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Mission171
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明るい光が部屋の中を満たしていく。
あまりの眩しさにリリアンは目を開けていられない。
「な、なんなのですか。この光は……」
目をつぶるだけでは眩しさを軽減できず、腕でも光を遮って耐えるリリアン。
どのくらい光っていただろうか。ようやく光が収まり始めたのだった。
「何が起こったのでしょうか、一体……」
ようやく目が開けられたリリアンは、安心した様子で姿勢を正している。
だが、姿勢を正したのも束の間。目の前の光景に、思わず両手で口を押えてしまうリリアン。
「マスター……、ユーリ、ただいま戻りました」
「ユー……リ?」
リリアンの目の前にいたのは、うつろになって本当の人形のようになってしまったユーリではなかった。以前のように柔らかく微笑みかける、光のようなオートマタだった、
「どうして、ユーリが動いているの? 魔法石に傷が入って……あっ」
リリアンは気が付いてしまった。シュヴァリエの剣を受けてひび割れてしまったはずの魔法石が、新品同様にきれいに修復されていることに。
そのことに気が付いたリリアンは、勢いよくアリスの方を見る。アリスは急に顔を向けられたものの、オートマタらしく動じずにじっと立っている。
「傷ついた魔法石を修復できるなんて……、あなたは一体……」
驚いた表情をアリスに向けるリリアン。目の前で常識が覆されたのだから、こればかりはどうしようもない。
「私は、ユーリの声を聞いただけでございます。おそばを離れたくない、そのユーリの思いに私はちょっと手を貸しただけでございますよ」
唇に人差し指を当て、少し意地悪に笑うアリス。とてもじゃないが、オートマタのする表情ではなかった。
アリスに対して思うところはあるのだが、リリアンはすっかりよくなったユーリを抱きしめる。回復したばかりのユーリも、リリアンを優しく抱きしめ返す。
その二人の姿を見ると、やっぱり人間とオートマタの関係も人間と同じように強い絆で結ばれているのだと実感する。
だが、いつまでもその感動に浸っているわけにもいかなかった。
「失礼致します、リリアン王女殿下。私はユーリに傷つけられた時の状況を詳しく聞かねばなりません」
「えっ、でも。私が説明したと思うのですが……」
「王女殿下はかなり言葉を濁しておりました。ですので、私が直接ユーリの魔法石に問い掛けます」
「魔法石に?」
「はい」
アリスのいうことが理解できない様子のリリアンである。
それもそうだ。これを知っているのはオートマタにもいない。小説の作者であるアリスだからこそ言える話なのだ。なにせこの設定は、書籍化にあたっての話し合いの中でも漏らした事がない。アリスだけが知る裏設定なのである。
「リリアン王女殿下、これから起こることは他言無用でございます。お約束頂けますでしょうか」
「は、はい。決してどなたにも話しません」
強く何度も頷くリリアン。18歳となったリリアンではあるが、この時のアリスの様子にはとても逆らえない気がしたのだ。
ユーリの魔法石に、自分の額の魔法石を軽く当てるアリス。
実はオートマタの魔法石は、直接接触させることで記憶を読み取れる機能が備わっているのだ。
これをアリスが公表しなかったのには理由がある。オートマタの魔法石は、頭部と胸部の2パターンの設置場所があり、よろしくない事態を招きかねなかったからだ。特に胸部同士の接触は顕著である。
アリスはそれをよしとしなかったので、結局墓まで持っていったのだった。
「ふぅ、分かりました。完全に一方的な言いがかりですね」
魔法石の記憶を読み取ったアリスは、ユーリから額を離してそのように呟いている。その時のユーリの顔が赤くなっているが、これにはアリスは首を傾げるばかりだった。なにせ、オートマタにはそんな感情があるわけないのだから。
(転生してきた私ならまだしも、なんでそんな呆けた顔で私を見るのですかね)
ユーリの反応がただただ不思議でならないアリスだった。
しかし、いつまでもそれを気にしている場合ではない。思った以上にシュヴァリエの状態が悪くなっているのだ。オートマタであるアルヴィンもそれに従うので、このままでますますシュヴァリエの立場が危うくなってしまう。
仮にも小説では主人公として活躍した人物だ。さすがに最悪の結末を迎えては目覚めが悪くなってしまうというものである。
「ふむぅ、このままではシュヴァリエ殿下の立場が苦しくなるばかりですね。少しは武勲でも立てて頂ければマシにはなるとは思いますが……」
アリスはあごに手を添えて考え込む。
しばらくしてふと顔を上げると、祈るようなポーズをしているリリアンとユーリの姿が目に入る。
「アリスさん、どうかシュヴァリエ兄様を止めて下さい」
急に近付いてきて、アリスの手をしっかりと握るリリアン。やはり兄の姿をもう見ていられないといったところだろうか。もう大泣きしそうなほどの悲痛な表情が、如実に物語っている。
アリスはそのリリアンの表情を真っすぐと見つめて、無言で大きく頷く。
