182 / 189
Mission181
しおりを挟む
シュヴァリエが交渉に臨んでいる間、アリスは密かに鉄道の建設に取り掛かっていた。
ただ、その建設は中途半端なところまでしか行えない。それというのも、下手に現地住民の目に触れてしまえば交渉が決裂しかねないからだ。
彼らは目がいいという魔法石からの情報があるために、アリスは慎重に建設を進めていく。
(ファルーダンとマスカードの国境、しかも山岳地帯にそんな方々がいるなんて知りませんよ)
なんと、原作者であるアリスですら知らない設定だった。
なにぶん小説の世界では、ちょうど今頃はギルソンの反乱が起きて、ファルーダンの国内は戦乱の渦に真っ只中だったからだ。
この世界はアリスが書いていた小説の世界でありながらも、アリスの介入によってずいぶんとずれていた世界となっていた。
そのことによって、見えてなかったものがいろいろと浮き彫りになってきたのである。今回の現地住民たちや新しい鉱山も、そのことによって発覚したのである。
いろいろと面倒ことになっているので、アリスは建設しながらため息をついていた。
ひとまず、ファルーダン王国内ではアハトから分岐させて、中間位置となりそうな場所にひとまずの終着地点を設定しておく。
そこまで作り終えると、次はマスカード帝国内へ移動する。
むしろ、マスカード帝国の方は建設を急いだ方がよかったようだ。問題の場所の近くまで、マスカード帝国は街が整備されていたのだ。
ファルーダン王国の間の建設を行うと、マスカード帝国へと移動する。体力を温存するために、マスカード帝国の帝都までは鉄道で移動だ。
帝都に移動するのは理由がある。改めて皇帝クリムにルートの選定についての条件を聞くためだ。あとは帝都内に新しい軌道を引いていいかという確認もある。帝都内がダメなら、外から東側に建設を進めるだけなのだが、念のためというところである。
結果として、帝都内への増設は許可が下りなかった。やっぱりもうこれ以上の改築は不可能ということらしい。
代わりに、目的の場所を超えて、東側の国境まで鉄道を建設してほしいという話になった。
マスカード帝国の東側には、山岳国家のマテンロという国がある。その国の国境までということらしい。これならば鉄道を建設してもごまかしは利く可能背はある。アリスはこの要求を受け入れた。
皇帝との話を終えたアリスは、早速工事に取り掛かる。
マスカード帝国の帝都を出たところで、立体交差で東側へと鉄路を分岐させる。そこから指定された街に駅を設置しながら、どんどんと鉄道を建設していく。
実は、このマテンロとの間で鉄路を結ぶのにはわけがある。
その主な理由が馬と羊だ。鉄路が充実してきたとはいえ、駅から各地への移動はやっぱり馬なのである。
山岳国家マテンロは牧畜国家であり、馬や羊以外にもヤギや牛などの動物も飼育している。
(牧畜国家ですか、なんだか懐かしくなるので、ちょっと見てみたいですね)
アリスは昔のことを思い出して、つい笑みをこぼしてしまっていた。
そんなこんなで、アリスはあっという間に皇帝に命じられた場所まで鉄道を建設してしまった。相変わらずの仕事の速さである。
アリスは魔法のおかげで空が飛べるので、空から地形を確認しながら建設を進められる。そのせいでものすごく速く作業が進んでしまうのである。
その途中、例の場所あたりを眺めてみたのだが、特に戦いが起きている様子はなかった。
そのことに安心して無事に国境に着いたアリスは、国境の兵士たちに挨拶をしていた。
「だ、誰だ!」
当然ながら武器を突きつけられるアリス。建設しながら国境まで来ても、早馬よりも早く着いてしまうのがアリスなのである。
「初めまして、私はアリスと申します。今回、マスカード帝国皇帝の命を受け、国境まで鉄道の建設を行いました」
勅命を記した書面を取り出して見せつけるアリス。それを見た兵士は、アリスに対して敬礼をしている。皇帝からの使いであるなら邪険に扱うわけにはいかなかった。
「分かって頂けると助かります。今回はまだ建設しただけですので、街ごとに駅を建設して稼働となれば、まだ日数が必要でしょう」
「これが、噂に聞いていた鉄道というものですか。ものすごいですな」
でき上がった線路を見せられて、兵士たちは驚きを隠せないといった様子だ。
「ここに列車が通るようになれば、朝こちらを出れば、夕刻には帝都に着く予定です。かなり近くなりますよ」
「そいつは信じられないな」
兵士たちが唖然とするの無理はない。ファルーダン王国まで行ったことがある人たちならまだしも、こんな国境警備にあたっている兵士たちが知っているわけがないのである。なにせ、帝都に戻れるとしても数年単位になるからだ。
「まあ、いずれ分かりますので、警備のお仕事を頑張って下さい」
国境の警備兵たちを労ったアリスは、魔法で浮いて帝都へと戻っていったのだった。
「……なあ、俺たち夢を見てるのか?」
「だよなぁ、人が空を飛ぶって……」
警備兵たちはしばらく呆然と、空を飛ぶアリスを視線で追いかけていたのだった。
ただ、その建設は中途半端なところまでしか行えない。それというのも、下手に現地住民の目に触れてしまえば交渉が決裂しかねないからだ。
彼らは目がいいという魔法石からの情報があるために、アリスは慎重に建設を進めていく。
(ファルーダンとマスカードの国境、しかも山岳地帯にそんな方々がいるなんて知りませんよ)
なんと、原作者であるアリスですら知らない設定だった。
なにぶん小説の世界では、ちょうど今頃はギルソンの反乱が起きて、ファルーダンの国内は戦乱の渦に真っ只中だったからだ。
この世界はアリスが書いていた小説の世界でありながらも、アリスの介入によってずいぶんとずれていた世界となっていた。
そのことによって、見えてなかったものがいろいろと浮き彫りになってきたのである。今回の現地住民たちや新しい鉱山も、そのことによって発覚したのである。
いろいろと面倒ことになっているので、アリスは建設しながらため息をついていた。
ひとまず、ファルーダン王国内ではアハトから分岐させて、中間位置となりそうな場所にひとまずの終着地点を設定しておく。
そこまで作り終えると、次はマスカード帝国内へ移動する。
むしろ、マスカード帝国の方は建設を急いだ方がよかったようだ。問題の場所の近くまで、マスカード帝国は街が整備されていたのだ。
ファルーダン王国の間の建設を行うと、マスカード帝国へと移動する。体力を温存するために、マスカード帝国の帝都までは鉄道で移動だ。
帝都に移動するのは理由がある。改めて皇帝クリムにルートの選定についての条件を聞くためだ。あとは帝都内に新しい軌道を引いていいかという確認もある。帝都内がダメなら、外から東側に建設を進めるだけなのだが、念のためというところである。
結果として、帝都内への増設は許可が下りなかった。やっぱりもうこれ以上の改築は不可能ということらしい。
代わりに、目的の場所を超えて、東側の国境まで鉄道を建設してほしいという話になった。
マスカード帝国の東側には、山岳国家のマテンロという国がある。その国の国境までということらしい。これならば鉄道を建設してもごまかしは利く可能背はある。アリスはこの要求を受け入れた。
皇帝との話を終えたアリスは、早速工事に取り掛かる。
マスカード帝国の帝都を出たところで、立体交差で東側へと鉄路を分岐させる。そこから指定された街に駅を設置しながら、どんどんと鉄道を建設していく。
実は、このマテンロとの間で鉄路を結ぶのにはわけがある。
その主な理由が馬と羊だ。鉄路が充実してきたとはいえ、駅から各地への移動はやっぱり馬なのである。
山岳国家マテンロは牧畜国家であり、馬や羊以外にもヤギや牛などの動物も飼育している。
(牧畜国家ですか、なんだか懐かしくなるので、ちょっと見てみたいですね)
アリスは昔のことを思い出して、つい笑みをこぼしてしまっていた。
そんなこんなで、アリスはあっという間に皇帝に命じられた場所まで鉄道を建設してしまった。相変わらずの仕事の速さである。
アリスは魔法のおかげで空が飛べるので、空から地形を確認しながら建設を進められる。そのせいでものすごく速く作業が進んでしまうのである。
その途中、例の場所あたりを眺めてみたのだが、特に戦いが起きている様子はなかった。
そのことに安心して無事に国境に着いたアリスは、国境の兵士たちに挨拶をしていた。
「だ、誰だ!」
当然ながら武器を突きつけられるアリス。建設しながら国境まで来ても、早馬よりも早く着いてしまうのがアリスなのである。
「初めまして、私はアリスと申します。今回、マスカード帝国皇帝の命を受け、国境まで鉄道の建設を行いました」
勅命を記した書面を取り出して見せつけるアリス。それを見た兵士は、アリスに対して敬礼をしている。皇帝からの使いであるなら邪険に扱うわけにはいかなかった。
「分かって頂けると助かります。今回はまだ建設しただけですので、街ごとに駅を建設して稼働となれば、まだ日数が必要でしょう」
「これが、噂に聞いていた鉄道というものですか。ものすごいですな」
でき上がった線路を見せられて、兵士たちは驚きを隠せないといった様子だ。
「ここに列車が通るようになれば、朝こちらを出れば、夕刻には帝都に着く予定です。かなり近くなりますよ」
「そいつは信じられないな」
兵士たちが唖然とするの無理はない。ファルーダン王国まで行ったことがある人たちならまだしも、こんな国境警備にあたっている兵士たちが知っているわけがないのである。なにせ、帝都に戻れるとしても数年単位になるからだ。
「まあ、いずれ分かりますので、警備のお仕事を頑張って下さい」
国境の警備兵たちを労ったアリスは、魔法で浮いて帝都へと戻っていったのだった。
「……なあ、俺たち夢を見てるのか?」
「だよなぁ、人が空を飛ぶって……」
警備兵たちはしばらく呆然と、空を飛ぶアリスを視線で追いかけていたのだった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判
七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。
「では開廷いたします」
家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー
みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。
ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。
ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。
こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。
‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。
※不定期更新です。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる