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第二章
第34話 初めての定期休業日明け
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休業日が明けて、また3日間の営業日が始まる。
1日設けた休業日がどう影響するのか心配なミルフィは、接客用の制服に着替えて従業員として紛れていた。
「ミルフィ様、結局その制服着られておられるんですね」
開店準備中の従業員から突っ込まれるミルフィ。よく見ると顔が真っ赤である。どうやら相当に恥ずかしいらしい。
「休み挟みましたし、昨日の休業を利用して開いた料理教室の影響を確認したいんですよ」
ミルフィはすごく恥ずかしがりながらも、制服を着てやって来た理由を話していた。
「さすが会長ですね。ミルフィ様自ら現場の確認だなんて、素晴らしいと思います」
「ああ、私この商会で働けて幸せですよ」
従業員たちはミルフィにめろめろのようだった。さすがは魔王の娘である魔王女だ。カリスマは一級品なのである。
何とも言えないような表情をしながらも、ミルフィは従業員たちに声を掛ける。
「む、無駄話はそのくらいにして準備を始めて下さい。もうそろそろ開店の時間ですよ」
「はい!」
ミルフィの呼び掛けに従業員たちは元気よく返事をする。そして、それぞれの持ち場に散って開店準備を再開していた。
(まったく、人の事をからかってきて、しょうがない人たちですね……。でも、楽しそうでなによりですよ)
ミルフィは両手を腰に当てながら、ふぅっと息を吐きながら呆れていた。
ちなみにだが、ミルフィの制服だけは他の従業員たちとは違う。それというのもピレシーが魔力でよその世界の服を再現しているためだ。服の材質や細かい意匠も違っている。靴下の履き口がリボンではなくゴムになっているのも、ミルフィの制服限定である。
他の従業員たちも似合ってはいるのだが、さすがミルフィというべきか、その制服が一番似合っている上に元々の可愛らしさが引きたっている。
”くくく、今日は忙しくなりそうだな、主”
邪悪な笑いを浮かべながら、ピレシーが突然現れる。
「まったく、何を言っているんですかね、この魔導書は……」
”主はもう少し自分の魅力というものを自覚した方がいいぞ。過小評価はもったいないぞ”
「こんなちんちくりんのどこに魅力があるというんですか……。みなさん、そんなに物好きなんですかね」
ピレシーの言い分をまったくもって聞き入れないミルフィである。その言い分を聞いて、ピレシーは開いたページを下にしてくるくると回っている。どうやらうんざりしているようである。
”やれやれ、食にかける情熱は本物と思っていたが、自覚が足りないようだな。我の言っていた事はすぐに分かる、覚悟しておく事だな”
「はいはい。準備の邪魔になるから、とりあえず今はどいておいて下さいね」
”うむ、必要があればいつでも呼ぶのだぞ”
ピレシーはそう言いながら姿を消した。
ピレシーにいろいろからかわれたものだから、ミルフィはため息を吐きながら準備へと戻ったのだった。
そして、休業日明けの営業が始まろうとしていた。
だが、この時点で既に事件は起きていた。
「み、ミルフィ様!」
「どうしたのですか。何か問題でも起きましたか?」
「そ、外を見て下さい」
「外?」
慌てる従業員の様子に、ゆっくりと窓から外へと視線を落とすミルフィ。
だが、そこに広がっていた光景を見て、思い切り見開いてしまう。
「えっ、何これ……」
ミルフィが見たのは、開店を今かと待つお客の群れだった。
「ちょっと、なんでこんなに人が来ているのよ」
「こっちが聞きたいですよ……」
思わぬ来客数に驚いてしまうミルフィ。
「参ったわね、今の仕込みの数じゃ対応できないわ。ピレシー」
”どうされたかな、主”
「今すぐティアを呼んできて。厨房の応援よ」
”心得た”
ピレシーはふっと姿を消した。
「ミルフィ様、今のは……?」
「説明は後です。私も厨房に入りますので、もう少しだけお客さんたちを押さえておいて下さい」
「わ、分かりました」
店員たちに対応を指示して、ミルフィは厨房へと降りていく。
「みなさん、仕込みの量を増やしますよ。材料はどうにかしますから」
「ど、どうされたんですか、ミルフィ様」
「外にお客さんが押し寄せているんですよ。この分だと、朝だけで昼の分まで消耗しそうです」
「なんてこった!」
困ったような声を出しながらも、顔はとても嬉しそうにしている。その様子に思わず顔が歪んでしまうミルフィである。
「え……っと……」
「たくさん料理ができるっていうんなら、料理人冥利に尽きるってもんよ。やるぞ、みんな!」
「おおーっ!」
料理人たちはみんな燃えていた。あまりにやる気に満ちているものだから、ミルフィもついつい感心した顔になってしまう。
「……まったくですね。せっかく来て下さっているんですから、がっかりさせないために私も腕を振るいますか」
「ミルフィ様自らですか。こいつぁ、しっかりやらねえとな」
料理人たちはますます気合いが入っていたようだった。
こうして、いつもの倍くらいの仕込みの見通しが立ったところで、店内の準備をしていた従業員に声を掛ける。
「店を開けて下さい。まだちょっと早いですけれど、これ以上待たせるわけにはいけませんからね!」
「分かりました」
ミルフィの声で店が開けられると、待っていた客がなだれ……込まなかった。
みんな順番に待って、落ち着いて注文をしていく。
こうして、休業日明けの営業日の朝は始まったのだった。
1日設けた休業日がどう影響するのか心配なミルフィは、接客用の制服に着替えて従業員として紛れていた。
「ミルフィ様、結局その制服着られておられるんですね」
開店準備中の従業員から突っ込まれるミルフィ。よく見ると顔が真っ赤である。どうやら相当に恥ずかしいらしい。
「休み挟みましたし、昨日の休業を利用して開いた料理教室の影響を確認したいんですよ」
ミルフィはすごく恥ずかしがりながらも、制服を着てやって来た理由を話していた。
「さすが会長ですね。ミルフィ様自ら現場の確認だなんて、素晴らしいと思います」
「ああ、私この商会で働けて幸せですよ」
従業員たちはミルフィにめろめろのようだった。さすがは魔王の娘である魔王女だ。カリスマは一級品なのである。
何とも言えないような表情をしながらも、ミルフィは従業員たちに声を掛ける。
「む、無駄話はそのくらいにして準備を始めて下さい。もうそろそろ開店の時間ですよ」
「はい!」
ミルフィの呼び掛けに従業員たちは元気よく返事をする。そして、それぞれの持ち場に散って開店準備を再開していた。
(まったく、人の事をからかってきて、しょうがない人たちですね……。でも、楽しそうでなによりですよ)
ミルフィは両手を腰に当てながら、ふぅっと息を吐きながら呆れていた。
ちなみにだが、ミルフィの制服だけは他の従業員たちとは違う。それというのもピレシーが魔力でよその世界の服を再現しているためだ。服の材質や細かい意匠も違っている。靴下の履き口がリボンではなくゴムになっているのも、ミルフィの制服限定である。
他の従業員たちも似合ってはいるのだが、さすがミルフィというべきか、その制服が一番似合っている上に元々の可愛らしさが引きたっている。
”くくく、今日は忙しくなりそうだな、主”
邪悪な笑いを浮かべながら、ピレシーが突然現れる。
「まったく、何を言っているんですかね、この魔導書は……」
”主はもう少し自分の魅力というものを自覚した方がいいぞ。過小評価はもったいないぞ”
「こんなちんちくりんのどこに魅力があるというんですか……。みなさん、そんなに物好きなんですかね」
ピレシーの言い分をまったくもって聞き入れないミルフィである。その言い分を聞いて、ピレシーは開いたページを下にしてくるくると回っている。どうやらうんざりしているようである。
”やれやれ、食にかける情熱は本物と思っていたが、自覚が足りないようだな。我の言っていた事はすぐに分かる、覚悟しておく事だな”
「はいはい。準備の邪魔になるから、とりあえず今はどいておいて下さいね」
”うむ、必要があればいつでも呼ぶのだぞ”
ピレシーはそう言いながら姿を消した。
ピレシーにいろいろからかわれたものだから、ミルフィはため息を吐きながら準備へと戻ったのだった。
そして、休業日明けの営業が始まろうとしていた。
だが、この時点で既に事件は起きていた。
「み、ミルフィ様!」
「どうしたのですか。何か問題でも起きましたか?」
「そ、外を見て下さい」
「外?」
慌てる従業員の様子に、ゆっくりと窓から外へと視線を落とすミルフィ。
だが、そこに広がっていた光景を見て、思い切り見開いてしまう。
「えっ、何これ……」
ミルフィが見たのは、開店を今かと待つお客の群れだった。
「ちょっと、なんでこんなに人が来ているのよ」
「こっちが聞きたいですよ……」
思わぬ来客数に驚いてしまうミルフィ。
「参ったわね、今の仕込みの数じゃ対応できないわ。ピレシー」
”どうされたかな、主”
「今すぐティアを呼んできて。厨房の応援よ」
”心得た”
ピレシーはふっと姿を消した。
「ミルフィ様、今のは……?」
「説明は後です。私も厨房に入りますので、もう少しだけお客さんたちを押さえておいて下さい」
「わ、分かりました」
店員たちに対応を指示して、ミルフィは厨房へと降りていく。
「みなさん、仕込みの量を増やしますよ。材料はどうにかしますから」
「ど、どうされたんですか、ミルフィ様」
「外にお客さんが押し寄せているんですよ。この分だと、朝だけで昼の分まで消耗しそうです」
「なんてこった!」
困ったような声を出しながらも、顔はとても嬉しそうにしている。その様子に思わず顔が歪んでしまうミルフィである。
「え……っと……」
「たくさん料理ができるっていうんなら、料理人冥利に尽きるってもんよ。やるぞ、みんな!」
「おおーっ!」
料理人たちはみんな燃えていた。あまりにやる気に満ちているものだから、ミルフィもついつい感心した顔になってしまう。
「……まったくですね。せっかく来て下さっているんですから、がっかりさせないために私も腕を振るいますか」
「ミルフィ様自らですか。こいつぁ、しっかりやらねえとな」
料理人たちはますます気合いが入っていたようだった。
こうして、いつもの倍くらいの仕込みの見通しが立ったところで、店内の準備をしていた従業員に声を掛ける。
「店を開けて下さい。まだちょっと早いですけれど、これ以上待たせるわけにはいけませんからね!」
「分かりました」
ミルフィの声で店が開けられると、待っていた客がなだれ……込まなかった。
みんな順番に待って、落ち着いて注文をしていく。
こうして、休業日明けの営業日の朝は始まったのだった。
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