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第二章
第45話 それとこれは両立しない
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大幅に人員増強ができた事で、まずはその教育から始めるミルフィ。
魔族たちの方は街に入れるような姿の者が少なく、魔界の中に拠点を作り、そこから人間たちの世界に入れる者たちが運搬するという形を取る事にした。
その拠点に集められるものは魔界で獲得できる食材が中心で、もちろんチェチェカの実もたくさんある。
「チョコレートがおいしいんですよぉ」
「プリンだったか、魔界鳥の卵があんなものに化けるとは思わなかったな」
一部の魔族はその甘味にうっとりしていたようだった。そのために、毎日相当量が拠点に集められ、街へと運ばれていったのだ。
ちなみにその拠点では、ミルフィ(というかピレシー)考案による料理も振る舞われている。こうして、少しずつ魔界にもおいしい料理が広まりつつあるのである。
「はあ~……、すっごく疲れた」
商会ではミルフィが椅子に座ってくつろいでいる。
「お疲れ様です、ミルフィ様」
ティアが紅茶を淹れて労っている。
ミルフィがこれだけ疲れているのも無理もない。なにせ最近は商会とカフェと魔界の拠点とを行き来しているからだ。新人にいろいろと料理を教えて回っているのである。
人間の街の方では他の料理人はいるものの、魔界の方は自分しか作れる者が居ないので、取引ついでに料理を教えているといった状況だった。
「しんどいけど、楽しいのよね。料理を作ってるのって」
「そうなのですか?」
「そうよ。食べた時のあの幸せそうな顔、見てて気持ちよくならないかしら」
「ああ、分かりますね。私の紅茶を飲まれた時のミルフィ様みたいな感じですからね」
ミルフィが不満そうにティアを見ると、ティアは思い出したかのように返していた。すると、ミルフィは腕を組んで数回首を縦に振っていた。
「そうそう。ティアの淹れる紅茶っておいしいんだもの。城に居た頃の食事とは雲泥の差のおいしさだったわね」
「何ですか、その『雲泥の差』というのは……」
「えっ」
ティアに質問をぶつけられて、思わず表情が固まるミルフィである。
「あー……、知らない間にピレシーの持ってる言語知識に浸食されたかしらね」
”失敬な。我はありとあらゆる世界の食の知識を持っているだけですぞ。その辺りはただのおまけに過ぎませぬ”
突如として現れて苦情を入れるピレシーである。
「一応説明すると、空に浮かぶあの白い雲と、地面のぬかるみくらい明らかで大きな違いっていう事よ」
「それはまた、ずいぶんな酷評ですね。聞かれたら……ってミルフィ様直に苦情を仰られていましたね」
ミルフィの説明を聞いて、ティアは同情……していなかった。ミルフィが癇癪を起して、怒鳴り込んできてはミルフィと口げんかをしていたのを思い出したからだ。敬愛するミルフィに対してのあの態度、ティアに許せるわけがなかったのである。
首を左右に振って少し落ち着いたティアは、ミルフィを改めて見つめる。
「何かしら、ティア」
「いえ、ミルフィ様は次は何をなされるのかと思いましてね」
「そうね。魔界に作った拠点をこの街にも知らせておかないといけないかしら。このままなら魔族が集まって何かしらやってる危険な場所になりかねないものね。幸いまだ冒険者が来ている様子はないみたいだけど」
ミルフィは懸念を口にしている。
「そうですね。ミルフィ商会だけではなく、この街のあらゆるところに関わっていますものね。最近では、新しく雇った魔族から新しい金属の話が出ていましたね」
「金属かぁ。それは私たちの扱うところではないから、オーソンさんを通じて商業組合の方に回しましょう。もちろん、お父様の方にも話を回しておかなきゃいけませんけど」
「そうですね。魔界のものは基本的には魔王様のものでございますからね」
「というわけで、ベイク。すぐにその魔族の話をお父様に通しておいて。1割くらいは私の方で引き取れるように、うまく交渉をお願いします」
「畏まりました」
ミルフィからの指示を受け、ベイクはすぐに部屋を出て魔界へと向かっていった。
それにしても、魔界もまだまだ知らない事が多いようである。ミルフィは子どもなので仕方ないとはいえ、本当に次から次へと新たな情報が出てくるものだ。
「さて……と、私も次の準備をしましょうかね」
”何をするのかな、主”
「何って、次の料理教室の準備ですよ。明後日でしょ、次のカフェの休業日」
ミルフィはにやりと笑っている。
「その前日にはオーソンさんと一緒に街の組合をめぐって、魔界にある拠点の事を知らせておかなきゃいけませんね。準備で忙しかったとはいえ、伝えていないのは私の落ち度です。プレツェにも同席させますので、彼にも知らせておきませんと」
「畏まりました」
ティアがぺこりと頭を下げる。
人員を大幅増強した事で、ミルフィ商会は次の段階へと進もうとしている。
それにしても、ひとつの事に集中すると、どうしてもおろそかになる部分が出てしまうのはミルフィの悪いところである。幼さゆえの欠点とはいえ、少々致命的になりかねなかった。
