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第二章
第33話 すそ野を広げましょうか
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最初の定休日を乗り切った後、しばらくはカフェの経営安定に全力を投入するミルフィ。
それというのも、そろそろある事に警戒を始めたからだ。
「プレツェ、商会の経営状態はどうかしら」
部下の一人、商会の運営を任せているプレツェを呼ぶ。
「今現在は問題ありませんです。利益もちゃんと上がっていますし、取引も順調です。やはり、この街の有力者に手伝っていただけているのは大きいですね」
プレツェからの報告を受けて、喜ぶどころか深刻な表情をするミルフィ。その姿にプレツェは首を傾げている。
目の前のプレツェの反応を気にする事なく、ミルフィは頭を悩ませている。軌道に乗り始めた頃こそ一番大事なのだと考えているからだ。
「姫様……?」
不思議そうな顔をしながら、プレツェが声を掛ける。その声に驚いたように顔を上げるミルフィである。
「あっ、いえ。お父様も昔は頭角を現し出した頃に周りから潰されそうになったと聞いた事がありますのでね。私の場合も、今のカフェがうまくいくと既存のお店から恨まれるのでないかと考えているのですよ」
「ああ、なるほど。それはあり得ますね」
ミルフィの懸念に理解を示すプレツェである。
「ここやカフェへの直接的な嫌がらせや、仕入れの妨害など、いろいろ考えられますからね。私たち自身ででもそうですが、オーソンさんとも相談の上で対処を考えています」
「何かいい案でもおありなのですか?」
ミルフィの様子を見て問い掛けるプレツェ。
すると、ミルフィの表情が変わったのである。
「ありますよ」
自信たっぷりに言い放つ。あまりに悪い顔をしているので、プレツェは驚きのあまりに言葉が出なかった。
「そ、それは一体何なのでしょうか」
「それはですねぇ……」
プレツェにこそこそを耳打ちするミルフィ。その案を聞いてプレツェはただただ驚いていた。
―――
数日後、店舗が休業の日に街の人が10名ほど集まっていた。
それを出迎えたのはミルフィとティアの二人である。一体何をするというのだろうか。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
集まった街の人を前に挨拶をするミルフィである。
街の人たちからは、実に厳しい目を向けられるミルフィ。だが、その程度の視線にはまったく動じない胆力の持ち主、それがミルフィなのである。
「それでは、お料理教室を始めさせて頂きます。準備はよろしいでしょうか」
「さっさと始めてちょうだい。最近噂の料理がどんなものか見極めてあげるから」
ミルフィの呼び掛けに、一部からは厳しい声が飛ぶ。
噂には聞いていたものの、新しい商会の商会長を実際に見て舐めているのである。なにせそこに居たのは10代の小娘なのだから。
偉そうな態度を取る街の人を睨むティアだが、ミルフィはそれを制止する。
「ふふふ、料理を教えてもらいに来たのでしょう? 私が子どもだからといって、甘く見てもらっては困りますね」
なんとも険悪なムードの中料理教室が始まる。
だが、そんなムードもあっという間に消し飛んでしまうのである。
ミルフィの料理の腕は本物だったのだ。
この日はパンの作り方講座だったのだが、ふわふわのパンの作り方を知って街の人たちは驚いていた。
「こ、こんなにふわふわになるなんて……」
「こんなのを知ってしまったら、今までの硬いパンが食べられなくなっちゃうわ」
ざわめきはとんでもないものだった。
しかし、ミルフィは優しい表情で街の人に語り掛ける。
「別に堅いパンが悪いわけじゃないんですよ。シチューなどの汁物との組み合わせなら、硬いパンも十分選択肢としてはあると思います。どんな料理と合わせるかによって、硬いパンと柔らかいパンを使い分けてみるといいでしょう」
ミルフィの説明を聞いて、感動している街の人たちであった。
「さあ、まだ時間はありますから、他の料理の作り方もお教えしますよ」
ミルフィがそう言って次に教えたのはシチューだった。パンの話をしたのでちょうどいいのだろう。教えている間に、ティアに今までの常識である硬いパンを焼いてもらう。
先程までとは違い、参加者の本気度が違っていた。ミルフィがシチューを作る姿をじっと見つめているのである。
肉や野菜の切り方や下処理から始まって、煮込みの時間やタイミングなどなど、これこそ穴が開くんじゃないかというくらいに見ているのである。最初の態度を考えると明らかな変化である。
調理が終われば実食タイム。
配膳された料理を目の前に、参加者たちののどがごくりと鳴る。
そして、一口食べる参加者たち。その味に、思わず言葉を失ってしまう。
その表情を見たミルフィとティアは満足げだった。
「ティアに焼いてもらいました硬いパンがございますので、それもご賞味ください」
参加者は言われた通りに硬いパンを手に取る。ちぎるのも一苦労の硬いパンだが、それをシチューにつけて口に入れると、これまた衝撃が走ったのである。シチューの汁気で程よくパンが柔らかくなる。そして、味気のないパンがシチューによって大変身していたのだ。思わず言葉どころか意識まで飛びそうになっていた。
実食の後は、参加者たちも実際に作ってみる事になる。
ミルフィの丁寧な教え方もあってか、この料理教室は大盛況のうちに終わりを告げた。
あれだけ横柄に構えていた参加者たちが、涙を流しながら頭を下げていたのだから、大成功と言っていいだろう。
