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第三章
第53話 交渉は胃袋から
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”ここら辺は魔界に近い影響か寒冷な地域だ。当然ながら、気温によって育つ植物というのは変わる”
「そうなのですね」
”しかしだ。チェチェカやスェトーのようなものは、本来は温暖でなければ育たん。おそらくは土壌の性質のおかげで育つのだろう”
「ふむふむ……」
ミルフィに対していろいろと説明をしていくピレシーである。
実際、該当するカカオやサトウキビは暖かい地方の作物なのだ。そんなものが普通に育つあたり、魔界に近いゆえの特殊な環境があるのだろう。
しかし、これから料理を行う上では関係ないので、ピレシーもここでぴしゃりと話題を変える。
”あの二人は南方の暖かい地域の出身のようだな。なれば……しばし待たれよ”
ピレシーが黙り込み、光ったかと思うとパラパラとページがめくれていく。どうやら該当する料理を探しているようだった。
食の魔導書を名乗るピレシーにはあらゆる世界のあらゆるレシピが記憶されている。もちろん、ミルフィたちの世界だって例外じゃない。
その中で、レンダとアドンの出身地の料理でありながら、今居る場所で作れるものを検索しているのである。
やがて、はらりとページが止まる。ようやく見つかったようだ。
”うむ、これなら今商会で抱える食材でも作れるな。主よ、準備はよいか?”
「もちのろんですよ」
ピレシーの問い掛けに、にやりと自信たっぷりに返事をするミルフィ。
今までたくさんの料理を作ってきただけに、かなり自信を身につけているようである。
早速、ピレシーの指導の下、ミルフィは調理を開始したのだった。
その頃、レンダとアドンはおもてなしを受けている真っ最中だった。
途中でグリッテからカフェでの仕事を終えて戻ってきたティアに交代したものの、二人は大方満足しているようだ。
「ここは変わったものが多いのですね」
「はい、なんといっても魔界から最も近い街ですから。他の地域では手に入らない、珍しいものがとてもよく手に入るのですよ」
二人の質問に、淡々と答えるティア。さすがに自分たちが魔族だという事はうまく伏せている。
「それはそれとして、私たちはいつまでこうしてればよいのですか?」
「グリッテの話ではミルフィ様は料理に向かわれたようです。ですので、もうしばらくはお待ち頂く事になるでしょう。その間、ミルフィ様付きのメイドである私が、精一杯おもてなしをさせて頂きます」
文句がありそうな二人にも、まったくティアは引かない。なにせ、こんな連中よりも怖い魔王を相手にする事だってあるのだから、肝の据わり方が違うのである。さすがは魔王女付きのメイドである。
(うっかりすれば命も危うい魔界ですからね。このような方々の相手は気が楽です)
そんな中、コンコンと扉が叩かれる。
「お待たせしました。料理が完成したのでお持ちしました」
ミルフィの声である。なので、ティアが慌てて扉を開けに行く。
扉を開けると、ワゴンの上に料理を乗せて運ぶミルフィが現れた。
「こちらで食べられている料理をお二人の住まわれている地域風にアレンジしてみました。それと、お帰りなさい、ティア」
自分のメイドにも挨拶を忘れないミルフィである。
「ただ、食材はこちらで手に入るもので作っておりますので、そちらで作る時には置き換える必要がございますね。あとでお近づきのしるしに、この料理のレシピを差し上げます」
「なっ、レシピをタダで?!」
「はい。その代わり、私の商会の宣伝を頼みますね」
驚く二人に、にっこりと笑うミルフィである。こういうところはちゃっかりとしているのだ。
さて、目の前に置かれたのはシチューのようである。ただ、いつものシチューとは香りが違う。ティアもかなり味覚と嗅覚が肥えているのですぐに分かったようだ。
「煮込み料理は基本的にどこでも行われていますからね。お二人の住む街の味付けである『ちょっと辛い』を頑張ってみました」
にこにことしているミルフィを驚いた顔で眺めるレンダとアドン。とりあえず、ミルフィが自信たっぷりに差し出してきた料理を賞味する事にした。
一口食べて固まる二人。
「むむむっ、これは!」
「なんてうまさだ。確かに私たちの街の味だというのに、うまさが違う」
シチューを食べる手が止まらない。その状況にミルフィは笑みが崩れなかった。
「多分、下処理と煮込み方が悪いんだと思いますよ。具材の処理をうまくしていないので、硬かったり食感が悪かったりしているのだと思われます」
「ふむぅ……」
スプーンですくった肉の塊を見ながら、レンダが唸っている。
「それで、その肉はこの辺りで手に入るボアや魔界鳥の肉を使っています。筋を切ったり叩いて柔らかくしておくと、味が染みやすいですよ。あっ、干し肉なんかもいいですよね」
少し早口になるミルフィ。
「私は世の中をおいしいで埋め尽くすために頑張っています。よろしければ、お二方もお手伝い願えませんか?」
その時のミルフィの表情に、レンダとアドンの手がぴたりと止まる。その時のミルフィに底知れぬ何かを感じたのだ。
とはいえ、これだけのものを連発されてしまっては、二人はこくりと頷くしかなかったのだった。
「そうなのですね」
”しかしだ。チェチェカやスェトーのようなものは、本来は温暖でなければ育たん。おそらくは土壌の性質のおかげで育つのだろう”
「ふむふむ……」
ミルフィに対していろいろと説明をしていくピレシーである。
実際、該当するカカオやサトウキビは暖かい地方の作物なのだ。そんなものが普通に育つあたり、魔界に近いゆえの特殊な環境があるのだろう。
しかし、これから料理を行う上では関係ないので、ピレシーもここでぴしゃりと話題を変える。
”あの二人は南方の暖かい地域の出身のようだな。なれば……しばし待たれよ”
ピレシーが黙り込み、光ったかと思うとパラパラとページがめくれていく。どうやら該当する料理を探しているようだった。
食の魔導書を名乗るピレシーにはあらゆる世界のあらゆるレシピが記憶されている。もちろん、ミルフィたちの世界だって例外じゃない。
その中で、レンダとアドンの出身地の料理でありながら、今居る場所で作れるものを検索しているのである。
やがて、はらりとページが止まる。ようやく見つかったようだ。
”うむ、これなら今商会で抱える食材でも作れるな。主よ、準備はよいか?”
