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第二章
第38話 午前のひととき
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カフェの営業も順調で従業員たちもかなり慣れてきた。
ただ、相変わらずの忙しさで、慣れたとはいってもミルフィとティアが手伝いに行かなければならない状況は変わらなかった。
せっかく軌道に乗ってきたというのに次の段階に進めず、ミルフィは焦りを感じていた。
「はあ、3回目の料理教室ですよ……。次は何にしましょうかね」
結局3日間の営業日の間は、忙しさでまったく手が回らなかった。プレツェに指示を出す事もできず、接客のお手伝いだけで時間が過ぎてしまったのだった。
「お疲れ様です、ミルフィ様。紅茶をどうぞ」
「ありがとう、ティア」
商会に戻ったところでいつものようにくつろぐミルフィ。本当ならこういう時にいろいろ考えたいのだが、魔族とはいってもまだ若いミルフィには体力的に厳しいようだ。
「はあ、ティアの淹れる紅茶はおいしいわ」
「恐縮でございます」
だが、この時ピンときてしまったミルフィ。
その時の目の輝きようといったら、ティアが思わず二度見してしまうほどのものだった。
「紅茶の淹れ方、これを3回目の題目にしましょう。飲み物は必須ですからね。ピレシー」
”お呼びかな、主”
「紅茶の淹れ方は分かりますかしら」
”無論。だが、それならば主の侍女に任せればよいのでは?”
ピレシーの腹部分がティアへと向く。
確かに、メイドであるティアならば紅茶の淹れ方には詳しいはずだ。しかし、ミルフィには別の考えがあったのだ。
「魔族の飲む紅茶の茶葉は、人間の貴族と同じように高級茶葉です。庶民の飲むようなものではありません。ですので、安物の程度の低い茶葉でもおいしく飲めるようにしたいのですよ」
”ふむ、なるほどな。主の下で働く者は確かに庶民が多い。高級なものがいつも買えるとは限らぬものな”
ミルフィの言い分に納得のいくピレシーだった。
「おいしいものは心も満たします。それは、魔族も貴族も庶民も変わりないでしょう?」
にこりと微笑むミルフィに、ピレシーもティアも黙って頷いていた。
この一言で、第3回の料理教室の題材は紅茶と決まったのだった。
翌日、朝一でカフェの前に案内の貼り紙を出したミルフィは、ティアとピレシーを伴って街へと繰り出す。料理教室で使う茶葉を仕入れるためだった。
予定している人数は前回と同じ。それ以上は厨房に入りきらないので無理と判断している。
街を歩くミルフィとティアは、すれ違う人たちから声を掛けられている。すっかり街では有名人になってしまっているようだ。
悪い声は聞こえてこないので、ミルフィはにこやかな笑顔を見せている。自分のしてきた事が、着実に成果として現れていると実感しているのだ。横を歩くティアも、表情自体はメイドらしく無表情を保っているのだが、よく見ると口角が少し上がっている。主を褒められて嬉しくなっているのである。
ミルフィは紅茶を取り扱う店へとやって来る。ここでは普段ミルフィが飲んでいる紅茶の茶葉も取り扱っている。
「あら、ミルフィちゃん、いらっしゃい」
「おはようございます、アッサムさん」
店の主人と互いに挨拶をするミルフィ。ティアもぺこりと頭を下げている。
「いやあ、ミルフィちゃんから紹介された、魔界産の茶葉はなかなか好評だよ。魔界の植物と思って敬遠していたけど、チェチェカの実と同じで食わず嫌いというのはダメだね」
アッサムはにこやかに笑っている。
「いやあ、鑑定魔法の使える人に見てもらって効果にびっくりしたね。おいしさは高級茶葉には劣らないし、微量の魔素を含んでいるのに体にいいときたもんだ。おかげであっという間に人気商品だよ」
「それはよかったです。私としても紹介したかいがあるというものです」
ミルフィは好評だという話を聞いて胸を撫で下ろしている。
「それで、今日は何の用だい?」
「はい、茶葉を購入しに参りました。カフェが休業日で料理教室の予定ですから、今回は紅茶を扱うつもりなんです」
「ほう、それはそれは。メイドさんも居るんだしいいかもね。どの辺りが欲しいんだい?」
「安物から高級なものまで。時間はそう取れませんので、全部で5種類ほどを頂ければと」
「分かった。ちょっと待ってな」
アッサムがごそごそと茶葉を選別して持ってくる。
「このくらいかな。安物の方はなかなか売れてくれないから、これで少しは売れるようになるといいね」
「ありがとうございます。そうなるように頑張りますよ」
茶葉をちょっと予定より多めに購入したミルフィたちは、カフェの厨房へと向かう。
「さて、こっちの3種類はティアが普段扱っている茶葉で間違いないですよね?」
「はい、一番良いものはミルフィ様と来客用として扱っております。残りは商会の従業員の様子を見て使い分けている感じですね」
「そうですか。では、午後の教室に間に合うように、残り2種類の茶葉の淹れ方を私がマスターをしませんとね、ピレシー」
”お任せあれ”
こうして、第3回目の料理教室を前に、ピレシーによる紅茶の淹れ方講座が始まったのだ。
はたしてミルフィは、昼からの料理教室までに淹れ方をマスターして無事に教えられるようになるのだろうか。ティアも見守る中、ピレシーに叱られながらミルフィは必死に頑張ったのであった。
ただ、相変わらずの忙しさで、慣れたとはいってもミルフィとティアが手伝いに行かなければならない状況は変わらなかった。
せっかく軌道に乗ってきたというのに次の段階に進めず、ミルフィは焦りを感じていた。
「はあ、3回目の料理教室ですよ……。次は何にしましょうかね」
結局3日間の営業日の間は、忙しさでまったく手が回らなかった。プレツェに指示を出す事もできず、接客のお手伝いだけで時間が過ぎてしまったのだった。
「お疲れ様です、ミルフィ様。紅茶をどうぞ」
「ありがとう、ティア」
商会に戻ったところでいつものようにくつろぐミルフィ。本当ならこういう時にいろいろ考えたいのだが、魔族とはいってもまだ若いミルフィには体力的に厳しいようだ。
「はあ、ティアの淹れる紅茶はおいしいわ」
「恐縮でございます」
だが、この時ピンときてしまったミルフィ。
その時の目の輝きようといったら、ティアが思わず二度見してしまうほどのものだった。
「紅茶の淹れ方、これを3回目の題目にしましょう。飲み物は必須ですからね。ピレシー」
”お呼びかな、主”
「紅茶の淹れ方は分かりますかしら」
”無論。だが、それならば主の侍女に任せればよいのでは?”
