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第一章
第18話 特異点の悩み
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「さて、夕食用のメニューも考えちゃいましょうか」
厨房に立つミルフィは続けて料理を始める。
取り出したるは硬くて有名な人参である。この世界ではカロトーと呼ばれている。ほとんどは生のままバリボリ食べているようなもので、ほとんどは馬の餌になっていた。
ちなみに空中から物が出てくる事に、もう料理人たちもいちいち驚かなくなっていた。興味があるのはミルフィが作る料理だけなのである。
(反応してくれなくて助かるわ。ピレシーの能力とはいえど、知られたら大騒ぎを覚悟してたからね……)
思わずミルフィも苦笑いである。
さて、ミルフィがなぜカロトーを取り出したとかいうと、ステーキの付け合わせの問題だった。肉だけどーんというのは迫力はあるのだけど、どこかミルフィには物足りなかったのだ。さすがは元からグルメ志向のあった魔王女である。
そこでミルフィが採った方法はある程度の大きさの棒状に切ってから茹で、それを軽く油で炒めるというものだった。
茹でてから炒めたカロトーを、ステーキの添え物として置く。これで肉どーんのステーキにちょっと色取りが加わったのである。
ところが、これが料理人たちにはちょっと分からなかったようで、首を傾げられてしまっていた。
それもそうだろう。この世界では自分の食べたいものだけをひたすら食べるというのが一般的だ。見た目なんて気にしない。腹に放り込めば結局一緒なのだからというものである。
しかし、ミルフィにはこの世界にはない概念がそもそもどういうわけか備わっていた。この世界のごちそうが不味いという時点で既に異端である。そこへピレシーの知識が加わって、その概念がかなり加速している感じである。
「食事というものは確かにお腹を満たすための行為です。ですが、こういうちゃんとした食事の場であるなら、目で楽しむのもありなんじゃないかと思うんですよ。もちろん、おいしいっていうのが前提ですけれどね」
ミルフィは料理人たちに説教じみた話をしている。
「目で楽しむといっても、奇抜なのはよくないと思いますけどね。「食べたくなる」と「見て楽しい」を両立させないと」
この言葉に、料理人たちはふむふむと小さく頷いていた。どうも納得しているようである。
しかしながら、こうは言いながらもミルフィは悩んでいた。ピレシーの知識を元にそれを再現しているものの、この世界の住人にとってそれはまったくの未知のものが多いのだ。どうやって食べ物だという認識をさせるのか、それが最大の課題と言えるのである。
ケーキやチョコレートを広めるにも、とにかく試食してもらって認識を持ってもらったから広まったようなものだ。しかし、毎回それではさすがに困るというわけなのだ。
ミルフィはまだ知名度がない。知名度はある場所で広めればあっという間に定着するのではないか。そう考えてやって来たのがこの日の真の目的だったのである。
(どうにかして、私の料理をもっと広げていかないとね)
ミルフィはこんな事を思っているが、正確にはピレシーの知識にある料理である。この世界で具現化しているのはミルフィなので間違ってはいないが、根本的には間違いである。
いろいろ試したいミルフィだが、この世界では調味料が圧倒的に不足している。塩とスェトーくらいである。シチューはあるものの、それだって野菜を煮詰めたものなので、調味料ではない。
ピレシーの知識にある料理を作るには調味料が必要なのだ。
「ピレシー」
”お呼びかな、主”
「今あるやつで作れる調味料ってあるかしら」
”無理だな。材料が不足しているし、保存のための容器がない。こればかりは商会に戻ってからだ”
ピレシーに相談したものの、無理のようだった。
「じゃあ、仕方ないわね。元々ある料理やこれまで教えた料理のチェックに入りましょうか」
というわけで、ミルフィについて料理を教わっていた料理人たちの料理の腕前を見る事にした。特にメインたるステーキも焼き方を見る。
”ダメだな、ただ焼いているという感じだ。これではせっかくの肉がダメになる”
ピレシーから指摘が入ったのはステーキだった。他の料理は教えた事をしっかり実践していたのに、教えていない料理はかなり適当なものだったようだ。
確かに、先日散々ピレシーから焼き方のチェックされたミルフィから見ても、かなりいい加減な焼き方だった。若手の料理人というのもあるだろうが、これではレストランの看板に傷がついてしまう。
ピレシーからの厳しいチェックが入ったので、ミルフィが料理人たちを集める。
「みんなの焼いたステーキを食べ比べてみましょうか」
ぎょっとした顔をする料理人たち。さすがにステーキは負けないと思ったのか、料理人たちが目をギラギラとさせていた。
ところがだ。ミルフィの焼いたステーキと自分たちのステーキを食べ比べて、料理人たちはみんなして膝から崩れ落ちていた。
「か、完敗だ……」
