158 / 193
Mission157
しおりを挟む
アインダードたちが王都ソルドへ向かっている最中、ギルソンたちも動きを見せていた。
「アリス、ちょっといいかな?」
「何でしょうか、マイマスター」
ギルソンに話し掛けられて、アリスが手を止めてギルソンを見る。すると、ギルソンはにこりと微笑んでアリスを見ている。
「ソリエア王国の国境近くまで、鉄道を敷いてもらうことはできるかな」
「それは構いませんが? どうしてでしょうか」
ギルソンの提案を不思議に思うアリスである。
「うん、ソリエアは最近よく分からない動きをしている。だからといってこっちも黙って見ているわけにはいかない。アインダード兄様たちを信用していないわけじゃないけれど、どうも落ち着かないんだよね」
ギルソンの顔は笑顔のままだ。どことなくその笑顔に恐怖を感じるアリスである。
(うう、作中の悪役堕ちを感じさせる笑顔だわ……)
表情は崩さずとも、心の中で思ってしまうアリスである。そのくらい、その時のギルソンの顔にはドキッとしたものだった。
「畏まりました。ですが、敷設するとしても、国王陛下の許可は頂きませんとね」
「確かにそうだね。早速向かうとしようか」
そういうと、ギルソンはアリスと一緒に国王のところへと向かっていった。
これがまた、許可はあっさりと出てしまった。ただ、ソリエア王国に近付きすぎるなという条件は付けられてしまったので、国境近くの村くらいまでということになった。
ギルソンは学園があるので、アリス一人で対応することになる。とはいえ、今までも散々そうだったので、アリスは特に気にした様子はなかった。
「いいかい、アリス。異変があれば全部ボクに報告して下さいね」
「畏まりました。それでは早速行ってまいります」
ギルソンから命令を受け、アリスは一人、城から旅立っていった。
そうやってやって来たのは、ソリエア王国からの動きを報告されたトライ駅。……ではなくて、隣のフィア駅だった。
トライ駅から分岐させるとソリエア王国に動きを察知されてしまうので、それを避けるためにフィア駅を選んだのだ。ついでに言うと、ソリエア王国方面の街道はさらにもう一つ奥のフェンフ駅から出ているので、間を選んだというわけである。
「これはマスター様。本日はどうなされたのですか?」
アリスを出迎えるアンフィア。
「ええ、このフィア駅から鉄道を分岐させる工事をするためにやって来ました」
「何のためにでございますでしょうか」
アリスの話に慌てて顔を出すフィアーツ。急な話で驚いているようだった。
「マイマスターであるギルソン殿下のご命令です。それ以上はあなたたちとはいえ、答えられませんよ」
目を閉じて淡々と答えるアリスの姿に、アンフィアとフィアーツの二人は黙り込むしかなかった。
「さあ、あなたたちはいつも通りに業務に戻ってちょうだい。鉄道の運行には影響は出しませんのでね」
「畏まりました、マスター様」
両手を前に添えて頭を下げたアンフィアとフィアーツは、いつものように淡々と業務へと戻っていった。
話を終えたアリスは、ソリエア王国方面の地形を改めて確認する。
メインとなる街道と、ソリエア王国からの侵入者の通り道、そのどちらも避けるように鉄道建設を行わなければならないからだ。
本来街道沿いであれば、自国内の話なので無視はできないはずだ。だが、今回はソリエア王国の目や耳に入れるわけにはいかない。なので、やむなく街道を外すという判断となったのである。
「これは……、骨が折れますね」
アリスはおおよそのルートを決めると、鉄道の沿線から見えないように国境の方へと移動していく。そして、国境に最も近い村を訪れると、そこから鉄道の建設を始めることにしたのだった。
当然ながら村の住民たちは驚いていた。しかし、王命であると聞くとアリスの言うことにおとなしく従っていた。
「もちろん、ご協力いただく以上、この村もよくしてみせます。同じ王国の民なのですから、見捨てるわけには参りません」
「よろしくお願い致しますじゃ……」
アリスに対して、村長をはじめ、村人たちは深々と頭を下げていた。
それにしても、やって来た村を見て驚いたものだった。ギルソンが5歳の頃から国内の農業事情は改善してきたはずなのに、8年経った今も昔のままの姿の村があったとは、アリスにとってショック以外のなにものでもなかったのだ。
そうなれば、鉄道の開業でもって何としても変えていかねばならないと、アリスは強い決意を抱く。
決意をすれば、後のアリスの行動は早かった。
昼夜問わずに工事を続け、フィア駅にやって来てからたったの3日間で鉄道を完成させてしまったのだった。途中にはフェンフ駅から出ている街道からほど近い場所に駅をひとつ設けただけで、終点となる村まではほぼノンストップという形である。
「さすがはマスター様。いとも簡単に建設してしまうなんて……」
あっという間に完成してしまった鉄道の立体交差を見て、アンフィアとフィアーツの二人も呆然と眺めるばかりである。
はてさて、この鉄道の完成が、ソリエア王国との交渉でどのような影響を与えるのだろうか。それは誰にも分からなかった。
「アリス、ちょっといいかな?」
「何でしょうか、マイマスター」
ギルソンに話し掛けられて、アリスが手を止めてギルソンを見る。すると、ギルソンはにこりと微笑んでアリスを見ている。
「ソリエア王国の国境近くまで、鉄道を敷いてもらうことはできるかな」
「それは構いませんが? どうしてでしょうか」
ギルソンの提案を不思議に思うアリスである。
