転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
177 / 189

Mission176

しおりを挟む
 意外と簡単にシュヴァリエの説得が成功してしまった。彼も相当悩んでいたのだろうと、アリスはつくづく思う。
 次のやることを求めて、アリスは他の兄弟にも声を掛けてみる。
 そんなわけで、ギルソンが学園から帰ってくると、スーリガンとアワードにも集まってもらうことにした。
「で、何でしょうか、アリス」
 帰ってくるなり集められたために、ギルソンですら戸惑っているようだった。
「シュヴァリエ殿下に何かできることはないかと思いましてね。それで、マイマスターたちにお集まりいただいたのですよ」
 アリスの言葉に、三人の王子とそのオートマタたち、合わせて五人がお互いの顔を見合わせて戸惑っている。
「アリスさん、シュヴァリエ殿下と話をされたのですか?」
 アエスが手を挙げて尋ねると、アリスはこくりと無言で頷いた。
「私は今までマイマスターのオートマタとして奔走して参ったつもりです。ですが、そのことによる周りへの影響を見落としていたのです。結果、シュヴァリエ殿下が謹慎処分を受ける事態を引き起こしてしまいました」
 アリスは反省の弁を述べている。
「むむむ……。もう少し周りにも目を向けていれば違う結果が得られたと思います。非常に悔しく思います」
 アリスは左の拳を強く握りしめて、悔しさをにじませていた。
 それもそのはずだ。アリスはそもそもギルソン以外の不幸も願っていない。だからこそ、シュヴァリエにも手を差し伸べたのだ。
「それでしたら、私から提案がございます」
 ここで手を挙げたのがアワードのオートマタであるフェールだった。
 ギルソンがフェールの発言を認める。
「国内の魔法石や鉱石の鉱脈に関して、以前調査を行いました。場所の特定もできておりますし、開発を始めるにあたって、その指揮にあたって頂くというのはいかがでしょうか」
「なるほど、それはいい考えですね」
 フェールからの発言に、ギルソンは強く頷いている。
「となると、まずはその新しい鉱山の位置を確認しないといけませんね」
 スーリガンが考え込む仕草をしながら話題を切り替える。
「はい、左様でございます。どなたか地図をご用意いただいてもよろしいでしょうか」
「それでしたら僕が出しましょう」
 動き出したのはアワードだった。
 集合した部屋はギルソンの部屋だったので、地図ならば周辺国の者も含めておいてある。アワードはギルソンの部屋にはよく遊びに来ているので、地図のある場所は把握済みなのだ。
 地図を持ってきたアワードは、テーブルの上に地図を広げる。もちろん、ファルーダン王国の地図だ。
「ここが、私たちのいる王都ですね」
 地図を見ながら、フェールが話を始める。
「そして、ここからこう延びるのが、ツェン鉱山へと向かう鉄道路線です」
 地図を指でなぞっていく。
「ここで山脈に当たってしまいますので、ここから東へ行くには、南のソリエア王国か北のマスカード帝国に一度出るしかありません」
「地形的にはそうですね」
 フェールの説明を聞きながら、ギルソンは頷いている。
「それで、私の調査の結果、この山脈の別の地点で鉱脈らしき反応を見ることができました。それがこの位置でございます」
 フェールはツェンの街から北のマスカード帝国側へと指を移動させていく。国境と近いあたりまで移動すると、ようやくそこで指が止まった。
「そこは、国境を形成する川の源流ですかね」
 ギルソンの質問に、フェールはこくりと肯定する。
 フェールが言うには、その川の源流付近に鉱脈が眠っているとのことだった。ただ、川の源流ということもあり、地質的にはかなりもろいとのことだった。
「なるほど、地下水脈を傷つける危険性ですね」
「地下水脈?」
「はい。基本的に降った雨は一度地面へとしみこみます。その水が通っている場所のことを地下水脈と言います」
「なるほど」
 アリスの説明で理解してしまうギルソンである。
「ここは他にも問題がございます。見ても分かる通りファルーダン王国とマスカード帝国の国境に位置しています。もしかすると、地中で国境を越える危険性があるのですよ」
「国境侵犯である上に、他国の資源の横取りとなるわけですね。国際問題に発展してしまう危険性が高いですね」
「はい、その通りでございます」
 相変わらず理解が早いギルソンである。
「その上、この辺りは少数民族もいます。下手に向かえば、彼らを刺激しかねません。私は一人で向かいましたが、オートマタと分かって手を出さなかったようです」
「問題は山積というわけだな」
 スーリガンが腕を組んで唸っている。
「だったら、帝国の説得は俺に任せてくれ」
「イスヴァン殿下?!」
「俺だけのけ者とはひどいな。マスカード帝国にも影響があるのなら、俺も呼ぶべきだっただろう」
「た、確かにそうでございますね。失念していました」
 イスヴァンの登場に、フェールが謝罪している。
「いやいや、怒っちゃいないさ。たまたま聞こえてきたんで、つい割って入っちまっただけだからな」
 大口を開けて笑うイスヴァン。本当にまったく気にしていないようだ。
「てなわけだ。親父の説得は俺に任せてくれ。その代わり、条件を出させてもらおう」
「なんなりと」
 オートマタ三人が揃ってイスヴァンの言葉に返事をする。
 ここからはイスヴァンも混ざって話が進められていく。はたして、どのような合意をもって新しい鉱脈の開発に取り掛かるのだろうか。
 そして、シュヴァリエの名誉回復は果たされるのか。
 アリスは新しい局面に立たされたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...