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Mission168
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アリスはやることをやり終えて城へとやって来る。もちろん浄化魔法で自分に付いたかもしれないウィルスを除去してからだ。
「ただいま戻りました。やはり、恐れていた事態が起ころうとしておりましたので、対処しておきました」
「何が起きようとしていたのだ」
アリスの報告に、国王が食い気味に尋ねてくる。
「疫病の蔓延でございます。食料も足りず、不衛生な状況です。あのまま放っておけば一気に王都中に蔓延したことでしょう」
「なんだと……?!」
国王他、重鎮たちが声をそろえて驚いている。
「私と連れて参ったオートマタたちの手によって、ひとまずの終焉は向かえました。後は王国内の状況を確認して根絶に向けて動くだけでございます。早めに気が付けてよかったと存じます」
アリスは淡々と国王たちに報告を続けていた。
説明を聞き終えた国王たちは、こくりと頷き合ってアリスへと視線を向ける。
「此度の働き、感謝申し上げる。未曽有の惨事を防いでくれてありがたく思う」
「放っておけば、マイマスターにも被害が及んだ可能性がございます。ありとあらゆる危険の可能性を摘むのが、私たちオートマタの役目でございますから」
国王の言葉に、しれっと言い切るアリスである。すっかり感情を押し殺したオートマタの行動も板についてしまっている。
「ひとまず、もう少しは私が面倒を見ておきます。食糧事情さえ改善できれば、ファルーダンへの鉄道敷設も問題なく行えるでしょうからね」
「すまない、恩に着る」
国王が深く頭を下げている。
本来国王というものは簡単に頭を下げるものではない。だというのにはっきりと頭を下げるということは、そのくらいに王国の運営に切羽詰まっていたのだろう。
「私は、マイマスターの思いを代弁代行するだけでございます。私の行動はすべてマイマスターの幸せのためにあるのですから」
国王の予想外の態度にも、アリスもアリスでまったくぶれない。
ひとまず話がついたことで、アリスは王都だけでも更に緑であふれさせようと行動する。
四方の王都の角へと向かい、それぞれで魔法を使って水と緑をあふれさせる。特に街道が伸びている方向には水場は必須だった。なにせ移動手段には馬が使われる。その馬ののどを潤すための水場は絶対に欠かせないのである。
飢饉の状態にあったファルーダンの状況を一変させたアリスの魔法は、今もなお健在である。
そもそもアリスの魔法は、一瞬で土を固めた絶対に崩れない高架橋を生み出すほどの規格外である。一瞬で荒れ地を水と緑にあふれた環境に変えるなど、まったくもって造作のない事なのである。
「我々は夢でも見ているのだろうか……」
「ああ、きっとこれは夢だよな。さっきまでただの荒れ地だったんだからな……」
様子を見守っていた衛兵たちもこの有り様である。目の前で見ていても信じられないのだ。
アリスが魔法を使うと、地面から草や木がにょきにょきと生え、水がぼこぼこと湧き出してくる。どう見ても奇跡みたいな状況なのだから、素直に受け入れろという方が無茶なのである。
「マスターだからこそできるのであって、私たち普通のオートマタには絶対無理です」
アリスに付き添っているオートマタもこう言っているのだ。一般人である衛兵が信じられるわけがない。
とはいえ、信じるも信じないも関係なく、アリスの手によってソリエア王国の王都ソルドの環境は完全に一変してしまった。荒れ果てた感じの寂れた王都は、一瞬で水と緑にあふれた豊かな場所に生まれ変わったのだ。この変化に住民たちは驚き、声を上げて喜んでいる。
「水だ、水があふれているぞ」
「ああ、こんなに緑が生い茂っているなんて、初めて見たわ」
はしゃぎまわる住民たちの姿を見て、アリスはやり切った表情を見せている。
再び城に戻り、国王と再び謁見をする。
「本当に何といえばいいのだろうかな。我々のためにここまでしてくれるとは、本当に言葉で言い尽くせぬというものだ」
「お言葉ではございますが、これは私の性分というものでございます。困っている人を見捨ててはおけないのでございます」
「そうか……。本当に無欲なのだな」
「私はオートマタでございます。自分の主に忠誠を誓い、主のために働くという存在です。欲などあるものでしょうか」
アリスの考えを聞いて、ソリエア国王は黙り込んでしまった。
やることを終えたアリスは、ようやくファルーダンとの国境に向けて鉄道の建設を進める。ソリエア王国の王都はひとまずこれで安全になったのだ。心置きなく作業を行えるというものである。
ただ、途中で設置する駅のある街は、当面は医療担当のオートマタを配置しておく必要がありそうだった。王都以外の状況が分からないからだ。
こうして、ファルーダンとそれを取り巻く各国と、いよいよ鉄道による交通網ができ上がりつつある。
それに伴って各国との関係性も改善され、ひとまずの脅威は排除されたと見ていいだろう。
これでギルソンの学園生活は安泰だろうと思われるのだが、それでもアリスには不安の影が付きまとっている。
(問題は私が書いた小説の強制力ですね。せっかく築き上げてきた平和な世界なのです。絶対に崩させはしませんよ)
都合上、作中では不幸な最期を迎えてしまったギルソンを幸せにするというのがアリスの目的だ。
