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Mission170
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翌朝、城門でギルソンを見送ったアリスは城の中へと戻っていく。
オートマタは学園の中のことには手出しはできないので、心配ながらも歯がゆいものだった。規則は規則である以上、アリスは我慢するしかないのである。
城の中へと戻っていくアリスは、その中でリリアンと会う。
「これはリリアン王女殿下。お元気そうでなによりです」
「アリスですか。どうでしたか、イスヴァン様のご様子は」
リリアンはイスヴァンの様子を気にしているようだった。それというのも、リリアンはイスヴァンの婚約者となったからだ。
イスヴァンが学園を卒業すると同時に、マスカード帝国で挙式をする予定である。
それにしても、食事は一緒に取っているはずなのだが、どうしてこうも気になるのだろうか。94年の人生経験を持つアリスでも首を捻る。
(オートマタの生活が長くなって、人間的な感性が薄れてしまいましたかね……)
首を捻ってしまったことにショックを受けるアリス。
「イスヴァン王子でございましたら、普段と特にお変わりはございません。学園生活を楽しんでいらっしゃるようですよ」
「そうですか」
アリスが答えると、リリアンはほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。
ところが、アリスはその仕草に違和感を感じた。
「リリアン王女殿下、何かお悩みでございますか?」
「えっ?」
アリスが声を掛けると、リリアンは驚いたようにアリスの顔を見ている。
やっぱり何かがおかしいように感じられる。
「何かお悩みがあるのでしたら、私でよければお伺いいたします」
アリスはリリアンに提案をするが、リリアンはどうも渋っているようである。
「そういえば、王女殿下のオートマタは今はどちらに?」
おかしいといえばそこもそうだった。
ファルーダンでは5歳以上になれば一人につき1体のオートマタを必ず連れている。リリアンも例外ではない。
だというのに、今のリリアンの近くにオートマタがいる気配はなかった。さすがにアリスは訝しんでリリアンを見つめている。
ちなみにリリアンのオートマタは女性型で、額に魔法石を持っている。以前にちらっと登場した時の真っ白な淑女型のオートマタは印象に強く残っている。
「ええ、ユーリでしたらちょっと……」
リリアンの表情が曇る。これはさすがに何かあったなと直感する。
「リリアン王女殿下、ちょっとお部屋を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか」
「えっ、は、はい……」
アリスがちょっと圧を掛けると、リリアンはわずかに体を震わせた。
どうにも嫌な予感しかしない。
不安な表情のリリアンを連れて、アリスは私室へと向かった。
到着したアリスが中を確認すると、そこにはうつろな表情をしたユーリが座っていた。
「失礼致します。ユーリの状態を確認させて頂きますね」
「は、はい」
リリアンに念のために断りを入れて、ユーリの状態を確認する。すると、どうやら額の魔法石にひびが入っているようだった。
魔法石はオートマタの原動力であると同時に命の源でもある。人間でいう脳であり心臓でもあるのだ。それが傷ついたとなると、オートマタは一気にその機能を低下させる。このように植物状態になり、最終的には活動を停止してしまうのだ。
「一体何があったのですか」
アリスがリリアンに確認を取る。
おそるおそるではあったものの、リリアンは事情をアリスに話す。
それによれば、どうやらシュヴァリエが関わっているようだった。詳しい状況は教えてもらえなかったものの、どうやらシュヴァリエと言い争っていたらしい。魔法石についた傷は、その際に斬りつけられたのではないかと思われる。
魔法石を傷つけられたオートマタはそのまま死を迎えるばかり。しかし、これまで姉妹のように付き合ってきただけに、リリアンにユーリと別れる決意ができないでいたのだ。
怯えたように震えるリリアンを見て、アリスはユーリをどうにか救えないか状態を再度確認する。
ところが、ユーリの魔法石の傷は思ったよりも深い。よくまだうつろながらも意識が残っているというものだ。
(オートマタの替えは利くとはいえ、リリアン王女殿下とは10年の付き合いのあるオートマタです。どうにかして助けてあげたいですね)
アリスは真剣にその傷口を見ている。その際、アリスは思わずその手を魔法石に触れさせてしまった。
いけないと思ったアリスだったが、手が触れた瞬間思わぬ事が起こる。
「えっ?」
「なんですか?!」
ぱあっと魔法石から光が放たれたのだ。一瞬魔力が漏れ出てしまったのかと思ったものの、ユーリの魔法石を見て思わず目を疑ってしまう。
「傷が、小さくなっている?」
「そんなことがあり得るのですか?」
アリスがこぼした言葉に、リリアンが驚いて顔を近付ける。だが、本当にユーリの傷ついた魔法石ののひびが小さくなっていたのだ。
魔法石の傷が修復されるなんて事例は、これまでに一度もない話。それがゆえに、アリスもリリアンも、目の前の現象に言葉を失ってしまった。
(まさかそんな事が……。でも、試してみる価値はありますね)
