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Mission152
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クラスメイトがまさかのオートマタ職人だと分かって、学生たちの態度はころっと変わっていた。人生のパートナーであるオートマタというものが、どれだけファルーダン王国において重要なものかというのがよく分かる。
しかし、ただ単に態度がひっくり返っただけで、執拗な執着には変わりはなかった。むしろ好意的な分、今の方が厄介かもしれなかった。
「やれやれ、実に単純な連中だな」
「まあ仕方ありませんよ。それだけファルーダン王国において、オートマタというものが重要だということを示していますので」
「確かにそうなんだが、これはこれでまた大変な状況だな」
イスヴァンが心配そうな顔をしながら言うものだから、ギルソンもマリカの方へと視線を向けている。
確かに、学生たちに囲まれて質問攻めにされる様子は、友人としては放っておけない状況だった。
「まったく、どっちの方がマシだったんだかな……」
「どちらにしても、ボクたちが守らなきゃいけない人だっていうことですよ」
困った表情のイスヴァンに、ギルソンは歯の浮くようなセリフを投げかけていた。
「よくそんな言葉がすっと出てくるなぁ。俺だったら恥ずかしくて適当に言っておくぞ」
そんなことを言いながらも、ギルソンとイスヴァンはマリカに助け舟を出すために、取り囲む学生たちを引き離すのだった。
ようやく質問地獄から解放されて、安どの表情を浮かべるマリカだった。
「申し訳ございません、ギルソン殿下」
頭を大きく下げて謝罪するマリカ。だが、ギルソンは友人として当然だといって、特に気にしている様子はなかった。
「わたくしこそ、すみませんでしたわ。自分の事ばかりで、その後どうなるかなんて考えていませんでしたから」
横から謝罪を入れてくるのはメリハナだった。
確かに、騒ぎの発端となったのはメリハナによるマリカへの謝罪だったからだ。今さらながらに責任を感じているのである。
「お許し下さいませ、マリカ様」
すっと頭を下げるメリハナ。その姿に取り巻きたちが驚いていた。
とはいえ、マリカはファルーダン王国にとって重要な職業であるオートマタ職人である。なので、爵位は上とはいえど頭を下げているのである。
「あ、いいですよ。私は気にしていませんので」
手と首を横に振るマリカである。
「いいえ、いけませんわ。特に、ファルーダン鉄道はわたくしも利用するのです。謝罪を兼ねてお父様に相談してみますわ」
完全にやる気モードに入っているメリハナである。
ファルーダン鉄道という立場からすれば、実に好ましい展開だろうが、さすがに彼女は勢いをつけすぎた。
「うん、ファルーダン鉄道に関しては、ボクにも話を通しおいて欲しいところだね」
「はっ、ギルソン殿下。これは、申し訳ございませんでした」
ギルソンに指摘されて、再び頭を下げるメリハナである。今日の彼女はとても忙しいようだ。
「ですが、今お話したことに嘘はございませんわ。利用者として貢献するのは、当然だと思いますもの」
再び顔を上げたメリハナは、胸を張って堂々と宣言していた。どう転んでも絡む気満々である。
「分かりました。今度メリハナ嬢の父君であるカステーン伯爵とお話をさせて頂きましょう」
「よろしくお願い致しますわ」
ぺこりと頭を下げると、メリハナは取り巻きを連れて去っていった。
「やれやれ、ようやく静かになったな」
勢いや国内事情の話なので、イスヴァンはずっと黙っていたのだ。知らぬ間に空気の読める男となっていたようである。
「まったくですね。まったく、メリハナ嬢のことは知ってはいましたが、あそこまで熱意のある方だとは思いませんでしたね」
ギルソンは予想外な姿を見て、ほとほと疲れているらしい。
「鉄道事業の安定化を思ってくれるのはありがたいのですが、ちょっと熱意があり過ぎるかと思います。ですので、ボクとカステーン伯爵との間で直接話をする場を設けましょう。戻ったらアリスに相談ですね」
困った表情のギルソンである。
「すまないけど、イスヴァン」
「どうした、ギルソン」
「うん、放課後までマリカの事を頼んだよ。ボクは早退させてもらうよ」
「あっ?!」
思わぬ申し出に、イスヴァンは顔を歪ませる。
「さっきのメリハナ嬢のことがあるからね、先んじてカステーン伯爵を城に招いて話をさせてもらうよ」
ギルソンの言い分を聞いて、どうにか納得するイスヴァンとマリカである。
「分かった。お前も言い始めたら聞かないタイプだからな。こっちのことは任せておいてくれ」
イスヴァンからの返事をもらって、ギルソンは安心したように笑っている。
「イスヴァンは話が早くて助かるよ。それでは、ボクは先に失礼するね」
ギルソンはそう言って学園から早退していった。
その後、ギルソンに呼び出されてやって来たカステーン伯爵は、震えながらギルソンと話をしたらしい。娘のやらかしを知っているからだ。
だが、そこで行われた話し合いは終始笑顔のままだったがために、カステーン伯爵はぽかんとした表情だったという。
