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Mission173
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アインダードとシュヴァリエは睨み合ったまま、城の訓練場へと移動していく。あそこならたくさんの目撃者が作れるし、戦うにはうってつけの場所といえよう。
アインダードはシュヴァリエを公衆の面前で叩き伏せて黙らせるつもりのようだった。
しかし、アリスはずっと気になっている。
シュヴァリエが王国一とも言われる剣術使いであるアインダードを前に、やけに余裕を持った態度を保っているという状況がだ。
(あの表情、アインダード殿下に対して何か策があるとでもいうのかしら)
アリスは表情を険しくさせる。そして、念のために辺りをきょろきょろと見回している。
(そういえば、アルヴィンがいませんね。私を襲撃した後、戻っていないということでしょうか)
アリスが気になったのは、シュヴァリエのオートマタであるアルヴィンがいないということだ。彼の性格上、あの後確実に報告に戻っているはずだ。
ところがだ。アインダードと乗り込んだ時からその姿を見せていない。以前もよくシュヴァリエから離れて行動をしていたが、どうにも何かが引っ掛かる感じのするアリスなのである。
アリスはすっとアインダードに近付いて言葉をかける。
「アインダード殿下、シュヴァリエ殿下にご注意下さい」
「言われなくとも」
アインダードは短く答えるが、アリスはさらに続ける。
「アルヴィンがいないのです。何か仕掛けてくる可能性がありますので、ドルと一緒に周りを見張っておきます」
「ふむ、それもそうだな。真剣勝負を邪魔されては困るからな。頼んだぞ」
「お任せ下さい」
アリスはぺこりと頭を下げて、アインダードから離れていく。
訓練場にいた騎士や兵士たちは、壁際に寄って大きく場所を空ける。その真ん中で、第一王子アインダードと第二王子シュヴァリエが剣を持って睨み合っている。
いかつい表情のアインダードに対して、かなり余裕のある笑みを浮かべるシュヴァリエ。一体何を企んでいるのか、アリスは気になって仕方がない。
とはいえ、この戦いは王位継承にはまったく影響はしない。アインダードがそもそも王位継承権を放棄しているからだ。
むしろ、この戦いはシュヴァリエが発言権を強めるか弱めるかという戦いといった方がいいだろう。武芸に秀でたアインダードに勝ちをおさめれば、一気にその地位を高められるというわけだ。
「では、行くぞ。覚悟はいいな、シュヴァリエ」
「ええ、いつでもできてますよ、兄上」
真剣な表情のアインダード。口元が怪しく笑うシュヴァリエ。その一騎打ちが始まる。
「いいか、周りは手出し無用だ。オートマタどもも絶対手を出すなよ。これは俺とシュヴァリエの真剣勝負だからな」
「はっ!」
アインダードの声に騎士や兵士たちが一斉に返事をする。
「さあ、行くぞ。シュヴァリエ!」
「いつでもどうぞ、兄上」
実力では下のはずのシュヴァリエだが、かなり余裕を持った言動をしている。その自信は一体どこから来るのか、その根拠はまったくつかめない。
しかし、小説の設定からかけ離れた今のシュヴァリエでは、一体何を仕掛けてくるのかはまったく予測がつかない。
(参りましたね。探知も感知もオートマタ相手では通じませんし、アインダード殿下がああ言い放つのは予測できているでしょうから、おそらくはアルヴィンを使って不慮の事故を装うつもりでしょう。何をしてくるのか予想がつかない分、警戒は解けませんね)
今アリスたちがいる訓練場は、周りは数メートルという高い壁に囲まれているものの、上空は吹き抜けとなった空間だ。なので、壁周りは死角となるわけだ。
さすがのオートマタでも、見えないものに対しての対処はできない。なので、アリスは見えない防壁を天井へと展開しておく。これなら上空からの攻撃は防げるはずだからだ。
訓練場ではアインダードとシュヴァリエが打ち合っている。やはりアインダードの方が腕が上らしく、シュヴァリエは押され気味に戦っている。
ただ、押されているというのにシュヴァリエの様子はまだまだ余裕が崩れていないようだった。
「まったく、その程度の腕でよくもそんなに笑えたものだな。これでしまいだ!」
大きくアインダードが振りかぶる。それと同時にどさっという大きな音が訓練場に響き渡った。
笑っていたシュヴァリエだったが、それはすぐに驚愕に変わる。
「ぐわっ!」
シュヴァリエは痛みに声を上げる。剣を持っていた手にアインダードの剣が振り下ろされたからだ。
「ふん、何を企んでいたかは知らないが、俺には優秀なオートマタがついているんだ。お前の企みなど、とうにお見通しよ」
そういってアインダードが上を見ると、大きな鳥の姿が見えた。どうやら、空を飛んでいる鳥をアインダードの頭上に落とす算段だったようだ。
「というわけだ。お前がどういうやつかは周りもよく分かっただろう。これに懲りたら、しっかりと心を入れ替えることだ」
アインダードは剣を収めると、シュヴァリエを訓練場から引きずり出すように命じる。
「父上に進言して、しばらく謹慎処分にしてもらう。その間に頭を冷やしておくんだな」
「くそぉぉっ!」
訓練場にはシュヴァリエの悔しそうな声が響き渡ったのだった。
アインダードはシュヴァリエを公衆の面前で叩き伏せて黙らせるつもりのようだった。
しかし、アリスはずっと気になっている。
シュヴァリエが王国一とも言われる剣術使いであるアインダードを前に、やけに余裕を持った態度を保っているという状況がだ。
(あの表情、アインダード殿下に対して何か策があるとでもいうのかしら)
アリスは表情を険しくさせる。そして、念のために辺りをきょろきょろと見回している。
(そういえば、アルヴィンがいませんね。私を襲撃した後、戻っていないということでしょうか)
アリスが気になったのは、シュヴァリエのオートマタであるアルヴィンがいないということだ。彼の性格上、あの後確実に報告に戻っているはずだ。
ところがだ。アインダードと乗り込んだ時からその姿を見せていない。以前もよくシュヴァリエから離れて行動をしていたが、どうにも何かが引っ掛かる感じのするアリスなのである。
アリスはすっとアインダードに近付いて言葉をかける。
「アインダード殿下、シュヴァリエ殿下にご注意下さい」
「言われなくとも」
アインダードは短く答えるが、アリスはさらに続ける。
「アルヴィンがいないのです。何か仕掛けてくる可能性がありますので、ドルと一緒に周りを見張っておきます」
「ふむ、それもそうだな。真剣勝負を邪魔されては困るからな。頼んだぞ」
「お任せ下さい」
アリスはぺこりと頭を下げて、アインダードから離れていく。
訓練場にいた騎士や兵士たちは、壁際に寄って大きく場所を空ける。その真ん中で、第一王子アインダードと第二王子シュヴァリエが剣を持って睨み合っている。
いかつい表情のアインダードに対して、かなり余裕のある笑みを浮かべるシュヴァリエ。一体何を企んでいるのか、アリスは気になって仕方がない。
とはいえ、この戦いは王位継承にはまったく影響はしない。アインダードがそもそも王位継承権を放棄しているからだ。
むしろ、この戦いはシュヴァリエが発言権を強めるか弱めるかという戦いといった方がいいだろう。武芸に秀でたアインダードに勝ちをおさめれば、一気にその地位を高められるというわけだ。
「では、行くぞ。覚悟はいいな、シュヴァリエ」
「ええ、いつでもできてますよ、兄上」
真剣な表情のアインダード。口元が怪しく笑うシュヴァリエ。その一騎打ちが始まる。
「いいか、周りは手出し無用だ。オートマタどもも絶対手を出すなよ。これは俺とシュヴァリエの真剣勝負だからな」
「はっ!」
アインダードの声に騎士や兵士たちが一斉に返事をする。
「さあ、行くぞ。シュヴァリエ!」
「いつでもどうぞ、兄上」
実力では下のはずのシュヴァリエだが、かなり余裕を持った言動をしている。その自信は一体どこから来るのか、その根拠はまったくつかめない。
しかし、小説の設定からかけ離れた今のシュヴァリエでは、一体何を仕掛けてくるのかはまったく予測がつかない。
(参りましたね。探知も感知もオートマタ相手では通じませんし、アインダード殿下がああ言い放つのは予測できているでしょうから、おそらくはアルヴィンを使って不慮の事故を装うつもりでしょう。何をしてくるのか予想がつかない分、警戒は解けませんね)
今アリスたちがいる訓練場は、周りは数メートルという高い壁に囲まれているものの、上空は吹き抜けとなった空間だ。なので、壁周りは死角となるわけだ。
さすがのオートマタでも、見えないものに対しての対処はできない。なので、アリスは見えない防壁を天井へと展開しておく。これなら上空からの攻撃は防げるはずだからだ。
訓練場ではアインダードとシュヴァリエが打ち合っている。やはりアインダードの方が腕が上らしく、シュヴァリエは押され気味に戦っている。
ただ、押されているというのにシュヴァリエの様子はまだまだ余裕が崩れていないようだった。
「まったく、その程度の腕でよくもそんなに笑えたものだな。これでしまいだ!」
大きくアインダードが振りかぶる。それと同時にどさっという大きな音が訓練場に響き渡った。
笑っていたシュヴァリエだったが、それはすぐに驚愕に変わる。
「ぐわっ!」
シュヴァリエは痛みに声を上げる。剣を持っていた手にアインダードの剣が振り下ろされたからだ。
「ふん、何を企んでいたかは知らないが、俺には優秀なオートマタがついているんだ。お前の企みなど、とうにお見通しよ」
そういってアインダードが上を見ると、大きな鳥の姿が見えた。どうやら、空を飛んでいる鳥をアインダードの頭上に落とす算段だったようだ。
「というわけだ。お前がどういうやつかは周りもよく分かっただろう。これに懲りたら、しっかりと心を入れ替えることだ」
アインダードは剣を収めると、シュヴァリエを訓練場から引きずり出すように命じる。
「父上に進言して、しばらく謹慎処分にしてもらう。その間に頭を冷やしておくんだな」
「くそぉぉっ!」
訓練場にはシュヴァリエの悔しそうな声が響き渡ったのだった。
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