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Mission150
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迎えたお茶会の日。
マリカはジャスミンを伴って招待状に書かれていた場所に出向く。オートマタ技師としてお金はだいぶ潤ってきていたので、それを元手にドレスをこしらえてもらい、それを着ての訪問である。
「ここでよかったんだっけか」
「はい、間違いございませんね」
目の前に建つのは立派な豪邸だった。
「大きいですね」
「そうでございますね。でも、伯爵家であるならばこれくらいは普通でしょう」
「そ、そうなんだ」
少し圧倒されかけていたマリカだが、ジャスミンは落ち着かせるように淡々と話をする。
「マスカード帝国の城に比べればそこらの小屋も同然です。堂々となさって下さいませ」
「そ、そうですね。頑張らないと」
ジャスミンが仕上げとばかりに、マスカード帝国の城を引き合いに出す。確かにあれだけ圧倒された立派な城を見た事があるのだ。同じように敵地とはいっても、規模が違い過ぎるのである。
しかし、ジャスミンの言葉でマリカはだいぶ落ち着きを取り戻せたようである。
せっかくドレスを新調してまで乗り込むのだ。マリカは拳を握って、門へと向かっていった。
招待状を見せると、門番は普通に入れてくれた。
「すみません。うちのお嬢様は少々感情が荒れますので、お気をつけて……」
そう声を掛けて注意を促してくれた。
お茶会の会場までは、実に他の使用人たちも丁寧に接してくれている。あの挑発的な手紙を出してきた令嬢のいる家の使用人たちとはとても思えないくらいだった。
どうやら、令嬢と使用人たちとでは、マリカに対する認識が違っているようである。予想外な対応に驚きながらも、お茶会の会場となる庭へと歩いていくマリカとジャスミンだった。
庭に姿を見せると、お茶会の主催とその取り巻きの令嬢たちがすでにくつろいでいる状況だった。そこにマリカが姿を見せると、露骨に嫌な顔をする。
(招いておきながらあの表情。人格を疑いますね)
心の中で思うジャスミンである。
「マリカ・オリハーン騎士爵令嬢でございます。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
すでにいろいろと揉まれてきて培った精一杯のカーテシーを見せるマリカである。だが、令嬢たちの表情は酷いものだった。
どうやら、騎士爵令嬢を平民同然として見ているので、平民風情が貴族の流儀に則れるわけがないと見下しているのである。
ところがどっこい、マリカ自体はギルソン他王族とも散々会っているし、果ては隣国マスカード帝国にも出向いている。つまり、貴族たちとはそれなりに接点がたくさんあるのである。
貴族的な振る舞いも、その中でしっかり身に付いていたというわけだ。令嬢たちからしたら予想外だっただろう。
「ふん、振る舞いができているのはいい事ですわね。ですが、わたくしは一人で来るように伝えていたはずですわ。なんですか、その後ろの方は」
マリカがしっかり淑女をしていることにイラついたのか、令嬢はジャスミンを鋭い表情で見ている。
「ジャスミンは私のオートマタです。オートマタはあなた方に付かれている方々同様、マスターとは行動を共にするもの。お茶会の同席は王国の定めで認められているはずでございます」
マリカはしっかりと反論する。
思わぬ反撃にぐっと身を引く令嬢。ここで下手に言い返せば、自分の首を絞めることが理解できたのだろう。眉間にしわを寄せて歯ぎしりをしている。
「こほん、自分の思い通りにいかなかったとして、その表情は主催としていかがかと存じます。そうは思いませんかね、殿下」
ジャスミンがこう言うと、令嬢たちは顔を上げる。その視線の先には、予想もしなかった人物が姿を見せたのだった。
「まったくその通りですね。やり取りはすべて見させてもらったよ」
「ギルソン……殿下?!」
庭にアリスを伴ってギルソンが姿を見せたのだ。どうやら、ジャスミンが念話を使ってアリスに連絡を入れたようである。
思わぬ来客に、令嬢たちは全員立ち上がってカーテシーをしている。こんな時でもきちんと動けるあたり、彼女たちのちゃんと育ってきた令嬢だということがよく分かる。
「マリカは、この国にとっては重要な人物なんだ。君たちの感情でどうこうできる相手ではない事をしっかりと理解しておいてくれ」
「ど、どうしてでございますか。騎士爵令嬢風情ですよ?」
令嬢は納得がいかないのか食い下がる。ここまでの話で理解できないとは、ギルソンもさすがに表情が曇る。
「君は……それを本気で言っているのかな?」
ギルソンがめったに見せない鋭い表情を見せると、令嬢は思わず声を上げて震え上がる。
「マリカが居なければ、マスカード帝国やソルティエ公国との交渉はうまくいかなかったでしょう。今やファルーダンが誇る鉄道事業が成功したのは、マリカによるところも大きいのですからね」
「そ、そんな……」
情報が欠落しているらしく、令嬢は呆然とした様子である。
「今日は特別に、マリカの功績についていろいろとお話を致しましょう。ボクとお茶会ができることを幸運に思うことですね」
最終的にギルソンが王子スマイルを発動させ、どうにかこの場は丸く収まったようだった。
