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第二章
第36話 嵐のような忙しさの終わりに
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結局、その日の営業を終えた頃には、みんな揃ってぐったりとしていた。
なにせピークの時間はひっきりになしにお客がやって来ていたのだから。
それにしても、こんな中途半端な立地のお店に、よくもこんなに人がやって来るものである。
「な、なんなのですか、この忙しさ……」
ミルフィも完全に突っ伏して愚痴をこぼしている。
「てぃ、ティア……。商会に戻る元気があるのでしたら、プレツェを通して発注を増やしておいて下さい。この状態では、明日も明後日も危険な感じしかしません」
「畏まりました。ミルフィ様の仰せの通りに」
ティアはすたすたと歩いて商会へと戻っていく。なぜか彼女だけがピンピンとしていた。魔族のメイドというのは鍛え方が違うのだろうか。
いろいろと思うところもあるが、ひとまずは今日の仕事を無事に終えてくれた従業員に感謝するミルフィである。
(はあ、近くに宿舎を用意して正解だったわ。これじゃ無事に家に帰れるか分かったものじゃないもの……)
顔だけ上げて死屍累々たる状況を見るミルフィは、そう思ったのだった。
「ピアズ、従業員たちを宿舎まで連れて戻ってちょうだい。私はここの後処理をしておきますから」
「承知致しました。ささっ、みなさん従業員宿舎まで戻りましょう」
ピアズに急かされるようにして、従業員たちは立ち上がり、少々ふらふらとしながらもカフェを後にしていった。
カフェにはミルフィ一人だけが残っている。
「ピレシー」
”ふふっ、どうだ、我の言った通りであろう?”
ピレシーを召喚すると、ものすごく得意げに喋っている。疲れているミルフィはそれに文句を言う気すら起きなかった。
”明日の食材は我が溜め込んでいる分から補えるが、さすがに厳しいだろうな。どうするつもりかな、主よ”
ピレシーが意地悪くミルフィに問い掛けてくる。
体を起こしたミルフィは、調理台に肘をついて考え始める。
「プレツェもだいぶ商人としては顔が利き始めましたが、やはり新興商会ゆえに信用がまだまだ薄いんですよね。オーソンさんに頼り続けるにはいきませんけれど、現状では彼の人脈に頼らざるを得ませんね……」
実に悩ましい限りである。
ここまで順調に来れたのも、彼が居てこそ。頭が上がらない一方で、いつまでも頼り続けてもいられないというジレンマのようなものを感じ始めるミルフィである。
「悩んでも仕方ありませんね。とりあえずはこの調理場を片付けておきませんと……」
従業員を一足先に帰らせたので、厨房も店舗の中も営業終了時点の散らかったままの状態だ。それらをひとつひとつ魔法を使って片付けていくミルフィ。
「汚れ具合を見ると、どれだけ酷使したのかがよく分かりますね。ちゃんと手入れをしておかないと、すぐダメになっちゃいそうですね」
汚れを落としてきれいにしたカフェの設備のひとつひとつにリペアの魔法をかけていくミルフィ。魔法をかけていっているとはいっても応急処置的なものなので、いずれダメになってしまうだろう。それでも、カフェの立ち上がりの時期なので、余計な仕事は極力避けておきたいのである。
(せめて半年くらい、道具にはもってもらいませんとね)
ミルフィはそう思いながら、道具のすべてに丁寧に魔法をかけていったのだった。
店舗の内外すべての掃除が終わると、外はすっかり静まり返っていた。街の中の富裕層と平民層の境目、かつちょっと外れた場所にあるとはいえど、夜中の通りというのはなかなかに薄気味悪いものだ。
魔族の住む領域に最も近い街とはいっても、治安がいいかと言われればそうでもない。どんなに頑張っても悪い事をする者は一定数存在してしまうのである。
そういった地理条件もあってか、悪い事をする連中もそれなりに強かったりするのが面倒なところである。
なので、ミルフィも夜の間に出歩く時には、必ず誰かしらが付き添うようになっている。
「ミルフィ様、お迎えに上がりました」
この日やって来たのは、執事のベイクだった。
「ベイク、やけに遅かったではないですか」
「申し訳ございません。羽虫が多かったので、退治に手間取っておりました」
「そうですか。本当にお疲れ様ですね」
「お褒め頂き恐縮でございます」
ミルフィの態度から察するに、この時の羽虫の意味が分かっていたように思える。
「最後にえいっと」
ようやく片付けが終わってカフェを後にするミルフィ。その最後に防犯用の魔法をかけておく。
「ふぅ、帰ったら売り上げの計算ですか。まだ眠れそうにありませんね」
肩をコキコキと鳴らしているミルフィ。まだ若いというのお疲れ様というものである。
「ほっほっ、それは私とプレツェ殿にお任せ下さいませ。ミルフィ様はすぐに休まれた方がよいかと存じます」
「そっか……。では、そうさせて頂きますね」
「はい。今日は一日お疲れ様でございました。戻ればたっぷりティアに甘えるとよろしいですぞ」
ベイクの言葉に、思わず頬を赤らめてしまうミルフィである。
何にしても大変だった一日がこれでようやく終わりを告げた。
商会に戻ったミルフィは、ティアにすぐに連れて行かれる。そして、薬湯からマッサージを受けてベッドに入る。最後はティアに付き添われながら、ぐっすりと眠りについたのであった。
なにせピークの時間はひっきりになしにお客がやって来ていたのだから。
それにしても、こんな中途半端な立地のお店に、よくもこんなに人がやって来るものである。
「な、なんなのですか、この忙しさ……」
ミルフィも完全に突っ伏して愚痴をこぼしている。
「てぃ、ティア……。商会に戻る元気があるのでしたら、プレツェを通して発注を増やしておいて下さい。この状態では、明日も明後日も危険な感じしかしません」
「畏まりました。ミルフィ様の仰せの通りに」
ティアはすたすたと歩いて商会へと戻っていく。なぜか彼女だけがピンピンとしていた。魔族のメイドというのは鍛え方が違うのだろうか。
いろいろと思うところもあるが、ひとまずは今日の仕事を無事に終えてくれた従業員に感謝するミルフィである。
(はあ、近くに宿舎を用意して正解だったわ。これじゃ無事に家に帰れるか分かったものじゃないもの……)
顔だけ上げて死屍累々たる状況を見るミルフィは、そう思ったのだった。
「ピアズ、従業員たちを宿舎まで連れて戻ってちょうだい。私はここの後処理をしておきますから」
「承知致しました。ささっ、みなさん従業員宿舎まで戻りましょう」
ピアズに急かされるようにして、従業員たちは立ち上がり、少々ふらふらとしながらもカフェを後にしていった。
カフェにはミルフィ一人だけが残っている。
「ピレシー」
”ふふっ、どうだ、我の言った通りであろう?”
