メシマセ!魔王女ちゃん

未羊

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第一章

第12話 進出の足掛かり

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 商会を立ち上げる事を決めたミルフィだが、人間たちの決まりごとはいまいち分からない。そこで、次に人間たちの街に出向く時に、新たな魔族を連れて行く事にした。

「えっ、おいらなんかが行っていいんですかい?」

「私の知る限り、身近で人間たちに一番詳しいのはあなたですからね。適任は他に居ません」

 ミルフィは目の前の魔族を説得している。
 人間たちの街に連れて行くので、目の前の魔族は当然ながら人間に近いタイプである。しかも、この魔族は人間たちと一緒に暮らしていた時期があるのだ。
 食による世界征服の足掛かりを作るためには、この上ない適性を持った魔族なのである。

「おいらなんかでよろしければ……、お供致します!」

「ええ、頼むわよ。プレツェ」

「お、お任せ下さい」

 プレツェは返事をするが、どことなく体が震えていた。

「もちろん、一人とは言わないわ。ピアズ、あなたの部下を声に一人寄こしてくれないかしら」

「承知致しました、姫様」

「ティア、家事のできるメイドを見繕って。人間たちの街で拠点を構える以上、それなりの体裁と整えませんとね」

「承知致しました、姫様。お任せ下さいませ」

 ミルフィから指示を受けた二人がばたばたと人を見繕いに駆け出していった。

「さて、次に顔を出す時には、パンの酵母を完成させて、あといくつか新しい料理を用意しておかなければね」

”そういう事でしたらお任せあれ。我に掛かれば焼き、蒸し、煮込み何でも来いといった感じですぞ。ふははは、腕が鳴りますぞ!”

 ミルフィが考え込むと、ピレシーがものすごく興奮していた。魔導書のくせに興奮するとは意外だった。
 ピレシーが笑っているものの、対照的にミルフィは冷静である。

「何か新しい案はありますかしらね、ピレシー」

”うむ、パンとシチューだけですからな。あとは料理のバリエーションを増やしていくだけですな。煮込みがあるのだから、焼きと蒸しの料理を出して種類を増やしていくのですぞ”

「なるほど、調理法を変えて味覚を変えるってわけなのね」

”そういう事だな。あとは同じ調理法でも食材や味付けを変えていけばよい”

 ピレシーの助言でアイディアが固まってきたミルフィである。

”それと主”

 ピレシーがさらにミルフィに話し掛けてくる。

”デザートの類も種類を増やそう。我の中には他の世界の食卓の情報はある。それを参考にしてみるのもいいだろう”

「なるほどね。アイディアは頼むわ。私は頑張ってそれを再現してみせるから」

”承知した”

 ミルフィとピレシーは、商会で取り扱う料理を増やすために、この日も魔王城の厨房に閉じこもったのだった。


 商会の立ち上げの話をしてから7日ほどが経過した。
 いよいよミルフィは新しい料理と、新しい人材を引き連れて再び街へと向かう。まずはいつものレストランへと向かい、そこでオーソンと合流してから商業組合へと向かうという流れである。
 ほとんどの手続きをオーソンがしてくれていたので、ミルフィたちは用意された建物を見に行くだけとなった。建物を見て問題がなければサインをして商会の設立が正式に承認されるそうだ。

「では、早速建物を見せて頂いてもよろしいでしょうか」

「はい、畏まりました。条件に合う物件は数が少なく、該当は一棟だけでございました」

 商業組合の担当は鍵を手に取ると、その建物へと案内する。
 それは街の中心から少しだけ外れた場所にある大きな建物だった。

「この建物は、元々貴族様が住んでられた建物でございます。ですので、厨房もそれなりに大きいですし、お客様のご要望に沿っておるかと存じます」

 説明を聞いたミルフィたちは、中へと入っていく。
 外観からしてあまり大したふうには思わなかったのは、ミルフィたちが魔王城暮らしだからだ。お城と比べればどこの貴族の屋敷もしょぼく感じてしまうのである。これは仕方のない話だった。
 とはいえども、しばらく生活する魔族の人数は四人だから、おそらくは十分といったところだろう。

「よし、ここに決めたわ。他にはないのでしょう?」

 ミルフィは決断したのだった。建物の購入を伝えると、オーソンと職員が笑顔になった。

「それでは、代金は立て替えておきましょう。その分、レシピを教えてくださればいいので」

 オーソンは抜け目がなかった。
 とはいえ、ミルフィたちは自分たちの負担がない事に安心したのだった。なにせ、人間たちのお金はほとんど持っていないのだから。まさしく、思わぬ助け舟だった。オーソンとしては意図していないだろうが。

 かなり順調に人間たちの世界に進出する足掛かりができたミルフィたち。
 契約を終えた後、オーソンの店に戻る。そこで、契約成立を祝って盛大に料理を振る舞う事にしたミルフィ。その料理を作る様子を、ティアとティアが選んだ使用人たちにも見せている。
 実に楽しそうに料理をするミルフィに、厨房に居た人間たちはついつい見惚れてしまっていた。

(うふふふ、この調子で人間たちを私の料理のとりこにしていくわよ)

 嬉しそうに笑うミルフィである。
 ところが後日、立ち上げた商会の名前が『ミルフィ商会』と知って開いた口が塞がらなくなったそうだ。
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