その後、令嬢に対してマリカの功績がこれでもかというくらいギルソンから伝えられる。その間、マリカの顔が真っ赤だったのはいうまでもない話だった。
マリカはジャスミンを伴って招待状に書かれていた場所に出向く。オートマタ技師としてお金はだいぶ潤ってきていたので、それを元手にドレスをこしらえてもらい、それを着ての訪問である。
「ここでよかったんだっけか」
「はい、間違いございませんね」
目の前に建つのは立派な豪邸だった。
「大きいですね」
「そうでございますね。でも、伯爵家であるならばこれくらいは普通でしょう」
「そ、そうなんだ」
少し圧倒されかけていたマリカだが、ジャスミンは落ち着かせるように淡々と話をする。
「マスカード帝国の城に比べればそこらの小屋も同然です。堂々となさって下さいませ」
「そ、そうですね。頑張らないと」
ジャスミンが仕上げとばかりに、マスカード帝国の城を引き合いに出す。確かにあれだけ圧倒された立派な城を見た事があるのだ。同じように敵地とはいっても、規模が違い過ぎるのである。
しかし、ジャスミンの言葉でマリカはだいぶ落ち着きを取り戻せたようである。
せっかくドレスを新調してまで乗り込むのだ。マリカは拳を握って、門へと向かっていった。
招待状を見せると、門番は普通に入れてくれた。
「すみません。うちのお嬢様は少々感情が荒れますので、お気をつけて……」
そう声を掛けて注意を促してくれた。
お茶会の会場までは、実に他の使用人たちも丁寧に接してくれている。あの挑発的な手紙を出してきた令嬢のいる家の使用人たちとはとても思えないくらいだった。
どうやら、令嬢と使用人たちとでは、マリカに対する認識が違っているようである。予想外な対応に驚きながらも、お茶会の会場となる庭へと歩いていくマリカとジャスミンだった。
庭に姿を見せると、お茶会の主催とその取り巻きの令嬢たちがすでにくつろいでいる状況だった。そこにマリカが姿を見せると、露骨に嫌な顔をする。
(招いておきながらあの表情。人格を疑いますね)
心の中で思うジャスミンである。
「マリカ・オリハーン騎士爵令嬢でございます。本日はお招きいただき誠にありがとうございます」
すでにいろいろと揉まれてきて培った精一杯のカーテシーを見せるマリカである。だが、令嬢たちの表情は酷いものだった。
どうやら、騎士爵令嬢を平民同然として見ているので、平民風情が貴族の流儀に則れるわけがないと見下しているのである。
ところがどっこい、マリカ自体はギルソン他王族とも散々会っているし、果ては隣国マスカード帝国にも出向いている。つまり、貴族たちとはそれなりに接点がたくさんあるのである。
貴族的な振る舞いも、その中でしっかり身に付いていたというわけだ。令嬢たちからしたら予想外だっただろう。
「ふん、振る舞いができているのはいい事ですわね。ですが、わたくしは一人で来るように伝えていたはずですわ。なんですか、その後ろの方は」
マリカがしっかり淑女をしていることにイラついたのか、令嬢はジャスミンを鋭い表情で見ている。
「ジャスミンは私のオートマタです。オートマタはあなた方に付かれている方々同様、マスターとは行動を共にするもの。お茶会の同席は王国の定めで認められているはずでございます」
マリカはしっかりと反論する。
思わぬ反撃にぐっと身を引く令嬢。ここで下手に言い返せば、自分の首を絞めることが理解できたのだろう。眉間にしわを寄せて歯ぎしりをしている。
「こほん、自分の思い通りにいかなかったとして、その表情は主催としていかがかと存じます。そうは思いませんかね、殿下」
ジャスミンがこう言うと、令嬢たちは顔を上げる。その視線の先には、予想もしなかった人物が姿を見せたのだった。
「まったくその通りですね。やり取りはすべて見させてもらったよ」
「ギルソン……殿下?!」
庭にアリスを伴ってギルソンが姿を見せたのだ。どうやら、ジャスミンが念話を使ってアリスに連絡を入れたようである。
思わぬ来客に、令嬢たちは全員立ち上がってカーテシーをしている。こんな時でもきちんと動けるあたり、彼女たちのちゃんと育ってきた令嬢だということがよく分かる。
「マリカは、この国にとっては重要な人物なんだ。君たちの感情でどうこうできる相手ではない事をしっかりと理解しておいてくれ」
「ど、どうしてでございますか。騎士爵令嬢風情ですよ?」
令嬢は納得がいかないのか食い下がる。ここまでの話で理解できないとは、ギルソンもさすがに表情が曇る。
「君は……それを本気で言っているのかな?」
ギルソンがめったに見せない鋭い表情を見せると、令嬢は思わず声を上げて震え上がる。
「マリカが居なければ、マスカード帝国やソルティエ公国との交渉はうまくいかなかったでしょう。今やファルーダンが誇る鉄道事業が成功したのは、マリカによるところも大きいのですからね」
「そ、そんな……」
情報が欠落しているらしく、令嬢は呆然とした様子である。
「今日は特別に、マリカの功績についていろいろとお話を致しましょう。ボクとお茶会ができることを幸運に思うことですね」
最終的にギルソンが王子スマイルを発動させ、どうにかこの場は丸く収まったようだった。
その後、令嬢に対してマリカの功績がこれでもかというくらいギルソンから伝えられる。その間、マリカの顔が真っ赤だったのはいうまでもない話だった。
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