ピレシーの腹部分がティアへと向く。
確かに、メイドであるティアならば紅茶の淹れ方には詳しいはずだ。しかし、ミルフィには別の考えがあったのだ。
「魔族の飲む紅茶の茶葉は、人間の貴族と同じように高級茶葉です。庶民の飲むようなものではありません。ですので、安物の程度の低い茶葉でもおいしく飲めるようにしたいのですよ」
”ふむ、なるほどな。主の下で働く者は確かに庶民が多い。高級なものがいつも買えるとは限らぬものな”
ミルフィの言い分に納得のいくピレシーだった。
「おいしいものは心も満たします。それは、魔族も貴族も庶民も変わりないでしょう?」
にこりと微笑むミルフィに、ピレシーもティアも黙って頷いていた。
この一言で、第3回の料理教室の題材は紅茶と決まったのだった。
翌日、朝一でカフェの前に案内の貼り紙を出したミルフィは、ティアとピレシーを伴って街へと繰り出す。料理教室で使う茶葉を仕入れるためだった。
予定している人数は前回と同じ。それ以上は厨房に入りきらないので無理と判断している。
街を歩くミルフィとティアは、すれ違う人たちから声を掛けられている。すっかり街では有名人になってしまっているようだ。
悪い声は聞こえてこないので、ミルフィはにこやかな笑顔を見せている。自分のしてきた事が、着実に成果として現れていると実感しているのだ。横を歩くティアも、表情自体はメイドらしく無表情を保っているのだが、よく見ると口角が少し上がっている。主を褒められて嬉しくなっているのである。
ミルフィは紅茶を取り扱う店へとやって来る。ここでは普段ミルフィが飲んでいる紅茶の茶葉も取り扱っている。
「あら、ミルフィちゃん、いらっしゃい」
「おはようございます、アッサムさん」
店の主人と互いに挨拶をするミルフィ。ティアもぺこりと頭を下げている。
「いやあ、ミルフィちゃんから紹介された、魔界産の茶葉はなかなか好評だよ。魔界の植物と思って敬遠していたけど、チェチェカの実と同じで食わず嫌いというのはダメだね」
アッサムはにこやかに笑っている。
「いやあ、鑑定魔法の使える人に見てもらって効果にびっくりしたね。おいしさは高級茶葉には劣らないし、微量の魔素を含んでいるのに体にいいときたもんだ。おかげであっという間に人気商品だよ」
「それはよかったです。私としても紹介したかいがあるというものです」
ミルフィは好評だという話を聞いて胸を撫で下ろしている。
「それで、今日は何の用だい?」
「はい、茶葉を購入しに参りました。カフェが休業日で料理教室の予定ですから、今回は紅茶を扱うつもりなんです」
「ほう、それはそれは。メイドさんも居るんだしいいかもね。どの辺りが欲しいんだい?」
「安物から高級なものまで。時間はそう取れませんので、全部で5種類ほどを頂ければと」
「分かった。ちょっと待ってな」
アッサムがごそごそと茶葉を選別して持ってくる。
「このくらいかな。安物の方はなかなか売れてくれないから、これで少しは売れるようになるといいね」
「ありがとうございます。そうなるように頑張りますよ」
茶葉をちょっと予定より多めに購入したミルフィたちは、カフェの厨房へと向かう。
「さて、こっちの3種類はティアが普段扱っている茶葉で間違いないですよね?」
「はい、一番良いものはミルフィ様と来客用として扱っております。残りは商会の従業員の様子を見て使い分けている感じですね」
「そうですか。では、午後の教室に間に合うように、残り2種類の茶葉の淹れ方を私がマスターをしませんとね、ピレシー」
”お任せあれ”
こうして、第3回目の料理教室を前に、ピレシーによる紅茶の淹れ方講座が始まったのだ。
はたしてミルフィは、昼からの料理教室までに淹れ方をマスターして無事に教えられるようになるのだろうか。ティアも見守る中、ピレシーに叱られながらミルフィは必死に頑張ったのであった。
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