はたしてミルフィは、このまま順調に食による世界征服を進められるだろうか。
魔族たちの方は街に入れるような姿の者が少なく、魔界の中に拠点を作り、そこから人間たちの世界に入れる者たちが運搬するという形を取る事にした。
その拠点に集められるものは魔界で獲得できる食材が中心で、もちろんチェチェカの実もたくさんある。
「チョコレートがおいしいんですよぉ」
「プリンだったか、魔界鳥の卵があんなものに化けるとは思わなかったな」
一部の魔族はその甘味にうっとりしていたようだった。そのために、毎日相当量が拠点に集められ、街へと運ばれていったのだ。
ちなみにその拠点では、ミルフィ(というかピレシー)考案による料理も振る舞われている。こうして、少しずつ魔界にもおいしい料理が広まりつつあるのである。
「はあ~……、すっごく疲れた」
商会ではミルフィが椅子に座ってくつろいでいる。
「お疲れ様です、ミルフィ様」
ティアが紅茶を淹れて労っている。
ミルフィがこれだけ疲れているのも無理もない。なにせ最近は商会とカフェと魔界の拠点とを行き来しているからだ。新人にいろいろと料理を教えて回っているのである。
人間の街の方では他の料理人はいるものの、魔界の方は自分しか作れる者が居ないので、取引ついでに料理を教えているといった状況だった。
「しんどいけど、楽しいのよね。料理を作ってるのって」
「そうなのですか?」
「そうよ。食べた時のあの幸せそうな顔、見てて気持ちよくならないかしら」
「ああ、分かりますね。私の紅茶を飲まれた時のミルフィ様みたいな感じですからね」
ミルフィが不満そうにティアを見ると、ティアは思い出したかのように返していた。すると、ミルフィは腕を組んで数回首を縦に振っていた。
「そうそう。ティアの淹れる紅茶っておいしいんだもの。城に居た頃の食事とは雲泥の差のおいしさだったわね」
「何ですか、その『雲泥の差』というのは……」
「えっ」
ティアに質問をぶつけられて、思わず表情が固まるミルフィである。
「あー……、知らない間にピレシーの持ってる言語知識に浸食されたかしらね」
”失敬な。我はありとあらゆる世界の食の知識を持っているだけですぞ。その辺りはただのおまけに過ぎませぬ”
突如として現れて苦情を入れるピレシーである。
「一応説明すると、空に浮かぶあの白い雲と、地面のぬかるみくらい明らかで大きな違いっていう事よ」
「それはまた、ずいぶんな酷評ですね。聞かれたら……ってミルフィ様直に苦情を仰られていましたね」
ミルフィの説明を聞いて、ティアは同情……していなかった。ミルフィが癇癪を起して、怒鳴り込んできてはミルフィと口げんかをしていたのを思い出したからだ。敬愛するミルフィに対してのあの態度、ティアに許せるわけがなかったのである。
首を左右に振って少し落ち着いたティアは、ミルフィを改めて見つめる。
「何かしら、ティア」
「いえ、ミルフィ様は次は何をなされるのかと思いましてね」
「そうね。魔界に作った拠点をこの街にも知らせておかないといけないかしら。このままなら魔族が集まって何かしらやってる危険な場所になりかねないものね。幸いまだ冒険者が来ている様子はないみたいだけど」
ミルフィは懸念を口にしている。
「そうですね。ミルフィ商会だけではなく、この街のあらゆるところに関わっていますものね。最近では、新しく雇った魔族から新しい金属の話が出ていましたね」
「金属かぁ。それは私たちの扱うところではないから、オーソンさんを通じて商業組合の方に回しましょう。もちろん、お父様の方にも話を回しておかなきゃいけませんけど」
「そうですね。魔界のものは基本的には魔王様のものでございますからね」
「というわけで、ベイク。すぐにその魔族の話をお父様に通しておいて。1割くらいは私の方で引き取れるように、うまく交渉をお願いします」
「畏まりました」
ミルフィからの指示を受け、ベイクはすぐに部屋を出て魔界へと向かっていった。
それにしても、魔界もまだまだ知らない事が多いようである。ミルフィは子どもなので仕方ないとはいえ、本当に次から次へと新たな情報が出てくるものだ。
「さて……と、私も次の準備をしましょうかね」
”何をするのかな、主”
「何って、次の料理教室の準備ですよ。明後日でしょ、次のカフェの休業日」
ミルフィはにやりと笑っている。
「その前日にはオーソンさんと一緒に街の組合をめぐって、魔界にある拠点の事を知らせておかなきゃいけませんね。準備で忙しかったとはいえ、伝えていないのは私の落ち度です。プレツェにも同席させますので、彼にも知らせておきませんと」
「畏まりました」
ティアがぺこりと頭を下げる。
人員を大幅増強した事で、ミルフィ商会は次の段階へと進もうとしている。
それにしても、ひとつの事に集中すると、どうしてもおろそかになる部分が出てしまうのはミルフィの悪いところである。幼さゆえの欠点とはいえ、少々致命的になりかねなかった。
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