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Mission178
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アインダードとシュヴァリエが、国境地帯の制圧に向かってから二日後のこと、マスカード帝国へ向かっていたイスヴァンたちが戻ってきた。
マスカード帝国の皇帝の説得は時間がかかるかと思われたものの、たった一日で終わらせて帰ってきたのだ。
「戻ったぞ。父上からは了承を得られた。うまく双方で国境を越えないように掘り進めれば問題はないということだった」
なぜかイスヴァンはアリスに対して報告している。相手を間違えていないだろうかと訝しむアリスである。
「なんて顔をしてるんだ。お前にこの話をするということは、お前に用件があるからに決まっているだろうが」
「左様でございますか、そうですか」
アリスはとぼけたような顔で返事をしている。
「まったく、ずいぶんと余裕があるような顔をしているな。断る断らないという選択肢はないぞ、皇帝陛下からの勅命だからな」
イスヴァンは皇帝からの伝言をアリスに伝える。
その内容はアリスが察した通り、帝都から鉱山に向けて鉄道を敷設しろというものだった。予想通りだったので、アリスは驚きもしなかった。なにせ、アリス自身もそのつもりでいたからだ。
「承知致しました。ただし、私はファルーダン王国の者ですから、ファルーダン王国より後ということになりますが、よろしいでしょうか」
「時期は特に決められてないから大丈夫だろう。そもそも国境地帯の事態が安定しないことには、どちらからの鉄道も繋げられまい」
「左様でございますね。イスヴァン殿下もずいぶんと物事を見られるようになりましたね」
「ふん、これでも次期皇帝だからな。いつまでもわがままな皇子だと思わないでくれよ」
アリスに対してドヤ顔を決めるイスヴァンである。
成長したように見えて、やはりどこか成長していない面もあるイスヴァンなのである。オートマタでなければ、おそらくアリスは思い切り笑っていたところだろう。
「とりあえず、鉄道の件は了承致しました。フェールとフラムが戻ってきたのであるなら、マイマスターのことはお二人に任せても構いませんかね」
「ああ、構わないぞ。鉄道の工事となれば、お前でなければできぬ話だしな」
「私は学園まで同行して、ジャスミンさんと連絡を取り合ってみますね。鉄道を走らせるなら、オートマタと汽車は必要ですからね」
「ええ、お願い致します。もう製造には慣れているでしょうし、それほど時間はかからないでしょうね」
アリス、フェール、フラムのオートマタの間でも話がまとまる。これでいよいよ国境地帯に向けての整備が始められるというものだ。あとはアインダードとシュヴァリエがうまく現地住民たちを説得できるかどうかにかかっている。
詳細な話は、その日ギルソンたちが学園から戻ってきた時間を見計らって行われる。
ファルーダン国王とギルソン、それとスーリガン、アワード、リリアン、そしてマスカード帝国の皇子イスヴァンと、王族勢ぞろいである。
「よく戻ったな、イスヴァンよ。お父上の説得、ご苦労だった」
「今はファルーダンに身を寄せているのです。この程度、わけございません」
イスヴァンは、国王と堂々とやり取りを行っている。やはり、年下のギルソンの姿に刺激を受けたのか、かなり皇族としての品位を持ち合わせるようになってきていた。
(まったく、いい傾向ですね。この分なら、ファルーダンとマスカードの関係は良好のまま進みそうです)
心配事が一つ解消されつつあるためか、アリスはほっとした表情を見せている。
「父上が仰るには、今回の辺境住民の一件はファルーダンの問題ゆえに手出しはできないとのことです。下手に国境を越えるのはよろしくないと考えたのでしょう」
「それは私も分かるな。国境の侵犯はお互いの国の不信感につながるからな」
「はい」
確かに、それはアリスの前世でも聞き覚えのある話だった。それが紛争から、やがて戦争へとつながっていったのだから。
