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第一章
第25話 小さな店舗予定地
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オーソンに連れてこられた場所は、ミルフィ商会となった屋敷からほんのわずか、驚くほど目と鼻の先だった。
小さな2階建てのこじんまりとした建物ではあるものの、店内飲食には向かないものの広さは十分なくらいだった。
「すみません、手ごろな空き家がここくらいしかなかったものですからね。広さは厨房を構えるくらいはできますが、私のレストランほどの厨房は厳しいでしょう。それに、厨房を構えればもうスペースが残らないでしょうから、店頭での対面販売が精一杯といったところです」
「いえ、厨房があるならそれで充分です。オーソンさんに協力して頂いているのに、わざわざ競合を作るわけにはいきませんから、これでいいんですよ」
オーソンが申し訳なさそうにしているものの、ミルフィは特に気にしていなかった。
どういうものであれ、人間たちの生活圏における直営店ができるのだ。今まではオーソンの伝手で販売していたものが、自分たちの手で売れるようになる。それだけでミルフィにとっては大きな一歩なのだ。
「よし、ハンバーガーやサンドウィッチを売るなら、持ち運ぶための入れものも用意しなければいけませんね。食材によっては水分などが染み出てきますから、それを漏らさないだけのしっかりとした包装が必要ですね……」
店舗が気に入ったミルフィは、早速次の事を考えていた。
「ミルフィさん、それも重要ですが、内装の事も考えませんと」
「はっ、そうでしたね」
オーソンからツッコミを受けてはっとするミルフィ。
「職人もご用意致しましょうか?」
「そちらは大丈夫です。私の方で用意します」
店舗改装のための職人は自前で用意すると、オーソンの申し出を断る。
というのも、実際に自分の執事を通して職人の手配をしたばかりだからだ。それに、さすがにおんぶにだっこを続けるというのは、魔王の娘としてのプライドが地味に許さなくなってきていたのだ。
「分かりました。ですが、どうしても必要な事がございましたら、申し出て下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
言葉を交わすと、オーソンは自分のレストランへと戻っていった。
建物に一人になると、ミルフィはピレシーを呼び出す。
”ふむ、またいい感じの店舗ではないか”
ピレシーは出てくるなりそんな事を言う。
”魔法で間取りと広さを確認したが、これなら2階部分を飲食スペースとするのもありではあるな”
「食事を持って2階に移動するわけ?」
”うむ、階段の広さが問題とはなるが、それも一つの手ではある。我には異世界の知識もあるから、それを応用すればどうとでもできるであろう”
ピレシーはかなり自慢げに話している。
”『えれべえたあ』なるものが作れれば、1階から2階へ物を運んだり、その逆もする事ができる。魔道具の一種とはなるが、主の魔力を使えば1日稼働しても大丈夫だろうが、そこは別の魔力供給源が必要だな。さすがに主への負担が大きすぎる”
「な、何なのですか。その『えれべえたあ』とは……」
”異世界の道具でな、ロープを電気の力で動かして箱を上げ下げする装置だ。仕組みはさすがに専門外で分からぬが、電気を魔力に変えれば、この世界でも作れぬ事はないぞ?”
ピレシーの説明で興味を持ったミルフィ。
「それはいいですね。私のこの店で試験的に運用してみましょう」
目を輝かせてピレシーをしっかりと握っていた。
”ふむ、ならばそれを踏まえた上で内装の設計に取り掛かろうではないか。一度鍵を掛けて商会に戻るとしようではないか”
「了解です」
ミルフィはオーソンから渡された鍵で店舗の戸締りをすると、商会へとぱたぱたと戻っていった。
それから2日後、商会にベイクが戻ってきた。その隣には、魔界でどうにか都合がつけられた職人が二人ほどついて来ていた。
「ただいま戻りました、ミルフィ様」
「お帰りなさい、ベイク。その方たちが今回店舗の内装を手掛けてくれる職人ですね?」
「トンカと申します」
「ナンカと申します」
「この二人はご兄弟だそうで、魔界でも多くの建物を手掛けております。きっとお役に立つと存じます」
職人の自己紹介のあと、ベイクがその様に情報を付け足していた。
「初めまして、魔王の娘であるミルフィです。今回は私のためにわざわざお越し下さいまして、ありがとうございます」
ミルフィが挨拶をすると、兄弟は一瞬で体を強張らせた。ベイクのただ者ならぬ雰囲気でも厳しかったので、まさかの魔王の娘の登場にその緊張は頂点に達してしまったのだ。
そのガチガチの態度に思わず笑みをこぼしてしまうミルフィだったが、ここは商談の席だとすぐさま表情を引き締める。
「それでは、お二人に手掛けて頂きたい物件へとご案内致します」
それと同時にミルフィはティアに合図を送る。合図を受け取ったティアはなにやら籠を持ち、ミルフィの隣へとやって来た。
