メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

文字の大きさ
上 下
18 / 113
第一章

第18話 特異点の悩み

しおりを挟む
「さて、夕食用のメニューも考えちゃいましょうか」

 厨房に立つミルフィは続けて料理を始める。
 取り出したるは硬くて有名な人参である。この世界ではカロトーと呼ばれている。ほとんどは生のままバリボリ食べているようなもので、ほとんどは馬の餌になっていた。
 ちなみに空中から物が出てくる事に、もう料理人たちもいちいち驚かなくなっていた。興味があるのはミルフィが作る料理だけなのである。

(反応してくれなくて助かるわ。ピレシーの能力とはいえど、知られたら大騒ぎを覚悟してたからね……)

 思わずミルフィも苦笑いである。
 さて、ミルフィがなぜカロトーを取り出したとかいうと、ステーキの付け合わせの問題だった。肉だけどーんというのは迫力はあるのだけど、どこかミルフィには物足りなかったのだ。さすがは元からグルメ志向のあった魔王女である。
 そこでミルフィが採った方法はある程度の大きさの棒状に切ってから茹で、それを軽く油で炒めるというものだった。
 茹でてから炒めたカロトーを、ステーキの添え物として置く。これで肉どーんのステーキにちょっと色取りが加わったのである。
 ところが、これが料理人たちにはちょっと分からなかったようで、首を傾げられてしまっていた。
 それもそうだろう。この世界では自分の食べたいものだけをひたすら食べるというのが一般的だ。見た目なんて気にしない。腹に放り込めば結局一緒なのだからというものである。
 しかし、ミルフィにはこの世界にはない概念がそもそもどういうわけか備わっていた。この世界のごちそうが不味いという時点で既に異端である。そこへピレシーの知識が加わって、その概念がかなり加速している感じである。

「食事というものは確かにお腹を満たすための行為です。ですが、こういうちゃんとした食事の場であるなら、目で楽しむのもありなんじゃないかと思うんですよ。もちろん、おいしいっていうのが前提ですけれどね」

 ミルフィは料理人たちに説教じみた話をしている。

「目で楽しむといっても、奇抜なのはよくないと思いますけどね。「食べたくなる」と「見て楽しい」を両立させないと」

 この言葉に、料理人たちはふむふむと小さく頷いていた。どうも納得しているようである。
 しかしながら、こうは言いながらもミルフィは悩んでいた。ピレシーの知識を元にそれを再現しているものの、この世界の住人にとってそれはまったくの未知のものが多いのだ。どうやって食べ物だという認識をさせるのか、それが最大の課題と言えるのである。
 ケーキやチョコレートを広めるにも、とにかく試食してもらって認識を持ってもらったから広まったようなものだ。しかし、毎回それではさすがに困るというわけなのだ。
 ミルフィはまだ知名度がない。知名度はある場所で広めればあっという間に定着するのではないか。そう考えてやって来たのがこの日の真の目的だったのである。

(どうにかして、私の料理をもっと広げていかないとね)

 ミルフィはこんな事を思っているが、正確にはピレシーの知識にある料理である。この世界で具現化しているのはミルフィなので間違ってはいないが、根本的には間違いである。
 いろいろ試したいミルフィだが、この世界では調味料が圧倒的に不足している。塩とスェトーくらいである。シチューはあるものの、それだって野菜を煮詰めたものなので、調味料ではない。
 ピレシーの知識にある料理を作るには調味料が必要なのだ。

「ピレシー」

”お呼びかな、主”

「今あるやつで作れる調味料ってあるかしら」

”無理だな。材料が不足しているし、保存のための容器がない。こればかりは商会に戻ってからだ”

 ピレシーに相談したものの、無理のようだった。

「じゃあ、仕方ないわね。元々ある料理やこれまで教えた料理のチェックに入りましょうか」

 というわけで、ミルフィについて料理を教わっていた料理人たちの料理の腕前を見る事にした。特にメインたるステーキも焼き方を見る。

”ダメだな、ただ焼いているという感じだ。これではせっかくの肉がダメになる”

 ピレシーから指摘が入ったのはステーキだった。他の料理は教えた事をしっかり実践していたのに、教えていない料理はかなり適当なものだったようだ。
 確かに、先日散々ピレシーから焼き方のチェックされたミルフィから見ても、かなりいい加減な焼き方だった。若手の料理人というのもあるだろうが、これではレストランの看板に傷がついてしまう。
 ピレシーからの厳しいチェックが入ったので、ミルフィが料理人たちを集める。

「みんなの焼いたステーキを食べ比べてみましょうか」

 ぎょっとした顔をする料理人たち。さすがにステーキは負けないと思ったのか、料理人たちが目をギラギラとさせていた。
 ところがだ。ミルフィの焼いたステーキと自分たちのステーキを食べ比べて、料理人たちはみんなして膝から崩れ落ちていた。

「か、完敗だ……」

「悔しい。これだけは負けるつもりはなかったのに……」

 あまりの落ち込みように苦笑いを浮かべるミルフィだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します

黒木 楓
恋愛
 隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。  どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。  巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。  転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。  そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。

異世界に行けるようになったんだが自宅に令嬢を持ち帰ってしまった件

シュミ
ファンタジー
高二である天音 旬はある日、女神によって異世界と現実世界を行き来できるようになった。 旬が異世界から現実世界に帰る直前に転びそうな少女を助けた結果、旬の自宅にその少女を持ち帰ってしまった。その少女はリーシャ・ミリセントと名乗り、王子に婚約破棄されたと話し───!?

転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ

如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白? 「え~…大丈夫?」 …大丈夫じゃないです というかあなた誰? 「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」 …合…コン 私の死因…神様の合コン… …かない 「てことで…好きな所に転生していいよ!!」 好きな所…転生 じゃ異世界で 「異世界ってそんな子供みたいな…」 子供だし 小2 「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」 よろです 魔法使えるところがいいな 「更に注文!?」 …神様のせいで死んだのに… 「あぁ!!分かりました!!」 やたね 「君…結構策士だな」 そう? 作戦とかは楽しいけど… 「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」 …あそこ? 「…うん。君ならやれるよ。頑張って」 …んな他人事みたいな… 「あ。爵位は結構高めだからね」 しゃくい…? 「じゃ!!」 え? ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

外れスキルで始める、田舎で垂れ流しスローライフ!

Mr.Six
ファンタジー
「外れスキル」と嘲笑され、故郷を追放された青年リクト。彼の唯一のスキル「垂れ流し」は、使うと勝手に物が溢れ出すという奇妙な能力だった。辿り着いたのは、人里離れた小さな村。荒れた畑、壊れかけの家々、そしてどこか元気のない村人たち。 役立たずと思われていたスキルが、いつしか村を救う奇跡を起こす。流れ出る謎の作物や道具が村を潤し、彼の不器用ながらも心優しい行動が人々の心を繋いでいく。畑を耕し、収穫を喜び、仲間と笑い合う日々の中で、リクトは「無価値なスキル」の本当の価値に気付いていく。 笑いと癒し、そして小さな奇跡が詰まった、異世界スローライフ物語!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

処理中です...