この世界の国王や皇帝はしっかりと弁えた考えを持っているようだった。
「父上が現状要求するのは、鉱山に続く鉄道の敷設と、鉱脈をきっちり互いの国で分け合うことでございます」
「ふむ、分かった。それなら、オートマタの魔法を使えばきっちりと分けられると思うから安心してもらうとしよう」
かなりすんなりとイスヴァンによる報告への対応が決まっていった。
そして、当然ながら鉄道の敷設となるとアリスへと話が振られる。
「アリスよ、鉄道の敷設となればどのくらいで済みそうだ?」
国王からの無茶振りがアリスを襲う。
「それは、現地を見てみないことにはどうとも……。地質や地形というものが、私の魔法や鉄道のルート選定にも影響を及ぼしますので、今の段階でははっきりとした日数を申し上げられません」
「それもそうだな。アインダードとシュヴァリエが行っている現地住民たちの説得もあるからな。まあ、焦らずに進めてくれ」
「承知致しました」
無事に報告と話し合いが終わり、アリスたちはそれぞれの部屋に戻っていく。
「アインダード兄様とシュヴァリエ兄様は大丈夫でしょうかね、アリス」
「剣術でしたらお二人ともお強いですし、オートマタもいらっしゃいます。簡単に負けるようなことはないとは思いますが」
部屋に戻ったアリスは、ギルソンから心配なのか質問を受けていた。
ギルソンが心配になるのも無理はない。いろいろあったとはいえ、自分の兄弟なのだから気にかけてしまうのだ。
「どうしてもと仰られるのでしたら、鉄道の建設ついでに様子を見てきましょうか? とはいえ、まだあれから二日です。接触すらしていないでしょうから、まだ心配する段階ではないと存じますが」
アリスはギルソンの心配に、気が早いと諫めていた。
「そ、それもそうですね。ですが、お願いしてもいいでしょうか」
「お願いも何も、私はマイマスターのオートマタで、命ぜられましたら、それに従うのみでございます」
「分かりました、お願いします」
まったく、なんとも謙虚なマスターである。
徐々に国境付近の新鉱山開発のための準備が整っていく。残るは現地の問題だけだ。
国境へと向かった二人の王子は、無事にこの問題を解決できるのだろうか。
マスカード帝国の皇帝の説得は時間がかかるかと思われたものの、たった一日で終わらせて帰ってきたのだ。
「戻ったぞ。父上からは了承を得られた。うまく双方で国境を越えないように掘り進めれば問題はないということだった」
なぜかイスヴァンはアリスに対して報告している。相手を間違えていないだろうかと訝しむアリスである。
「なんて顔をしてるんだ。お前にこの話をするということは、お前に用件があるからに決まっているだろうが」
「左様でございますか、そうですか」
アリスはとぼけたような顔で返事をしている。
「まったく、ずいぶんと余裕があるような顔をしているな。断る断らないという選択肢はないぞ、皇帝陛下からの勅命だからな」
イスヴァンは皇帝からの伝言をアリスに伝える。
その内容はアリスが察した通り、帝都から鉱山に向けて鉄道を敷設しろというものだった。予想通りだったので、アリスは驚きもしなかった。なにせ、アリス自身もそのつもりでいたからだ。
「承知致しました。ただし、私はファルーダン王国の者ですから、ファルーダン王国より後ということになりますが、よろしいでしょうか」
「時期は特に決められてないから大丈夫だろう。そもそも国境地帯の事態が安定しないことには、どちらからの鉄道も繋げられまい」
「左様でございますね。イスヴァン殿下もずいぶんと物事を見られるようになりましたね」
「ふん、これでも次期皇帝だからな。いつまでもわがままな皇子だと思わないでくれよ」
アリスに対してドヤ顔を決めるイスヴァンである。
成長したように見えて、やはりどこか成長していない面もあるイスヴァンなのである。オートマタでなければ、おそらくアリスは思い切り笑っていたところだろう。
「とりあえず、鉄道の件は了承致しました。フェールとフラムが戻ってきたのであるなら、マイマスターのことはお二人に任せても構いませんかね」
