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第一章
第27話 オープン
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ついに第一歩となる飲食店が完成した。内装もそこそこ飾り立てておいた。ミルフィだって女の子なのだから、おしゃれにしておきたいのである。
メニューとしては数種類のサンドウィッチ、ハンバーガー、パン、チョコレート、ケーキ、スープ、紅茶と、初期店舗としては最低限といった感じだった。
「本当に最低限という感じですね。店舗も小さいですから、仕方がないでしょうか」
「そうですね。また新しい料理ができたら、オーソンさんのところに売り込みに行きますよ」
顎に手を当てて考え込むオーソンに、ミルフィは意地の悪そうな顔をしながら話し掛けている。その言葉にオーソンは驚き、小さく笑っていた。
「それは楽しみですね。ミルフィさんの作る料理はとても興味がありますからね」
「ええ、それは光栄な事ですよ」
オーソンに言われて、嬉しそうに笑っているミルフィである。
「それはそうと、どうして魔族の方なのに人間の街へ来られたのですか?」
「……はい?」
急にぶち込んでくるオーソンに、ミルフィは苦い表情を浮かべている。それに対してにこにこと笑うオーソンである。
「……私が魔族だっていうんですか?」
「ええ、最初は変わった女の子だなと思っていましたが、途中から変に思い始めましたからね」
じろっと見つめてくるミルフィに対して、オーソンはすました顔で話を続ける。
「スェトーをひと晩で育ててしまったあたりが最初ですね。あとは、冒険者たちが魔界から必死に持って帰ってくるものなどが簡単に出てきたところで完全に怪しみましたね」
「うぐっ……」
オーソンの指摘に言葉を詰まらせるミルフィである。
すると、ミルフィに呼ばれてもいないのにピレシーが突然姿を現した。
”主よ、おぬしの負けだな。こやつも大した人間だ”
「おやおや、これは驚きましたね。本が宙に浮いているではないですか」
”その割には落ち着いておるな。我の存在にもうすうす気が付いておったな?”
オーソンの反応にピレシーは訝しんでいるようだった。
「ただでさえ年端も行かない少女があれだけの料理を作れるんですからね。何者かがそばについているというのは容易に想像できる事です」
”さすがは商人としての経験を積んだ者だな。見る目というものが違う”
「恐れ入ります。食の魔導書に直にお目にかかれるとは、このオーソン、実に感慨深く思います」
”我の事も知っているのか。まだ若いというのに、末恐ろしい奴よ……”
どうやらオーソンはピレシーの事を知っていたようだった。だが、この場ではお互いの詮索は避けたようだった。
「それにしても、本当にミルフィさんは魔族なのですね」
”うむ。しかも、現在の魔王の一人娘だ。そこらの魔族とはわけが違う”
「ちょっと、ピレシー。そこまで話すなんて何を……!」
”隠しても無駄だ。いずれこやつは真実にたどり着いただろうて”
ピレシーに言われて口をつぐむミルフィである。それを見ていたオーソンは笑っていた。
「安心して下さい、今回の事は決して口外しませんよ」
いい年をした男性が唇に人差し指を当てながら言う。普通ならうさん臭く映るその姿も、どういうわけか頼もしく見える。
「ミルフィさんは優しい方ですからね。純粋においしい物を広めたいだけだというのがひしひしと伝わってきます。ですので、私もできる限りそれに協力しましょう。かつては私も目指したものですからね」
オーソンの言葉を聞いて、さっきまで顔を歪めていたミルフィに笑顔が戻る。
「私を魔族の姫様だと分かってもその態度が取れるなんて、本当に大した人ですね」
ミルフィはオーソンと向き合う。
「これからも良きパートナーとして、世の中においしい物を広めて参りましょう」
ミルフィが手を差し出す。
「そうですね。ここまで協力したのですから、これからもよろしくお願いします」
オーソンも手を差し出し、ここに固い握手が行われたのだった。人間と魔族という、種族を超えた協力関係が、ここに成立したのである。
―――
そして、いよいよミルフィ商会の直営による飲食店の開業の日を迎える事となった。
そもそもケーキやチョコレートはオーソンの手を借りて流通させていたので、そのあたりからの口コミもあってか、開業の予告をしたあたりから人がちょくちょく足を止めるようになっていた。
噂は広がり、開業の当日ともなると開業前からすでに人があふれかえる事態となっていた。オーソンの口添えで警備のために冒険者を雇っておいて正解である。けんかになりそうな場面でも、冒険者が割って入る事ですぐに鎮静化していたからだ。
店の中では調理担当と接客担当の従業員に加え、臨時でミルフィとティアの二人も加わり、総勢七名での臨戦態勢である。夜明け前から大量に仕込んでおくという状態だった。
「さあ、いよいよ新しい店舗のスタートです。気合い入れて参りましょう!」
「おーっ!」
ミルフィの掛け声で、厨房の中に元気な返事が響き渡る。
そして、全員が店の外に出て、集まっている客に対して姿を見せる。その姿を見た客たちは、驚いた事に一斉に静かになってしまった。
