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Mission160
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アインダードたちが無事にソリエア国王の説得を達成している頃、ファルーダン王国内では……。
「ふぅ、ずいぶんと立派な駅舎ができてしまいましたね」
ソリエア王国との国境付近の村に、相当場違いな駅舎が建っていた。国境に最も近いとはいえ、あまり周りから気取られるなと言われていたのに、この有り様である。まったく、何を考えているのだろうか。
しかし、何も考えなしにこんな立派な駅舎を建てたというわけではない。終着駅として選ばれた村は、将来的にはこの南東地域の農業の中核を担ってもらう必要があるからだ。
アリスが転生してから八年という月日が経っているというのに、ソリエア王国との国境付近はまだ荒れ地のまま。ここだけ以前の状態で取り残されてしまったことへのお詫びのようなものである。
こうやって放置されてきたのは、南東に存在するソリエア王国の存在が大きい。同じように貧困となる国に復興を悟らせたくなかったのだろうと思われる。ギルソンですら気付けていなかったのだから、必死に隠蔽してきたものと思われる。
だが、最近の怪しい動きを見てそうもしていられなくなった。急ぎの対策としてこうやって動いているのである。
それにしても、アリスが関わってからの短期間で、終着として選ばれた村は駅以外にも大きく様変わりをしていた。
アリスが転生直後にやらかしに使っていた植物の育成促進魔法が、ここでまた炸裂しているのである。
「こ、これは奇跡か……」
目の前でどんどんと育っていく作物を見て、村人たちが驚愕の声を上げている。
だが、アリスと一緒にやって来た兵士や文官たちは涼しい顔のままである。なにせ、彼らにとっては八年前に通った道だからだ。
こうして、あっという間に肥沃な大地へと変わっていく国境付近の辺境の村。改めて、アリスの魔法の規格外さを目の当たりにするのだった。
「何度見てもアリスの魔法は恐ろしいものだな」
「うむ、まったくだ。見慣れたものとはいえ、眼前で見れば驚かざるを得ない」
こうは言う面々ではあるが、表情がまったく伴っていなかった。
「だが、肝心のソリエア王国はいまだに不作が続くと聞く。これならばやつらに対して有利に交渉ができるというものだろう」
文官の言い分に兵士たちも頷いている。
アリスはそんな言い分を聞きながらも淡々と作業をしている。それというのもギルソンから言われた言葉があるからだ。
『アインダード兄様たちは交渉を成功させるだろうから、そのために備えておいてほしい』
アリスがギルソンから言われた言葉である。どうやらギルソンの中では交渉成立は確定事項のようだった。なので、アリスにはその先のための準備をしていてくれというのがギルソンから出された指示なのである。
ある程度準備ができたところで、アリスは突如として動き出す。
「アリス殿?」
動きに気が付いた兵士たちが声を掛けてくる。
「ここのことはお願い致します。私は国境まで行ってまいりますので」
「あ、ああ。分かった」
突然のことに戸惑いながらも、兵士や文官たちはアリスから村の事を任される。
アリスは空に浮かび、そのまま国境へと向けて飛んでいった。もちろん、鉄道の高架を作りながらである。結局、国境まで一日がかりで移動して鉄道を完成させてしまっていた。相変わらずの速さである。
そして、再び村へと戻ってきたアリスは、そこで待機していた列車に乗るオートマタたちに声を掛ける。
「あなたたち、国境へ向けて移動しますよ」
「畏まりました、マスター様」
スカートの裾をつまみながら、ぺこりと頷くオートマタたち。相変わらずアリスに対して従順である。
でき上がったばかりの高架を走り、列車は国境へと向かう。
二時間もあれば国境へと到着してしまう。さすがはファルーダン王国自慢の鉄道、試運転で速度を落としたとはいえ、到着までの時間はたかが知れていた。
「お疲れ様でございます、アリス殿」
国境の兵士たちが挨拶をする。アインダードたちがやって来た時はおろか、つい昨日にもいなかったはずのファルーダンの兵士である。
「あら、あなたはいつここに来られたのでしょうか」
「はっ、今朝がたであります。ここでアリス殿と一緒にアインダード殿下とスーリガン殿下をお出迎えするようにと、ギルソン殿下より仰せつかっております」
「ああ、そうなのですね」
まったく、ギルソンの対応の早さといったら感心するどころか恐ろしくなるレベルである。長年仕えているアリスですら驚きを隠せないのだから相当なのだ。
とはいえ、ソリエア王国に向かったアインダードたちがいつ戻ってくるか分からない。
ただ待っているのが嫌なアリスは、この国境でも先程の村と同じようなことをやり始める。
目の前でアリスが起こしている現象のさまざまに、ソリエア王国の兵士たちはただただ驚くばかりである。オートマタという存在のことは聞いていたものの、ここまでとんでもないことができる存在だとは思っていなかったからだ。
こうして、殺風景だった国境は、アリスの手によってあっという間に草花が生い茂る場所へと変えられてしまったのだった。
「ふぅ、ずいぶんと立派な駅舎ができてしまいましたね」
ソリエア王国との国境付近の村に、相当場違いな駅舎が建っていた。国境に最も近いとはいえ、あまり周りから気取られるなと言われていたのに、この有り様である。まったく、何を考えているのだろうか。
しかし、何も考えなしにこんな立派な駅舎を建てたというわけではない。終着駅として選ばれた村は、将来的にはこの南東地域の農業の中核を担ってもらう必要があるからだ。
アリスが転生してから八年という月日が経っているというのに、ソリエア王国との国境付近はまだ荒れ地のまま。ここだけ以前の状態で取り残されてしまったことへのお詫びのようなものである。
こうやって放置されてきたのは、南東に存在するソリエア王国の存在が大きい。同じように貧困となる国に復興を悟らせたくなかったのだろうと思われる。ギルソンですら気付けていなかったのだから、必死に隠蔽してきたものと思われる。
だが、最近の怪しい動きを見てそうもしていられなくなった。急ぎの対策としてこうやって動いているのである。
それにしても、アリスが関わってからの短期間で、終着として選ばれた村は駅以外にも大きく様変わりをしていた。
アリスが転生直後にやらかしに使っていた植物の育成促進魔法が、ここでまた炸裂しているのである。
「こ、これは奇跡か……」
目の前でどんどんと育っていく作物を見て、村人たちが驚愕の声を上げている。
だが、アリスと一緒にやって来た兵士や文官たちは涼しい顔のままである。なにせ、彼らにとっては八年前に通った道だからだ。
こうして、あっという間に肥沃な大地へと変わっていく国境付近の辺境の村。改めて、アリスの魔法の規格外さを目の当たりにするのだった。
「何度見てもアリスの魔法は恐ろしいものだな」
「うむ、まったくだ。見慣れたものとはいえ、眼前で見れば驚かざるを得ない」
こうは言う面々ではあるが、表情がまったく伴っていなかった。
「だが、肝心のソリエア王国はいまだに不作が続くと聞く。これならばやつらに対して有利に交渉ができるというものだろう」
文官の言い分に兵士たちも頷いている。
アリスはそんな言い分を聞きながらも淡々と作業をしている。それというのもギルソンから言われた言葉があるからだ。
『アインダード兄様たちは交渉を成功させるだろうから、そのために備えておいてほしい』
アリスがギルソンから言われた言葉である。どうやらギルソンの中では交渉成立は確定事項のようだった。なので、アリスにはその先のための準備をしていてくれというのがギルソンから出された指示なのである。
ある程度準備ができたところで、アリスは突如として動き出す。
「アリス殿?」
動きに気が付いた兵士たちが声を掛けてくる。
「ここのことはお願い致します。私は国境まで行ってまいりますので」
「あ、ああ。分かった」
突然のことに戸惑いながらも、兵士や文官たちはアリスから村の事を任される。
アリスは空に浮かび、そのまま国境へと向けて飛んでいった。もちろん、鉄道の高架を作りながらである。結局、国境まで一日がかりで移動して鉄道を完成させてしまっていた。相変わらずの速さである。
そして、再び村へと戻ってきたアリスは、そこで待機していた列車に乗るオートマタたちに声を掛ける。
「あなたたち、国境へ向けて移動しますよ」
「畏まりました、マスター様」
スカートの裾をつまみながら、ぺこりと頷くオートマタたち。相変わらずアリスに対して従順である。
でき上がったばかりの高架を走り、列車は国境へと向かう。
二時間もあれば国境へと到着してしまう。さすがはファルーダン王国自慢の鉄道、試運転で速度を落としたとはいえ、到着までの時間はたかが知れていた。
「お疲れ様でございます、アリス殿」
国境の兵士たちが挨拶をする。アインダードたちがやって来た時はおろか、つい昨日にもいなかったはずのファルーダンの兵士である。
「あら、あなたはいつここに来られたのでしょうか」
「はっ、今朝がたであります。ここでアリス殿と一緒にアインダード殿下とスーリガン殿下をお出迎えするようにと、ギルソン殿下より仰せつかっております」
「ああ、そうなのですね」
まったく、ギルソンの対応の早さといったら感心するどころか恐ろしくなるレベルである。長年仕えているアリスですら驚きを隠せないのだから相当なのだ。
とはいえ、ソリエア王国に向かったアインダードたちがいつ戻ってくるか分からない。
ただ待っているのが嫌なアリスは、この国境でも先程の村と同じようなことをやり始める。
目の前でアリスが起こしている現象のさまざまに、ソリエア王国の兵士たちはただただ驚くばかりである。オートマタという存在のことは聞いていたものの、ここまでとんでもないことができる存在だとは思っていなかったからだ。
こうして、殺風景だった国境は、アリスの手によってあっという間に草花が生い茂る場所へと変えられてしまったのだった。
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