「ああ、構わないぞ。鉄道の工事となれば、お前でなければできぬ話だしな」
「私は学園まで同行して、ジャスミンさんと連絡を取り合ってみますね。鉄道を走らせるなら、オートマタと汽車は必要ですからね」
「ええ、お願い致します。もう製造には慣れているでしょうし、それほど時間はかからないでしょうね」
アリス、フェール、フラムのオートマタの間でも話がまとまる。これでいよいよ国境地帯に向けての整備が始められるというものだ。あとはアインダードとシュヴァリエがうまく現地住民たちを説得できるかどうかにかかっている。
詳細な話は、その日ギルソンたちが学園から戻ってきた時間を見計らって行われる。
ファルーダン国王とギルソン、それとスーリガン、アワード、リリアン、そしてマスカード帝国の皇子イスヴァンと、王族勢ぞろいである。
「よく戻ったな、イスヴァンよ。お父上の説得、ご苦労だった」
「今はファルーダンに身を寄せているのです。この程度、わけございません」
イスヴァンは、国王と堂々とやり取りを行っている。やはり、年下のギルソンの姿に刺激を受けたのか、かなり皇族としての品位を持ち合わせるようになってきていた。
(まったく、いい傾向ですね。この分なら、ファルーダンとマスカードの関係は良好のまま進みそうです)
心配事が一つ解消されつつあるためか、アリスはほっとした表情を見せている。
「父上が仰るには、今回の辺境住民の一件はファルーダンの問題ゆえに手出しはできないとのことです。下手に国境を越えるのはよろしくないと考えたのでしょう」
「それは私も分かるな。国境の侵犯はお互いの国の不信感につながるからな」
「はい」
確かに、それはアリスの前世でも聞き覚えのある話だった。それが紛争から、やがて戦争へとつながっていったのだから。
この世界の国王や皇帝はしっかりと弁えた考えを持っているようだった。
「父上が現状要求するのは、鉱山に続く鉄道の敷設と、鉱脈をきっちり互いの国で分け合うことでございます」
「ふむ、分かった。それなら、オートマタの魔法を使えばきっちりと分けられると思うから安心してもらうとしよう」
かなりすんなりとイスヴァンによる報告への対応が決まっていった。
そして、当然ながら鉄道の敷設となるとアリスへと話が振られる。
「アリスよ、鉄道の敷設となればどのくらいで済みそうだ?」
国王からの無茶振りがアリスを襲う。
「それは、現地を見てみないことにはどうとも……。地質や地形というものが、私の魔法や鉄道のルート選定にも影響を及ぼしますので、今の段階でははっきりとした日数を申し上げられません」
「それもそうだな。アインダードとシュヴァリエが行っている現地住民たちの説得もあるからな。まあ、焦らずに進めてくれ」
「承知致しました」
無事に報告と話し合いが終わり、アリスたちはそれぞれの部屋に戻っていく。
「アインダード兄様とシュヴァリエ兄様は大丈夫でしょうかね、アリス」
「剣術でしたらお二人ともお強いですし、オートマタもいらっしゃいます。簡単に負けるようなことはないとは思いますが」
部屋に戻ったアリスは、ギルソンから心配なのか質問を受けていた。
ギルソンが心配になるのも無理はない。いろいろあったとはいえ、自分の兄弟なのだから気にかけてしまうのだ。
「どうしてもと仰られるのでしたら、鉄道の建設ついでに様子を見てきましょうか? とはいえ、まだあれから二日です。接触すらしていないでしょうから、まだ心配する段階ではないと存じますが」
アリスはギルソンの心配に、気が早いと諫めていた。
「そ、それもそうですね。ですが、お願いしてもいいでしょうか」
「お願いも何も、私はマイマスターのオートマタで、命ぜられましたら、それに従うのみでございます」
「分かりました、お願いします」
まったく、なんとも謙虚なマスターである。
徐々に国境付近の新鉱山開発のための準備が整っていく。残るは現地の問題だけだ。
国境へと向かった二人の王子は、無事にこの問題を解決できるのだろうか。
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