最後は深々と頭を下げて感謝しながら帰っていったらしいのだが、一体ギルソンは何を話したというのだろうか。
そんなこんなで、メリハナ・カステーン伯爵令嬢を巡る騒動は、一応の終止符が打たれたのだった。
しかし、ただ単に態度がひっくり返っただけで、執拗な執着には変わりはなかった。むしろ好意的な分、今の方が厄介かもしれなかった。
「やれやれ、実に単純な連中だな」
「まあ仕方ありませんよ。それだけファルーダン王国において、オートマタというものが重要だということを示していますので」
「確かにそうなんだが、これはこれでまた大変な状況だな」
イスヴァンが心配そうな顔をしながら言うものだから、ギルソンもマリカの方へと視線を向けている。
確かに、学生たちに囲まれて質問攻めにされる様子は、友人としては放っておけない状況だった。
「まったく、どっちの方がマシだったんだかな……」
「どちらにしても、ボクたちが守らなきゃいけない人だっていうことですよ」
困った表情のイスヴァンに、ギルソンは歯の浮くようなセリフを投げかけていた。
「よくそんな言葉がすっと出てくるなぁ。俺だったら恥ずかしくて適当に言っておくぞ」
そんなことを言いながらも、ギルソンとイスヴァンはマリカに助け舟を出すために、取り囲む学生たちを引き離すのだった。
ようやく質問地獄から解放されて、安どの表情を浮かべるマリカだった。
「申し訳ございません、ギルソン殿下」
頭を大きく下げて謝罪するマリカ。だが、ギルソンは友人として当然だといって、特に気にしている様子はなかった。
「わたくしこそ、すみませんでしたわ。自分の事ばかりで、その後どうなるかなんて考えていませんでしたから」
横から謝罪を入れてくるのはメリハナだった。
確かに、騒ぎの発端となったのはメリハナによるマリカへの謝罪だったからだ。今さらながらに責任を感じているのである。
「お許し下さいませ、マリカ様」
すっと頭を下げるメリハナ。その姿に取り巻きたちが驚いていた。
とはいえ、マリカはファルーダン王国にとって重要な職業であるオートマタ職人である。なので、爵位は上とはいえど頭を下げているのである。
「あ、いいですよ。私は気にしていませんので」
手と首を横に振るマリカである。
「いいえ、いけませんわ。特に、ファルーダン鉄道はわたくしも利用するのです。謝罪を兼ねてお父様に相談してみますわ」
完全にやる気モードに入っているメリハナである。
ファルーダン鉄道という立場からすれば、実に好ましい展開だろうが、さすがに彼女は勢いをつけすぎた。
「うん、ファルーダン鉄道に関しては、ボクにも話を通しおいて欲しいところだね」
「はっ、ギルソン殿下。これは、申し訳ございませんでした」
ギルソンに指摘されて、再び頭を下げるメリハナである。今日の彼女はとても忙しいようだ。
「ですが、今お話したことに嘘はございませんわ。利用者として貢献するのは、当然だと思いますもの」
再び顔を上げたメリハナは、胸を張って堂々と宣言していた。どう転んでも絡む気満々である。
「分かりました。今度メリハナ嬢の父君であるカステーン伯爵とお話をさせて頂きましょう」
「よろしくお願い致しますわ」
ぺこりと頭を下げると、メリハナは取り巻きを連れて去っていった。
「やれやれ、ようやく静かになったな」
勢いや国内事情の話なので、イスヴァンはずっと黙っていたのだ。知らぬ間に空気の読める男となっていたようである。
「まったくですね。まったく、メリハナ嬢のことは知ってはいましたが、あそこまで熱意のある方だとは思いませんでしたね」
ギルソンは予想外な姿を見て、ほとほと疲れているらしい。
「鉄道事業の安定化を思ってくれるのはありがたいのですが、ちょっと熱意があり過ぎるかと思います。ですので、ボクとカステーン伯爵との間で直接話をする場を設けましょう。戻ったらアリスに相談ですね」
困った表情のギルソンである。
「すまないけど、イスヴァン」
「どうした、ギルソン」
「うん、放課後までマリカの事を頼んだよ。ボクは早退させてもらうよ」
「あっ?!」
思わぬ申し出に、イスヴァンは顔を歪ませる。
「さっきのメリハナ嬢のことがあるからね、先んじてカステーン伯爵を城に招いて話をさせてもらうよ」
ギルソンの言い分を聞いて、どうにか納得するイスヴァンとマリカである。
「分かった。お前も言い始めたら聞かないタイプだからな。こっちのことは任せておいてくれ」
イスヴァンからの返事をもらって、ギルソンは安心したように笑っている。
「イスヴァンは話が早くて助かるよ。それでは、ボクは先に失礼するね」
ギルソンはそう言って学園から早退していった。
その後、ギルソンに呼び出されてやって来たカステーン伯爵は、震えながらギルソンと話をしたらしい。娘のやらかしを知っているからだ。
だが、そこで行われた話し合いは終始笑顔のままだったがために、カステーン伯爵はぽかんとした表情だったという。
最後は深々と頭を下げて感謝しながら帰っていったらしいのだが、一体ギルソンは何を話したというのだろうか。
そんなこんなで、メリハナ・カステーン伯爵令嬢を巡る騒動は、一応の終止符が打たれたのだった。
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