ピレシーを召喚すると、ものすごく得意げに喋っている。疲れているミルフィはそれに文句を言う気すら起きなかった。
”明日の食材は我が溜め込んでいる分から補えるが、さすがに厳しいだろうな。どうするつもりかな、主よ”
ピレシーが意地悪くミルフィに問い掛けてくる。
体を起こしたミルフィは、調理台に肘をついて考え始める。
「プレツェもだいぶ商人としては顔が利き始めましたが、やはり新興商会ゆえに信用がまだまだ薄いんですよね。オーソンさんに頼り続けるにはいきませんけれど、現状では彼の人脈に頼らざるを得ませんね……」
実に悩ましい限りである。
ここまで順調に来れたのも、彼が居てこそ。頭が上がらない一方で、いつまでも頼り続けてもいられないというジレンマのようなものを感じ始めるミルフィである。
「悩んでも仕方ありませんね。とりあえずはこの調理場を片付けておきませんと……」
従業員を一足先に帰らせたので、厨房も店舗の中も営業終了時点の散らかったままの状態だ。それらをひとつひとつ魔法を使って片付けていくミルフィ。
「汚れ具合を見ると、どれだけ酷使したのかがよく分かりますね。ちゃんと手入れをしておかないと、すぐダメになっちゃいそうですね」
汚れを落としてきれいにしたカフェの設備のひとつひとつにリペアの魔法をかけていくミルフィ。魔法をかけていっているとはいっても応急処置的なものなので、いずれダメになってしまうだろう。それでも、カフェの立ち上がりの時期なので、余計な仕事は極力避けておきたいのである。
(せめて半年くらい、道具にはもってもらいませんとね)
ミルフィはそう思いながら、道具のすべてに丁寧に魔法をかけていったのだった。
店舗の内外すべての掃除が終わると、外はすっかり静まり返っていた。街の中の富裕層と平民層の境目、かつちょっと外れた場所にあるとはいえど、夜中の通りというのはなかなかに薄気味悪いものだ。
魔族の住む領域に最も近い街とはいっても、治安がいいかと言われればそうでもない。どんなに頑張っても悪い事をする者は一定数存在してしまうのである。
そういった地理条件もあってか、悪い事をする連中もそれなりに強かったりするのが面倒なところである。
なので、ミルフィも夜の間に出歩く時には、必ず誰かしらが付き添うようになっている。
「ミルフィ様、お迎えに上がりました」
この日やって来たのは、執事のベイクだった。
「ベイク、やけに遅かったではないですか」
「申し訳ございません。羽虫が多かったので、退治に手間取っておりました」
「そうですか。本当にお疲れ様ですね」
「お褒め頂き恐縮でございます」
ミルフィの態度から察するに、この時の羽虫の意味が分かっていたように思える。
「最後にえいっと」
ようやく片付けが終わってカフェを後にするミルフィ。その最後に防犯用の魔法をかけておく。
「ふぅ、帰ったら売り上げの計算ですか。まだ眠れそうにありませんね」
肩をコキコキと鳴らしているミルフィ。まだ若いというのお疲れ様というものである。
「ほっほっ、それは私とプレツェ殿にお任せ下さいませ。ミルフィ様はすぐに休まれた方がよいかと存じます」
「そっか……。では、そうさせて頂きますね」
「はい。今日は一日お疲れ様でございました。戻ればたっぷりティアに甘えるとよろしいですぞ」
ベイクの言葉に、思わず頬を赤らめてしまうミルフィである。
何にしても大変だった一日がこれでようやく終わりを告げた。
商会に戻ったミルフィは、ティアにすぐに連れて行かれる。そして、薬湯からマッサージを受けてベッドに入る。最後はティアに付き添われながら、ぐっすりと眠りについたのであった。
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