「分かりました。やれるだけやってみましょう」
アリスは強く約束するのだった。
あまりの眩しさにリリアンは目を開けていられない。
「な、なんなのですか。この光は……」
目をつぶるだけでは眩しさを軽減できず、腕でも光を遮って耐えるリリアン。
どのくらい光っていただろうか。ようやく光が収まり始めたのだった。
「何が起こったのでしょうか、一体……」
ようやく目が開けられたリリアンは、安心した様子で姿勢を正している。
だが、姿勢を正したのも束の間。目の前の光景に、思わず両手で口を押えてしまうリリアン。
「マスター……、ユーリ、ただいま戻りました」
「ユー……リ?」
リリアンの目の前にいたのは、うつろになって本当の人形のようになってしまったユーリではなかった。以前のように柔らかく微笑みかける、光のようなオートマタだった、
「どうして、ユーリが動いているの? 魔法石に傷が入って……あっ」
リリアンは気が付いてしまった。シュヴァリエの剣を受けてひび割れてしまったはずの魔法石が、新品同様にきれいに修復されていることに。
そのことに気が付いたリリアンは、勢いよくアリスの方を見る。アリスは急に顔を向けられたものの、オートマタらしく動じずにじっと立っている。
「傷ついた魔法石を修復できるなんて……、あなたは一体……」
驚いた表情をアリスに向けるリリアン。目の前で常識が覆されたのだから、こればかりはどうしようもない。
「私は、ユーリの声を聞いただけでございます。おそばを離れたくない、そのユーリの思いに私はちょっと手を貸しただけでございますよ」
唇に人差し指を当て、少し意地悪に笑うアリス。とてもじゃないが、オートマタのする表情ではなかった。
アリスに対して思うところはあるのだが、リリアンはすっかりよくなったユーリを抱きしめる。回復したばかりのユーリも、リリアンを優しく抱きしめ返す。
その二人の姿を見ると、やっぱり人間とオートマタの関係も人間と同じように強い絆で結ばれているのだと実感する。
だが、いつまでもその感動に浸っているわけにもいかなかった。
「失礼致します、リリアン王女殿下。私はユーリに傷つけられた時の状況を詳しく聞かねばなりません」
「えっ、でも。私が説明したと思うのですが……」
「王女殿下はかなり言葉を濁しておりました。ですので、私が直接ユーリの魔法石に問い掛けます」
「魔法石に?」
「はい」
アリスのいうことが理解できない様子のリリアンである。
それもそうだ。これを知っているのはオートマタにもいない。小説の作者であるアリスだからこそ言える話なのだ。なにせこの設定は、書籍化にあたっての話し合いの中でも漏らした事がない。アリスだけが知る裏設定なのである。
「リリアン王女殿下、これから起こることは他言無用でございます。お約束頂けますでしょうか」
「は、はい。決してどなたにも話しません」
強く何度も頷くリリアン。18歳となったリリアンではあるが、この時のアリスの様子にはとても逆らえない気がしたのだ。
ユーリの魔法石に、自分の額の魔法石を軽く当てるアリス。
実はオートマタの魔法石は、直接接触させることで記憶を読み取れる機能が備わっているのだ。
これをアリスが公表しなかったのには理由がある。オートマタの魔法石は、頭部と胸部の2パターンの設置場所があり、よろしくない事態を招きかねなかったからだ。特に胸部同士の接触は顕著である。
アリスはそれをよしとしなかったので、結局墓まで持っていったのだった。
「ふぅ、分かりました。完全に一方的な言いがかりですね」
魔法石の記憶を読み取ったアリスは、ユーリから額を離してそのように呟いている。その時のユーリの顔が赤くなっているが、これにはアリスは首を傾げるばかりだった。なにせ、オートマタにはそんな感情があるわけないのだから。
(転生してきた私ならまだしも、なんでそんな呆けた顔で私を見るのですかね)
ユーリの反応がただただ不思議でならないアリスだった。
しかし、いつまでもそれを気にしている場合ではない。思った以上にシュヴァリエの状態が悪くなっているのだ。オートマタであるアルヴィンもそれに従うので、このままでますますシュヴァリエの立場が危うくなってしまう。
仮にも小説では主人公として活躍した人物だ。さすがに最悪の結末を迎えては目覚めが悪くなってしまうというものである。
「ふむぅ、このままではシュヴァリエ殿下の立場が苦しくなるばかりですね。少しは武勲でも立てて頂ければマシにはなるとは思いますが……」
アリスはあごに手を添えて考え込む。
しばらくしてふと顔を上げると、祈るようなポーズをしているリリアンとユーリの姿が目に入る。
「アリスさん、どうかシュヴァリエ兄様を止めて下さい」
急に近付いてきて、アリスの手をしっかりと握るリリアン。やはり兄の姿をもう見ていられないといったところだろうか。もう大泣きしそうなほどの悲痛な表情が、如実に物語っている。
アリスはそのリリアンの表情を真っすぐと見つめて、無言で大きく頷く。
「分かりました。やれるだけやってみましょう」
アリスは強く約束するのだった。
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