転生オートマタ

未羊

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Mission174

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 アインダードとシュヴァリエの決闘の結果、第二王子シュヴァリエは敗北し、当面の間の謹慎処分が下った。
 国王からしてみても、最近のシュヴァリエの行動はかなり問題に映っていたのだが、目立つ行動がなかったためになかなか処分を下すことができなかったようだ。
 シュヴァリエのオートマタであるアルヴィンも同様に拘束をされる。こっちはアリスの証言から王族のオートマタへの襲撃が確認されたのでかなり厳しい拘束をかけられている。ただ、さすがにここでオートマタを取り上げてしまうと、シュヴァリエが更生した時に不都合が起きてしまうために拘束処分となった。
「アルヴィン、無様なものですね。魔封じまで掛けられてしまっては、いくらあなたとて脱獄は困難ですよ」
「ほざけ、まがい物のオートマタが」
「あら、何を根拠にそんな事を言いますのかしら。私はマイマスターの5歳の誕生日に贈られた、正真正銘のオートマタです。他人を簡単に傷つけるあなたと一緒にしないで頂きたいですね」
 地下牢に繋がれたアルヴィンに、アリスは冷たく接している。
「私たちオートマタは主の手足となることはもちろん、魔法石の知識を用いて正しく導くことのはず。そこから足を踏み外してしまったあなたに、まがい物と呼ばれる筋合いはございません。静かに反省をなさって下さい」
 アリスは淡々と言い放つと、地下牢から出ていく。その間も、アルヴィンの叫び声は地下牢から響き渡っていた。
(やれやれ。あれでは更生の余地はないかもしれませんね。オートマタも一度歪むと修正が利かないのかもしれませんね)
 アリスはそう言いながら、自分の書いた小説の中身を思い出していた。
 思えば小説の中のアリスは、歪んでしまったギルソンの下で兵器として活動していた。今のアルヴィンは、そんな小説の中のギルソンとアリスの姿に重なってしまう。
(どうすれば、シュヴァリエ殿下を歪ませることがなかったのでしょうか。……これもマイマスターに気を掛け過ぎた結果なのでしょうか)
 部屋に戻りながら、アリスはひたすら自問自答していた。
 シュヴァリエによる内乱は未然に防げたものの、大きな禍根を残してしまったがゆえに、アリスはしばらく悩まされることになってしまったのだった。

 シュヴァリエとアルヴィンに対する処分が下った日の夜、アリスはギルソンと話をしていた。
「そうですか。シュヴァリエ兄様は少々お疲れのようでしたからね、ちょうどいいのではないでしょうか」
「あの様子を見てお疲れだと仰られるのですか、マイマスター」
 アリスが言葉の真意を尋ねると、こくりとギルソンは頷いていた。
「シュヴァリエ兄様は、国王になろうとして必死になりすぎてしまいました。アリスの手助けがあったとはいえ、ボクがこうやって実績を重ねてしまったがゆえに、功を焦ったのでしょう」
 ギルソンは前を見ながら、シュヴァリエに対する分析を行っていた。
「結果として空回りしてしまい、短絡的な思考に走ってしまわれたのだと思います。……もう少し兄様方とお話をするべきでしたね」
 なんとも謙虚なことだった。
(私が介入したことで、マイマスターとシュヴァリエ殿下の立場が逆転してしまいましたね。これは私の責任でもありますから、どうにかして良い方向へと持っていきませんと……)
 ギルソン同様、アリスも頭を悩ませてしまう。
 シュヴァリエの性格は確かにかなり歪んでしまったが、まだ修正は可能なはずだ。そんな一抹の希望が二人の中にまだ残っているのだ。

 一方、部屋での謹慎処分を言い渡されたシュヴァリエ。部屋全体にはオートマタによる保護魔法が掛けられてしまっていた。窓は開かないし、椅子を投げてもテーブルを投げても割れない。頭を打ち付けてもけがはしない。なんとも不可思議な空間だ。
 一応王族であるがために死なれてしまっては困るという配慮から施された処置である。
「くそっ、忌々しい。どいつもこいつも俺をバカにしやがって……」
 シュヴァリエはかなり荒れているようだ。
 本来ならばアインダードが王位継承権を放棄した時点で、第二王子である自分が筆頭になるはずだった。
 だというのに、末弟のギルソンが目覚ましい功績を重ね始めてしまった。ここまで目立った功績がないだけに、シュヴァリエはすっかりギルソンの陰に隠れてしまったのだ。
 そこでさらに面倒になったのは、そのギルソンが王位継承権を放棄する方向であることだ。そのせいで、ギルソンと協力関係にある第四王子のアワードの名前が上がり始める始末。シュヴァリエからすれば、まったくもって面白くない状況となっていたのだ。
 だが、今のシュヴァリエには何もできない。その歯がゆさがゆえに、シュヴァリエはますます気が狂いそうになっていた。
「ぐぬぬぬ……。今の俺はなんて無力なんだ……。どうにかしてこの現状から脱出せねば……」
 自分の置かれた状況に苦悶するシュヴァリエだったが、このまま起きていても埒が明かない。この日はそのままベッドへと向かい、ふて腐れたように眠りに就いたのだった。
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