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Mission165
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アリスがまず行ったのは、王都にこもる劣悪な空気を清めるところからだった。
さすがにオートマタゆえに病気の心配はないものの、この王都のあちこちにあるよどんだ空気は気持ちのいいものではなかった。
王城に戻って挨拶を終えたアリスは、鉄道の建設よりも前に王都の環境改善を申し出る。
「ほう、環境改善とな。それはどうしてかな」
「私の住むファルーダン王国に比べて、住環境が劣悪でございます。かなり限界を迎えつつありますので、このままではファルーダンによからぬものを持ち込みかねません。なので、オートマタの力を使って浄化を行いたいと考えております」
「貴様、我が国が汚れているとでもいうのか!」
アリスの言い分に、国王の側近たちが文句を言い始める。だが、その大臣たちを国王が黙らせる。
「ファルーダンが持ち直したのは、一体のオートマタがいたからと聞く。……やってみるがよいぞ」
「はい、納得のいく結果をご覧に入れましょう」
国王からの許可が出たことで、アリスは改善のために動き始めた。
現在のソリエア王国内の問題は食糧事情だ。体力がないので、病気が発生しようものなら、感染から一気に病状が悪化する危険性がある。
王都のあちこちに、魔法で緑と水を発生させて回るアリス。鉄道建設で培ったノウハウは、井戸を作るためにも十分活かされていた。
周辺への影響の小さいところに小さな緑の空間と水の湧き出る井戸を設置していく。
でき上がった井戸の状態を確認するために、魔法で軽い桶を作って井戸から水をくみ上げるアリス。そうやって地上に戻ってきた桶の中にはたくさんの水が満たされていた。
「おおお、水だ。水が出たぞ!」
その様子を見ていた王都の住民が叫んでいる。
その声を聞いて、周りからも人が集まってくる。青々とした空間と、地面からくみ上げられる水というのは、王都の住民にとっていつぞやぶりなのだ。下手をすると一度も見た事のない住民もいる。まったくどれほど劣悪な空間だったのだろうか。
「あなたが女神様か……」
アリスの姿を見た住民たちが、感動のあまりその場でひれ伏し始める。さすがにこの光景にはアリスもたじたじである。
「わ、私はただのオートマタです。急ぎますので、私はこれで失礼しますね」
ドン引きの態度を見せながら、アリスはその場を急いで離れる。少しは説明しようと思ったのに、その場の雰囲気に耐え切れなかったのだ。
改めて、このソリエア王国の置かれていた状況というものを思い知ったアリス。ここからは作るだけ作ったらさっさと退避して回ることにした。
そうして、王都内と周辺に数か所ばかり井戸と緑の空間を作り上げたアリスは、疲れ果てた様子で王城へと戻ってきたのだった。
「ただいま戻りました」
「おお、よく戻ったな。見回りの兵士から成果のほどは聞いている。よくやってくれたものだ」
「はい、困っている方を助けるのは当然と心得ておりますので、お気になさらずに」
ソリエア国王の言葉に、アリスは淡々と答えていた。
「ですが、鉄道の件はしばらく保留とさせて頂きたく存じます」
街の状況を見たアリスは、そのように結論を出していた。
「それは、どういうわけでかな?」
国王が表情を歪ませて真意を確認してくる。だが、どことなくドスの利いた声もアリスにはまったく通じなかった。
「街の状況を見ると、衛生状況がよろしくありません。これでは伝染病といったものの心配が出て参ります。鉄道は人だけではなく、そういったものの伝播も早めてしまうものです。なので、安全が確認できるまでは、保留とさせて頂きたいのです」
「ファルーダンとの間だけの問題だろう?」
「いいえ、既にマスカード帝国、ソルティエ公国とも鉄道でつながっております。ソリエア王国を起因として、大陸全土にあっという間に広がる可能性は否定できません」
アリスはソリエア国王にきっぱりと言い切っていた。その勢いに、ソリエア国王も黙るしかなかった。万一自分たちが原因で大陸全土の問題となるわけにはいかないからだ。
「対策はお任せ下さいませ。そのために一度ファルーダンに戻らさせて頂きます」
「分かった。ひとまずは王都の件で礼を言っておく」
国王に言われて丁寧に頭を下げたアリスは、ソリエア王国の王都から去っていく。
国境までは馬で移動して、そこからは列車で一気にファルーダンの王都まで戻る。
そして、王都まで戻ると同時に、オートマタの工房へと出向いた。
「な、なんなんですか、アリスさん」
急な訪問に工房の職員たちが驚いている。
「今日はマリカはいらっしゃいますでしょうか」
「マリカなら学園があるから、工房には来てもらっていません。今なら家にいるはずです」
職員からの回答を聞くと、すぐさまアリスはマリカのところへと急ぐ。今回作ってもらおうと考えたオートマタは、おそらくマリカでなければ製作できないと考えたからだ。
マリカの家に着いたアリスは、どうにかマリカに会うことができた。そして、マリカにオートマタ製作の依頼を出す。
「わ、分かりました。私でよければやります」
