メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
28 / 113
第二章

第28話 次の段階へ

しおりを挟む
 小さいながらカフェを開業してから10日ほどが過ぎた。
 オーソンの方でも宣伝が入ったのか、初日から大盛況でてんやわんやになったものの、いろいろ対処をしておいたので少しは落ち着いてきた。それでも食事時ともなればそれなりに混みあうので、ミルフィも顔を出して手伝うくらいである。

「はあ~、ここまで混雑するとはねぇ……」

 ミルフィは客がはけたタイミングで、厨房の中で壁にもたれながら呼吸を整えていた。

「それだけミルフィ様の料理がおいしいという事ですよ。誇っていいかと思います」

「そうね」

 厨房の料理人に言われて、くすくすと笑いながら納得するミルフィ。
 十分休んで回復したミルフィは、カフェの事を任せると商会へと戻っていった。

 このカフェは現在は順調である。
 営業時間は朝早くから日暮れくらいまでなのだが、今のところは昼ピークを過ぎたあたりで食材切れを起こして早めに店じまいという状況になっている。

(今のところは早い店じまいですけれど、まあ想定内でしょうかね)

 実は、開業直後の混雑はオーソンからある程度話に聞いていたのだ。それがあっただけに、ミルフィはこれだけ落ち着いているというわけである。多分、その助言がなければ混乱して酷い事になっていただろう。

”我とて営業には詳しくはないからな。あのオーソンという人物にはずいぶんと助けられたものだな”

「ええ、まったくですね。お礼の一つでもしないと気が済みませんね」

 突如現れたピレシーの言葉に、つい笑みをこぼしてしまうミルフィである。

「オーソンさんが言うには、そろそろ物珍しさによる影響が無くなって落ち着いてくるらしいです。そうなると少し余裕が出るでしょうから、その時には新メニューを考えましょうか」

”うむ、それがいいな。我のレシピはまだまだあるからな。たっぷり教えてやろうではないか”

「それは楽しみですね」

 笑うように小刻みに上下するピレシーを見ながら、ミルフィは楽しそうに笑っていた。その周りをピレシーが上下に漂いながらぐるぐると回っていた。

 商会に戻ったミルフィは、早速厨房にやって来ていた。

「それで、今日は何を作りましょうか」

 ミルフィが商会の料理人たちの視線を集める中、ピレシーを召喚する。

”うむ、ケーキに種類を増やそうではないか”

 そう言ったピレシーは、ミルフィの魔力を使って何やら物を出現させていた。

「これは?」

”うむ、カップケーキというものだな。今作っているケーキとは作り方が異なるが、持ち歩きには適しているタイプだ。魔力で作り出したので食べる事はできぬが、見本としてならいくらでも見ても構わぬぞ”

 どうやらピレシーは魔力で食品サンプルを作り出したらしい。以前にも肉の焼き方のために獣肉を作っていたので、この手のものは作り慣れているようだ。

「このカップって何を使っているのかしら」

”型に入れて高熱で焼くのでな、耐熱性の素材だな。この世界ならば土魔法で生成は可能なので、あまり気にせずともよい”

 ピレシーは答えながら、ミルフィの魔力を使ってカップを10個ほど作ってみせていた。

”カップケーキとその器の作り方を今から伝授しようではないか”

 ピレシーがにやりと笑ったように見えた。

「望むところですよ」

 ミルフィも負けじとにやりと笑っていた。

 料理人たちが見守る中、ミルフィとピレシーによるカップケーキの製造が始まった。
 今回もピレシーが作り方を教えながら、ミルフィが実際に作ってみせるという方法を取る。知識を与えるにしても魔力を介してミルフィに与えるのではなく、指導して身に付けさせるという方法を選んだ。
 これは最近のミルフィの考え方によるものだ。最初こそ知識と技術を直接魔力を介してもらっていたものの、何か違うと思い至ったらしい。
 ピレシーとしては知識を付与できるのであればその方法でも構わないらしく、あまり気にしている様子はなかった。

「では、よろしくお願いします」

”うむ、任された”

 真剣な表情でカップケーキ作りに挑むミルフィ。その表情は厨房に居る料理人たちにも影響を及ぼす。こうして、厨房の中では黙々と料理を作るという状況になってしまって、異様な雰囲気を放っていた。

 ミルフィの作業は、まずはカップケーキで使うバターの精製からだ。
 ミルク自体はかなり簡単に手に入るので、そこから乳脂肪分を分離して生クリームを得る。それを加工する事でバターが得られる。これらはピレシーが魔法を使って作り、それをミルフィが真似をしていた。
 気が付くとかなりの量のバターが完成していた。

”うむ、使わぬ分は冷蔵庫の中にしまっておこう。すぐに劣化してしまうのでな”

「分かりました」

 魔法で壺を作り出すと、その中に作りすぎたバターを入れて冷蔵庫へと入れていく。
 ちなみに冷蔵庫は初期の段階でピレシーによって指摘されたので、魔石を使って厨房に設置しておいたものである。歩いて入るタイプで、かなり大きめになっている。

”いい感じのバターができたので、いよいよ本命と行こうか”

「よろしくお願いします」

 さあ、いよいよカップケーキの製作に取り掛かるミルフィたちである。はたしてうまくいくのであろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

於田縫紀
ファンタジー
俺は神殿技術者だったが過労死して転生。そして冒険者となった日の夜に記憶や技能・魔法を取り戻した。しかしかつて持っていた能力や魔法の他に、釣りに必要だと神が判断した様々な技能や魔法がおまけされていた。 今世はこれらを利用してのんびり釣り、最小限に仕事をしようと思ったのだが…… (タイトルは異なりますが、カクヨム投稿中の『何でも作れる元神殿技術者の冒険者にして釣り人な日々』と同じお話です。更新が追いつくまでは毎日更新、追いついた後は隔日更新となります)

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

おっさん達のTRPG日記 ~七人の《魔導書使い》が四篇の《聖典》を奪い合いながら迷宮戦争やってみた!~

書記係K君
ファンタジー
剣と魔法の幻想世界・リンガイア大陸―― この世界には、自らの霊魂から《魔導書-デッキ-》を創り出し、神与の秘術《魔法-ゴスペル-》を綴り蒐集し、 神秘を使役する《魔導書使い-ウィザード-》と呼ばれる者達がいた。彼らが探し求めるのは、 あらゆる願望を叶えると云う伝説の魔導書《聖典》――。 この物語は、聖遺物《聖典》が封印された聖域《福音の迷宮》への入境を許された 選ばれし七人の《魔導書使い-ウィザード-》達が、七騎の《英雄譚-アルカナ-》を従えて 七つの陣営となり、四篇に別れた《聖典の断章》を蒐集すべく奪い合い、命を賭して覇を争う決闘劇。 其の戦いは、後世に《迷宮戦争》と謳われた―― ――という設定で、おっさん達がまったりと「TRPG」を遊ぶだけのお話だよ(ノ・∀・)ノ⌒◇

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...