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第二章
第28話 次の段階へ
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小さいながらカフェを開業してから10日ほどが過ぎた。
オーソンの方でも宣伝が入ったのか、初日から大盛況でてんやわんやになったものの、いろいろ対処をしておいたので少しは落ち着いてきた。それでも食事時ともなればそれなりに混みあうので、ミルフィも顔を出して手伝うくらいである。
「はあ~、ここまで混雑するとはねぇ……」
ミルフィは客がはけたタイミングで、厨房の中で壁にもたれながら呼吸を整えていた。
「それだけミルフィ様の料理がおいしいという事ですよ。誇っていいかと思います」
「そうね」
厨房の料理人に言われて、くすくすと笑いながら納得するミルフィ。
十分休んで回復したミルフィは、カフェの事を任せると商会へと戻っていった。
このカフェは現在は順調である。
営業時間は朝早くから日暮れくらいまでなのだが、今のところは昼ピークを過ぎたあたりで食材切れを起こして早めに店じまいという状況になっている。
(今のところは早い店じまいですけれど、まあ想定内でしょうかね)
実は、開業直後の混雑はオーソンからある程度話に聞いていたのだ。それがあっただけに、ミルフィはこれだけ落ち着いているというわけである。多分、その助言がなければ混乱して酷い事になっていただろう。
”我とて営業には詳しくはないからな。あのオーソンという人物にはずいぶんと助けられたものだな”
「ええ、まったくですね。お礼の一つでもしないと気が済みませんね」
突如現れたピレシーの言葉に、つい笑みをこぼしてしまうミルフィである。
「オーソンさんが言うには、そろそろ物珍しさによる影響が無くなって落ち着いてくるらしいです。そうなると少し余裕が出るでしょうから、その時には新メニューを考えましょうか」
”うむ、それがいいな。我のレシピはまだまだあるからな。たっぷり教えてやろうではないか”
「それは楽しみですね」
笑うように小刻みに上下するピレシーを見ながら、ミルフィは楽しそうに笑っていた。その周りをピレシーが上下に漂いながらぐるぐると回っていた。
商会に戻ったミルフィは、早速厨房にやって来ていた。
「それで、今日は何を作りましょうか」
ミルフィが商会の料理人たちの視線を集める中、ピレシーを召喚する。
”うむ、ケーキに種類を増やそうではないか”
そう言ったピレシーは、ミルフィの魔力を使って何やら物を出現させていた。
「これは?」
”うむ、カップケーキというものだな。今作っているケーキとは作り方が異なるが、持ち歩きには適しているタイプだ。魔力で作り出したので食べる事はできぬが、見本としてならいくらでも見ても構わぬぞ”
どうやらピレシーは魔力で食品サンプルを作り出したらしい。以前にも肉の焼き方のために獣肉を作っていたので、この手のものは作り慣れているようだ。
「このカップって何を使っているのかしら」
”型に入れて高熱で焼くのでな、耐熱性の素材だな。この世界ならば土魔法で生成は可能なので、あまり気にせずともよい”
ピレシーは答えながら、ミルフィの魔力を使ってカップを10個ほど作ってみせていた。
”カップケーキとその器の作り方を今から伝授しようではないか”
ピレシーがにやりと笑ったように見えた。
「望むところですよ」
ミルフィも負けじとにやりと笑っていた。
料理人たちが見守る中、ミルフィとピレシーによるカップケーキの製造が始まった。
今回もピレシーが作り方を教えながら、ミルフィが実際に作ってみせるという方法を取る。知識を与えるにしても魔力を介してミルフィに与えるのではなく、指導して身に付けさせるという方法を選んだ。
これは最近のミルフィの考え方によるものだ。最初こそ知識と技術を直接魔力を介してもらっていたものの、何か違うと思い至ったらしい。
ピレシーとしては知識を付与できるのであればその方法でも構わないらしく、あまり気にしている様子はなかった。
「では、よろしくお願いします」
”うむ、任された”
真剣な表情でカップケーキ作りに挑むミルフィ。その表情は厨房に居る料理人たちにも影響を及ぼす。こうして、厨房の中では黙々と料理を作るという状況になってしまって、異様な雰囲気を放っていた。
ミルフィの作業は、まずはカップケーキで使うバターの精製からだ。
ミルク自体はかなり簡単に手に入るので、そこから乳脂肪分を分離して生クリームを得る。それを加工する事でバターが得られる。これらはピレシーが魔法を使って作り、それをミルフィが真似をしていた。
気が付くとかなりの量のバターが完成していた。
”うむ、使わぬ分は冷蔵庫の中にしまっておこう。すぐに劣化してしまうのでな”
「分かりました」
魔法で壺を作り出すと、その中に作りすぎたバターを入れて冷蔵庫へと入れていく。
ちなみに冷蔵庫は初期の段階でピレシーによって指摘されたので、魔石を使って厨房に設置しておいたものである。歩いて入るタイプで、かなり大きめになっている。
”いい感じのバターができたので、いよいよ本命と行こうか”
「よろしくお願いします」
