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Mission169
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「ただいま戻りました、マイマスター」
「おかえり、アリス。どうだったかな、ソリエア王国は」
淡々とした表情と態度で帰還の挨拶をするアリスに、ギルソンもまた淡々と声を掛けている。アリスなら大丈夫だろうと、全幅の信頼を寄せていることがよく分かる。
「はい、鉄道の建設は無事に終わりましたが、少々ソリエア王国内は心配のある状況でしたので、応急処置をして参りました」
「そうですか。詳しくは部屋で聞きましょう」
「承知致しました」
アリスはギルソンの私室へと向かい、ソリエア王国での話をすべて話した。
ギルソンはアリスの話を聞いていて、ずいぶんと深刻に考え込み始める。
「そうですか。流行り病ですか……」
「はい。小動物がキャリア……運び屋となって伝染するタイプのものでございます。少々ばかり発症者がいましたので治療を施してきております。それとソリエア王国の王都近辺と、途中の鉄道駅の近辺では徹底的に駆除はして参りましたので、当面は大丈夫でしょう。医療用のオートマタも置いて参りましたし」
「ふむ、ご苦労だったね、アリス」
報告を聞き終えたギルソンは、アリスを労っていた。
長々とした報告が終わり、ギルソンとアリスは部屋でくつろいでいる。
「マイマスター」
「なにかな、アリス」
静かに声を掛けてきたアリスにギルソンが反応する。
「ようやくこれで、学業に専念できますね」
「うん、そうだね」
そこでぷつりと切れる会話。報告が終わってしまえば、これといって話題がなくて困るアリスである。
だが、急に何かを思い出したのか、アリスはポンと手を叩く。
「そういえば、マリカ様は本当に素晴らしいお方ですね」
「マリカが、ですか?」
アリスの言葉に、ギルソンはにこりと笑顔を見せている。
「ええ、今回のソリエア王国の問題は、マリカ様がオートマタを作って下さったおかげで解決できたのです。彼女はマイマスターと同い年ですのに、素晴らしい腕前をお持ちですね」
「確かにそうだね。ボクではオートマタは作れませんからね。こればかりは完敗です」
アリスの話を聞いて、はにかむように笑うギルソンである。
「でも、マイマスターの交渉能力と胆力もまた、他人の誰も真似できるようなものだとは思えませんけれどね」
「ふふっ、それもそうですね」
アリスがため息まじりに話すと、ギルソンはまた笑っていた。
「しかし、ようやくこれで学業に専念できるのは朗報ですね。いくら実績があるからとはいっても、学業を落としてしまうようではいけませんからね」
「はい。ですので、私は全力でもってマイマスターを支えさせて頂きますとも」
「うん、頼んだよ、アリス」
「お任せ下さい」
ようやく周辺諸国とのいざこざに片がつき、平穏な日々がようやく戻ってくる。
状況としては落ち着いたはずなのだが、アリスはむしろ今からが本番だと戦々恐々としている。
それというのは、すべてはアリスが前世で書いた小説が原因である。
なにせ、小説中のギルソンは、最終的に学園生活で性格を破綻させたからだ。
現状はそういった兆候はないし、ギルソンは思った以上に真っすぐ育っている。これならばそこまで心配はいらないだろうが、何が起こるか分からないのが世の中だ。
(何があっても、マイマスターは私が守ってみせます)
ギルソンがゆっくりとくつろぐ姿を見守りながら、アリスは初心にかえって強く決意するのだった。
人生の大往生からギルソンのオートマタとして生まれ変わったアリス。それからすでに八年という月日が流れた。
現在はようやく自分の書いた小説の本編時間軸が始まったところである。
自分の納得のいかない世界をぶち壊すためにここまで尽力してきたアリスだが、思いの外力が入りすぎて、もう似ても似つかぬ状態になってしまっている。小説の世界と同じものと言ったら、登場人物の名前と国や街の名前くらいである。
救いたかったギルソンは真っすぐ育って中心的な人物になってきているのだが、アリスには別の気がかりがあった。
それは小説の本来の主人公であるシュヴァリエのことだ。
本来は誠実な性格なはずなのに、現状ではかなり歪み、ほとんど表舞台に出てこなくなっていた。
ギルソンをひとまず救えたことに満足できているアリスだが、だからといって不幸な人物を生み出す事はアリスの本懐ではない。登場人物はできるだけ全員を救いたいのだ。
(これでようやく、小説本編の話に進めるといったところでしょうか)
ギルソンが眠りに就き、アリスは月明かりが差し込む窓際に座って外を眺めている。
(学園を平穏無事に卒業して頂くのは当然ですが、シュヴァリエ殿下の動きがまったくないのが気にかかります)
こつんと窓に頭を当てて、不安な表情をするアリス。
順調だからこそ、見えない何かに怯えてしまうというのだ。
(マイマスターが学園に通っている間、シュヴァリエ殿下の対策をどうにか考えましょう)