「悔しい。これだけは負けるつもりはなかったのに……」
あまりの落ち込みように苦笑いを浮かべるミルフィだった。
厨房に立つミルフィは続けて料理を始める。
取り出したるは硬くて有名な人参である。この世界ではカロトーと呼ばれている。ほとんどは生のままバリボリ食べているようなもので、ほとんどは馬の餌になっていた。
ちなみに空中から物が出てくる事に、もう料理人たちもいちいち驚かなくなっていた。興味があるのはミルフィが作る料理だけなのである。
(反応してくれなくて助かるわ。ピレシーの能力とはいえど、知られたら大騒ぎを覚悟してたからね……)
思わずミルフィも苦笑いである。
さて、ミルフィがなぜカロトーを取り出したとかいうと、ステーキの付け合わせの問題だった。肉だけどーんというのは迫力はあるのだけど、どこかミルフィには物足りなかったのだ。さすがは元からグルメ志向のあった魔王女である。
そこでミルフィが採った方法はある程度の大きさの棒状に切ってから茹で、それを軽く油で炒めるというものだった。
茹でてから炒めたカロトーを、ステーキの添え物として置く。これで肉どーんのステーキにちょっと色取りが加わったのである。
ところが、これが料理人たちにはちょっと分からなかったようで、首を傾げられてしまっていた。
それもそうだろう。この世界では自分の食べたいものだけをひたすら食べるというのが一般的だ。見た目なんて気にしない。腹に放り込めば結局一緒なのだからというものである。
しかし、ミルフィにはこの世界にはない概念がそもそもどういうわけか備わっていた。この世界のごちそうが不味いという時点で既に異端である。そこへピレシーの知識が加わって、その概念がかなり加速している感じである。
「食事というものは確かにお腹を満たすための行為です。ですが、こういうちゃんとした食事の場であるなら、目で楽しむのもありなんじゃないかと思うんですよ。もちろん、おいしいっていうのが前提ですけれどね」
ミルフィは料理人たちに説教じみた話をしている。
「目で楽しむといっても、奇抜なのはよくないと思いますけどね。「食べたくなる」と「見て楽しい」を両立させないと」
この言葉に、料理人たちはふむふむと小さく頷いていた。どうも納得しているようである。
しかしながら、こうは言いながらもミルフィは悩んでいた。ピレシーの知識を元にそれを再現しているものの、この世界の住人にとってそれはまったくの未知のものが多いのだ。どうやって食べ物だという認識をさせるのか、それが最大の課題と言えるのである。
ケーキやチョコレートを広めるにも、とにかく試食してもらって認識を持ってもらったから広まったようなものだ。しかし、毎回それではさすがに困るというわけなのだ。
ミルフィはまだ知名度がない。知名度はある場所で広めればあっという間に定着するのではないか。そう考えてやって来たのがこの日の真の目的だったのである。
(どうにかして、私の料理をもっと広げていかないとね)
ミルフィはこんな事を思っているが、正確にはピレシーの知識にある料理である。この世界で具現化しているのはミルフィなので間違ってはいないが、根本的には間違いである。
いろいろ試したいミルフィだが、この世界では調味料が圧倒的に不足している。塩とスェトーくらいである。シチューはあるものの、それだって野菜を煮詰めたものなので、調味料ではない。
ピレシーの知識にある料理を作るには調味料が必要なのだ。
「ピレシー」
”お呼びかな、主”
「今あるやつで作れる調味料ってあるかしら」
”無理だな。材料が不足しているし、保存のための容器がない。こればかりは商会に戻ってからだ”
ピレシーに相談したものの、無理のようだった。
「じゃあ、仕方ないわね。元々ある料理やこれまで教えた料理のチェックに入りましょうか」
というわけで、ミルフィについて料理を教わっていた料理人たちの料理の腕前を見る事にした。特にメインたるステーキも焼き方を見る。
”ダメだな、ただ焼いているという感じだ。これではせっかくの肉がダメになる”
ピレシーから指摘が入ったのはステーキだった。他の料理は教えた事をしっかり実践していたのに、教えていない料理はかなり適当なものだったようだ。
確かに、先日散々ピレシーから焼き方のチェックされたミルフィから見ても、かなりいい加減な焼き方だった。若手の料理人というのもあるだろうが、これではレストランの看板に傷がついてしまう。
ピレシーからの厳しいチェックが入ったので、ミルフィが料理人たちを集める。
「みんなの焼いたステーキを食べ比べてみましょうか」
ぎょっとした顔をする料理人たち。さすがにステーキは負けないと思ったのか、料理人たちが目をギラギラとさせていた。
ところがだ。ミルフィの焼いたステーキと自分たちのステーキを食べ比べて、料理人たちはみんなして膝から崩れ落ちていた。
「か、完敗だ……」
「悔しい。これだけは負けるつもりはなかったのに……」
あまりの落ち込みように苦笑いを浮かべるミルフィだった。
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