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第一章
第19話 問題を抱えて
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商会に戻ってきたミルフィは、レストランのでの1件に満足していた。
戻ると同時に、執事に声を掛ける。
「ねえ、ベイク。ちょっといいかしら」
「何でしょうか、ミルフィ様」
ベイクと呼ばれた執事が返事をする。
「開業からわずかしか経っていないけれど、思ったより好調なようですね。従業員を増やしたいと思うのですけれど、いいかしら」
「左様ですな。掃除などに呼んだメイドたちが料理に打ち込んでしまっては、掃除に手が回りませんものな。して、どこから人を呼び寄せるのですかな?」
ベイクの問い掛けに考え込むミルフィ。
「魔界にも人間界にも料理を広めたいし、どちらからもですね。チェチェカの実の供給も滞ってますし……、正直甘く見過ぎていました」
「畏まりました。では、ピアズに伝言を託して魔族を集めましょう。人間たちに関してはオーソン殿を頼られた方がよろしいのでは?」
「そうですね。明日もオーソンさんのレストランに向かいますし、その時に頼んでみましょうか」
「畏まりました。魔族の方は私どもにお任せ下さい。チェチェカの実も手配しておきます」
「頼みましたよ、ベイク」
ミルフィは部屋を出て行くベイクを見送る。
「ピレシー」
”主、どうされた?”
一人になるとピレシーを召喚する。
「無計画すぎたわね、私」
”何を今さらですぞ。悩むくらいならば、不安を解消するために動くのだ。食材であるのなら、我の力である程度はどうにかできる”
「それはそうだけど、私の魔力を使うんでしょう? 限界があるじゃないですか……」
ソファーに転がりながらため息を漏らすミルフィ。
「自分の欲望に忠実すぎて、世間を知らな過ぎましたね。地盤が固まるまでは、新しい料理は控えるしかありませんね」
”それには我も賛成だ。できる事できない事を理解するのは大事ですからな”
どうにもうまくいきすぎて行き詰りそうになっている事をひしひしと感じていたようだ。
嬉々としてレストランに向かったのは、実はそういう裏事情があったのである。自分の方で限界が出ていたので、オーソンの店を巻き込んだのである。
「それはそれとして、調味料を作りましょうか。熟成に時間がかかるみたいですし、今から仕込んでおかないと、ちょうどいいタイミングで出せなさそうですからね」
”うむ、それはいい。ちょうどいい貯蔵庫もある事だ、さっさとやってしまおう”
厨房へ向かうミルフィたちだった。
向かった先の厨房では、メイドたちがパンとチョコレートを一生懸命に作っている。火と水の魔法はひと通りこなせる魔族なので、問題なく作れているようである。
「ミルフィ様、お疲れ様です」
「ええ、ロンとグリッテもお疲れ様です。毎日大量に作って大変でしょう?」
「いえ、楽しくやらせて頂いています」
「そ、そう……。でも、やりすぎないようにね」
笑顔で答えているメイドたちだが、よくよく思えばいつ休んでいるだろうかというくらい働いていた。目の下に薄らくまが浮かんでいる。ちょっと心配になってくるミルフィである。
「ピレシー、1日の数量限定にした方がいいかしらね?」
”確かに心配になってくるな。そのくらいの措置はあってもいいだろう。材料の残量も限られておるしな”
「……後でベイクと相談して決めましょうか」
どうやらミルフィ商会の状況は由々しき事態になってきているようだった。
早く対処をしないと、メイドたちが倒れてしまいそうで怖くなるミルフィである。
「……予定変更。元気にする料理を作りましょうか」
”承知した”
ミルフィは魔界鳥の卵とミルクとスェトーを取り出す。
次に土魔法を使って器を作り出し、火の魔法であぶって消毒しておく。
スェトーを鍋の中で焦がし過ぎないようにしながら過熱して、土魔法で作った器に入れる。
それが終わると魔界鳥の卵を割ってかき混ぜ、軽く沸騰しない程度に温めたミルクと混ぜ合わせていく。
焦がしたスェトーを入れておいた器に、卵とミルクを混ぜ合わせた液体を流し込み、今度はそれを蒸し焼きにしていく。土魔法で作った大きな容器に並べ、水魔法で水を張り、火魔法でしばらくあぶり続けるのだ。
焼き固まった思ったら今度は風魔法で粗熱を取り、水魔法と組み合わせて冷やし固めていく。
ここまですると誰もが分かる。プリンの完成だった。
「ふぅ、魔法を使ったからだいぶ短縮できたけど、結構大変ですね」
”おいしいものは手間暇がかかる。とはいえ、ここまで短縮できるのはさすが主といわざるを得んな”
「でも、魔界鳥の卵をこんなに使うなんて……。ミルクはここでも手には入りますが、卵は貴重ですからね……」
”飼えばよかろう。我の知識を使えば飼育は可能だからな”
「えっ?!」
でき上がったプリンを前に少し落ち込みかけたミルフィは驚きを隠せなかった。魔界鳥を飼って育てられるというのだ。正直耳を疑った。
”任せておけ。明日にでも早速、その魔界鳥とやらを捕まえてこようではないか”
見えない顔がにやりと笑った気がしたミルフィである。
何にしても、明日は魔界へと戻る事になりそうなミルフィなのであった。
戻ると同時に、執事に声を掛ける。
「ねえ、ベイク。ちょっといいかしら」
「何でしょうか、ミルフィ様」
ベイクと呼ばれた執事が返事をする。
「開業からわずかしか経っていないけれど、思ったより好調なようですね。従業員を増やしたいと思うのですけれど、いいかしら」
「左様ですな。掃除などに呼んだメイドたちが料理に打ち込んでしまっては、掃除に手が回りませんものな。して、どこから人を呼び寄せるのですかな?」
ベイクの問い掛けに考え込むミルフィ。
「魔界にも人間界にも料理を広めたいし、どちらからもですね。チェチェカの実の供給も滞ってますし……、正直甘く見過ぎていました」
「畏まりました。では、ピアズに伝言を託して魔族を集めましょう。人間たちに関してはオーソン殿を頼られた方がよろしいのでは?」
「そうですね。明日もオーソンさんのレストランに向かいますし、その時に頼んでみましょうか」
「畏まりました。魔族の方は私どもにお任せ下さい。チェチェカの実も手配しておきます」
「頼みましたよ、ベイク」
ミルフィは部屋を出て行くベイクを見送る。
「ピレシー」
”主、どうされた?”
