ下さい」
頼りになる返事に、思わずにっこりなミルフィである。
そして、オーソンや商業組合に持ち込むために、ピクテの描いた挿絵付きのレシピをせっせとまとめるのだった。
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