ごくりと息を飲んだアリスは、再びユーリの魔法石に手を触れる。その際に傷が早く治るようにと、思いを込めながらである。
その瞬間だった。ユーリの魔法石から、眩いまでの光が放たれたのである。
オートマタは学園の中のことには手出しはできないので、心配ながらも歯がゆいものだった。規則は規則である以上、アリスは我慢するしかないのである。
城の中へと戻っていくアリスは、その中でリリアンと会う。
「これはリリアン王女殿下。お元気そうでなによりです」
「アリスですか。どうでしたか、イスヴァン様のご様子は」
リリアンはイスヴァンの様子を気にしているようだった。それというのも、リリアンはイスヴァンの婚約者となったからだ。
イスヴァンが学園を卒業すると同時に、マスカード帝国で挙式をする予定である。
それにしても、食事は一緒に取っているはずなのだが、どうしてこうも気になるのだろうか。94年の人生経験を持つアリスでも首を捻る。
(オートマタの生活が長くなって、人間的な感性が薄れてしまいましたかね……)
首を捻ってしまったことにショックを受けるアリス。
「イスヴァン王子でございましたら、普段と特にお変わりはございません。学園生活を楽しんでいらっしゃるようですよ」
「そうですか」
アリスが答えると、リリアンはほっとした様子で胸を撫で下ろしていた。
ところが、アリスはその仕草に違和感を感じた。
「リリアン王女殿下、何かお悩みでございますか?」
「えっ?」
アリスが声を掛けると、リリアンは驚いたようにアリスの顔を見ている。
やっぱり何かがおかしいように感じられる。
「何かお悩みがあるのでしたら、私でよければお伺いいたします」
アリスはリリアンに提案をするが、リリアンはどうも渋っているようである。
「そういえば、王女殿下のオートマタは今はどちらに?」
おかしいといえばそこもそうだった。
ファルーダンでは5歳以上になれば一人につき1体のオートマタを必ず連れている。リリアンも例外ではない。
だというのに、今のリリアンの近くにオートマタがいる気配はなかった。さすがにアリスは訝しんでリリアンを見つめている。
ちなみにリリアンのオートマタは女性型で、額に魔法石を持っている。以前にちらっと登場した時の真っ白な淑女型のオートマタは印象に強く残っている。
「ええ、ユーリでしたらちょっと……」
リリアンの表情が曇る。これはさすがに何かあったなと直感する。
「リリアン王女殿下、ちょっとお部屋を拝見させて頂いてもよろしいでしょうか」
「えっ、は、はい……」
アリスがちょっと圧を掛けると、リリアンはわずかに体を震わせた。
どうにも嫌な予感しかしない。
不安な表情のリリアンを連れて、アリスは私室へと向かった。
到着したアリスが中を確認すると、そこにはうつろな表情をしたユーリが座っていた。
「失礼致します。ユーリの状態を確認させて頂きますね」
「は、はい」
リリアンに念のために断りを入れて、ユーリの状態を確認する。すると、どうやら額の魔法石にひびが入っているようだった。
魔法石はオートマタの原動力であると同時に命の源でもある。人間でいう脳であり心臓でもあるのだ。それが傷ついたとなると、オートマタは一気にその機能を低下させる。このように植物状態になり、最終的には活動を停止してしまうのだ。
「一体何があったのですか」
アリスがリリアンに確認を取る。
おそるおそるではあったものの、リリアンは事情をアリスに話す。
それによれば、どうやらシュヴァリエが関わっているようだった。詳しい状況は教えてもらえなかったものの、どうやらシュヴァリエと言い争っていたらしい。魔法石についた傷は、その際に斬りつけられたのではないかと思われる。
魔法石を傷つけられたオートマタはそのまま死を迎えるばかり。しかし、これまで姉妹のように付き合ってきただけに、リリアンにユーリと別れる決意ができないでいたのだ。
怯えたように震えるリリアンを見て、アリスはユーリをどうにか救えないか状態を再度確認する。
ところが、ユーリの魔法石の傷は思ったよりも深い。よくまだうつろながらも意識が残っているというものだ。
(オートマタの替えは利くとはいえ、リリアン王女殿下とは10年の付き合いのあるオートマタです。どうにかして助けてあげたいですね)
アリスは真剣にその傷口を見ている。その際、アリスは思わずその手を魔法石に触れさせてしまった。
いけないと思ったアリスだったが、手が触れた瞬間思わぬ事が起こる。
「えっ?」
「なんですか?!」
ぱあっと魔法石から光が放たれたのだ。一瞬魔力が漏れ出てしまったのかと思ったものの、ユーリの魔法石を見て思わず目を疑ってしまう。
「傷が、小さくなっている?」
「そんなことがあり得るのですか?」
アリスがこぼした言葉に、リリアンが驚いて顔を近付ける。だが、本当にユーリの傷ついた魔法石ののひびが小さくなっていたのだ。
魔法石の傷が修復されるなんて事例は、これまでに一度もない話。それがゆえに、アリスもリリアンも、目の前の現象に言葉を失ってしまった。
(まさかそんな事が……。でも、試してみる価値はありますね)
ごくりと息を飲んだアリスは、再びユーリの魔法石に手を触れる。その際に傷が早く治るようにと、思いを込めながらである。
その瞬間だった。ユーリの魔法石から、眩いまでの光が放たれたのである。
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