さあ、いよいよカップケーキの製作に取り掛かるミルフィたちである。はたしてうまくいくのであろうか。
オーソンの方でも宣伝が入ったのか、初日から大盛況でてんやわんやになったものの、いろいろ対処をしておいたので少しは落ち着いてきた。それでも食事時ともなればそれなりに混みあうので、ミルフィも顔を出して手伝うくらいである。
「はあ~、ここまで混雑するとはねぇ……」
ミルフィは客がはけたタイミングで、厨房の中で壁にもたれながら呼吸を整えていた。
「それだけミルフィ様の料理がおいしいという事ですよ。誇っていいかと思います」
「そうね」
厨房の料理人に言われて、くすくすと笑いながら納得するミルフィ。
十分休んで回復したミルフィは、カフェの事を任せると商会へと戻っていった。
このカフェは現在は順調である。
営業時間は朝早くから日暮れくらいまでなのだが、今のところは昼ピークを過ぎたあたりで食材切れを起こして早めに店じまいという状況になっている。
(今のところは早い店じまいですけれど、まあ想定内でしょうかね)
実は、開業直後の混雑はオーソンからある程度話に聞いていたのだ。それがあっただけに、ミルフィはこれだけ落ち着いているというわけである。多分、その助言がなければ混乱して酷い事になっていただろう。
”我とて営業には詳しくはないからな。あのオーソンという人物にはずいぶんと助けられたものだな”
「ええ、まったくですね。お礼の一つでもしないと気が済みませんね」
突如現れたピレシーの言葉に、つい笑みをこぼしてしまうミルフィである。
「オーソンさんが言うには、そろそろ物珍しさによる影響が無くなって落ち着いてくるらしいです。そうなると少し余裕が出るでしょうから、その時には新メニューを考えましょうか」
”うむ、それがいいな。我のレシピはまだまだあるからな。たっぷり教えてやろうではないか”
「それは楽しみですね」
笑うように小刻みに上下するピレシーを見ながら、ミルフィは楽しそうに笑っていた。その周りをピレシーが上下に漂いながらぐるぐると回っていた。
商会に戻ったミルフィは、早速厨房にやって来ていた。
「それで、今日は何を作りましょうか」
ミルフィが商会の料理人たちの視線を集める中、ピレシーを召喚する。
”うむ、ケーキに種類を増やそうではないか”
そう言ったピレシーは、ミルフィの魔力を使って何やら物を出現させていた。
「これは?」
”うむ、カップケーキというものだな。今作っているケーキとは作り方が異なるが、持ち歩きには適しているタイプだ。魔力で作り出したので食べる事はできぬが、見本としてならいくらでも見ても構わぬぞ”
どうやらピレシーは魔力で食品サンプルを作り出したらしい。以前にも肉の焼き方のために獣肉を作っていたので、この手のものは作り慣れているようだ。
「このカップって何を使っているのかしら」
”型に入れて高熱で焼くのでな、耐熱性の素材だな。この世界ならば土魔法で生成は可能なので、あまり気にせずともよい”
ピレシーは答えながら、ミルフィの魔力を使ってカップを10個ほど作ってみせていた。
”カップケーキとその器の作り方を今から伝授しようではないか”
ピレシーがにやりと笑ったように見えた。
「望むところですよ」
ミルフィも負けじとにやりと笑っていた。
料理人たちが見守る中、ミルフィとピレシーによるカップケーキの製造が始まった。
今回もピレシーが作り方を教えながら、ミルフィが実際に作ってみせるという方法を取る。知識を与えるにしても魔力を介してミルフィに与えるのではなく、指導して身に付けさせるという方法を選んだ。
これは最近のミルフィの考え方によるものだ。最初こそ知識と技術を直接魔力を介してもらっていたものの、何か違うと思い至ったらしい。
ピレシーとしては知識を付与できるのであればその方法でも構わないらしく、あまり気にしている様子はなかった。
「では、よろしくお願いします」
”うむ、任された”
真剣な表情でカップケーキ作りに挑むミルフィ。その表情は厨房に居る料理人たちにも影響を及ぼす。こうして、厨房の中では黙々と料理を作るという状況になってしまって、異様な雰囲気を放っていた。
ミルフィの作業は、まずはカップケーキで使うバターの精製からだ。
ミルク自体はかなり簡単に手に入るので、そこから乳脂肪分を分離して生クリームを得る。それを加工する事でバターが得られる。これらはピレシーが魔法を使って作り、それをミルフィが真似をしていた。
気が付くとかなりの量のバターが完成していた。
”うむ、使わぬ分は冷蔵庫の中にしまっておこう。すぐに劣化してしまうのでな”
「分かりました」
魔法で壺を作り出すと、その中に作りすぎたバターを入れて冷蔵庫へと入れていく。
ちなみに冷蔵庫は初期の段階でピレシーによって指摘されたので、魔石を使って厨房に設置しておいたものである。歩いて入るタイプで、かなり大きめになっている。
”いい感じのバターができたので、いよいよ本命と行こうか”
「よろしくお願いします」
さあ、いよいよカップケーキの製作に取り掛かるミルフィたちである。はたしてうまくいくのであろうか。
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