静かになった客たちに対して、ミルフィは笑顔を見せながら頭を下げて挨拶をする。
「ようこそ、お越し下さいました。カフェ『ミルフィ』、ただいまオープンでございます」
メニューとしては数種類のサンドウィッチ、ハンバーガー、パン、チョコレート、ケーキ、スープ、紅茶と、初期店舗としては最低限といった感じだった。
「本当に最低限という感じですね。店舗も小さいですから、仕方がないでしょうか」
「そうですね。また新しい料理ができたら、オーソンさんのところに売り込みに行きますよ」
顎に手を当てて考え込むオーソンに、ミルフィは意地の悪そうな顔をしながら話し掛けている。その言葉にオーソンは驚き、小さく笑っていた。
「それは楽しみですね。ミルフィさんの作る料理はとても興味がありますからね」
「ええ、それは光栄な事ですよ」
オーソンに言われて、嬉しそうに笑っているミルフィである。
「それはそうと、どうして魔族の方なのに人間の街へ来られたのですか?」
「……はい?」
急にぶち込んでくるオーソンに、ミルフィは苦い表情を浮かべている。それに対してにこにこと笑うオーソンである。
「……私が魔族だっていうんですか?」
「ええ、最初は変わった女の子だなと思っていましたが、途中から変に思い始めましたからね」
じろっと見つめてくるミルフィに対して、オーソンはすました顔で話を続ける。
「スェトーをひと晩で育ててしまったあたりが最初ですね。あとは、冒険者たちが魔界から必死に持って帰ってくるものなどが簡単に出てきたところで完全に怪しみましたね」
「うぐっ……」
オーソンの指摘に言葉を詰まらせるミルフィである。
すると、ミルフィに呼ばれてもいないのにピレシーが突然姿を現した。
”主よ、おぬしの負けだな。こやつも大した人間だ”
「おやおや、これは驚きましたね。本が宙に浮いているではないですか」
”その割には落ち着いておるな。我の存在にもうすうす気が付いておったな?”
オーソンの反応にピレシーは訝しんでいるようだった。
「ただでさえ年端も行かない少女があれだけの料理を作れるんですからね。何者かがそばについているというのは容易に想像できる事です」
”さすがは商人としての経験を積んだ者だな。見る目というものが違う”
「恐れ入ります。食の魔導書に直にお目にかかれるとは、このオーソン、実に感慨深く思います」
”我の事も知っているのか。まだ若いというのに、末恐ろしい奴よ……”
どうやらオーソンはピレシーの事を知っていたようだった。だが、この場ではお互いの詮索は避けたようだった。
「それにしても、本当にミルフィさんは魔族なのですね」
”うむ。しかも、現在の魔王の一人娘だ。そこらの魔族とはわけが違う”
「ちょっと、ピレシー。そこまで話すなんて何を……!」
”隠しても無駄だ。いずれこやつは真実にたどり着いただろうて”
ピレシーに言われて口をつぐむミルフィである。それを見ていたオーソンは笑っていた。
「安心して下さい、今回の事は決して口外しませんよ」
いい年をした男性が唇に人差し指を当てながら言う。普通ならうさん臭く映るその姿も、どういうわけか頼もしく見える。
「ミルフィさんは優しい方ですからね。純粋においしい物を広めたいだけだというのがひしひしと伝わってきます。ですので、私もできる限りそれに協力しましょう。かつては私も目指したものですからね」
オーソンの言葉を聞いて、さっきまで顔を歪めていたミルフィに笑顔が戻る。
「私を魔族の姫様だと分かってもその態度が取れるなんて、本当に大した人ですね」
ミルフィはオーソンと向き合う。
「これからも良きパートナーとして、世の中においしい物を広めて参りましょう」
ミルフィが手を差し出す。
「そうですね。ここまで協力したのですから、これからもよろしくお願いします」
オーソンも手を差し出し、ここに固い握手が行われたのだった。人間と魔族という、種族を超えた協力関係が、ここに成立したのである。
―――
そして、いよいよミルフィ商会の直営による飲食店の開業の日を迎える事となった。
そもそもケーキやチョコレートはオーソンの手を借りて流通させていたので、そのあたりからの口コミもあってか、開業の予告をしたあたりから人がちょくちょく足を止めるようになっていた。
噂は広がり、開業の当日ともなると開業前からすでに人があふれかえる事態となっていた。オーソンの口添えで警備のために冒険者を雇っておいて正解である。けんかになりそうな場面でも、冒険者が割って入る事ですぐに鎮静化していたからだ。
店の中では調理担当と接客担当の従業員に加え、臨時でミルフィとティアの二人も加わり、総勢七名での臨戦態勢である。夜明け前から大量に仕込んでおくという状態だった。
「さあ、いよいよ新しい店舗のスタートです。気合い入れて参りましょう!」
「おーっ!」
ミルフィの掛け声で、厨房の中に元気な返事が響き渡る。
そして、全員が店の外に出て、集まっている客に対して姿を見せる。その姿を見た客たちは、驚いた事に一斉に静かになってしまった。
静かになった客たちに対して、ミルフィは笑顔を見せながら頭を下げて挨拶をする。
「ようこそ、お越し下さいました。カフェ『ミルフィ』、ただいまオープンでございます」
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