転生オートマタ

未羊

文字の大きさ
上 下
166 / 189

Mission165

しおりを挟む
 アリスがまず行ったのは、王都にこもる劣悪な空気を清めるところからだった。
 さすがにオートマタゆえに病気の心配はないものの、この王都のあちこちにあるよどんだ空気は気持ちのいいものではなかった。
 王城に戻って挨拶を終えたアリスは、鉄道の建設よりも前に王都の環境改善を申し出る。
「ほう、環境改善とな。それはどうしてかな」
「私の住むファルーダン王国に比べて、住環境が劣悪でございます。かなり限界を迎えつつありますので、このままではファルーダンによからぬものを持ち込みかねません。なので、オートマタの力を使って浄化を行いたいと考えております」
「貴様、我が国が汚れているとでもいうのか!」
 アリスの言い分に、国王の側近たちが文句を言い始める。だが、その大臣たちを国王が黙らせる。
「ファルーダンが持ち直したのは、一体のオートマタがいたからと聞く。……やってみるがよいぞ」
「はい、納得のいく結果をご覧に入れましょう」
 国王からの許可が出たことで、アリスは改善のために動き始めた。
 現在のソリエア王国内の問題は食糧事情だ。体力がないので、病気が発生しようものなら、感染から一気に病状が悪化する危険性がある。
 王都のあちこちに、魔法で緑と水を発生させて回るアリス。鉄道建設で培ったノウハウは、井戸を作るためにも十分活かされていた。
 周辺への影響の小さいところに小さな緑の空間と水の湧き出る井戸を設置していく。
 でき上がった井戸の状態を確認するために、魔法で軽い桶を作って井戸から水をくみ上げるアリス。そうやって地上に戻ってきた桶の中にはたくさんの水が満たされていた。
「おおお、水だ。水が出たぞ!」
 その様子を見ていた王都の住民が叫んでいる。
 その声を聞いて、周りからも人が集まってくる。青々とした空間と、地面からくみ上げられる水というのは、王都の住民にとっていつぞやぶりなのだ。下手をすると一度も見た事のない住民もいる。まったくどれほど劣悪な空間だったのだろうか。
「あなたが女神様か……」
 アリスの姿を見た住民たちが、感動のあまりその場でひれ伏し始める。さすがにこの光景にはアリスもたじたじである。
「わ、私はただのオートマタです。急ぎますので、私はこれで失礼しますね」
 ドン引きの態度を見せながら、アリスはその場を急いで離れる。少しは説明しようと思ったのに、その場の雰囲気に耐え切れなかったのだ。
 改めて、このソリエア王国の置かれていた状況というものを思い知ったアリス。ここからは作るだけ作ったらさっさと退避して回ることにした。
 そうして、王都内と周辺に数か所ばかり井戸と緑の空間を作り上げたアリスは、疲れ果てた様子で王城へと戻ってきたのだった。
「ただいま戻りました」
「おお、よく戻ったな。見回りの兵士から成果のほどは聞いている。よくやってくれたものだ」
「はい、困っている方を助けるのは当然と心得ておりますので、お気になさらずに」
 ソリエア国王の言葉に、アリスは淡々と答えていた。
「ですが、鉄道の件はしばらく保留とさせて頂きたく存じます」
 街の状況を見たアリスは、そのように結論を出していた。
「それは、どういうわけでかな?」
 国王が表情を歪ませて真意を確認してくる。だが、どことなくドスの利いた声もアリスにはまったく通じなかった。
「街の状況を見ると、衛生状況がよろしくありません。これでは伝染病といったものの心配が出て参ります。鉄道は人だけではなく、そういったものの伝播も早めてしまうものです。なので、安全が確認できるまでは、保留とさせて頂きたいのです」
「ファルーダンとの間だけの問題だろう?」
「いいえ、既にマスカード帝国、ソルティエ公国とも鉄道でつながっております。ソリエア王国を起因として、大陸全土にあっという間に広がる可能性は否定できません」
 アリスはソリエア国王にきっぱりと言い切っていた。その勢いに、ソリエア国王も黙るしかなかった。万一自分たちが原因で大陸全土の問題となるわけにはいかないからだ。
「対策はお任せ下さいませ。そのために一度ファルーダンに戻らさせて頂きます」
「分かった。ひとまずは王都の件で礼を言っておく」
 国王に言われて丁寧に頭を下げたアリスは、ソリエア王国の王都から去っていく。
 国境までは馬で移動して、そこからは列車で一気にファルーダンの王都まで戻る。
 そして、王都まで戻ると同時に、オートマタの工房へと出向いた。
「な、なんなんですか、アリスさん」
 急な訪問に工房の職員たちが驚いている。
「今日はマリカはいらっしゃいますでしょうか」
「マリカなら学園があるから、工房には来てもらっていません。今なら家にいるはずです」
 職員からの回答を聞くと、すぐさまアリスはマリカのところへと急ぐ。今回作ってもらおうと考えたオートマタは、おそらくマリカでなければ製作できないと考えたからだ。
 マリカの家に着いたアリスは、どうにかマリカに会うことができた。そして、マリカにオートマタ製作の依頼を出す。
「わ、分かりました。私でよければやります」
 マリカから快諾を得られたアリス。はてさて、一体どんなオートマタを作ってもらうつもりなのだろうか。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

冷遇妻に家を売り払われていた男の裁判

七辻ゆゆ
ファンタジー
婚姻後すぐに妻を放置した男が二年ぶりに帰ると、家はなくなっていた。 「では開廷いたします」 家には10億の価値があったと主張し、妻に離縁と損害賠償を求める男。妻の口からは二年の事実が語られていく。

メインをはれない私は、普通に令嬢やってます

かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・ だから、この世界での普通の令嬢になります! ↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・

親切なミザリー

みるみる
恋愛
第一王子アポロの婚約者ミザリーは、「親切なミザリー」としてまわりから慕われていました。 ところが、子爵家令嬢のアリスと偶然出会ってしまったアポロはアリスを好きになってしまい、ミザリーを蔑ろにするようになりました。アポロだけでなく、アポロのまわりの友人達もアリスを慕うようになりました。 ミザリーはアリスに嫉妬し、様々な嫌がらせをアリスにする様になりました。 こうしてミザリーは、いつしか親切なミザリーから悪女ミザリーへと変貌したのでした。 ‥ですが、ミザリーの突然の死後、何故か再びミザリーの評価は上がり、「親切なミザリー」として人々に慕われるようになり、ミザリーが死後海に投げ落とされたという崖の上には沢山の花が、毎日絶やされる事なく人々により捧げられ続けるのでした。 ※不定期更新です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

処理中です...