ようやくここまでたくさんの問題の芽を摘み取ってきたのだ。これまで以上に強い決意を固めながら、ようやく鉄道の建設を終えたアリスはファルーダンへの帰途に就いたのだった。
「ただいま戻りました。やはり、恐れていた事態が起ころうとしておりましたので、対処しておきました」
「何が起きようとしていたのだ」
アリスの報告に、国王が食い気味に尋ねてくる。
「疫病の蔓延でございます。食料も足りず、不衛生な状況です。あのまま放っておけば一気に王都中に蔓延したことでしょう」
「なんだと……?!」
国王他、重鎮たちが声をそろえて驚いている。
「私と連れて参ったオートマタたちの手によって、ひとまずの終焉は向かえました。後は王国内の状況を確認して根絶に向けて動くだけでございます。早めに気が付けてよかったと存じます」
アリスは淡々と国王たちに報告を続けていた。
説明を聞き終えた国王たちは、こくりと頷き合ってアリスへと視線を向ける。
「此度の働き、感謝申し上げる。未曽有の惨事を防いでくれてありがたく思う」
「放っておけば、マイマスターにも被害が及んだ可能性がございます。ありとあらゆる危険の可能性を摘むのが、私たちオートマタの役目でございますから」
国王の言葉に、しれっと言い切るアリスである。すっかり感情を押し殺したオートマタの行動も板についてしまっている。
「ひとまず、もう少しは私が面倒を見ておきます。食糧事情さえ改善できれば、ファルーダンへの鉄道敷設も問題なく行えるでしょうからね」
「すまない、恩に着る」
国王が深く頭を下げている。
本来国王というものは簡単に頭を下げるものではない。だというのにはっきりと頭を下げるということは、そのくらいに王国の運営に切羽詰まっていたのだろう。
「私は、マイマスターの思いを代弁代行するだけでございます。私の行動はすべてマイマスターの幸せのためにあるのですから」
国王の予想外の態度にも、アリスもアリスでまったくぶれない。
ひとまず話がついたことで、アリスは王都だけでも更に緑であふれさせようと行動する。
四方の王都の角へと向かい、それぞれで魔法を使って水と緑をあふれさせる。特に街道が伸びている方向には水場は必須だった。なにせ移動手段には馬が使われる。その馬ののどを潤すための水場は絶対に欠かせないのである。
飢饉の状態にあったファルーダンの状況を一変させたアリスの魔法は、今もなお健在である。
そもそもアリスの魔法は、一瞬で土を固めた絶対に崩れない高架橋を生み出すほどの規格外である。一瞬で荒れ地を水と緑にあふれた環境に変えるなど、まったくもって造作のない事なのである。
「我々は夢でも見ているのだろうか……」
「ああ、きっとこれは夢だよな。さっきまでただの荒れ地だったんだからな……」
様子を見守っていた衛兵たちもこの有り様である。目の前で見ていても信じられないのだ。
アリスが魔法を使うと、地面から草や木がにょきにょきと生え、水がぼこぼこと湧き出してくる。どう見ても奇跡みたいな状況なのだから、素直に受け入れろという方が無茶なのである。
「マスターだからこそできるのであって、私たち普通のオートマタには絶対無理です」
アリスに付き添っているオートマタもこう言っているのだ。一般人である衛兵が信じられるわけがない。
とはいえ、信じるも信じないも関係なく、アリスの手によってソリエア王国の王都ソルドの環境は完全に一変してしまった。荒れ果てた感じの寂れた王都は、一瞬で水と緑にあふれた豊かな場所に生まれ変わったのだ。この変化に住民たちは驚き、声を上げて喜んでいる。
「水だ、水があふれているぞ」
「ああ、こんなに緑が生い茂っているなんて、初めて見たわ」
はしゃぎまわる住民たちの姿を見て、アリスはやり切った表情を見せている。
再び城に戻り、国王と再び謁見をする。
「本当に何といえばいいのだろうかな。我々のためにここまでしてくれるとは、本当に言葉で言い尽くせぬというものだ」
「お言葉ではございますが、これは私の性分というものでございます。困っている人を見捨ててはおけないのでございます」
「そうか……。本当に無欲なのだな」
「私はオートマタでございます。自分の主に忠誠を誓い、主のために働くという存在です。欲などあるものでしょうか」
アリスの考えを聞いて、ソリエア国王は黙り込んでしまった。
やることを終えたアリスは、ようやくファルーダンとの国境に向けて鉄道の建設を進める。ソリエア王国の王都はひとまずこれで安全になったのだ。心置きなく作業を行えるというものである。
ただ、途中で設置する駅のある街は、当面は医療担当のオートマタを配置しておく必要がありそうだった。王都以外の状況が分からないからだ。
こうして、ファルーダンとそれを取り巻く各国と、いよいよ鉄道による交通網ができ上がりつつある。
それに伴って各国との関係性も改善され、ひとまずの脅威は排除されたと見ていいだろう。
これでギルソンの学園生活は安泰だろうと思われるのだが、それでもアリスには不安の影が付きまとっている。
(問題は私が書いた小説の強制力ですね。せっかく築き上げてきた平和な世界なのです。絶対に崩させはしませんよ)
都合上、作中では不幸な最期を迎えてしまったギルソンを幸せにするというのがアリスの目的だ。
ようやくここまでたくさんの問題の芽を摘み取ってきたのだ。これまで以上に強い決意を固めながら、ようやく鉄道の建設を終えたアリスはファルーダンへの帰途に就いたのだった。
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