マリカから快諾を得られたアリス。はてさて、一体どんなオートマタを作ってもらうつもりなのだろうか。
さすがにオートマタゆえに病気の心配はないものの、この王都のあちこちにあるよどんだ空気は気持ちのいいものではなかった。
王城に戻って挨拶を終えたアリスは、鉄道の建設よりも前に王都の環境改善を申し出る。
「ほう、環境改善とな。それはどうしてかな」
「私の住むファルーダン王国に比べて、住環境が劣悪でございます。かなり限界を迎えつつありますので、このままではファルーダンによからぬものを持ち込みかねません。なので、オートマタの力を使って浄化を行いたいと考えております」
「貴様、我が国が汚れているとでもいうのか!」
アリスの言い分に、国王の側近たちが文句を言い始める。だが、その大臣たちを国王が黙らせる。
「ファルーダンが持ち直したのは、一体のオートマタがいたからと聞く。……やってみるがよいぞ」
「はい、納得のいく結果をご覧に入れましょう」
国王からの許可が出たことで、アリスは改善のために動き始めた。
現在のソリエア王国内の問題は食糧事情だ。体力がないので、病気が発生しようものなら、感染から一気に病状が悪化する危険性がある。
王都のあちこちに、魔法で緑と水を発生させて回るアリス。鉄道建設で培ったノウハウは、井戸を作るためにも十分活かされていた。
周辺への影響の小さいところに小さな緑の空間と水の湧き出る井戸を設置していく。
でき上がった井戸の状態を確認するために、魔法で軽い桶を作って井戸から水をくみ上げるアリス。そうやって地上に戻ってきた桶の中にはたくさんの水が満たされていた。
「おおお、水だ。水が出たぞ!」
その様子を見ていた王都の住民が叫んでいる。
その声を聞いて、周りからも人が集まってくる。青々とした空間と、地面からくみ上げられる水というのは、王都の住民にとっていつぞやぶりなのだ。下手をすると一度も見た事のない住民もいる。まったくどれほど劣悪な空間だったのだろうか。
「あなたが女神様か……」
アリスの姿を見た住民たちが、感動のあまりその場でひれ伏し始める。さすがにこの光景にはアリスもたじたじである。
「わ、私はただのオートマタです。急ぎますので、私はこれで失礼しますね」
ドン引きの態度を見せながら、アリスはその場を急いで離れる。少しは説明しようと思ったのに、その場の雰囲気に耐え切れなかったのだ。
改めて、このソリエア王国の置かれていた状況というものを思い知ったアリス。ここからは作るだけ作ったらさっさと退避して回ることにした。
そうして、王都内と周辺に数か所ばかり井戸と緑の空間を作り上げたアリスは、疲れ果てた様子で王城へと戻ってきたのだった。
「ただいま戻りました」
「おお、よく戻ったな。見回りの兵士から成果のほどは聞いている。よくやってくれたものだ」
「はい、困っている方を助けるのは当然と心得ておりますので、お気になさらずに」
ソリエア国王の言葉に、アリスは淡々と答えていた。
「ですが、鉄道の件はしばらく保留とさせて頂きたく存じます」
街の状況を見たアリスは、そのように結論を出していた。
「それは、どういうわけでかな?」
国王が表情を歪ませて真意を確認してくる。だが、どことなくドスの利いた声もアリスにはまったく通じなかった。
「街の状況を見ると、衛生状況がよろしくありません。これでは伝染病といったものの心配が出て参ります。鉄道は人だけではなく、そういったものの伝播も早めてしまうものです。なので、安全が確認できるまでは、保留とさせて頂きたいのです」
「ファルーダンとの間だけの問題だろう?」
「いいえ、既にマスカード帝国、ソルティエ公国とも鉄道でつながっております。ソリエア王国を起因として、大陸全土にあっという間に広がる可能性は否定できません」
アリスはソリエア国王にきっぱりと言い切っていた。その勢いに、ソリエア国王も黙るしかなかった。万一自分たちが原因で大陸全土の問題となるわけにはいかないからだ。
「対策はお任せ下さいませ。そのために一度ファルーダンに戻らさせて頂きます」
「分かった。ひとまずは王都の件で礼を言っておく」
国王に言われて丁寧に頭を下げたアリスは、ソリエア王国の王都から去っていく。
国境までは馬で移動して、そこからは列車で一気にファルーダンの王都まで戻る。
そして、王都まで戻ると同時に、オートマタの工房へと出向いた。
「な、なんなんですか、アリスさん」
急な訪問に工房の職員たちが驚いている。
「今日はマリカはいらっしゃいますでしょうか」
「マリカなら学園があるから、工房には来てもらっていません。今なら家にいるはずです」
職員からの回答を聞くと、すぐさまアリスはマリカのところへと急ぐ。今回作ってもらおうと考えたオートマタは、おそらくマリカでなければ製作できないと考えたからだ。
マリカの家に着いたアリスは、どうにかマリカに会うことができた。そして、マリカにオートマタ製作の依頼を出す。
「わ、分かりました。私でよければやります」
マリカから快諾を得られたアリス。はてさて、一体どんなオートマタを作ってもらうつもりなのだろうか。
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