「うん、ソリエアは最近よく分からない動きをしている。だからといってこっちも黙って見ているわけにはいかない。アインダード兄様たちを信用していないわけじゃないけれど、どうも落ち着かないんだよね」
ギルソンの顔は笑顔のままだ。どことなくその笑顔に恐怖を感じるアリスである。
(うう、作中の悪役堕ちを感じさせる笑顔だわ……)
表情は崩さずとも、心の中で思ってしまうアリスである。そのくらい、その時のギルソンの顔にはドキッとしたものだった。
「畏まりました。ですが、敷設するとしても、国王陛下の許可は頂きませんとね」
「確かにそうだね。早速向かうとしようか」
そういうと、ギルソンはアリスと一緒に国王のところへと向かっていった。
これがまた、許可はあっさりと出てしまった。ただ、ソリエア王国に近付きすぎるなという条件は付けられてしまったので、国境近くの村くらいまでということになった。
ギルソンは学園があるので、アリス一人で対応することになる。とはいえ、今までも散々そうだったので、アリスは特に気にした様子はなかった。
「いいかい、アリス。異変があれば全部ボクに報告して下さいね」
「畏まりました。それでは早速行ってまいります」
ギルソンから命令を受け、アリスは一人、城から旅立っていった。
そうやってやって来たのは、ソリエア王国からの動きを報告されたトライ駅。……ではなくて、隣のフィア駅だった。
トライ駅から分岐させるとソリエア王国に動きを察知されてしまうので、それを避けるためにフィア駅を選んだのだ。ついでに言うと、ソリエア王国方面の街道はさらにもう一つ奥のフェンフ駅から出ているので、間を選んだというわけである。
「これはマスター様。本日はどうなされたのですか?」
アリスを出迎えるアンフィア。
「ええ、このフィア駅から鉄道を分岐させる工事をするためにやって来ました」
「何のためにでございますでしょうか」
アリスの話に慌てて顔を出すフィアーツ。急な話で驚いているようだった。
「マイマスターであるギルソン殿下のご命令です。それ以上はあなたたちとはいえ、答えられませんよ」
目を閉じて淡々と答えるアリスの姿に、アンフィアとフィアーツの二人は黙り込むしかなかった。
「さあ、あなたたちはいつも通りに業務に戻ってちょうだい。鉄道の運行には影響は出しませんのでね」
「畏まりました、マスター様」
両手を前に添えて頭を下げたアンフィアとフィアーツは、いつものように淡々と業務へと戻っていった。
話を終えたアリスは、ソリエア王国方面の地形を改めて確認する。
メインとなる街道と、ソリエア王国からの侵入者の通り道、そのどちらも避けるように鉄道建設を行わなければならないからだ。
本来街道沿いであれば、自国内の話なので無視はできないはずだ。だが、今回はソリエア王国の目や耳に入れるわけにはいかない。なので、やむなく街道を外すという判断となったのである。
「これは……、骨が折れますね」
アリスはおおよそのルートを決めると、鉄道の沿線から見えないように国境の方へと移動していく。そして、国境に最も近い村を訪れると、そこから鉄道の建設を始めることにしたのだった。
当然ながら村の住民たちは驚いていた。しかし、王命であると聞くとアリスの言うことにおとなしく従っていた。
「もちろん、ご協力いただく以上、この村もよくしてみせます。同じ王国の民なのですから、見捨てるわけには参りません」
「よろしくお願い致しますじゃ……」
アリスに対して、村長をはじめ、村人たちは深々と頭を下げていた。
それにしても、やって来た村を見て驚いたものだった。ギルソンが5歳の頃から国内の農業事情は改善してきたはずなのに、8年経った今も昔のままの姿の村があったとは、アリスにとってショック以外のなにものでもなかったのだ。
そうなれば、鉄道の開業でもって何としても変えていかねばならないと、アリスは強い決意を抱く。
決意をすれば、後のアリスの行動は早かった。
昼夜問わずに工事を続け、フィア駅にやって来てからたったの3日間で鉄道を完成させてしまったのだった。途中にはフェンフ駅から出ている街道からほど近い場所に駅をひとつ設けただけで、終点となる村まではほぼノンストップという形である。
「さすがはマスター様。いとも簡単に建設してしまうなんて……」
あっという間に完成してしまった鉄道の立体交差を見て、アンフィアとフィアーツの二人も呆然と眺めるばかりである。
はてさて、この鉄道の完成が、ソリエア王国との交渉でどのような影響を与えるのだろうか。それは誰にも分からなかった。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。

ある平民生徒のお話
よもぎ
ファンタジー
とある国立学園のサロンにて、王族と平民生徒は相対していた。
伝えられたのはとある平民生徒が死んだということ。その顛末。
それを黙って聞いていた平民生徒は訥々と語りだす――

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

婚約破棄され、平民落ちしましたが、学校追放はまた別問題らしいです
かぜかおる
ファンタジー
とある乙女ゲームのノベライズ版悪役令嬢に転生いたしました。
強制力込みの人生を歩み、冤罪ですが断罪・婚約破棄・勘当・平民落ちのクアドラプルコンボを食らったのが昨日のこと。
これからどうしようかと途方に暮れていた私に話しかけてきたのは、学校で歴史を教えてるおじいちゃん先生!?

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる