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Mission180
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国境の現地住民たち。その住民たちは、周辺をファルーダン王国やマスカード帝国が治めるようになる前からその地に住みついていた。
その辺り一帯を聖地としており、自然崇拝を行っている。
住む地域一帯は現在はファルーダン王国の土地とはなっているものの、住民たちは従うつもりはないらしい。併合しようとした際に激しい抵抗にあったがために、ファルーダンの王家は現地住民たちの意思を尊重することとなり、彼らには自治を認めることになったのだった。
今回、彼らの住む自治地域の近くが開発対象となってしまった。そのために、シュヴァリエたちはその説得へとやって来たのだ。
シュヴァリエは自分のオートマタであるアルヴィンとともに、ゆっくりと現地住民たちの集落へと近付いていく。
「あれが、この辺り一帯に住む現地住民の集落か」
「そのようだな。どうする、マスター」
周囲を確認しながら呟くシュヴァリエに、アルヴィンが命令を求めている。
「どうするも何も、正面から堂々と向かうだけだ。俺とお前だけならあまり警戒はさせまい」
「分かった。もしもの時はやっちまっていいか?」
「無力化だけにしろ。殺すと面倒になるのは見えている」
「ちっ、面倒だな」
アルヴィンは気の済むまで暴れたらしいのか、力の加減を求められると露骨なまでに大きな舌打ちをしていた。マスター相手にする行動じゃないというものだ。
しかし、シュヴァリエは特に気にしていない。こんなオートマタでも、命令には忠実に動いてくれるパートナーなのだ。
「よし、そろそろ行くとしようか。念のために周囲に隠れていないか気配を探っておいてくれ」
「分かったよ。必要なら捕縛魔法でもこっそり放っておいてやる」
「そのくらいなら許可する」
シュヴァリエが小さく笑って許可すると、アルヴィンの目が光った気がした。
いよいよシュヴァリエが現地住民たちと顔を合わせる。
この話し合いはファルーダン王国だけではなく、隣国マスカード帝国にも影響を及ぼすものだ。それがゆえに、シュヴァリエの気合いも一段と入っている。
それに、この交渉を成功させれば、ファルーダン王国における自分の地位や信用を回復できる。シュヴァリエの気合いが入るのは自然な流れなのだ。
集落の入口に近付くと、集落からぞろぞろと男性陣が姿を見せる。その手には石剣や木の槍など、実に古典的な武器が持たれている。
「なにやつじゃ」
意外と言葉が通じる。
「ファルーダン王国第二王子、シュヴァリエ・ギルバス・ファルーダンだ。貴様たちに話があってここまでやって来た」
シュヴァリエの言葉に、住民たちが警戒を強めている。
「マスター、木の上に弓矢隊がいる。無力化しておくか?」
アルヴィンがぼそぼそと話し掛けると、シュヴァリエはこう返した。
「いや、今はまだいい。矢が届かないようにだけしておいてくれ」
「……分かった」
アルヴィンがシュヴァリエの後ろに立ち、気付かれない程度に魔法を展開する。
「王国の王子が何の用じゃ。ここは我らの土地、おとなしく立ち去れ!」
どうやら門前払いをする気満々である。
だが、シュヴァリエも自分のプライドがかかっているので、この程度でおとなしく帰ったりはしない。
「悪いが帰るつもりはない。今日は交渉をしに来たのだ。悪いがここに居座らせてもらう」
シュヴァリエは何を思ったのか、その場に座り込んでしまった。
王国内とはいえ敵陣の前、一体何を考えているのだろうか。
ついでに、腰に提げていた剣も外して、自分の背中側に置く。敵意がないというアピールだ。
シュヴァリエがここまですると、住民たちは皆驚いていた。手の届きにくいところに武器を置き、すぐに対処できない座った姿勢。
「……分かった。お前の覚悟は見せてもらった。話くらいは聞こうではないか」
「長!」
長の言葉に驚いた男性陣から声が上がると、長はそれを睨みひとつで鎮めてしまった。現地住民の長というのは、それだけ偉大なのである。
「ありがとうございます。心配とあれば、この剣、預けておきましょう」
「分かった」
長が首を振ると、男性の一人がシュヴァリエの剣を拾い上げる。奪い返されないように走って戻り、長に渡していた。
「ふむ、見事な剣じゃな。それに、これは確かにファルーダンの紋章。我が集落にも、かつて下賜された旗があるからな。紋章はよく知っておるよ」
剣をしまった長は、くるりと背を向けて言葉をかける。
「ついて来い。わしの家に案内しよう」
歩いていく現地住民の長の後ろをシュヴァリエたちがついていく。
その間も周りの警戒はまったく解かれておらず、耐えず二人を狙う矢が構えられていた。
ようやくやって来た現地住民の長の家。自然崇拝とあって、家も土を盛り上げて作られただけの簡素なものだった。精々文明的なものといったら、ちゃんと削って作られた窓くらいだろう。
ただ、家に近付いたアルヴィンが、ふと驚いて足を止めていた。
「どうした、アルヴィン」
「いや、なんでもない」
アルヴィンの珍しい姿に不思議に思うシュヴァリエだったが、今は現地住民たちとの交渉の場だ。ひとまずはそっとしておいた。
こうして、いよいよ交渉の場についたシュヴァリエたち。無事に現地住民を説得して、鉱山を開発することができるのか。
ここからが正念場だ。
その辺り一帯を聖地としており、自然崇拝を行っている。
住む地域一帯は現在はファルーダン王国の土地とはなっているものの、住民たちは従うつもりはないらしい。併合しようとした際に激しい抵抗にあったがために、ファルーダンの王家は現地住民たちの意思を尊重することとなり、彼らには自治を認めることになったのだった。
今回、彼らの住む自治地域の近くが開発対象となってしまった。そのために、シュヴァリエたちはその説得へとやって来たのだ。
シュヴァリエは自分のオートマタであるアルヴィンとともに、ゆっくりと現地住民たちの集落へと近付いていく。
「あれが、この辺り一帯に住む現地住民の集落か」
「そのようだな。どうする、マスター」
周囲を確認しながら呟くシュヴァリエに、アルヴィンが命令を求めている。
「どうするも何も、正面から堂々と向かうだけだ。俺とお前だけならあまり警戒はさせまい」
「分かった。もしもの時はやっちまっていいか?」
「無力化だけにしろ。殺すと面倒になるのは見えている」
「ちっ、面倒だな」
アルヴィンは気の済むまで暴れたらしいのか、力の加減を求められると露骨なまでに大きな舌打ちをしていた。マスター相手にする行動じゃないというものだ。
しかし、シュヴァリエは特に気にしていない。こんなオートマタでも、命令には忠実に動いてくれるパートナーなのだ。
「よし、そろそろ行くとしようか。念のために周囲に隠れていないか気配を探っておいてくれ」
「分かったよ。必要なら捕縛魔法でもこっそり放っておいてやる」
「そのくらいなら許可する」
シュヴァリエが小さく笑って許可すると、アルヴィンの目が光った気がした。
いよいよシュヴァリエが現地住民たちと顔を合わせる。
この話し合いはファルーダン王国だけではなく、隣国マスカード帝国にも影響を及ぼすものだ。それがゆえに、シュヴァリエの気合いも一段と入っている。
それに、この交渉を成功させれば、ファルーダン王国における自分の地位や信用を回復できる。シュヴァリエの気合いが入るのは自然な流れなのだ。
集落の入口に近付くと、集落からぞろぞろと男性陣が姿を見せる。その手には石剣や木の槍など、実に古典的な武器が持たれている。
「なにやつじゃ」
意外と言葉が通じる。
「ファルーダン王国第二王子、シュヴァリエ・ギルバス・ファルーダンだ。貴様たちに話があってここまでやって来た」
シュヴァリエの言葉に、住民たちが警戒を強めている。
「マスター、木の上に弓矢隊がいる。無力化しておくか?」
アルヴィンがぼそぼそと話し掛けると、シュヴァリエはこう返した。
「いや、今はまだいい。矢が届かないようにだけしておいてくれ」
「……分かった」
アルヴィンがシュヴァリエの後ろに立ち、気付かれない程度に魔法を展開する。
「王国の王子が何の用じゃ。ここは我らの土地、おとなしく立ち去れ!」
どうやら門前払いをする気満々である。
だが、シュヴァリエも自分のプライドがかかっているので、この程度でおとなしく帰ったりはしない。
「悪いが帰るつもりはない。今日は交渉をしに来たのだ。悪いがここに居座らせてもらう」
シュヴァリエは何を思ったのか、その場に座り込んでしまった。
王国内とはいえ敵陣の前、一体何を考えているのだろうか。
ついでに、腰に提げていた剣も外して、自分の背中側に置く。敵意がないというアピールだ。
シュヴァリエがここまですると、住民たちは皆驚いていた。手の届きにくいところに武器を置き、すぐに対処できない座った姿勢。
「……分かった。お前の覚悟は見せてもらった。話くらいは聞こうではないか」
「長!」
長の言葉に驚いた男性陣から声が上がると、長はそれを睨みひとつで鎮めてしまった。現地住民の長というのは、それだけ偉大なのである。
「ありがとうございます。心配とあれば、この剣、預けておきましょう」
「分かった」
長が首を振ると、男性の一人がシュヴァリエの剣を拾い上げる。奪い返されないように走って戻り、長に渡していた。
「ふむ、見事な剣じゃな。それに、これは確かにファルーダンの紋章。我が集落にも、かつて下賜された旗があるからな。紋章はよく知っておるよ」
剣をしまった長は、くるりと背を向けて言葉をかける。
「ついて来い。わしの家に案内しよう」
歩いていく現地住民の長の後ろをシュヴァリエたちがついていく。
その間も周りの警戒はまったく解かれておらず、耐えず二人を狙う矢が構えられていた。
ようやくやって来た現地住民の長の家。自然崇拝とあって、家も土を盛り上げて作られただけの簡素なものだった。精々文明的なものといったら、ちゃんと削って作られた窓くらいだろう。
ただ、家に近付いたアルヴィンが、ふと驚いて足を止めていた。
「どうした、アルヴィン」
「いや、なんでもない」
アルヴィンの珍しい姿に不思議に思うシュヴァリエだったが、今は現地住民たちとの交渉の場だ。ひとまずはそっとしておいた。
こうして、いよいよ交渉の場についたシュヴァリエたち。無事に現地住民を説得して、鉱山を開発することができるのか。
ここからが正念場だ。
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