こうして、街に受け入れられるための作戦の第一弾は、無事に終了したのである。
それというのも、そろそろある事に警戒を始めたからだ。
「プレツェ、商会の経営状態はどうかしら」
部下の一人、商会の運営を任せているプレツェを呼ぶ。
「今現在は問題ありませんです。利益もちゃんと上がっていますし、取引も順調です。やはり、この街の有力者に手伝っていただけているのは大きいですね」
プレツェからの報告を受けて、喜ぶどころか深刻な表情をするミルフィ。その姿にプレツェは首を傾げている。
目の前のプレツェの反応を気にする事なく、ミルフィは頭を悩ませている。軌道に乗り始めた頃こそ一番大事なのだと考えているからだ。
「姫様……?」
不思議そうな顔をしながら、プレツェが声を掛ける。その声に驚いたように顔を上げるミルフィである。
「あっ、いえ。お父様も昔は頭角を現し出した頃に周りから潰されそうになったと聞いた事がありますのでね。私の場合も、今のカフェがうまくいくと既存のお店から恨まれるのでないかと考えているのですよ」
「ああ、なるほど。それはあり得ますね」
ミルフィの懸念に理解を示すプレツェである。
「ここやカフェへの直接的な嫌がらせや、仕入れの妨害など、いろいろ考えられますからね。私たち自身ででもそうですが、オーソンさんとも相談の上で対処を考えています」
「何かいい案でもおありなのですか?」
ミルフィの様子を見て問い掛けるプレツェ。
すると、ミルフィの表情が変わったのである。
「ありますよ」
自信たっぷりに言い放つ。あまりに悪い顔をしているので、プレツェは驚きのあまりに言葉が出なかった。
「そ、それは一体何なのでしょうか」
「それはですねぇ……」
プレツェにこそこそを耳打ちするミルフィ。その案を聞いてプレツェはただただ驚いていた。
―――
数日後、店舗が休業の日に街の人が10名ほど集まっていた。
それを出迎えたのはミルフィとティアの二人である。一体何をするというのだろうか。
「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」
集まった街の人を前に挨拶をするミルフィである。
街の人たちからは、実に厳しい目を向けられるミルフィ。だが、その程度の視線にはまったく動じない胆力の持ち主、それがミルフィなのである。
「それでは、お料理教室を始めさせて頂きます。準備はよろしいでしょうか」
「さっさと始めてちょうだい。最近噂の料理がどんなものか見極めてあげるから」
ミルフィの呼び掛けに、一部からは厳しい声が飛ぶ。
噂には聞いていたものの、新しい商会の商会長を実際に見て舐めているのである。なにせそこに居たのは10代の小娘なのだから。
偉そうな態度を取る街の人を睨むティアだが、ミルフィはそれを制止する。
「ふふふ、料理を教えてもらいに来たのでしょう? 私が子どもだからといって、甘く見てもらっては困りますね」
なんとも険悪なムードの中料理教室が始まる。
だが、そんなムードもあっという間に消し飛んでしまうのである。
ミルフィの料理の腕は本物だったのだ。
この日はパンの作り方講座だったのだが、ふわふわのパンの作り方を知って街の人たちは驚いていた。
「こ、こんなにふわふわになるなんて……」
「こんなのを知ってしまったら、今までの硬いパンが食べられなくなっちゃうわ」
ざわめきはとんでもないものだった。
しかし、ミルフィは優しい表情で街の人に語り掛ける。
「別に堅いパンが悪いわけじゃないんですよ。シチューなどの汁物との組み合わせなら、硬いパンも十分選択肢としてはあると思います。どんな料理と合わせるかによって、硬いパンと柔らかいパンを使い分けてみるといいでしょう」
ミルフィの説明を聞いて、感動している街の人たちであった。
「さあ、まだ時間はありますから、他の料理の作り方もお教えしますよ」
ミルフィがそう言って次に教えたのはシチューだった。パンの話をしたのでちょうどいいのだろう。教えている間に、ティアに今までの常識である硬いパンを焼いてもらう。
先程までとは違い、参加者の本気度が違っていた。ミルフィがシチューを作る姿をじっと見つめているのである。
肉や野菜の切り方や下処理から始まって、煮込みの時間やタイミングなどなど、これこそ穴が開くんじゃないかというくらいに見ているのである。最初の態度を考えると明らかな変化である。
調理が終われば実食タイム。
配膳された料理を目の前に、参加者たちののどがごくりと鳴る。
そして、一口食べる参加者たち。その味に、思わず言葉を失ってしまう。
その表情を見たミルフィとティアは満足げだった。
「ティアに焼いてもらいました硬いパンがございますので、それもご賞味ください」
参加者は言われた通りに硬いパンを手に取る。ちぎるのも一苦労の硬いパンだが、それをシチューにつけて口に入れると、これまた衝撃が走ったのである。シチューの汁気で程よくパンが柔らかくなる。そして、味気のないパンがシチューによって大変身していたのだ。思わず言葉どころか意識まで飛びそうになっていた。
実食の後は、参加者たちも実際に作ってみる事になる。
ミルフィの丁寧な教え方もあってか、この料理教室は大盛況のうちに終わりを告げた。
あれだけ横柄に構えていた参加者たちが、涙を流しながら頭を下げていたのだから、大成功と言っていいだろう。
こうして、街に受け入れられるための作戦の第一弾は、無事に終了したのである。
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