メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
50 / 113
第三章

第50話 目的地にやって来た

しおりを挟む
「ふぅ、ここが話に出ていた魔界に最も近い街ですね」

「よ、ようやく着きましたか……」

 ピンピンとしているアドンとは対照的に、レンダは息が完全に上がっている。これが冒険者組合と商業組合の職員の差なのだろうか。

「体力に自信があるとは言っていたくせに、情けない限りですね」

「た、旅は専門外ですよ……」

 言い訳をするレンダ。
 それを尻目に、ここまで護衛をしてくれた冒険者たちにお礼を言っているアドン。

「さあ、噂のお店を探しますよ。冒険者組合まで行ってから、彼らと別れて聞き込みです」

「分かった……」

 そんなわけで、レンダとアドンは冒険者たちと組合まで移動する。
 やって来た冒険者組合。ここではさすがに驚く二人である。

「さすがは魔界に近いとだけあって、冒険者たちがなかなかに屈強な人たちぞろいですね」

 言葉とは裏腹に、表情は楽しそうなアドンである。さすがは冒険者組合の職員といったところだろうか。

「アドン、一体何を楽しみにしてるんですか。俺たちは冒険者たちの舌が肥えた理由を探しに来たんでしょうが」

 アドンに鋭くツッコミを入れるレンダ。すると、これに反応したのはアドンではなく、今まで護衛をしてくれた冒険者だった。

「なんだ。あなたたちはミルフィちゃんのお店に用事があったのか」

「ミルフィ……? 誰なんですか、それは」

 聞いた事のない名前に、思わず質問してしまうレンダ。予想外の反応に、冒険者たちは思わず顔を見合ってしまう。

「商業組合なのに知らないのか? この街に突然現れて急成長している商会の会長の名前だよ」

「そうそう。まだこんな小さくて可愛い子なんだけど、その子が作る料理がまた絶品なのよね」

 冒険者たちは真面目な顔をして頷いてたり、笑顔でうっとりしたように話したりしている。
 その様子を見る限り、そのミルフィとかいう人物は、冒険者たちには相当受け入れられているようだった。
 二人はとても気になってしまう。

「むむむ……。そのミルフィとかいう人物のところに案内して下さい」

 レンダが鬼気迫るような顔で頼み込んでくるものだから、冒険者たちはあっけらかんとした表情で答える。

「別依頼になるから、依頼料としておごってくれるなら考えよう」

「くっ……」

 足元を見られて思わずためらってしまうレンダである。
 一緒に居たアドンは、レンダの肩にポンと手を置くと、首を左右に振りながら話し掛ける。

「私たちの負けです。ここはおとなしく聞き入れましょう」

 そんなわけで、レンダとアドンは冒険者たちと一緒に、冒険者たちに評判のお店へと向かう事にしたのだった。

 街の少しだけ外れた場所にあるそのお店は、今日もにぎわっている。
 立地条件の割に人が集まっている状況を見て、レンダが驚いている。
 商業組合の職員である彼は、商売の鉄則のようなものがしっかり頭に入っている。だというのに、それから外れた場所にあるそのお店は、レンダの中の常識を覆すほどににぎわっているのだ。

「な、なんだ、ここは……」

「ここがミルフィちゃんのお店だよ。3日営業して1日休みだから、タイミング逃すと凹むんだよな」

「今日は営業日だったみたいね。ミルフィちゃんってば居るかしらね」

 驚きのあまりに引いているレンダに対して、にこやかに話をしている冒険者たち。温度差が激しい。
 行列ができてはいるものの、時間のおかげか思ったより短い。なので、冒険者たちは店内での食事を選択したようだった。
 レンダとアドンは、よく分からないので彼らと一緒に並ぶ。やがて、ようやく席に案内されるレンダたちだった。

「いらっしゃいませ。こちらの席へどうぞ」

 制服に身を包んだミルフィが現れた。

「やあ、ミルフィちゃん。よかった今日はここに居たのか」

「あれ、みなさん。今回も依頼を探しに来られたんですか?」

「まあね。あと、ちょっとおまけの用事もあったからここまで来たんだ」

「おまけの用事?」

 ミルフィがきょとんとして覗き込むと、レンダとアドンの二人が目に入った。

「あれあれ、初めて見る顔ですね」

「ああ、こっからかなり遠い街の組合の職員なんだ。こっちのほそっちょろい方が商業組合のやつで、こっちが冒険者組合のやつだ」

 面倒なのか名前で紹介しない冒険者たち。
 しかし、立ち話で仕事の邪魔をするわけにもいかないと、案内された席に座る冒険者たちである。

「ご注文は何になさいますか」

「ああ、いつもので頼むよ。この二人にも同じやつを」

「いつものですか。畏まりました」

 注文を受けるとミルフィは壁際にある筒のところへ歩いていく。
 さすがに見慣れない二人は、あれが何なのか冒険者たちに質問している。

「あれは、下の階の厨房に注文を通すための筒だよ」

 これにはレンダもアドンも驚いていた。直接厨房に注文を伝えに行くものだと思っていたが、そういえばここは2階である。注文の度に階段の昇り降りは危険なのだ。そういった状況を鑑みれば、このシステムはありだと考えた。
 注文を終えて、しばらく待つ。
 そして、料理がついに運ばれてきたのだが、その時の運搬方法にも度肝を抜かれる二人だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で快適な生活するのに自重なんかしてられないだろ?

お子様
ファンタジー
机の引き出しから過去未来ではなく異世界へ。 飛ばされた世界で日本のような快適な生活を過ごすにはどうしたらいい? 自重して目立たないようにする? 無理無理。快適な生活を送るにはお金が必要なんだよ! お金を稼ぎ目立っても、問題無く暮らす方法は? 主人公の考えた手段は、ドン引きされるような内容だった。 (実践出来るかどうかは別だけど)

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

処理中です...