「もちのろんですよ」
ピレシーの問い掛けに、にやりと自信たっぷりに返事をするミルフィ。
今までたくさんの料理を作ってきただけに、かなり自信を身につけているようである。
早速、ピレシーの指導の下、ミルフィは調理を開始したのだった。
その頃、レンダとアドンはおもてなしを受けている真っ最中だった。
途中でグリッテからカフェでの仕事を終えて戻ってきたティアに交代したものの、二人は大方満足しているようだ。
「ここは変わったものが多いのですね」
「はい、なんといっても魔界から最も近い街ですから。他の地域では手に入らない、珍しいものがとてもよく手に入るのですよ」
二人の質問に、淡々と答えるティア。さすがに自分たちが魔族だという事はうまく伏せている。
「それはそれとして、私たちはいつまでこうしてればよいのですか?」
「グリッテの話ではミルフィ様は料理に向かわれたようです。ですので、もうしばらくはお待ち頂く事になるでしょう。その間、ミルフィ様付きのメイドである私が、精一杯おもてなしをさせて頂きます」
文句がありそうな二人にも、まったくティアは引かない。なにせ、こんな連中よりも怖い魔王を相手にする事だってあるのだから、肝の据わり方が違うのである。さすがは魔王女付きのメイドである。
(うっかりすれば命も危うい魔界ですからね。このような方々の相手は気が楽です)
そんな中、コンコンと扉が叩かれる。
「お待たせしました。料理が完成したのでお持ちしました」
ミルフィの声である。なので、ティアが慌てて扉を開けに行く。
扉を開けると、ワゴンの上に料理を乗せて運ぶミルフィが現れた。
「こちらで食べられている料理をお二人の住まわれている地域風にアレンジしてみました。それと、お帰りなさい、ティア」
自分のメイドにも挨拶を忘れないミルフィである。
「ただ、食材はこちらで手に入るもので作っておりますので、そちらで作る時には置き換える必要がございますね。あとでお近づきのしるしに、この料理のレシピを差し上げます」
「なっ、レシピをタダで?!」
「はい。その代わり、私の商会の宣伝を頼みますね」
驚く二人に、にっこりと笑うミルフィである。こういうところはちゃっかりとしているのだ。
さて、目の前に置かれたのはシチューのようである。ただ、いつものシチューとは香りが違う。ティアもかなり味覚と嗅覚が肥えているのですぐに分かったようだ。
「煮込み料理は基本的にどこでも行われていますからね。お二人の住む街の味付けである『ちょっと辛い』を頑張ってみました」
にこにことしているミルフィを驚いた顔で眺めるレンダとアドン。とりあえず、ミルフィが自信たっぷりに差し出してきた料理を賞味する事にした。
一口食べて固まる二人。
「むむむっ、これは!」
「なんてうまさだ。確かに私たちの街の味だというのに、うまさが違う」
シチューを食べる手が止まらない。その状況にミルフィは笑みが崩れなかった。
「多分、下処理と煮込み方が悪いんだと思いますよ。具材の処理をうまくしていないので、硬かったり食感が悪かったりしているのだと思われます」
「ふむぅ……」
スプーンですくった肉の塊を見ながら、レンダが唸っている。
「それで、その肉はこの辺りで手に入るボアや魔界鳥の肉を使っています。筋を切ったり叩いて柔らかくしておくと、味が染みやすいですよ。あっ、干し肉なんかもいいですよね」
少し早口になるミルフィ。
「私は世の中をおいしいで埋め尽くすために頑張っています。よろしければ、お二方もお手伝い願えませんか?」
その時のミルフィの表情に、レンダとアドンの手がぴたりと止まる。その時のミルフィに底知れぬ何かを感じたのだ。
とはいえ、これだけのものを連発されてしまっては、二人はこくりと頷くしかなかったのだった。
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