一人になるとピレシーを召喚する。
「無計画すぎたわね、私」
”何を今さらですぞ。悩むくらいならば、不安を解消するために動くのだ。食材であるのなら、我の力である程度はどうにかできる”
「それはそうだけど、私の魔力を使うんでしょう? 限界があるじゃないですか……」
ソファーに転がりながらため息を漏らすミルフィ。
「自分の欲望に忠実すぎて、世間を知らな過ぎましたね。地盤が固まるまでは、新しい料理は控えるしかありませんね」
”それには我も賛成だ。できる事できない事を理解するのは大事ですからな”
どうにもうまくいきすぎて行き詰りそうになっている事をひしひしと感じていたようだ。
嬉々としてレストランに向かったのは、実はそういう裏事情があったのである。自分の方で限界が出ていたので、オーソンの店を巻き込んだのである。
「それはそれとして、調味料を作りましょうか。熟成に時間がかかるみたいですし、今から仕込んでおかないと、ちょうどいいタイミングで出せなさそうですからね」
”うむ、それはいい。ちょうどいい貯蔵庫もある事だ、さっさとやってしまおう”
厨房へ向かうミルフィたちだった。
向かった先の厨房では、メイドたちがパンとチョコレートを一生懸命に作っている。火と水の魔法はひと通りこなせる魔族なので、問題なく作れているようである。
「ミルフィ様、お疲れ様です」
「ええ、ロンとグリッテもお疲れ様です。毎日大量に作って大変でしょう?」
「いえ、楽しくやらせて頂いています」
「そ、そう……。でも、やりすぎないようにね」
笑顔で答えているメイドたちだが、よくよく思えばいつ休んでいるだろうかというくらい働いていた。目の下に薄らくまが浮かんでいる。ちょっと心配になってくるミルフィである。
「ピレシー、1日の数量限定にした方がいいかしらね?」
”確かに心配になってくるな。そのくらいの措置はあってもいいだろう。材料の残量も限られておるしな”
「……後でベイクと相談して決めましょうか」
どうやらミルフィ商会の状況は由々しき事態になってきているようだった。
早く対処をしないと、メイドたちが倒れてしまいそうで怖くなるミルフィである。
「……予定変更。元気にする料理を作りましょうか」
”承知した”
ミルフィは魔界鳥の卵とミルクとスェトーを取り出す。
次に土魔法を使って器を作り出し、火の魔法であぶって消毒しておく。
スェトーを鍋の中で焦がし過ぎないようにしながら過熱して、土魔法で作った器に入れる。
それが終わると魔界鳥の卵を割ってかき混ぜ、軽く沸騰しない程度に温めたミルクと混ぜ合わせていく。
焦がしたスェトーを入れておいた器に、卵とミルクを混ぜ合わせた液体を流し込み、今度はそれを蒸し焼きにしていく。土魔法で作った大きな容器に並べ、水魔法で水を張り、火魔法でしばらくあぶり続けるのだ。
焼き固まった思ったら今度は風魔法で粗熱を取り、水魔法と組み合わせて冷やし固めていく。
ここまですると誰もが分かる。プリンの完成だった。
「ふぅ、魔法を使ったからだいぶ短縮できたけど、結構大変ですね」
”おいしいものは手間暇がかかる。とはいえ、ここまで短縮できるのはさすが主といわざるを得んな”
「でも、魔界鳥の卵をこんなに使うなんて……。ミルクはここでも手には入りますが、卵は貴重ですからね……」
”飼えばよかろう。我の知識を使えば飼育は可能だからな”
「えっ?!」
でき上がったプリンを前に少し落ち込みかけたミルフィは驚きを隠せなかった。魔界鳥を飼って育てられるというのだ。正直耳を疑った。
”任せておけ。明日にでも早速、その魔界鳥とやらを捕まえてこようではないか”
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何にしても、明日は魔界へと戻る事になりそうなミルフィなのであった。
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