方針を固めたアリスは、窓際から移動して眠りに就いたのだった。
「おかえり、アリス。どうだったかな、ソリエア王国は」
淡々とした表情と態度で帰還の挨拶をするアリスに、ギルソンもまた淡々と声を掛けている。アリスなら大丈夫だろうと、全幅の信頼を寄せていることがよく分かる。
「はい、鉄道の建設は無事に終わりましたが、少々ソリエア王国内は心配のある状況でしたので、応急処置をして参りました」
「そうですか。詳しくは部屋で聞きましょう」
「承知致しました」
アリスはギルソンの私室へと向かい、ソリエア王国での話をすべて話した。
ギルソンはアリスの話を聞いていて、ずいぶんと深刻に考え込み始める。
「そうですか。流行り病ですか……」
「はい。小動物がキャリア……運び屋となって伝染するタイプのものでございます。少々ばかり発症者がいましたので治療を施してきております。それとソリエア王国の王都近辺と、途中の鉄道駅の近辺では徹底的に駆除はして参りましたので、当面は大丈夫でしょう。医療用のオートマタも置いて参りましたし」
「ふむ、ご苦労だったね、アリス」
報告を聞き終えたギルソンは、アリスを労っていた。
長々とした報告が終わり、ギルソンとアリスは部屋でくつろいでいる。
「マイマスター」
「なにかな、アリス」
静かに声を掛けてきたアリスにギルソンが反応する。
「ようやくこれで、学業に専念できますね」
「うん、そうだね」
そこでぷつりと切れる会話。報告が終わってしまえば、これといって話題がなくて困るアリスである。
だが、急に何かを思い出したのか、アリスはポンと手を叩く。
「そういえば、マリカ様は本当に素晴らしいお方ですね」
「マリカが、ですか?」
アリスの言葉に、ギルソンはにこりと笑顔を見せている。
「ええ、今回のソリエア王国の問題は、マリカ様がオートマタを作って下さったおかげで解決できたのです。彼女はマイマスターと同い年ですのに、素晴らしい腕前をお持ちですね」
「確かにそうだね。ボクではオートマタは作れませんからね。こればかりは完敗です」
アリスの話を聞いて、はにかむように笑うギルソンである。
「でも、マイマスターの交渉能力と胆力もまた、他人の誰も真似できるようなものだとは思えませんけれどね」
「ふふっ、それもそうですね」
アリスがため息まじりに話すと、ギルソンはまた笑っていた。
「しかし、ようやくこれで学業に専念できるのは朗報ですね。いくら実績があるからとはいっても、学業を落としてしまうようではいけませんからね」
「はい。ですので、私は全力でもってマイマスターを支えさせて頂きますとも」
「うん、頼んだよ、アリス」
「お任せ下さい」
ようやく周辺諸国とのいざこざに片がつき、平穏な日々がようやく戻ってくる。
状況としては落ち着いたはずなのだが、アリスはむしろ今からが本番だと戦々恐々としている。
それというのは、すべてはアリスが前世で書いた小説が原因である。
なにせ、小説中のギルソンは、最終的に学園生活で性格を破綻させたからだ。
現状はそういった兆候はないし、ギルソンは思った以上に真っすぐ育っている。これならばそこまで心配はいらないだろうが、何が起こるか分からないのが世の中だ。
(何があっても、マイマスターは私が守ってみせます)
ギルソンがゆっくりとくつろぐ姿を見守りながら、アリスは初心にかえって強く決意するのだった。
人生の大往生からギルソンのオートマタとして生まれ変わったアリス。それからすでに八年という月日が流れた。
現在はようやく自分の書いた小説の本編時間軸が始まったところである。
自分の納得のいかない世界をぶち壊すためにここまで尽力してきたアリスだが、思いの外力が入りすぎて、もう似ても似つかぬ状態になってしまっている。小説の世界と同じものと言ったら、登場人物の名前と国や街の名前くらいである。
救いたかったギルソンは真っすぐ育って中心的な人物になってきているのだが、アリスには別の気がかりがあった。
それは小説の本来の主人公であるシュヴァリエのことだ。
本来は誠実な性格なはずなのに、現状ではかなり歪み、ほとんど表舞台に出てこなくなっていた。
ギルソンをひとまず救えたことに満足できているアリスだが、だからといって不幸な人物を生み出す事はアリスの本懐ではない。登場人物はできるだけ全員を救いたいのだ。
(これでようやく、小説本編の話に進めるといったところでしょうか)
ギルソンが眠りに就き、アリスは月明かりが差し込む窓際に座って外を眺めている。
(学園を平穏無事に卒業して頂くのは当然ですが、シュヴァリエ殿下の動きがまったくないのが気にかかります)
こつんと窓に頭を当てて、不安な表情をするアリス。
順調だからこそ、見えない何かに怯えてしまうというのだ。
(マイマスターが学園に通っている間、シュヴァリエ殿下の対策をどうにか考えましょう)
方針を固めたアリスは、窓際から移動して眠りに就いたのだった。
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