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第二章
第40話 ミルフィの異変
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カフェが休みの度に料理教室を行ってきたミルフィだったが、さすがに次の4回目の料理教室を終えた後の営業中には異変が起きていた。
「ミルフィ様、さすがにちょっと休まれた方がよいかと存じます。今日のお仕事中にちょっとふらつく様子が見受けられました」
「えっ、そうだったでしょうか」
4回目の料理教室を終えた翌々日の営業が終わる頃、ティアからそのような指摘が入ったのである。
だが、ミルフィの方はちょっと自覚がないようで、返事をした後にちょっと首を傾げていたのだ。しかし、直後にはピレシーも姿を現す。
”うむ、確かにちょっと魔力が乱れておるな。まだ乱れは小さいものの、ちょっとこれは見過ごせぬ”
ピレシーが呼ばれる事もなく姿を見せて指摘を入れてくる。さすがにこれにはちょっと異変を感じるミルフィだった。
”今日までほぼ休みなく働いてきたのだからな、無理がたたりつつあるのだろう。ここは少しゆっくり休んだ方がよい”
「ええ、そうですよ、ミルフィ様。もしミルフィ様に何かあれば、私たちだけの騒ぎでは収まりませんからね」
ピレシーに気を遣われ、ティアには慌てたような顔で言われたミルフィ。特にティアの言葉には思い当たる節があるようだった。
「そ、そうですね。下手に倒れたことをお父様に知られては、その勢いでこの街が滅ぼされかねませんね。……分かりました、しばらくおとなしくしましょう」
そう、ミルフィの父親の事だった。ミルフィは魔族の王女であるので、その父親というのはつまり魔王である。何かあって魔王が怒りに触れてしまえば、それはもう街ひとつが消えるなんていうのは現実的な話なのだった。
その事に思い至ったミルフィは、震えながら二人の気遣いを受け入れたのだった。
そんなわけで、翌日から数日間、ミルフィは商会の中でゆっくり過ごす運びとなった。当然、料理教室はお休みである。
街の人も楽しみにしているだろうけれど、ミルフィとしても断腸の思いだった。街の平和には代えられないのである。
「おはようございます、ミルフィ様。……やはり、少々お顔が赤くなっていらっしゃいますね」
「おはよう、ティア。ええ、少しだるいみたいなので、疲れが出てしまったようです」
ティアが気が付いて指摘すると、ミルフィもミルフィで状態を自覚をしていたようだった。
「失礼致します。……ちょっと熱がございますね。これでは今日、明日は完全に安静でございますね」
ティアが額に手を当てて確認すると、非情にもそう言い放っていた。さすがにこれにはミルフィもショックを受けていた。
「ミルフィ様はまだ幼いのでございます。私たち大人の魔族とは違って、まだまだデリケートでいらっしゃいます。魔力を使い過ぎて倒れそうになった時に、もっと気を遣っていれば、ここまでなる事はございませんでしたでしょうに……。これでは専属メイド失格でございますね」
落ち込むミルフィを見て、ティアもまたショックを受けていた。専属メイドとしてその様子を気に掛けるべきだったのに、こんなになるまで気が付かなかったのは相当に衝撃だったのだ。
「そこまで思い詰めないで下さい、ティア。ここでの生活を頑張れたのは、ティアたちみんなが居てくれたからなんですから」
「ミルフィ様……」
熱で顔を赤らめながらも、ミルフィはティアたちを労っている。その姿に、ティアは感動を覚えている。
「では、少し休ませて頂きます。ティアたちもあまり無理はしないで下さいね」
「はい、お気遣いありがとう存じます」
横になるミルフィを見ながら、ティアはしばらくその場を動かなかった。
”むぅう……。我は食の魔導書ゆえに看病は専門外なのがつらい。だが、我としてもこの状態にここまで気付けなかったのは情けなく思う。主の侍女よ、誠に申し訳ない”
突如としてピレシーが現れ、ティアに謝罪をしている。魔導書とはいえども、今回の事はかなり反省しているようである。
しかし、ティアは別にピレシーを責めるつもりはなかった。ミルフィを見守る存在としてはどちらの責任が重いかなど問題にできなかったからだ。むしろ互いのミスなのである。
「いいえ、ピレシー様だけの責任ではございません。私はミルフィ様がさらに幼い時より一緒に居るのです。これは私の責任なのです」
はっきりと言い切るティアの姿に、ピレシーはしばらく言葉が出てこなかった。それほどまでにティアの表情は真剣だったのだ。
”さすがは主の侍女だな。では、互いの責任ゆえに、早く主が元気になるように食事を用意せねばならぬな”
「左様でございますね。何か良いものでもございますでしょうか」
ピレシーの言葉にティアは真剣に確認を取っている。それに対して、ピレシーは自信たっぷりのようだった。
”うむ、このような時には消化がしやすく食べやすいものがよい。主の侍女よ、作る事はできるか?」
「もちろんでございます。私はミルフィ様の専属メイドなのですから」
ここでも自信たっぷりに言い切るティア。その姿にピレシーは一度深く沈み込んでから大きく跳ね上がっていた。
”よろしい。では、厨房へ参るぞ”
「承知致しました」
意気込む二人は、寝息を立てて寝ているミルフィを確認すると、静かに部屋から出て厨房へと向かったのだった。
「ミルフィ様、さすがにちょっと休まれた方がよいかと存じます。今日のお仕事中にちょっとふらつく様子が見受けられました」
「えっ、そうだったでしょうか」
4回目の料理教室を終えた翌々日の営業が終わる頃、ティアからそのような指摘が入ったのである。
だが、ミルフィの方はちょっと自覚がないようで、返事をした後にちょっと首を傾げていたのだ。しかし、直後にはピレシーも姿を現す。
”うむ、確かにちょっと魔力が乱れておるな。まだ乱れは小さいものの、ちょっとこれは見過ごせぬ”
ピレシーが呼ばれる事もなく姿を見せて指摘を入れてくる。さすがにこれにはちょっと異変を感じるミルフィだった。
”今日までほぼ休みなく働いてきたのだからな、無理がたたりつつあるのだろう。ここは少しゆっくり休んだ方がよい”
「ええ、そうですよ、ミルフィ様。もしミルフィ様に何かあれば、私たちだけの騒ぎでは収まりませんからね」
ピレシーに気を遣われ、ティアには慌てたような顔で言われたミルフィ。特にティアの言葉には思い当たる節があるようだった。
「そ、そうですね。下手に倒れたことをお父様に知られては、その勢いでこの街が滅ぼされかねませんね。……分かりました、しばらくおとなしくしましょう」
そう、ミルフィの父親の事だった。ミルフィは魔族の王女であるので、その父親というのはつまり魔王である。何かあって魔王が怒りに触れてしまえば、それはもう街ひとつが消えるなんていうのは現実的な話なのだった。
その事に思い至ったミルフィは、震えながら二人の気遣いを受け入れたのだった。
そんなわけで、翌日から数日間、ミルフィは商会の中でゆっくり過ごす運びとなった。当然、料理教室はお休みである。
街の人も楽しみにしているだろうけれど、ミルフィとしても断腸の思いだった。街の平和には代えられないのである。
「おはようございます、ミルフィ様。……やはり、少々お顔が赤くなっていらっしゃいますね」
「おはよう、ティア。ええ、少しだるいみたいなので、疲れが出てしまったようです」
ティアが気が付いて指摘すると、ミルフィもミルフィで状態を自覚をしていたようだった。
「失礼致します。……ちょっと熱がございますね。これでは今日、明日は完全に安静でございますね」
ティアが額に手を当てて確認すると、非情にもそう言い放っていた。さすがにこれにはミルフィもショックを受けていた。
「ミルフィ様はまだ幼いのでございます。私たち大人の魔族とは違って、まだまだデリケートでいらっしゃいます。魔力を使い過ぎて倒れそうになった時に、もっと気を遣っていれば、ここまでなる事はございませんでしたでしょうに……。これでは専属メイド失格でございますね」
落ち込むミルフィを見て、ティアもまたショックを受けていた。専属メイドとしてその様子を気に掛けるべきだったのに、こんなになるまで気が付かなかったのは相当に衝撃だったのだ。
「そこまで思い詰めないで下さい、ティア。ここでの生活を頑張れたのは、ティアたちみんなが居てくれたからなんですから」
「ミルフィ様……」
熱で顔を赤らめながらも、ミルフィはティアたちを労っている。その姿に、ティアは感動を覚えている。
「では、少し休ませて頂きます。ティアたちもあまり無理はしないで下さいね」
「はい、お気遣いありがとう存じます」
横になるミルフィを見ながら、ティアはしばらくその場を動かなかった。
”むぅう……。我は食の魔導書ゆえに看病は専門外なのがつらい。だが、我としてもこの状態にここまで気付けなかったのは情けなく思う。主の侍女よ、誠に申し訳ない”
突如としてピレシーが現れ、ティアに謝罪をしている。魔導書とはいえども、今回の事はかなり反省しているようである。
しかし、ティアは別にピレシーを責めるつもりはなかった。ミルフィを見守る存在としてはどちらの責任が重いかなど問題にできなかったからだ。むしろ互いのミスなのである。
「いいえ、ピレシー様だけの責任ではございません。私はミルフィ様がさらに幼い時より一緒に居るのです。これは私の責任なのです」
はっきりと言い切るティアの姿に、ピレシーはしばらく言葉が出てこなかった。それほどまでにティアの表情は真剣だったのだ。
”さすがは主の侍女だな。では、互いの責任ゆえに、早く主が元気になるように食事を用意せねばならぬな”
「左様でございますね。何か良いものでもございますでしょうか」
ピレシーの言葉にティアは真剣に確認を取っている。それに対して、ピレシーは自信たっぷりのようだった。
”うむ、このような時には消化がしやすく食べやすいものがよい。主の侍女よ、作る事はできるか?」
「もちろんでございます。私はミルフィ様の専属メイドなのですから」
ここでも自信たっぷりに言い切るティア。その姿にピレシーは一度深く沈み込んでから大きく跳ね上がっていた。
”よろしい。では、厨房へ参るぞ”
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