ミルフィも図面を描いた紙をしっかり手に持つと、二人に改装を頼む予定である商会近くの店舗へと向かったのだった。
小さな2階建てのこじんまりとした建物ではあるものの、店内飲食には向かないものの広さは十分なくらいだった。
「すみません、手ごろな空き家がここくらいしかなかったものですからね。広さは厨房を構えるくらいはできますが、私のレストランほどの厨房は厳しいでしょう。それに、厨房を構えればもうスペースが残らないでしょうから、店頭での対面販売が精一杯といったところです」
「いえ、厨房があるならそれで充分です。オーソンさんに協力して頂いているのに、わざわざ競合を作るわけにはいきませんから、これでいいんですよ」
オーソンが申し訳なさそうにしているものの、ミルフィは特に気にしていなかった。
どういうものであれ、人間たちの生活圏における直営店ができるのだ。今まではオーソンの伝手で販売していたものが、自分たちの手で売れるようになる。それだけでミルフィにとっては大きな一歩なのだ。
「よし、ハンバーガーやサンドウィッチを売るなら、持ち運ぶための入れものも用意しなければいけませんね。食材によっては水分などが染み出てきますから、それを漏らさないだけのしっかりとした包装が必要ですね……」
店舗が気に入ったミルフィは、早速次の事を考えていた。
「ミルフィさん、それも重要ですが、内装の事も考えませんと」
「はっ、そうでしたね」
オーソンからツッコミを受けてはっとするミルフィ。
「職人もご用意致しましょうか?」
「そちらは大丈夫です。私の方で用意します」
店舗改装のための職人は自前で用意すると、オーソンの申し出を断る。
というのも、実際に自分の執事を通して職人の手配をしたばかりだからだ。それに、さすがにおんぶにだっこを続けるというのは、魔王の娘としてのプライドが地味に許さなくなってきていたのだ。
「分かりました。ですが、どうしても必要な事がございましたら、申し出て下さい」
「分かりました。ありがとうございます」
言葉を交わすと、オーソンは自分のレストランへと戻っていった。
建物に一人になると、ミルフィはピレシーを呼び出す。
”ふむ、またいい感じの店舗ではないか”
ピレシーは出てくるなりそんな事を言う。
”魔法で間取りと広さを確認したが、これなら2階部分を飲食スペースとするのもありではあるな”
「食事を持って2階に移動するわけ?」
”うむ、階段の広さが問題とはなるが、それも一つの手ではある。我には異世界の知識もあるから、それを応用すればどうとでもできるであろう”
ピレシーはかなり自慢げに話している。
”『えれべえたあ』なるものが作れれば、1階から2階へ物を運んだり、その逆もする事ができる。魔道具の一種とはなるが、主の魔力を使えば1日稼働しても大丈夫だろうが、そこは別の魔力供給源が必要だな。さすがに主への負担が大きすぎる”
「な、何なのですか。その『えれべえたあ』とは……」
”異世界の道具でな、ロープを電気の力で動かして箱を上げ下げする装置だ。仕組みはさすがに専門外で分からぬが、電気を魔力に変えれば、この世界でも作れぬ事はないぞ?”
ピレシーの説明で興味を持ったミルフィ。
「それはいいですね。私のこの店で試験的に運用してみましょう」
目を輝かせてピレシーをしっかりと握っていた。
”ふむ、ならばそれを踏まえた上で内装の設計に取り掛かろうではないか。一度鍵を掛けて商会に戻るとしようではないか”
「了解です」
ミルフィはオーソンから渡された鍵で店舗の戸締りをすると、商会へとぱたぱたと戻っていった。
それから2日後、商会にベイクが戻ってきた。その隣には、魔界でどうにか都合がつけられた職人が二人ほどついて来ていた。
「ただいま戻りました、ミルフィ様」
「お帰りなさい、ベイク。その方たちが今回店舗の内装を手掛けてくれる職人ですね?」
「トンカと申します」
「ナンカと申します」
「この二人はご兄弟だそうで、魔界でも多くの建物を手掛けております。きっとお役に立つと存じます」
職人の自己紹介のあと、ベイクがその様に情報を付け足していた。
「初めまして、魔王の娘であるミルフィです。今回は私のためにわざわざお越し下さいまして、ありがとうございます」
ミルフィが挨拶をすると、兄弟は一瞬で体を強張らせた。ベイクのただ者ならぬ雰囲気でも厳しかったので、まさかの魔王の娘の登場にその緊張は頂点に達してしまったのだ。
そのガチガチの態度に思わず笑みをこぼしてしまうミルフィだったが、ここは商談の席だとすぐさま表情を引き締める。
「それでは、お二人に手掛けて頂きたい物件へとご案内致します」
それと同時にミルフィはティアに合図を送る。合図を受け取ったティアはなにやら籠を持ち、ミルフィの隣へとやって来た。
ミルフィも図面を描いた紙をしっかり手に持つと、二人に改装を頼む予定である商会近くの店舗へと向かったのだった。
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