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Mission177
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話がまとまると、イスヴァンはすぐさまフェールから示された情報を記された地図と親書を持ってマスカード帝国へと帰っていく。数日間学園には顔を見せられないようだ。
この際、アワードのオートマタであるフェールもギルソンの説得によってついていくことになった。イスヴァンだけでは信用できないというより、説得力が足りないと感じられたからだ。
フェールの金属を感知する能力を証明できれば、それ以上の説得力はないだろう。
マスカード帝国からの許可が下りれば、新しい鉱脈の開発ができるというものだ。
もちろん、アリスからの提案だってある。説得材料は多いに越したことではないのだ。
イスヴァンとそのオートマタであるフラム、それとアワードのオートマタのフェールの三人が帝国へと向かっていくと、アリスも行動を始める。
シュヴァリエのところへ出向くと、そのオートマタであるアルヴィンも自由の身になっていた。
「けっ、お前らを攻撃できないってのはつらいが、戦えるっていうのなら我慢してやる」
アルヴィンはかなり気が立っているようだ。
「まったく、相変わらず殺気立っていますね」
アルヴィンの様子を見て、アリスは思わず呆れてしまう。
「今回の任務は、国境地帯の部族の制圧です。殺すことが目的ではございません、無力化が目的です。彼らも一応王国民なのですからね、平和的に解決して下さい」
「けっ、面倒だな。なぁ、マスターよぉ?」
「アルヴィン、今の俺たちに拒否権はない。おとなしく言うことを聞くんだ」
主であるシュヴァリエに言われてしまえば、アルヴィンもおとなしくするしかなかった。
「話し合いで終わればいいが、まあそれは無理だろうな。あいつらはこっちの姿を見ただけで矢を放ってくるような連中だ。こっちはオートマタがいるからほぼ無傷なんだがな」
「アインダード……」
話に割り込んできた人物の姿に、シュヴァリエは顔を歪ませる。
そこにいたのは先日の決闘で負けた相手、第一王子アインダードだったのだから。
「おいおい、怖い顔をするな。今回は共闘だからな、俺の部下の将軍として兵を指揮するんだ」
「……分かった。兄上の下であるなら心強いというものだ」
「お前が俺の強さを認めているのは分かっている。でなきゃ、決闘の時にあんな卑怯な真似はしようとしないもんな、ガハハハハハッ!」
アインダードが笑っていると、シュヴァリエは鋭い視線を向けている。さすがに頭に来たようだ。
「マスター、さすがに少しは空気を読んで下さい。ここで兄弟同士で仲間割れをしてどうするんですか……」
アインダードの空気の読めなささに、ドルは頭が痛そうに諫めている。
「それでは、ファルーダンとの国境付近の制圧、よろしくお願いしますね」
「ああ、任せておけ。俺とシュヴァリエなら、問題なくいけるだろう」
「兄上と同じにしてほしくはないが、名誉挽回のいい機会だ、全力でやらせてもらおう」
アインダードとシュヴァリエが、がっちりと手を握り合っていた。
「ところで、兄上」
「なんだ、シュヴァリエ」
「兵士の用意はできているのですか?」
「もちろんだ。いくらオートマタがいるとはいえ、俺たち二人では多勢に無勢だからな。百名くらいを組織している」
さすがにアインダードもそこまで抜けているわけではない。戦い関連であるならば、非常に優秀なのがアインダードなのである。
まぁ戦いしかないから、王位継承権を放棄したといっても過言ではないくらいだ。
「さすがに、戦いとなればアインダード殿下は優秀でございますね」
「褒めるなよ、照れるぜ」
アリスが淡々と言うと、アインダードはどういうわけか照れていた。まったく褒めた覚えがないというのにこの反応である。やはり、アインダードは脳筋なのだ。
オートマタでありながらも、アリスは頭が痛くてたまらない。ただ、オートマタだけにそのような素振りは見せずにアインダードに応対する。
「それでは、ご武運をお祈りいたしますね」
「おう、ギルソンたちがやりやすいように、兄としてしっかり役目を果たしてくるぜ。じゃ、行くとしようか、シュヴァリエ」
「安心なはずなのに、どこか不安になるな」
「ガハハハ、心配性だな」
アリスが見送る中、アインダードはシュヴァリエと一緒に兵士の詰所へと向かっていく。
そこで今回のために集められた騎士や兵士たちと合流し、国境の少数民族を制圧するために出発するのである。
出発するアインダードたちを見送ったアリスは、こちらもこちらで自分たちのやるべきことをするために動き出す。
とはいえ、フェールが居ない状況では、ギルソンとアワードを放っておくことはできない。イスヴァンたちがマスカード帝国から戻ってくるまで、実質動くことは不可能なのである。
「私も、次の行動の準備をしませんとね」
アリスはまずはギルソンの部屋へと戻る。来る時に備えるためだ。
この日のアリスはいつものメイドのような仕事をこなしている。
(さて、アインダード殿下とシュヴァリエ殿下はうまく制圧して下さるかしらね。マスカード帝国は心配ないとは思いますが、ひとつでもうまくいかなければ、今後の見通しが立たなくなってしまいます)
ギルソンの部屋とイスヴァンの部屋、それとアワードの部屋を掃除しながら、アリスは事がうまく運ぶことを願うのだった。
この際、アワードのオートマタであるフェールもギルソンの説得によってついていくことになった。イスヴァンだけでは信用できないというより、説得力が足りないと感じられたからだ。
フェールの金属を感知する能力を証明できれば、それ以上の説得力はないだろう。
マスカード帝国からの許可が下りれば、新しい鉱脈の開発ができるというものだ。
もちろん、アリスからの提案だってある。説得材料は多いに越したことではないのだ。
イスヴァンとそのオートマタであるフラム、それとアワードのオートマタのフェールの三人が帝国へと向かっていくと、アリスも行動を始める。
シュヴァリエのところへ出向くと、そのオートマタであるアルヴィンも自由の身になっていた。
「けっ、お前らを攻撃できないってのはつらいが、戦えるっていうのなら我慢してやる」
アルヴィンはかなり気が立っているようだ。
「まったく、相変わらず殺気立っていますね」
アルヴィンの様子を見て、アリスは思わず呆れてしまう。
「今回の任務は、国境地帯の部族の制圧です。殺すことが目的ではございません、無力化が目的です。彼らも一応王国民なのですからね、平和的に解決して下さい」
「けっ、面倒だな。なぁ、マスターよぉ?」
「アルヴィン、今の俺たちに拒否権はない。おとなしく言うことを聞くんだ」
主であるシュヴァリエに言われてしまえば、アルヴィンもおとなしくするしかなかった。
「話し合いで終わればいいが、まあそれは無理だろうな。あいつらはこっちの姿を見ただけで矢を放ってくるような連中だ。こっちはオートマタがいるからほぼ無傷なんだがな」
「アインダード……」
話に割り込んできた人物の姿に、シュヴァリエは顔を歪ませる。
そこにいたのは先日の決闘で負けた相手、第一王子アインダードだったのだから。
「おいおい、怖い顔をするな。今回は共闘だからな、俺の部下の将軍として兵を指揮するんだ」
「……分かった。兄上の下であるなら心強いというものだ」
「お前が俺の強さを認めているのは分かっている。でなきゃ、決闘の時にあんな卑怯な真似はしようとしないもんな、ガハハハハハッ!」
アインダードが笑っていると、シュヴァリエは鋭い視線を向けている。さすがに頭に来たようだ。
「マスター、さすがに少しは空気を読んで下さい。ここで兄弟同士で仲間割れをしてどうするんですか……」
アインダードの空気の読めなささに、ドルは頭が痛そうに諫めている。
「それでは、ファルーダンとの国境付近の制圧、よろしくお願いしますね」
「ああ、任せておけ。俺とシュヴァリエなら、問題なくいけるだろう」
「兄上と同じにしてほしくはないが、名誉挽回のいい機会だ、全力でやらせてもらおう」
アインダードとシュヴァリエが、がっちりと手を握り合っていた。
「ところで、兄上」
「なんだ、シュヴァリエ」
「兵士の用意はできているのですか?」
「もちろんだ。いくらオートマタがいるとはいえ、俺たち二人では多勢に無勢だからな。百名くらいを組織している」
さすがにアインダードもそこまで抜けているわけではない。戦い関連であるならば、非常に優秀なのがアインダードなのである。
まぁ戦いしかないから、王位継承権を放棄したといっても過言ではないくらいだ。
「さすがに、戦いとなればアインダード殿下は優秀でございますね」
「褒めるなよ、照れるぜ」
アリスが淡々と言うと、アインダードはどういうわけか照れていた。まったく褒めた覚えがないというのにこの反応である。やはり、アインダードは脳筋なのだ。
オートマタでありながらも、アリスは頭が痛くてたまらない。ただ、オートマタだけにそのような素振りは見せずにアインダードに応対する。
「それでは、ご武運をお祈りいたしますね」
「おう、ギルソンたちがやりやすいように、兄としてしっかり役目を果たしてくるぜ。じゃ、行くとしようか、シュヴァリエ」
「安心なはずなのに、どこか不安になるな」
「ガハハハ、心配性だな」
アリスが見送る中、アインダードはシュヴァリエと一緒に兵士の詰所へと向かっていく。
そこで今回のために集められた騎士や兵士たちと合流し、国境の少数民族を制圧するために出発するのである。
出発するアインダードたちを見送ったアリスは、こちらもこちらで自分たちのやるべきことをするために動き出す。
とはいえ、フェールが居ない状況では、ギルソンとアワードを放っておくことはできない。イスヴァンたちがマスカード帝国から戻ってくるまで、実質動くことは不可能なのである。
「私も、次の行動の準備をしませんとね」
アリスはまずはギルソンの部屋へと戻る。来る時に備えるためだ。
この日のアリスはいつものメイドのような仕事をこなしている。
(さて、アインダード殿下とシュヴァリエ殿下はうまく制圧して下さるかしらね。マスカード帝国は心配ないとは思いますが、ひとつでもうまくいかなければ、今後の見通しが立たなくなってしまいます)
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